世界中の大学で最も広く使われている有機化学の教科書のひとつが、ジョン・マクマリー(John E. McMurry)著の Organic Chemistry——通称「マクマリー有機化学」です。明快な概念説明と質の高い問題で定評があり、日本でも多くの大学の指定教科書・院試の出題範囲になっています。

このページは、マクマリー有機化学を章ごとに日本語で徹底解説するシリーズ記事のまとめページです。第1章「構造と結合」から第31章「合成高分子」まで、各章の解説記事へのリンクを分野別・難易度付きで整理しています。

このページの使い方
・授業・定期試験の範囲に対応する章をクリックして詳細記事へ
・独学の方は下の「学習ロードマップ」の順番で読み進める
・院試対策は反応機構の章(第6〜11章・第16章・第19〜23章)を優先
・各記事は反応機構・比較表・頻出ポイントを収録

マクマリー有機化学 全章解説の一覧

全章を分野別に8つのブロックに分けて整理しました。難易度(★)は本シリーズでの目安で、★が多いほど前提知識を必要とします。

基礎編:構造・結合・立体化学(第1〜6章)

有機化学全体の土台となるブロックです。特に第2章の酸塩基(pKa)と共鳴、第6章の反応機構の考え方は、以降のすべての章で繰り返し使います。

記事難易度
序章マクマリー有機化学とは|第10版の特徴・構成・学習法(近日公開)★☆☆☆
第1章構造と結合|sp3・sp2・sp 混成軌道の違い★☆☆☆
第2章極性共有結合・酸と塩基|電気陰性度・共鳴・pKa★★☆☆
第3章アルカンと立体化学|IUPAC命名法・コンフォメーション★★☆☆
第4章シクロアルカンと立体化学|環ひずみ・イス形配座★★★☆
第5章四面体中心の立体化学|R/S配置・ジアステレオマー・メソ化合物★★★☆
第6章有機反応の概観|反応の種類・機構・エネルギー図★★☆☆

炭化水素の反応(第7〜11章)

アルケン・アルキン・ハロゲン化アルキルの反応を学ぶブロックです。第11章のSN1・SN2・E1・E2は大学有機化学で最重要の単元で、院試でも頻出です。

記事難易度
第7章アルケン:構造と反応性|マルコフニコフ則・カルボカチオン★★☆☆
第8章アルケンの反応と合成|ハロゲン化・水和・酸化・還元★★★☆
第9章アルキンと有機合成入門|アセチリドアニオン・逆合成解析★★★☆
第10章有機ハロゲン化合物|ラジカルハロゲン化・Grignard試薬★★★☆
第11章アルキルハライドの反応|SN1・SN2・E1・E2・E1cB★★★★

構造決定と共役(第12〜14章)

「作った化合物の構造をどう確かめるか」を学ぶブロックです。MS・IR・NMRのスペクトル読解は院試の構造決定問題に直結します。第14章では共役系の化学としてDiels-Alder反応が初登場します。

記事難易度
第12章質量分析・赤外分光法による構造決定|MS・IRの読み方★★★☆
第13章NMR分光法による構造決定|化学シフト・スピン-スピン分裂★★★☆
第14章共役化合物と紫外分光法|Diels-Alder反応・UV分光法★★★☆

芳香族化学(第15〜16章)

ベンゼンを中心とする芳香族化合物のブロックです。ヒュッケル則による芳香族性の判定と、求電子芳香族置換(EAS)の配向性は定期試験・院試の定番テーマです。

記事難易度
第15章ベンゼンと芳香族性|ヒュッケル則・芳香族イオン・複素環★★★☆
第16章求電子芳香族置換反応|Friedel-Crafts・置換基の配向性★★★☆

アルコール・エーテル(第17〜18章)

酸素官能基のブロックです。アルコールの酸化・還元・保護基、エポキシドの開環反応の位置選択性(酸性条件と塩基性条件の違い)が頻出ポイントです。

記事難易度
第17章アルコールとフェノール|酸化・Grignard反応・保護基★★★☆
第18章エーテルとエポキシド|Williamson合成・エポキシド開環★★★☆

カルボニル化学(第19〜23章)

マクマリー後半の山場です。求核付加・求核アシル置換・α置換・縮合という4つの反応型でカルボニル化学の全体を体系化します。院試の合成問題はこのブロックからの出題が最も多く、5章連続でじっくり学ぶ価値があります。

記事難易度
第19章アルデヒドとケトン|求核付加・イミン/エナミン・Wittig反応★★★★
第20章カルボン酸とニトリル|酸性度・Henderson-Hasselbalch★★★☆
第21章カルボン酸誘導体|求核アシル置換・エステル・アミド★★★★
第22章カルボニルα置換反応|エノラート・マロン酸エステル合成★★★★
第23章カルボニル縮合反応|アルドール・Claisen・Michael・Robinson★★★★

アミンと生体分子(第24〜29章)

窒素官能基から生化学へつながるブロックです。糖・アミノ酸・脂質・核酸・代謝と、生命科学系の院試・薬学系の試験で重要度が高い章が並びます。

記事難易度
第24章アミンと複素環|塩基性・合成・反応★★★☆
第25章炭水化物(糖質)|Fischer投影式・アノマー・二糖・多糖★★★☆
第26章アミノ酸・ペプチド・タンパク質|等電点・Edman分解・酵素★★★★
第27章脂質|けん化・リン脂質・プロスタグランジン・ステロイド★★★★
第28章核酸|DNA二重らせん・複製・転写・翻訳・PCR★★★★
第29章代謝経路の有機化学|β酸化・解糖系・クエン酸サイクル★★★★

発展編(第30〜31章・付録)

物理有機化学・高分子化学の発展ブロックです。第30章のペリ環状反応(Woodward-Hoffmann則)は難関大学院の入試で差がつくテーマです。

記事難易度
第30章周辺環状反応|電子環状・付加環化・シグマトロピー転位★★★★★
第31章合成高分子|連鎖成長重合・逐次成長重合・Ziegler-Natta触媒★★★☆
付録多官能性化合物のIUPAC命名法|優先順位表とpKa一覧(近日公開)★★★☆

学習ロードマップ:どの順番で読むか

基本は章の順番どおりに読み進めるのが最も確実ですが、目的別に優先順位をつけるなら以下の進め方をお勧めします。

【推奨学習順序】

STEP 1:土台づくり(第1・2・6章)
  └─ 混成軌道 → 酸塩基(pKa)・共鳴 → 反応機構の読み方
     ※ この3章の理解度が以降の全章の吸収効率を決める

STEP 2:立体化学(第3〜5章)
  └─ 命名法・配座解析 → イス形配座 → R/S・ジアステレオマー

STEP 3:反応各論の核心(第7〜11章)
  └─ アルケン・アルキンの付加反応 → SN1/SN2・E1/E2
     ※ 第11章は院試最頻出。時間をかけて完全習得する

STEP 4:構造決定(第12〜13章)
  └─ MS・IR → NMR(院試の構造決定問題に直結)

STEP 5:芳香族とカルボニル(第14〜23章)
  └─ Diels-Alder → 芳香族性・EAS → カルボニル4反応型
     ※ 第19〜23章は合成問題の宝庫。ここまでで院試範囲の大半をカバー

STEP 6:生体分子・発展(第24〜31章)
  └─ 専攻・志望分野に合わせて取捨選択
     (生命系→第25〜29章、物理有機・合成系→第30〜31章)
学習のヒント
・1周目は機構の丸暗記より「電子の流れ」の理解を優先する
・章末の比較表を自分で再現できるかで理解度を確認する
・院試対策はSTEP 3・5を繰り返し復習するのが効率的

関連シリーズ:反応・試薬の横断整理

マクマリーの章別解説が「教科書の流れに沿った縦の学習」だとすれば、以下のシリーズは反応・試薬ごとに横断整理した「横の学習」です。組み合わせて使うと理解が立体的になります。

シリーズ内容リンク
有機化学反応ガイドSN1/SN2・アルドール・Diels-Alderなど10大反応を機構別に深掘り反応ガイドを見る
有機化学試薬ガイドLDA・DIBAL・mCPBA・Grignard試薬など頻出試薬の使い分け試薬ガイドを見る
元素図鑑有機化学の視点から周期表を再整理(電気陰性度・脱離基・触媒金属)元素図鑑を見る

よくある質問(FAQ)

マクマリー有機化学はどの版で勉強すればよいですか?

第8版・第9版・第10版のいずれでも、章構成と学習内容の骨格はほぼ共通しているため、手元にある版で問題ありません。最新の第10版(2023年)は非営利団体OpenStaxからPDF・Web版が無料公開されており、これから入手するなら第10版が最も手軽です。本シリーズの解説記事はどの版と併用しても読めるように書かれています。

マクマリー有機化学を独学で読み切ることはできますか?

可能です。マクマリー有機化学は独学者向けの丁寧な説明で定評のある教科書ですが、日本語で補助解説があると理解速度が大きく上がります。本シリーズの章別解説記事は、各章の要点・反応機構・つまずきやすいポイントを日本語で整理しているため、教科書を読む前の予習または読んだ後の復習として使うと効率的です。

院試対策ではマクマリーのどの章を優先すべきですか?

大学院入試の有機化学では、第11章(SN1・SN2・E1・E2)、第16章(求電子芳香族置換)、第19〜23章(カルボニル化学)からの出題が特に多い傾向があります。まずこの7章を完全に理解し、次に第12〜13章(MS・IR・NMRによる構造決定)を固めるのが効率的です。難関校を狙う場合は第30章(ペリ環状反応)まで押さえておくと安心です。

有機化学の勉強はどの章から始めればよいですか?

第1章(構造と結合)・第2章(酸と塩基・共鳴)・第6章(有機反応の概観)の3章から始めることをお勧めします。この3章は有機化学全体の「文法」にあたる内容で、ここを固めると第7章以降の個別反応の理解が一気に速くなります。逆にこの土台を飛ばして反応の暗記に進むと、章が進むほど負担が大きくなります。

分光法の章(第12〜14章)は飛ばしてもよいですか?

定期試験の範囲外であれば一時的に飛ばして第15章以降の反応各論へ進んでも支障はありません。ただし大学院入試では未知化合物の構造決定問題(MS・IR・NMRスペクトルの読解)がほぼ必出のため、院試を受ける予定があるなら遅くとも試験の半年前までには第12〜13章を学習することをお勧めします。