ろ過の方法と使い分け|吸引ろ過のやり方・セライトろ過・ブフナー漏斗
実験書には「析出した固体をろ過した」「セライトを通してろ過し、ろ液を濃縮した」と1行で書かれていることがよくあります。ところが実際にやってみると、ろ液が濁る、ろ紙が詰まって何十分も落ちない、集めたはずの結晶が吸引瓶の底に落ちている、ということが起こります。同じ「ろ過」でも、自然ろ過・吸引ろ過・セライトろ過・熱時ろ過では、ねらいも道具も違うからです。
この記事では、有機化学実験で使うろ過の方法を「何を残したいか」と「何が流れを止めているか」の2つから整理します。ろ過の速さを決めるのは、ろ過面積・押す力(圧力差)・流れにくさ(抵抗)・液の粘度の4つだけです。どの操作がどれを変えているのかが分かると、手順書の指示の理由と、うまくいかないときの直し方が自分で判断できるようになります。
ろ過とは——速さを決める4つの要素
ろ過は、液体に混ざった固体を、液体は通すが固体は通さない層(ろ紙・ガラスフィルター・粉の層など)で分ける操作です。分けたあとに層の上に残る固体をろ過ケーキ(またはろ取物)、通り抜けた液体をろ液と呼びます。有機化学実験では、残したいのが固体(再結晶の結晶、析出した生成物)の場合と、ろ液(乾燥剤や触媒、無機塩を除いた溶液)の場合があり、どちらを残すかで方法が変わります。
ろ過の速さは「面積×圧力差÷(粘度×抵抗)」で決まる
ろ紙や固体の層を液が通り抜ける速さは、化学工学では Darcy の式で表されます。細かい形は覚えなくてかまいません。大事なのは、単位時間あたりにろ過できる液の量は、ろ過面積と、層の両側の圧力差に比例し、液の粘度と、層の流れにくさ(抵抗)に反比例するという関係です。実験室のろ過の工夫は、すべてこの4つのどれかを動かしています。
| 操作 | 変えている要素 | なぜ速く(確実に)なるか |
|---|---|---|
| 吸引ろ過 | 圧力差 | 自然ろ過で液を押すのは液自身の高さ(数 cm の液柱)だけ。吸引ろ過では、ろ紙の下を減圧して大気圧で押す(1気圧は水柱にして約10 m に相当) |
| ひだ折りろ紙 | ろ過面積 | 折り目が多いほど液に触れる面積が増え、ろ紙と漏斗の間にすき間もできて、ろ紙全体が働く |
| セライトを敷く | 抵抗 | 細かい粒がろ紙の表面に膜をつくるのを防ぎ、たまった固体の層を通りやすいままに保つ |
| 温かいうちにろ過する | 粘度(と溶解度) | 液は温かいほど粘度が下がって通りやすい。熱時ろ過では、冷えて目的物が結晶になるのを防ぐ意味が大きい |
ろ紙は「ふるい」だが、細かい粒には弱い
ろ紙は、植物の繊維(セルロース)を絡み合わせた紙です。繊維のすき間より大きい粒は表面で止まり、小さい粒の一部も繊維の中に引っかかって止まります。メーカーは、どの大きさの粒まで止められるかを保留粒子径として示しています(後の「ろ紙の選び方」で数値を示します)。
困るのは、粒がろ紙の目と同じくらい細かいときです。細かい粒は繊維のすき間に入り込んでふさぎ、さらにろ紙の表面に薄く、液を通しにくい膜をつくります。水酸化アルミニウムのようなゲル状の固体や、パラジウム炭素・活性炭のような微粉でろ過が止まるのはこのためです。この「目詰まり」をどう避けるかが、セライトろ過の出番になります。
自然ろ過と吸引ろ過の違い——残したいのは固体か、ろ液か
自然ろ過(重力ろ過)は、漏斗にろ紙を入れて液を注ぎ、重力だけで落とす方法です。吸引ろ過(減圧ろ過)は、ろ紙の下側を減圧して液を引き抜く方法です。Nichols の実験書は、どちらを選ぶかを決めるのは固体とろ液のどちらを残すかだとしています。
| 比べる点 | 自然ろ過 | 吸引ろ過 |
|---|---|---|
| 主に残すもの | ろ液(乾燥剤・活性炭・不溶物を除いた溶液) | 固体(再結晶の結晶、析出した生成物) |
| 液を押す力 | 液の重さだけ(弱い) | 大気圧と減圧の差(強い) |
| 速さ | 遅い | 速い |
| 固体に残る液 | 多い(固体が湿ったまま) | 少ない(空気を通して液を切れる) |
| 細かい粒の漏れ | 起こりにくい | 強く引くので、ろ紙を抜けることがある |
| ろ紙の形 | 円すい形(四つ折り・ひだ折り) | 平らな円形(漏斗の底に敷く) |
ろ液を残すなら自然ろ過がよい理由は、吸引すると細かい粒までろ紙の孔から引き込んでしまい、ろ液が固体で汚れるおそれがあるからです。逆に固体を残すなら吸引ろ過がよい理由は、自然ろ過ではろ紙の上の固体から液を切る力が弱く、固体が液に浸かったままになるからです。再結晶の結晶でいえば、残った液(母液)には不純物が溶けているので、液をよく切れるかどうかが純度に直結します。
ただし、これは「基本」であって絶対ではありません。乾燥剤のように、ろ紙の目(数 μm)よりずっと大きな粒を除くだけなら、吸引ろ過でろ液を受けても漏れはまず問題になりませんし、セライトろ過はろ液を残す目的でも吸引で行うのがふつうです。逆に、固体が沈みやすいなら、ろ過せずに上澄みを傾けて移すデカンテーションで足ります。粒の粗い無水硫酸ナトリウムはデカンテーション、細かい粉の無水硫酸マグネシウムはろ過、という使い分けは有機合成の乾燥剤の選び方で詳しく扱っています。
自然ろ過のやり方
ろ紙の折り方:四つ折りとひだ折り
自然ろ過のろ紙は、円形のろ紙を折って円すい形にして漏斗に入れます。基本は四つ折りで、ろ紙を半分に折り、さらに半分に折ってから、1枚と3枚に分かれるように開いて円すいにします。
速さがほしいときはひだ折りろ紙(フルーテッドろ紙)を使います。半分に折ったろ紙を、扇のように山折りと谷折りを交互に繰り返して細かく折り、開いて漏斗に入れます。Nichols は、ひだ折りろ紙は折り目が多いぶん表面積が大きく、速くろ過できること、折り目がろ紙と漏斗の間にすき間をつくることを挙げています。四つ折りのろ紙は漏斗の壁に密着するので、密着した部分からは液が抜けにくくなります。ひだ折りでは、ろ紙の両面が液と空気に触れ、全体がろ過面として働きます。市販の折り済みのひだ折りろ紙もあります。
自然ろ過の手順と、それぞれの理由
- 漏斗をリングやスタンドで固定し、脚の先を受け器の内壁につける:液が壁を伝って静かに落ち、はねない
- 漏斗を受け器の口に密着させない:すき間がないと、受け器の中の空気の逃げ場がなくなり、液が落ちにくくなる
- ろ紙は漏斗の縁より少し下に収まる大きさにする:はみ出すとそこから液が外へ伝う。小さすぎると、注いだ液がろ紙の縁を越えて、ろ紙を通らずに漏斗の壁との間を落ちる
- まず上澄みから注ぎ、固体はできるだけ後に回す:Nichols は、デカンテーションのつもりで固体を沈めたまま注ぐのがよいとしている。固体が先にろ紙に乗ると、孔を詰まらせてろ過が遅くなる
- 液面はろ紙の縁より下に保つ:縁を越えると、液がろ紙を通らずに壁との間をすり抜ける
- 最後にフラスコとろ紙の上の固体を、新しい溶媒で数回すすぐ:ろ紙と固体の表面に残った目的物の溶液を回収するため。1回に大量を使うより、少量を数回に分けたほうが、残る溶液の濃度を早く下げられる
乾燥剤のように表面積の大きい固体は、溶液をその表面に抱え込みます。すすぎを省くと、そのぶんだけ収量が減ります。逆に、すすぎに使う溶媒の量はその後の濃縮の手間になるので、少量ずつ数回が基本です。
吸引ろ過のやり方
装置:漏斗・吸引瓶・トラップ・減圧源
吸引ろ過の装置は、上から順に次の4つでできています。
- 漏斗:ブフナー漏斗、桐山漏斗、少量ならヒルシュ漏斗。違いは次の章で扱います
- ゴムアダプターまたはゴム栓:漏斗と吸引瓶のすき間をふさぐ。ここから空気が漏れると減圧にならない
- 吸引瓶(ろ過瓶、ブフナーフラスコ):側面に枝のある肉厚のフラスコ。ろ液を受ける。ろ液を別の容器に直接受けたいときは、代わりにろ過鐘を使う
- トラップ(安全瓶)と減圧源:吸引瓶とアスピレーター(水流ポンプ)やダイヤフラムポンプの間に、空の瓶をはさむ
吸引瓶を肉厚にしているのは、中を減圧すると、外から大気圧が瓶全体を押しつぶす向きにかかるからです。ふつうの三角フラスコや傷・ひびのある瓶を減圧すると、圧力差に耐えられずに内側へ割れる(内破)ことがあり、破片が飛び散ります。つなぐゴム管も、減圧でつぶれないよう肉厚のもの(耐圧ゴム管)を使います。
トラップが必要なのは、減圧の具合が変わると、アスピレーターの水が吸引瓶の側へ逆流することがあるからです。Nichols も、圧力が変わると逆向きの吸い込みが起こりうるので、減圧源につなぐときはトラップが必要だとしています。トラップは、逆に吸引瓶があふれたときに、ろ液がポンプや排水へ吸い込まれるのも食い止めます。
吸引ろ過の手順と、それぞれの理由
- 吸引瓶をスタンドにクランプで固定する:漏斗を載せると頭が重くなり、ゴム管に引かれて倒れやすい
- 漏斗の底面にぴったり合う大きさのろ紙を選ぶ:孔をすべて覆い、壁に立ち上がらない大きさにする。大きすぎると縁が浮いてすき間ができ、小さすぎると孔が露出して固体がそのまま落ちる
- ろ紙を少量の溶媒で湿らせ、吸引して漏斗に密着させる:乾いたろ紙は浮きやすく、すき間から固体が吸引瓶に落ちる。再結晶なら、使った溶媒の冷たいものを使う
- 吸引しながら、混合物を中央に流し込む:フラスコに残った結晶は、新しい溶媒ではなくろ液(母液)で洗い込む。母液はすでに飽和しているので、それ以上結晶を溶かさない
- 洗浄は、吸引をいったん切ってから行う:トラップのコックを開けるなどして常圧に戻し、少量の冷たい溶媒を固体全体にかけ、ガラス棒で軽くほぐしてなじませてから、再び吸引する。吸引したまま注ぐと、溶媒が固体のすき間を素通りして表面の母液を洗い切れない
- しばらく吸引して液を切る:固体の間を空気が通り、残った溶媒がかなり除ける。その後、ろ紙ごと時計皿に移して乾燥させる
- 止めるときは、先に系を大気に開放し、それからアスピレーターやポンプを止める:逆の順にすると、減圧が残った吸引瓶にアスピレーターの水が逆流する
結晶を集めるときの洗浄と乾燥の考え方は、再結晶のやり方と溶媒の選び方で、母液に不純物が濃縮される理由とあわせて解説しています。
最後の2点には理由があります。減圧すると溶媒は沸点が下がって蒸発しやすくなり、その蒸気は減圧源へ吸い込まれます。Nichols は、吸引瓶から蒸発した溶媒が、建物の真空配管の油回転ポンプを傷めると注意しています。また、有機溶媒で湿った固体を乾燥器に入れると、蒸気に引火するおそれがあるとしています。扱う溶媒の引火点や性質は、試薬の SDS で確かめてください(SDSのまとめ方)。
ろ過鐘を使うとき
吸引瓶ではろ液が瓶の中にたまるので、ろ液を次の操作のフラスコや試験管に移す手間がかかります。ろ過鐘は、平らな台の上にガラスの鐘をかぶせた形で、鐘の中に受け器(ビーカーや試験管、フラスコ)を置いてから、上に漏斗を付けて減圧します。ろ液が最初から目的の容器に落ちるので、少量のろ液を移し替えずに使いたいときに便利です。鐘の中全体が減圧になるので、受け器ではなく鐘と台の密着部分で気密を保ちます。
ブフナー漏斗と桐山漏斗の違い
吸引ろ過の漏斗は、大きくブフナー漏斗と桐山漏斗に分かれます。どちらも平らな底にろ紙を敷いて使う点は同じで、違いは底の構造と材質、使うろ紙です。
| 比べる点 | ブフナー漏斗 | 桐山漏斗 |
|---|---|---|
| 底の構造 | 小さな孔がたくさん開いた多孔板 | 中心に孔が1つと、そこへ集まる溝(ミゾ) |
| 材質 | 伝統的には磁器製(ガラス・樹脂製もある) | ガラス製(桐山製作所の標準品) |
| ろ紙 | 底面の径に合う一般の円形ろ紙 | 漏斗の径に合わせた専用のろ紙(一般市販のろ紙に合わせた型もある) |
| 洗いやすさ | 多孔板の孔や裏側に固体が残りやすい | 構造が単純で洗いやすい(メーカーの説明) |
| 中の見え方 | 磁器製は不透明で、底の様子が見えない | 透明で、ろ紙の密着やケーキの様子が見える |
桐山製作所によると、桐山漏斗の底の形は、マンホールのふたで雨水が溝を伝って小さな穴に流れ込む様子から発想したものです。はじめは複数の穴と溝で試作しましたが、吸引ろ過では穴が1つでも処理できることが分かり、洗いやすく作りやすい今の形になりました。
穴が1つで足りる理由は、吸引ろ過では液が「穴の真上だけ」を通るわけではないからです。ろ紙を通り抜けた液は、ろ紙の下の溝を伝って中心の穴へ集まります。溝がろ紙の裏側に通り道をつくっているので、ろ紙のどこを通った液も出口にたどり着けます。ブフナー漏斗の多孔板は、同じ役割を多数の孔で果たしていると考えると分かりやすいでしょう。
どちらを使うかは、研究室にある器具と量で決めてかまいません。ガラス製で中が見える桐山漏斗は、ろ紙が浮いていないかを下から確かめられます。磁器のブフナー漏斗は大きな径のものがあり、量の多いろ過で使われます。少量の結晶を集めるときは、底の小さいヒルシュ漏斗や小径の桐山漏斗を使うと、ろ紙に残る損失を減らせます。
ろ紙を使わないガラスフィルター(焼結ガラスの板をもつ漏斗)もあります。ろ紙を準備する手間がなく、ろ紙を侵す液にも使えますが、細かい粒が焼結ガラスの細孔に入り込むと洗っても取れにくくなります。微粉を含む液をガラスフィルターに通すときは、上にセライトの層を敷くとガラスの目詰まりを避けられます。
ろ紙の選び方——止められる粒の細かさと速さはトレードオフ
ろ紙には、止められる粒の大きさ(保留粒子径)と、ろ過の速さが違う種類があります。桐山製作所の「桐山ロート用ろ紙 物性表」(東洋濾紙などのカタログ値を引用したもの)から一部を抜き出すと、次のとおりです。
| ろ紙 | 保留粒子径 | ろ過速度の測定値(秒) | 表に書かれた主な用途 |
|---|---|---|---|
| No.5A | 7 μm | 55(速い) | 粗大沈殿のろ過 |
| No.3 | 5 μm | 120(やや速い) | 土壌・肥料などの定量分析。紙質が厚手 |
| No.5B | 4 μm | 195(やや速い) | 普通の沈殿 |
| No.5C | 1 μm | 570(おそい) | 微細な沈殿のろ過 |
| No.4(硬質) | 1 μm | 1200(特におそい) | 強酸・強アルカリ溶液 |
ろ過速度の測定値は、10 cm2 のろ紙面を、20 °C の蒸留水 100 mL が水柱 10 cm の圧力でろ過されるまでの時間(ヘルツベルヒ法。JIS P 3801 のろ過速度試験)です。数字が大きいほど遅いことを表します。
表から読み取れるのは、セルロースのろ紙(No.3〜No.5C)の中では、細かい粒を止められるものほど遅いということです。No.5A(7 μm)と No.5C(1 μm)では、同じ条件で10倍ほど時間が違います。繊維のすき間を細かくすれば小さい粒が止まりますが、同じすき間を液も通らなければならないので、抵抗が大きくなるからです。最初の式でいえば「抵抗」が増えた分だけ遅くなります。
そのため、ろ紙は「細かいほどよい」のではなく、止めたい固体の粒の大きさに合わせて、通る範囲でいちばん速いものを選びます。再結晶の結晶や乾燥剤のように、ろ紙の目(数 μm)よりずっと大きな粒なら速いろ紙で十分で、細かい沈殿が漏れるときにだけ目の細かいろ紙に替えます。粒がさらに細かいときは、ろ紙の目を細かくするよりも、後で述べるセライトを使うほうが、遅くならずに済むことが多くあります。表にはガラス繊維のろ紙(GFP、保留粒子径 0.8 μm、ろ過速度の測定値 0.60)も載っていて、主な用途は「化学的な安定を要するもの」、特性は「多量の沈殿保持」とされています。ガラス繊維のろ紙は、目が細かくても速いのが特徴です。
ひだ折りろ紙と熱時ろ過
熱時ろ過は、再結晶で、熱い溶液に溶けない不純物や活性炭を、冷える前にこし取る操作です。冷えると目的物がろ紙の上や漏斗の脚の中で結晶になり、詰まるうえに目的物まで捨てることになります。熱時ろ過の工夫は、すべて「冷やさない」「速く終える」の2つのためにあります。
- ひだ折りろ紙を使う:ろ過面積が広がって速く落ちるので、冷める時間が短い
- 脚の短い漏斗か、脚のない漏斗を使う:Nichols は、脚が短いか無いほうが脚の中で結晶ができにくいとしている。細い脚の中は液が少量ずつ通るので冷えやすい
- 漏斗をあらかじめ温める:受け器で少量の溶媒を沸かし、その蒸気で漏斗とろ紙を温めておく
- 吸引ろ過ではなく自然ろ過で行うのが基本:減圧すると溶媒の沸点が下がって激しく蒸発し、蒸発で熱を奪われて液が冷えるうえ、ろ液が濃縮されて結晶が出やすくなる。保温用のジャケット付き漏斗で温めながら吸引する方法もある
- ろ紙の上に結晶が出たら、少量の熱い溶媒を注いで溶かし込む
熱時ろ過は、ろ液を残す操作なので、自然ろ過が基本という最初の原則にも合っています。熱い溶液を開いた漏斗に注ぐので溶媒の蒸気が多く出ます。有機溶媒ではドラフト内で行い、近くに火気が無いことを確かめます。再結晶の流れの中での位置づけと、活性炭を入れる時機は再結晶のやり方を参照してください。
セライトろ過とは——目詰まりを防ぐ理由
セライトろ過は、ろ紙やガラスフィルターの上にセライトの層(パッド)を敷き、その上から液を通すろ過です。ろ紙だけでは詰まってしまう細かい固体やゲル状の固体を除き、ろ液を回収したいときに使います。
セライトの正体
セライト(Celite)は、けい藻土(ダイアトマイト)を原料にしたろ過助剤の商品名です。けい藻土は、けい藻という単細胞の藻の殻が積もってできた土で、主成分はシリカです。殻は細かい孔だらけの硬い粒で、表面積が大きくなっています。研究室でよく見る「セライト 545」は、けい藻土を焼成したものです。
なぜセライトを敷くと目詰まりしにくいのか
ろ紙だけで細かい固体をろ過すると、最初に届いた粒がろ紙の表面に並び、薄く、液を通しにくい膜ができます。いったん膜ができると、その後は膜そのものがろ材の役をし、ろ紙がどれだけ目の粗いものでも、流れは膜で決まってしまいます。ゲル状の固体や不定形の微粉は、粒どうしがすき間なく詰まって変形するので、特に膜をつくりやすい固体です。
セライトの層を先に敷いておくと、この膜ができる場所がなくなります。セライトの粒は硬くて形がいびつなので、積み重なっても押しつぶされず、粒と粒の間に曲がりくねった通り道が残ります。細かい固体は、ろ紙の表面に並ぶ代わりに、この層の中の通り道のあちこちで捕まります。固体が一か所の平面にたまらず、厚みのある層全体に分かれてたまるので、液の通り道がふさがりにくいのです。ろ過助剤の技術資料も、けい藻土は圧縮されにくいケーキをつくってふるいとして働き、ろ材の目詰まりを防ぐと説明しています。
最初の式でいえば、セライトは「抵抗」が急に大きくなるのを防いでいます。ろ紙の目を細かくする方法とは逆の発想で、ろ材の目は粗いまま、止める仕事をセライトの厚い層に任せているわけです。さらに、懸濁液そのものに少量のセライトを混ぜてから流し込むと、たまっていく固体の層にもセライトの粒が混ざってすき間が保たれ、後半まで流れが落ちにくくなります(工業のろ過でボディフィードと呼ばれるやり方です)。
セライトろ過のやり方
- 漏斗にろ紙を敷き(ガラスフィルターならそのまま)、セライトを溶媒と混ぜた懸濁液を流し込んで吸引する:粉を乾いたまま入れるより、均一な層ができる(工業のろ過ではプレコートと呼ぶ)。York 大学の実験手引きは、厚さ約1 cm でたいてい足りるとしている
- ろ過する液と同じ溶媒で層を洗い、表面を平らにしておく:層に別の溶媒や水が残っていると、ろ液に混ざる。表面がでこぼこだと、薄いところから先に固体が抜ける
- 層を崩さないよう、静かに注ぐ:勢いよく注ぐと表面がえぐれ、固体が層を通り抜ける。ガラス棒を伝わせるか、層の上にろ紙を1枚載せてから注ぐとよい
- 層の表面を液面より上に出して乾かさない:乾いて割れ目ができると、液がそこを素通りする
- 終わったら、層を新しい溶媒で十分にすすぐ:York 大学の手引きは、セライトは目的物を含めて懸濁液の成分を吸着しやすいので、よくすすぐよう注意している
セライトの層は、ろ紙を傷めずに表面の固体をかき分けられるという利点もあります。表面に固体がたまって流れが止まったら、吸引を切って表面を薄くかき取ると、再び流れることがあります。
セライトろ過を使う場面
- パラジウム炭素(Pd/C)などの不均一系触媒を除く:アルケンの水素化のあとに残る触媒は微粉で、ろ紙だけでは抜けたり詰まったりする
- アルミニウム塩などの無機塩の沈殿を除く:LiAlH4の還元の後処理(Fieser 法)は、ゲルを避けてろ過できる固体にする方法。細かい粒が残っても、セライトを敷いておけばろ紙が詰まりにくい
- スズ化合物を固体にして除く:右田・小杉・スティルカップリングのあとの KF 処理でできる Bu3SnF は細かい固体で、セライトなどでろ過する
- エマルジョンの原因になっている細かい固体を除く:分液漏斗の使い方で扱ったとおり、層の境目にたまった細かい固体を除くと二層が分かれることがある
どの場面でも、セライトの役目は「物理的にこし取る」ことで、ねらいはろ液の回収です。後処理の段取りの中で、ろ過がどこに入るかはクエンチとは?反応を止める意味と試薬別の方法で整理しています。
Pd/C に注意が要るのは、水素化のあとの触媒が水素を含んでいて、空気に触れると自然に発火することがあるからです。Stanford 大学の安全資料は、ろ過ケーキを乾かさないこと、ろ過後は触媒を含むケーキを水で湿らせること、ろ過中に目を離さないことを求めており、ろ過の装置の上を窒素などの不活性ガスで覆う方法も挙げています。吸引を続けてケーキに空気を通し続けると、まさに乾いた触媒に空気と溶媒の蒸気がそろうことになります。
セライトそのものにも注意点があります。Merck のセライト 545 の SDS は、けい藻土に結晶質シリカ(クリストバライト・石英)が含まれるとし、吸入による長期・反復ばく露で肺に障害を起こすという区分を付けて、粉じんを吸い込まないよう求めています。製品によっては、吸入による発がん性の区分も付いています。区分は供給元や製品、SDS の版で異なることがあるので、使う製品の SDS を確かめてください。
シリカゲルの層に通す方法との違い
セライトの代わりに、短く詰めたシリカゲルの層に通す方法(シリカゲルのパッド、ショートカラム)もあります。見た目は似ていますが、ねらいが違います。シリカゲルは極性の高い化合物を表面に強く吸着するので、極性の高い不純物や着色物、金属の残りを、固体と一緒に引き留める簡単なクロマトグラフィーとして働きます。そのぶん、目的物の極性が高いと目的物まで層に残ります。何を流し、何を残すかの考え方はカラムクロマトグラフィーのやり方と同じです。
ろ過がうまくいかないときの原因と対処
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 途中から落ちなくなる | 細かい固体・ゲルがろ紙の表面に膜をつくった | 上澄みから先に流す。セライトを敷いてろ過し直す。ろ過面積の大きい漏斗に替える |
| ろ液が濁る | 粒がろ紙の目より細かい。ろ紙が浮いてすき間がある | ろ紙を湿らせて密着させ直す。最初の濁ったろ液をもう一度通す。目の細かいろ紙かセライトに替える |
| 結晶が吸引瓶に落ちている | ろ紙が小さい・浮いている。強い吸引で細かい結晶が抜けた | 漏斗に合う径のろ紙を選び、湿らせて密着させる。ろ液をもう一度通す |
| ろ紙が破れる | 強酸・強塩基などでろ紙が弱った。乾いたろ紙に急に吸引をかけた | ろ紙を重ねるか、硬質ろ紙やガラスフィルターに替える。湿らせてから吸引する |
| 吸引瓶に水が入ってくる | アスピレーターの逆流 | トラップを入れる。止めるときは先に系を大気に開放する |
| 減圧にならず遅い | ゴムアダプター・ゴム管・トラップのコックからの漏れ | 漏斗を軽く押さえて音や流れが変わるか確かめ、漏れている継ぎ目を直す |
考察・口頭試問で問われる「なぜ」
学生実験のレポートの考察や、研究室での口頭試問では、操作そのものより「なぜその操作をしたか」を聞かれます。ここまでの内容から答えられる問いを4つ挙げます。考察の書き方は実験レポートの書き方も参考にしてください。
結晶の表面に残った母液をよく切るため。母液には不純物が溶けて濃縮されているので、液が残ったまま乾かすと不純物が結晶の表面に残る。自然ろ過では、ろ紙の上の固体から液を切る力が弱い。
吸引したまま注ぐと、溶媒が結晶のすき間を素通りして表面の母液を洗い切れないため。冷たい溶媒を少量だけ使うのは、洗浄で目的物を溶かして失わないため。
硫酸マグネシウムは細かい粉で、デカンテーションでは粒が一緒に流れ、濃縮後の試料に混ざるため。ろ過のあとは乾燥剤を新しい溶媒ですすぎ、表面に残った目的物を回収する。
Pd/C は微粉で、ろ紙だけでは孔を抜けるか、ろ紙の表面に膜をつくって詰まるため。セライトの硬い粒の層の中で触媒の粒が捕まるので、流れを保ったまま除ける。ケーキは発火を防ぐために乾かさない。
まとめ
よくある質問
残したいものがろ液なら自然ろ過、固体なら吸引ろ過が基本です。吸引ろ過は強く引くぶん細かい粒までろ紙の孔から引き込むことがあり、ろ液が汚れるおそれがあります。一方、自然ろ過は固体から液を切る力が弱く、固体が液に浸かったまま残ります。乾燥剤のように、ろ紙の目(数 μm)よりずっと大きな粒を除くだけなら、どちらでも大きな差はありません。
けい藻土を原料にしたろ過助剤のセライトを、ろ紙やガラスフィルターの上に層として敷いてから液を通すろ過です。細かい固体がろ紙の表面に液を通さない膜をつくるのを防ぎ、硬い粒の層の中で固体を捕まえるので、パラジウム炭素や無機塩の沈殿のように詰まりやすい固体でも流れを保ったまま除けます。セライトは目的物も吸着するので、最後に溶媒で十分にすすぎます。
どちらも平らな底にろ紙を敷いて使う吸引ろ過用の漏斗で、底の構造が違います。ブフナー漏斗は小さな孔がたくさん開いた多孔板で、伝統的には磁器製です。桐山漏斗はガラス製で、中心に孔が1つあり、ろ紙を通った液を溝で中心へ集めます。桐山漏斗は漏斗の径に合わせた専用のろ紙を使い、透明なのでろ紙の密着を確かめやすい器具です。
減圧すると溶媒の沸点が下がって激しく蒸発し、蒸発で熱を奪われて溶液が冷え、さらに溶媒が減ってろ液が濃縮されるため、ろ紙や漏斗の上で目的物が結晶になりやすいからです。熱時ろ過は溶けない不純物や活性炭を除いてろ液を残す操作なので、ひだ折りろ紙と温めた脚の短い漏斗を使い、自然ろ過で素早く行うのが基本です。
吸引瓶の中が減圧のまま、アスピレーターの水を先に止めると、圧力の低い吸引瓶の側へ水が吸い込まれるためです。水圧の変動でも同じことが起こります。吸引瓶とアスピレーターの間にトラップ(安全瓶)を入れ、止めるときは先にトラップのコックを開けるなどして系を大気に開放してから、アスピレーターを止めます。
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