有機化学の教科書を開くと、「カルボニル基」「ケトン基」「アルデヒド基」「ホルミル基」「アシル基」「アセチル基」と、C=O を含む「〜基」が次々に出てきます。どれも似た構造式なので、どれがどれの一部なのか、どこまでが同じものの別名なのかが分からなくなりがちです。

この記事の答え
カルボニル基とは、炭素と酸素が二重結合した C=O の部分です。C=O の炭素の残り2本の結合に何が付くかで、ケトン基・アルデヒド基(ホルミル基)・アシル基と呼び名が変わります。

呼び名の整理は、1つの見方でまとまります。カルボニル炭素には、C=O のほかに結合の手が2本残っている。その2本に何が付いているかを見る、という見方です。この見方は呼び名だけでなく、反応が「付加」で止まるか「置換」まで進むか、IR の吸収がどこに出るかまで説明します。

この記事では、まず C=O そのものの構造と極性を確かめ、次に「〜基」の呼び分けを比較表で整理します。そのうえで、カルボニル基を含む化合物の一覧と反応性の順、試験で問われる反応性の理由、IR・NMR・呈色反応での見分け方まで進みます。

この記事で学ぶこと
・C=O の構造(sp2・平面三角形・約120°)と、炭素が δ+ になる理由
・カルボニル基・ケトン基・アルデヒド基(ホルミル基)・アシル基・アセチル基・カルボキシ基の違い
・カルボニル基を含む化合物の一覧と、求核付加と求核アシル置換の分かれ目
・アルデヒドがケトンより反応しやすい理由と、α水素が酸性になる理由
・IR・13C NMR・銀鏡反応などでのカルボニル基の見分け方

カルボニル基とは——C=O の構造と極性

カルボニル基(carbonyl group)とは、炭素原子と酸素原子が二重結合でつながった C=O の原子団です。示性式では –CO– と書くことも多く、炭素の側にはさらに2本の結合が残っています。アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アミドなど、有機化学で扱う化合物の多くがこの部品を持っています。

カルボニル炭素は sp2 混成で平面三角形

カルボニル炭素は sp2 混成です。3つの sp2 混成軌道で、酸素と残り2つの相手にそれぞれ σ 結合を作ります。3本の σ 結合は同じ平面上に広がり、結合角はおよそ120°になります(平面三角形)。混成の考え方は混成軌道とは?で説明しています。

実際の分子でも角度はほぼ120°です。アセトアルデヒド CH3CHO の C=O 炭素まわりでは、H–C–C が118°、C–C=O と H–C=O がそれぞれ121°と報告されています。3つを足すと360°で、炭素と、それに結合した3原子が1つの平面に乗っていることが分かります。

σ 結合と π 結合——二重結合は「1本+1本」

炭素に残った1つの p 軌道は、酸素の p 軌道と横向きに重なって π 結合を作ります。つまり C=O の二重結合は、σ 結合1本と π 結合1本でできています。アルケンの C=C とまったく同じ組み立てです。酸素には、結合に使われていない孤立電子対が2組あります。

二重結合なので、C=O は C–O 単結合より短く強い結合です。C=O の結合長は 122 pm で C–O 単結合の 143 pm より短く、結合エネルギーは 732 kJ/mol で単結合の 385 kJ/mol のおよそ2倍です。ただし π 結合の電子は分子平面の上下に張り出しているので、反応ではまずこの π 結合の側が切れます。求核剤がカルボニル炭素に付くと、π 結合の電子対が酸素の上に移り、σ 結合は残ります。

炭素が δ+、酸素が δ− になる理由と共鳴構造

酸素の電気陰性度(3.5)は炭素(2.5)より大きいので、C=O の結合電子は酸素側に偏ります。その結果、カルボニル炭素は δ+、酸素は δ− に分極します(電気陰性度の値と分極の考え方は電気陰性度と結合の極性)。

この偏りは、共鳴構造でも表せます。

  R2C=O    ↔    R2C+–O−
(主な寄与)       (電荷が分かれた寄与。炭素は電子6個)

右の構造は、炭素のまわりの電子が6個しかなく電荷も分かれているので、寄与は左より小さくなります。それでも、酸素に負電荷、炭素に正電荷を置いた構造が書けることが、C=O が強く分極していることの表現になっています。逆向き(C−–O+)は、電気陰性度の大きい酸素に正電荷を置くので考えません。共鳴構造の寄与の大小は共鳴とは?で扱っています。

この分極から、カルボニル基の反応の向きが決まります。

  • δ+ の炭素は求電子的(ルイス酸の部位)なので、求核剤が攻撃する。
  • δ− の酸素は求核的・塩基性(ルイス塩基の部位)なので、プロトンやルイス酸が付く。
C=O と C=C は、形は同じでも反応の向きが逆。どちらも平面で σ+π の二重結合ですが、アルケンの C=C はほとんど分極していないので、電子豊富な π 結合に求電子剤が付きます。C=O は分極しているので、電子不足の炭素に求核剤が付きます。

カルボニル基・ケトン基・アルデヒド基・アシル基の違い

ここからが呼び名の整理です。カルボニル炭素には C=O のほかに2本の手が残っています。どの「〜基」もカルボニル基を含んでいて、違うのは残りの2本の手に何が付いているか(あるいは空いているか)だけです。

比較表:カルボニル基・ケトン基・アルデヒド基・アシル基・アセチル基・カルボキシ基

呼び名 構造 残り2本の手 例・補足
カルボニル基 C=O(–CO–) 問わない(部品そのもの) 下のすべてに含まれる
ケトン基 R–CO–R′ 2本とも炭素 アセトン CH3COCH3。IUPAC では接尾語「-オン」、置換基としては「オキソ」
アルデヒド基=ホルミル基 –CHO 1本は水素、もう1本が分子の残り アセトアルデヒド CH3CHO。同じ原子団の2つの呼び名
アシル基 R–CO– 1本は R(H または炭素)、もう1本が空き カルボン酸 RCOOH から OH を除いた形。総称
アセチル基 CH3–CO– 1本はメチル基、もう1本が空き アシル基のうち R=CH3 のもの。略号 Ac
カルボキシ基 –COOH 1本は OH、もう1本が分子の残り 酢酸 CH3COOH。カルボキシル基とも呼ぶ

表を縦に読むと、関係は次のようにまとまります。カルボニル基は部品の名前で、ほかのすべてに含まれます。アシル基は「カルボニル基+R」で手が1本空いた単位で、その空いた手に H が付けばアルデヒド、炭素が付けばケトン、OH が付けばカルボン酸になります。アセチル基はアシル基の一例で、ホルミル基(H–CO–)は R が水素の、いちばん小さいアシル基です。

ケトン基とは——IUPAC では「オキソ基」と接尾語「-オン」

ケトンは、カルボニル基が2つの炭素原子に結合した化合物 R2C=Oです(どちらの R も水素ではない)。この C=O を「ケトン基」と呼ぶことがありますが、これは化合物群の名前「ケトン」からきた呼び方で、IUPAC 命名法の置換基名ではありません。ケトンの中の C=O は両側が炭素なので、カルボニル基とケトン基は同じ部分を指しています。官能基の一覧表では、ケトンの官能基を「カルボニル基(ケトン基)」と併記して示すことがあります(このサイトの官能基の一覧も同じ表記です)。

命名でケトンの C=O がどう現れるかは、次の2通りです。

  • ケトンが主基のとき:語尾を「-オン(-one)」にする。例:アセトン=プロパン-2-オン。
  • より優先される基(COOH など)があるとき:C=O の O を接頭語「オキソ(oxo-)」で表す。例:CH3COCH2CH2COOH=4-オキソペンタン酸。

英語では C=O を「keto group」と呼ぶこともありますが、IUPAC は個々の化合物を命名するときの接頭語「keto-」の使用をやめています(糖の命名など、伝統的な用法を除く)。名前を付けるときはオキソ、会話や説明で「ケトンのカルボニル」を指すときはケトン基、と分けて考えると混乱しません。優先順位の決め方は多官能性化合物のIUPAC命名法にまとめています。

アルデヒド基とホルミル基——同じ –CHO の2つの呼び名

アルデヒドは、カルボニル基に水素1つと R 1つが結合した化合物 RC(=O)H です。この –CHO を、官能基としてはアルデヒド基、IUPAC 命名法の置換基名としてはホルミル基と呼びます。構造はまったく同じです。ホルミルの語源はギ酸(formic acid、HCOOH)で、ギ酸から OH を除いた H–CO– がホルミル基です。

ケトン基との違いは、カルボニル炭素に水素が直接付いているかどうかの1点です。この水素があるために、アルデヒドはカルボン酸まで酸化されやすく、ケトンは酸化されにくい、という性質の差が生まれます。–CHO を –COH と書かない理由や、命名での formyl- と oxo- の使い分けはアルデヒド基(ホルミル基)とはで詳しく扱っています。

アシル基とアセチル基の違い

アシル基(acyl group)は R–CO– の総称、アセチル基(acetyl group)はそのうち R がメチル基の CH3CO– です。「アシル基とアセチル基の違い」は、「アルキル基とメチル基の違い」と同じ関係だと考えると分かりやすいでしょう。IUPAC の定義ではアシル基はオキソ酸から OH を除いた基の総称で、スルホニル基(RSO2–)なども含みますが、有機化学で単に「アシル基」といえば、カルボン酸から OH を除いた R–CO– を指すのがふつうです。

アシル基の名前は、もとのカルボン酸の名前から作ります。英語の語尾 -ic acid を -yl または -oyl に変えます。

アシル基 構造 もとのカルボン酸 よく見る化合物
ホルミル基 H–CO– ギ酸(formic acid) アルデヒド全般(–CHO)
アセチル基(Ac) CH3–CO– 酢酸(acetic acid) 塩化アセチル AcCl、無水酢酸 Ac2O、アセチル CoA
プロピオニル基 CH3CH2–CO– プロピオン酸(propionic acid) 塩化プロピオニル
ベンゾイル基(Bz) C6H5–CO– 安息香酸(benzoic acid) 塩化ベンゾイル、ベンゾフェノン

アシル基という単位で考えると便利なのは、アシル基が「丸ごと相手に移る」反応が多いからです。酸塩化物 RCOCl や酸無水物を使って、アルコールの O–H やアミンの N–H の水素をアシル基に置き換える操作をアシル化、アシル基がアセチル基ならとくにアセチル化と呼びます。サリチル酸のフェノール性 OH を無水酢酸でアセチル化するとアセチルサリチル酸(アスピリン)になる、というのが代表例です。ベンゼン環にアシル基を付ける反応がフリーデル・クラフツアシル化で、このときの求電子剤もアシル基が陽イオンになったアシリウムイオン(R–C≡O+)です。

アセチル基とアセトキシ基を取り違えない。アセチル基は CH3CO–(炭素で結合する)、アセトキシ基は CH3COO–(酸素で結合する)です。酢酸エステル CH3COOR は「R にアセトキシ基が付いた化合物」で、「アセチル基が O を介して付いた化合物」とも言えます。名前に「アセチ」とあっても、アセチレン(HC≡CH)とは構造上は無関係です(アセチレンはアセチル基を含みません)。

カルボキシ基はカルボニル基を含むが、ケトン+アルコールとは違う

カルボキシ基 –COOH は、カルボニル基とヒドロキシ基が同じ炭素に結合した原子団です。カルボニル基を含んでいるので、カルボン酸もカルボニル化合物の一員です。ただし性質は「ケトン+アルコール」の足し算にはなりません。

理由は、OH の酸素の孤立電子対が隣の C=O と共鳴するからです。プロトンが外れたカルボキシラート RCOO− では負電荷が2つの酸素に等しく分散するので安定になり、酢酸の pKa は約5と、アルコール(メタノールで約16)よりはるかに強い酸になります。また、OH の酸素から電子が流れ込むぶんカルボニル炭素の δ+ はアルデヒドやケトンより弱まります。そのうえ塩基性の求核剤は、カルボニル炭素を攻撃する前に酸性の O–H の水素を引き抜いてしまいます。カルボン酸がアルデヒドやケトンと同じようには求核剤と反応しないのは、この2つが重なるからです。詳しくはカルボン酸とは?COOH(カルボキシ基)の定義を見てください。

カルボニル基を含む化合物の一覧

IUPAC の定義では、カルボニル化合物は C=O を含む化合物すべてを指します。日常的にはアルデヒドとケトンだけを指す狭い意味で使われることも多いのですが、本来はカルボン酸とその誘導体も含みます。教科書の分類に合わせて、アシル基 R–CO– に何が付いているかで並べると次のとおりです。

化合物 一般式 アシル基に付く相手 主な反応の型 例
アルデヒド RCHO H 求核付加 アセトアルデヒド
ケトン RCOR′ 炭素 求核付加 アセトン
カルボン酸 RCOOH OH 酸として働く/活性化して求核アシル置換 酢酸
酸塩化物 RCOCl Cl 求核アシル置換(最も速い) 塩化アセチル
酸無水物 RCOOCOR′ OCOR′ 求核アシル置換 無水酢酸
エステル RCOOR′ OR′ 求核アシル置換 酢酸エチル
アミド RCONR′2 N 求核アシル置換(最も遅い) アセトアミド

このほか、環状のエステル(ラクトン)、環状のアミド(ラクタム)、生体内で働くチオエステル(RCOSR′)やアシルリン酸もカルボニル化合物です。表の上2行(アルデヒド・ケトン)と下5行(カルボン酸とその誘導体)で、反応の型が分かれていることに注目してください。

求核付加と求核アシル置換の違い——相手が脱離基になれるか

どちらの反応も、最初の一歩は同じです。求核剤 Nu− が δ+ のカルボニル炭素を攻撃し、π 結合の電子対が酸素へ移って、炭素が sp3 の四面体中間体(アルコキシド)ができます。違いはその後です。

アルデヒド・ケトン:  R2C=O + Nu− → R2C(Nu)–O− →(H+)R2C(Nu)–OH   【付加で止まる】
カルボン酸誘導体:  RC(=O)Y + Nu− → RC(Y)(Nu)–O− → RC(=O)Nu + Y−   【Y が抜けて置換】

四面体中間体から C=O を作り直すには、炭素に付いている何かが電子対を持って抜けなければなりません。アルデヒドとケトンでカルボニル炭素に付いているのは水素と炭素です。抜けるなら H− や R− になりますが、これらは非常に強い塩基で、負電荷を安定に抱えられないので脱離基になれません。そこで中間体はプロトンを受け取り、付加生成物(アルコールなど)で止まります。

カルボン酸誘導体では、カルボニル炭素に酸素・ハロゲン・窒素・硫黄が付いています。これらは電気陰性度が大きく、負電荷を安定に抱えられるので、Y− として抜けられます。だから C=O が戻り、Y が Nu に置き換わった生成物になります。これが求核アシル置換で、「アシル基 R–CO– は残り、相手だけが入れ替わる」反応です。それぞれの詳細はカルボニルへの求核付加反応とカルボン酸誘導体と求核アシル置換反応で扱っています。

カルボン酸誘導体の反応性の順:酸塩化物>酸無水物>エステル>アミド

求核アシル置換の起こりやすさは、酸塩化物 > 酸無水物 > エステル > アミドの順です(チオエステルは酸無水物とエステルの間に入ります)。この順は、カルボニル炭素に付いた Y の性質で説明できます。

  • Y がカルボニル炭素の δ+ をどれだけ弱めるか:アミドの窒素は孤立電子対を共鳴で C=O に強く与えるので、炭素の δ+ が弱まり、求核剤に攻撃されにくい。エステルの酸素も与えるが窒素より弱い。塩素は電子を引きつける力(誘起効果)のほうが勝ち、δ+ はむしろ強まる。
  • Y− がどれだけ抜けやすいか:共役酸が強い酸ほど、共役塩基は安定で抜けやすい。HCl > RCOOH > ROH > NH3 の酸の強さの順に、Cl− > RCOO− > RO− > NH2− の順で抜けやすい。

反応性の高い誘導体からは低い誘導体を直接作れますが、逆向きは直接はできません。酸塩化物からはエステルもアミドも作れますが、アミドから酸塩化物は作れない、という一方通行です。カルボン酸そのものは、塩基性条件ではカルボキシラート陰イオンになって求核剤を寄せつけないので、塩化チオニルで酸塩化物に変えるなど、いったん活性化してから使います。

「攻撃されやすさ」と「付加で止まるか置換まで進むか」は別の話。「酸塩化物>酸無水物>エステル>アミド」は求核アシル置換どうしの比較です。カルボニル炭素の求電子性(求核剤への攻撃されやすさ)だけで並べると、アルデヒド・ケトンは酸無水物とエステルの間に入り、酸塩化物>酸無水物>アルデヒド>ケトン>エステル>アミドとなります(カルボニルへの求核付加反応の順序と同じ)。ただしアルデヒド・ケトンは攻撃されても置換には進まず、付加で止まります。

カルボニル基の反応性——試験で問われる2つの理由

教科書は、カルボニル化合物の反応の大部分を4つの型に整理しています。①求核付加、②求核アシル置換、③α置換、④カルボニル縮合です。①と②はカルボニル炭素の δ+ から、③は隣の α位から、④は①と③の組み合わせから起こります。ここでは、その出発点になる2つの「なぜ」を押さえます。

反応の型 起こる場所 代表的な反応
求核付加 カルボニル炭素(アルデヒド・ケトン) ヒドリド還元、Grignard 反応、アセタール形成、イミン生成
求核アシル置換 カルボニル炭素(カルボン酸誘導体) エステル化、加水分解、アミド化
α置換 α炭素(エノール・エノラート経由) α-ハロゲン化、エノラートのアルキル化
カルボニル縮合 一方の α炭素が、もう一方のカルボニル炭素へ アルドール反応、Claisen 縮合

求核付加はなぜアルデヒド>ケトンなのか

アルデヒドはケトンより求核付加を受けやすい、というのは定番の問いです。理由は立体的な理由と電子的な理由の2つで、答案では両方を書きます。

立体的な理由:アルデヒドのカルボニル炭素に付いている大きな置換基は R の1つだけで、もう1つは小さな水素です。ケトンでは大きな置換基が2つあります。求核付加では、炭素が平面の sp2(約120°)から四面体の sp3(約109.5°)に変わり、置換基どうしが近づきます。置換基が小さいアルデヒドのほうが、四面体中間体に向かう遷移状態の混み合いが小さく、エネルギーが低くなります。

電子的な理由:アルキル基は誘起効果で電子を少し押し出し、カルボニル炭素の δ+ をやわらげます。アルデヒドにはアルキル基が1つ、ケトンには2つあるので、アルデヒドの炭素のほうが δ+ が大きく、求核剤を引きつけます。第一級カルボカチオンが第二級より不安定(反応しやすい)のと同じ考え方です。

同じ理屈で、置換基がどちらも水素のホルムアルデヒドはさらに反応しやすくなります。逆に、ベンズアルデヒドのような芳香族アルデヒドは、ベンゼン環が共鳴で電子を C=O に与えるため、脂肪族アルデヒドより求核付加を受けにくくなります。誘起効果と共鳴効果の区別は誘起効果と共鳴効果とは?で確認できます。

もう1つ、酸素の δ− も反応に使われます。酸触媒の条件では、カルボニル酸素の孤立電子対にプロトンが付き、炭素の正電荷が強まります。水やアルコールのような弱い求核剤でもカルボニル炭素に付加できるようになるのはこのためで、アセタール形成が酸触媒で進む理由です。

α水素はなぜ酸性か——エノールとエノラート

カルボニル炭素の隣の炭素をα炭素、そこに付いた水素をα水素と呼びます。ふつうの C–H はほとんど酸性を示しませんが、α水素は塩基で引き抜かれます。引き抜かれた後の陰イオン(エノラート)では、負電荷が α炭素と、電気陰性度の大きいカルボニル酸素の両方に共鳴で分散するからです。

  H–CH2–C(=O)R  + 塩基 →  [ −CH2–C(=O)R  ↔  CH2=C(–O−)R ]  (エノラート)

この安定化の大きさは、C=O の炭素がどれだけ電子を受け取れるかで変わります。教科書の表から α水素の pKa を並べると次のとおりです。

化合物(α水素) pKa 読み方
1,3-ジケトン(2つの C=O に挟まれた CH2) 9 負電荷を2つの酸素に分散できる
アルデヒド(アセトアルデヒド) 17 C=O の炭素に電子を与える置換基が少ない
ケトン(アセトン) 19 基準
エステル 25 OR′ の酸素が C=O に電子を与え、エノラートの安定化が小さい
N,N-ジメチルアセトアミド 30 窒素の電子供与がさらに強い

エステルやアミドの α水素がケトンより酸性が弱いのは、さきほどの反応性の順と同じ理由です。OR′ や NR2 がすでに C=O に電子を与えているので、α炭素の負電荷を受け取る余地が小さいのです。α水素が酸素に移った異性体がエノールで、ケト形とエノール形の平衡(ケト形がふつう多数派になる理由)はケト・エノール互変異性とは?で扱っています。エノラートは求核剤として働くので、アルキル化やアルドール反応の出発点になります(カルボニルα置換反応)。

カルボニル基の見分け方——IR・13C NMR・呈色反応

IR:1650〜1850 cm−1 の強い C=O 伸縮

カルボニル基は IR スペクトルで見つけやすい官能基です。C=O は分極が大きいので伸縮振動で双極子が大きく変化し、1650〜1850 cm−1 に強い吸収を出します。しかも位置が化合物の種類ごとにほぼ決まっているので、どの種類のカルボニル基かまで推定できます。

カルボニルの種類 C=O 伸縮(cm−1) 基準(1715)から動く理由
酸塩化物(飽和) 1810 Cl の電子求引で C=O が締まる
酸無水物(飽和) 1820 と 1760 の2本 2つの C=O が対称・逆対称に伸縮する
エステル(飽和) 1735 酸素の誘起効果(電子求引)が共鳴による電子供与をわずかに上回り、やや高い
アルデヒド(飽和) 1730 ケトンよりわずかに高い
ケトン(鎖状・6員環) 1715 基準
シクロペンタノン(5員環) 1750 環のひずみで高くなる
カルボン酸(二量体) 約1710 水素結合で下がる(単量体は1760)
芳香族ケトン(アセトフェノン) 1690 ベンゼン環との共役で下がる
アミド 1650〜1690 窒素の共鳴で C=O が単結合に近づく

この表の並びは、ここまでの話の裏返しです。C=O に電子を与える共鳴(アミドの窒素・共役したベンゼン環)は C=O を単結合に近づけて吸収を低波数側へ、電子を引く効果(酸塩化物の塩素)は高波数側へ動かします。反応性の順(酸塩化物が最も高く、アミドが最も低い)と IR の並びがよく対応しているのはこのためです。アルデヒドとケトンは C=O の位置が近いので、アルデヒドは C–H の伸縮(2700〜2760 と 2800〜2860 cm−1 の2本)で見分けます。IR の読み方の手順はIR吸収帯の読み方にまとめています。

エステルの酸素だけは2つの効果が拮抗していて、C=O の伸縮(IR)では誘起効果がわずかに勝ってケトンより高く出る一方、求核剤への攻撃されやすさや α水素の酸性度では共鳴による電子供与のほうが表に出ます。同じ OR′ でも、何を測るかで勝つ効果が違います(エステル官能基とは?)。

13C NMR・1H NMR:カルボニル炭素は 160〜215 ppm

13C NMR では、カルボニル炭素はほかの炭素と重なりにくい低磁場に出ます。アルデヒドとケトンは 190〜215 ppm(McMurry の目安。220 ppm 近くに出るケトンもあるので、NMR化学シフト一覧表では上限を 220 としています。飽和のものは 200〜215、芳香族や α,β-不飽和のものは 190〜200)、カルボン酸とその誘導体は 160〜185 ppm 付近です。たとえば酢酸 177.3、酢酸エチル 170.7、塩化アセチル 170.3、アセトアミド 172.6、無水酢酸 166.9 ppm と報告されています。

エステルやアミドの C=O がケトンより高磁場(右側)に出るのは、隣の酸素や窒素の孤立電子対が共鳴でカルボニル炭素に電子を与え、遮蔽が強まるからです。ただし塩化アセチル(170.3 ppm)のように電子を引く塩素が付いても同じ領域に出るので、13C では「ヘテロ原子が付いたカルボニルは 160〜185、付いていないものは 190 以上」と位置で覚えるのが確実です。

1H NMR では、アルデヒドの CHO の水素が約 10 ppm に出ます(アセトアルデヒドで 9.79 ppm)。この領域にはほかのシグナルがほとんど出ないので、アルデヒドの決め手になります。カルボン酸の COOH の水素は約 12 ppm、C=O の隣の α水素は 2.0〜2.3 ppm 付近で、メチルケトンの CH3CO– は約 2.1 ppm の3H 一重線として目立ちます。数値の一覧はNMR化学シフト一覧表、13C の読み方は13C NMRとDEPTの読み方を見てください。

反応で見分ける:銀鏡反応・フェーリング反応・ヨードホルム反応

高校化学で習う呈色・沈殿の反応も、カルボニル基の「残り2本の手」で説明できます。

  • 銀鏡反応・フェーリング反応:アルデヒドの検出に使う。アルデヒドはカルボニル炭素に水素が付いているので、穏やかな酸化剤(Ag+、Cu2+)でもカルボン酸へ酸化され、そのぶん相手を還元して、銀(銀鏡)や酸化銅(I) Cu2O の赤色沈殿を生じる。ケトンにはこの水素がないので陰性になる。なお、ベンズアルデヒドなどの芳香族アルデヒドは、銀鏡反応では陽性でもフェーリング反応ではふつう陰性になる。
  • ヨードホルム反応:CH3CO–R(R は H または炭素)、つまりアセチル基が水素か炭素に結合した化合物(アセトアルデヒドとメチルケトン)と、酸化されてそれになる CH3CH(OH)–R が陽性。アセトンやアセトアルデヒドは陽性で、ホルムアルデヒドは陰性。酢酸・酢酸エステル・アセトアミドはアセチル基を持つが陰性になる。

ヨードホルム反応はアセチル基の α水素が3回ヨウ素に置き換わってから C–C 結合が切れる反応で、さきほどの α水素の酸性がそのまま使われています。先に「R− は脱離基になれない」と書きましたが、ここで抜ける CI3− は3つのヨウ素で負電荷が安定化されるので、炭素アニオンとしては例外的に脱離基になれます。機構はヨードホルム反応とは?で扱っています。

試験での問われ方

カルボニル基の基礎は、定期試験でも院試でも、次のような形で問われます。どれも、この記事で扱った「残り2本の手」と「δ+ の大きさ」で答えられます。

  • 構造式から官能基名を答える:–CHO はアルデヒド基(ホルミル基)、–CO– が炭素に挟まれていればケトン(カルボニル基)、–COO– ならエステル。カルボニル炭素の両隣を見て判定する。
  • 反応性の比較を理由つきで説明する:アルデヒド>ケトン(立体と電子の2つ)、酸塩化物>酸無水物>エステル>アミド(Y の電子供与と脱離のしやすさ)。
  • 付加と置換のどちらが起こるかを判断する:カルボニル炭素に脱離基になれる原子(O・ハロゲン・N・S)が付いているかを見る。
  • IR・NMR から構造を絞る:1730 か 1715 か 1735 か、13C で 200 ppm 付近か 170 ppm 付近か、1H で 10 ppm にシグナルがあるか。

まとめ

カルボニル基のまとめ
・カルボニル基は C=O の部品。炭素は sp2・平面三角形・約120°で、σ+π の二重結合が酸素側に分極し、炭素が δ+ になる
・呼び名は残り2本の手で決まる:炭素2つ=ケトン、H+R=アルデヒド基(ホルミル基)、片方が空き=アシル基、そのうち CH3CO–=アセチル基、OH=カルボキシ基
・相手が H・炭素なら求核付加で止まり、O・ハロゲン・N なら抜けて求核アシル置換になる。反応性は酸塩化物>酸無水物>エステル>アミド
・アルデヒド>ケトンは立体と電子の2つの理由。α水素はエノラートの共鳴安定化で酸性になる
・IR は 1650〜1850 cm−1(ケトン 1715 が基準)、13C は 160〜215 ppm で見分ける

よくある質問

カルボニル基とケトン基の違いは何ですか?

カルボニル基は C=O という部品そのものの名前で、アルデヒド・カルボン酸・エステル・アミドなどにも含まれます。ケトン基は、そのカルボニル基の両側がどちらも炭素である場合(R–CO–R′)を指す呼び方です。ケトンの中では両者は同じ部分を指しますが、IUPAC 命名法では「ケトン基」という置換基名は使わず、接尾語「-オン」か接頭語「オキソ」で表します。

アシル基とアセチル基の違いは何ですか?

アシル基は R–CO–(カルボン酸から OH を除いた基)の総称で、アセチル基はそのうち R がメチル基の CH3CO– です。アシル基とアセチル基の関係は、アルキル基とメチル基の関係と同じです。ほかのアシル基には、ホルミル基 HCO–、プロピオニル基 C2H5CO–、ベンゾイル基 C6H5CO– があります。

アルデヒド基とホルミル基は同じものですか?

同じ –CHO を指す2つの呼び名で、構造に違いはありません。官能基として化合物群を語るときはアルデヒド基、IUPAC 命名法で置換基として名前を付けるときはホルミル基(接頭語 formyl-。主鎖の末端にある CHO は oxo-)と呼びます。ホルミル基は、R が水素であるいちばん小さいアシル基 H–CO– でもあります。

カルボン酸やエステルはカルボニル化合物に含まれますか?

含まれます。IUPAC の定義では、カルボニル化合物は C=O を含む化合物すべてで、カルボン酸とその誘導体(エステル・アミド・酸塩化物・酸無水物)も入ります。ただし「カルボニル化合物」を、アルデヒドとケトンだけを指す狭い意味で使う文献もあるので、文脈で確かめてください。

アルデヒドとケトンはIRで区別できますか?

C=O の位置だけでは区別しにくいです。飽和アルデヒドは約1730、飽和ケトンは約1715 cm−1 で差が小さいからです。決め手はアルデヒドの C–H 伸縮で、2700〜2760 と 2800〜2860 cm−1 に2本の吸収が出ます。1H NMR の約10 ppm のシグナルと合わせると確実です。

参考文献

  • J. McMurry, Organic Chemistry, OpenStax, 2023. Preview of Carbonyl Chemistry;Section 19.4, 19.14;Section 20.8;Section 21.10(Table 21.3, 21.4);Section 22.5(Table 22.1).
  • IUPAC, Glossary of Class Names of Organic Compounds and Reactivity Intermediates Based on Structure (IUPAC Recommendations 1995), Pure Appl. Chem. 1995, 67, 1307–1375.(carbonyl compounds・aldehydes・ketones・acyl groups・oxo compounds の定義)
  • IUPAC, Nomenclature of Organic Chemistry: IUPAC Recommendations and Preferred Names 2013 (H. A. Favre, W. H. Powell eds.), Royal Society of Chemistry, 2014.

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