この記事の答え
実験の予習レポートに書くSDSのまとめは、SDSの項目3・4・7・9・11から12個の情報(分子量・物性・急性毒性・応急措置・引火点など)を抜き書きした表で足ります。下に記入例とコピーして使えるひな形を置きました。

理系(特に化学系)の学生であれば、実験で使う試薬のSDSをまとめて提出しなければいけない、ということがあるのではないでしょうか。

しかし、SDSに載っている情報は多すぎて、何を抽出すればいいのかわからない人も多いと思います。

そこで今回は、私が実際に使っているSDSのまとめ方を、記入例と表のひな形つきで紹介します。

この記事は「SDSから何を抜き書きして提出物にするか」に絞っています。SDSそのものが何のための文書で、16項目に何が書いてあるか(見方)は、姉妹記事にまとめました。先にそちらを読むと、下の表の項目番号がすっと入ります。

先に結論——この12項目を表にすれば提出物として成立する

SDSは16項目ありますが、レポートに書き出すのはそのうち5項目(3・4・7・9・11)から拾った12個の情報だけで足ります。
下の表の「SDSのどこを見るか」の番号は、SDSの先頭に並んでいる項目番号と同じです。
その番号のページだけを開けば、探し回らずに埋まります。

書き出す情報 SDSのどこを見るか 記入例:エタノール
分子量 項目3(組成及び成分情報)
※記載がなければ化学式から計算する
46.07
物理状態 項目9(物理的及び化学的性質) 液体
色 項目9 無色
臭い 項目9 アルコール特有の臭い
pH 項目9 データなし(水溶液はほぼ中性)
融点 項目9 −114 °C
沸点 項目9 78 °C
密度(相対密度) 項目9 0.79(20 °C)
溶解度 項目9 水と混和する
急性毒性 項目11(有害性情報) LD50 経口 ラット 約7,000 mg/kg
応急措置 項目4(応急措置) 眼に入った場合は15分以上流水で洗う
取扱い 項目7(取扱い及び保管上の注意) 火気厳禁・換気のよい場所で扱う(引火点13 °C は項目9)
記入例の数値をそのまま写さないでください。SDSの数値は発行元(関東化学・富士フイルム和光純薬・東京化成など)と改訂年で違います。上の表は「どんな粒度で書けばいいか」を示すための例です。提出物には自分が実際に参照したSDSの値を書き、その発行元を参考文献に残してください。SDSに「データなし」とある欄は、空欄にせず「データなし」と書きます(空欄だと調べ忘れと区別がつきません)。

各項目を書き出す意味

「言われたから書く」状態だと手が止まります。1項目ずつ、何のために拾っているのかを確認していきましょう。

物理的及び化学的性質(項目9)

上の表の「物理状態〜溶解度」に該当する部分です(分子量だけは項目3にあります)。ここは安全確認と結果の解釈、両方に効くのでいちばん手を抜けません。

試薬の外見的特徴を掴む

色・臭い・物理状態を先に知っておくと、「この瓶はおかしい」と気づけるようになります。

無色の液体のはずが黄色く濁っていれば、分解や不純物の混入を疑う。白色粉末のはずが固まっていれば吸湿を疑う。ラベルが剥がれた瓶を前にしたとき、頼れるのはこの情報だけです。

つまり、実験前に「見た目の正解」を持っておくこと自体が安全確認になっています。

実験結果の解析に用いる

融点・沸点・密度・溶解度は、そのまま操作条件と計算に入ります。

どこで使うか
・沸点→蒸留で何°Cの留分を取るか、エバポレーターでどの溶媒が先に飛ぶか
・密度→液体をmLで量ったときに質量・物質量へ換算する(収率計算の入口)
・溶解度→再結晶や抽出で溶媒量を見積もる
・融点→得られた固体の融点と比べて純度を判断する

溶媒量の見積もりを実際の操作で確かめたいときは、再結晶のやり方と溶媒の選び方が参考になります。

実験後に「なぜこの温度で留出したのか」と聞かれて答えられるのは、ここを書き出した人だけです。

急性毒性(項目11)

急性毒性とは、LC50やLD50のことです。

LD50(半数致死量)は、試験動物に1回投与したとき半数が死ぬ量を体重1 kgあたりで表した値です。吸入の場合は空気中の濃度で表し、LC50(半数致死濃度)と呼びます。値が小さいほど少量で死に至る=毒性が強いことに注意してください。

試験に使われるのはラットやウサギなどで、ヒトでの値ではありません。動物の種類や投与経路(経口・経皮・吸入)でも値は変わります。

だからこの値は「何mgまでなら安全」という線引きには使えません。使い道は試薬どうしの相対比較です。同じ経路・同じ動物の値を並べて、どれがどのくらい危険かを判断します。

10種類くらいのLC50・LD50を調べると、大体の基準を知ることができます——が、その「基準」はGHSが区分として公開しています。先に見てしまいましょう。

GHSの区分 経口LD50(mg/kg) 体重60 kgのヒトに換算した目安
区分1 5 以下 0.3 g以下
区分2 5〜50 0.3〜3 g
区分3 50〜300 3〜18 g
区分4 300〜2,000 18〜120 g
区分5 / 区分外 2,000 超 通常の実験操作で飲み込む量では致死に至らない

エタノールのLD50は経口ラットで約7,000 mg/kgなので、この表では区分外です。それでも引火性があるので危険性はゼロではない——急性毒性の区分は「安全の証明書」ではないということが、この比較でわかります。

換算の目安はあくまで桁感を掴むためのものです。ラットの値をヒトにそのまま当てはめることはできません。それでも「区分1と区分4では2〜3桁違う」という感覚を持っておくと、危険な試薬を見逃しにくくなります。

応急措置(項目4)

応急措置は、事故が起きてから読むのでは間に合いません。まとめている今この瞬間に頭へ入れるための項目です。

書き出すときは、最低この3つを拾ってください。

応急措置から拾う3点
① 眼に入ったとき——洗眼時間の指定(15分以上という記載が多い)
② 皮膚に付いたとき——すぐ脱ぐべき衣類の扱いと洗浄方法
③ 吸入したとき——移動先(空気の新鮮な場所)と医師に伝える情報

洗眼の「15分以上」は、体感よりはるかに長い時間です。先に知っておかないと、痛みが引いた時点でやめてしまいます。

あわせて、洗眼器と緊急シャワーの位置を実験前に目で確認しておくこと。これはレポートに書く項目ではありませんが、書き出す作業とセットでやる価値があります。

取扱い(項目7)

取扱い(項目7)からは火気・換気などの注意を、あわせて項目9の引火点と項目10の「混ぜてはいけない相手」を拾います。

引火点が室温より低い溶媒は、室温に置いてあるだけで引火する濃度の蒸気を出しています。

溶媒 引火点 意味
ジエチルエーテル 約 −45 °C 冷蔵庫の中でも引火性蒸気を出している
アセトン 約 −20 °C 冬の屋外でも同じ
エタノール 約 13 °C 春先の室温で引火域に入る
水 (引火点なし) 比較用。燃えない溶媒との差を意識する

もう一つ、項目10(安定性及び反応性)の「避けるべき条件」「混触危険物質」も同時に拾っておくと、廃液の分別で迷いません。空気や光で過酸化物をつくるエーテル類(避けるべき条件)、強酸と混ぜると塩素を出す次亜塩素酸塩(混触危険物質)など、「何と一緒にしてはいけないか」は項目7と項目10に分かれて書かれています。

まとめ表のひな形(コピーして使う)

WordやExcelに貼って、試薬ごとに1枚つくってください。項目番号を残しておくと、指摘されたときに出典へすぐ戻れます。

試薬名:
SDS発行元:       /改訂年月日:

【物理的及び化学的性質(項目9)】
  分子量     :          (項目3または計算)
  物理状態・色  :
  臭い      :
  pH       :
  融点 / 沸点   :          /
  密度(相対密度):
  溶解度     :

【急性毒性(項目11)】
  LD50(経口・ラット):          mg/kg → GHS区分:
  LC50(吸入)    :

【応急措置(項目4)】
  眼 :
  皮膚:
  吸入:

【取扱い(項目7)】
  取扱いの注意 :
  引火点(項目9):

【余裕があれば:安定性及び反応性(項目10)】
  避けるべき条件:
  混触危険物質 :
余裕があれば、項目2(危険有害性の要約)の絵表示と項目8(ばく露防止及び保護措置)の保護具も1行ずつ足してください。「どの手袋を使うか」は項目8に書いてあり、ニトリルで足りるのか厚手が必要なのかはここでしか判断できません。

12項目以外を求められたとき(項目2・12・15)

研究室や授業によっては、上の12項目に加えて「危険有害性」「環境への影響」「毒物・劇物かどうか」を書くよう指示されることがあります。どれもSDSの決まった番号に載っているので、番号さえ分かれば迷いません。

求められる内容 SDSのどこを見るか 書き方
危険有害性 項目2(危険有害性の要約) 注意喚起語(「危険」か「警告」)と、危険有害性情報の文(H○○○)をそのまま写す
環境への影響 項目12(環境影響情報) 生態毒性の有無と、項目13(廃棄上の注意)の捨て方を1行ずつ
毒物・劇物の別 項目15(適用法令) 「毒物及び劇物取締法:劇物」のように、SDSの記載どおりに書く。該当しなければ「非該当」

危険有害性(項目2)は「文」で書く

項目2には、GHSの分類(「引火性液体 区分2」など)と、それぞれに対応する危険有害性情報の文が並んでいます。この文には H225、H319 のような番号(Hコード)がついています。

レポートにはHコードだけでなく文まで書くのがおすすめです。番号だけでは自分が読み返したときに意味が分からず、何に気をつけるかが頭に入らないからです。たとえばエタノールなら、引火点が13 °Cと低いため「H225 引火性の高い液体及び蒸気」が載っています。上の表で引火点を拾ったことと、ここがつながります。

ただし、項目2の分類は発行元によって載っている区分が違うことがあります。数値と同じく、自分が参照したSDSの記載を写してください。

項目2にH411があったら(根拠は項目12)

H410・H411 などは水生環境への有害性を表すHコードで、H411 は「長期継続的影響によって水生生物に毒性」という意味です。項目12(環境影響情報)には、その根拠となる魚類やミジンコでの試験データが載っています。

レポートには、項目2の文を1行、根拠として項目12の生態毒性を確認し、そして項目13から捨て方を1行書けば十分です。水生生物に毒性がある=流しに捨ててはいけないということなので、廃液の分別とセットで覚えておくと実験中に迷いません。

毒物・劇物かどうか(項目15)

毒物・劇物に当たる試薬は、保管場所や使用量の記録などの扱いが研究室の規程で決まっています。項目15(適用法令)の「毒物及び劇物取締法」の欄を見て、「毒物」「劇物」「非該当」のどれかを書き出してください。具体的な管理方法は法令と所属機関の規程で定められているので、レポートには分類だけを書き、扱い方は研究室のルールに従います。

参考文献の書き方

SDSを参照した場合は、以下のように参考文献を記載しましょう。

例)試薬:エタノール、SDS発行元:関東化学株式会社

参考文献

1)関東化学株式会社, "製品安全データシート エタノール", 製品安全データシート(日本語版), 2020/08/24 改訂, SDSのURL, (参照 2020/11/26).

必要な要素は発行元・製品名・改訂年月日・URL・参照日の5つです。

改訂年月日と参照日の両方を書くのは、SDSが改訂で数値ごと差し替わる文書だからです。「どの版を見てその数値を書いたのか」が特定できなければ、後から検証できません。論文の参考文献と同じ理屈です。

同じ試薬でも発行元が違えば別の文献です。3社のSDSを混ぜて1つの表を作った場合は、行ごとにどこから取ったかがわかるようにしてください。

よくある質問

全部の試薬についてまとめる必要がありますか?

原則として、自分の手で瓶から出すものすべてです。目的物の原料だけでなく、溶媒・洗浄液・乾燥剤・クエンチ剤まで含みます。実際に事故が起きやすいのは「ついでに使った溶媒」のほうなので、ここを省くと意味が薄れます。ただし提出範囲は研究室の指示が優先です。

SDSのまとめは液体の試薬だけでよいですか?

いいえ。固体や気体の試薬もまとめます。固体の粉末は吸い込んだり皮膚に付いたりする危険があり、気体は漏れたときに気づきにくいので、むしろ確認しておく価値が高い試薬です。物理状態の欄に「固体(粉末)」「気体」と書き、項目4の吸入時の応急措置と、項目8の保護具(防じんマスクなど)を拾っておきましょう。

H225やH411のようなHコードはレポートにどう書けばよいですか?

番号と文をセットで書きます。たとえば「H225 引火性の高い液体及び蒸気」「H411 長期継続的影響によって水生生物に毒性」のように、SDSの項目2に載っている文をそのまま写します。番号だけだと読み返したときに意味が分からず、何に気をつけるべきかが頭に残らないためです。区分は発行元で違うことがあるので、参照したSDSの記載に合わせてください。

MSDSとSDSは違うものですか?

中身は同じものです。2012年に制定された JIS Z 7253 以降は「SDS(安全データシート)」が正式な呼び方になりました。古い資料や海外のサイトではMSDSのまま書かれていることがありますが、提出物では「SDS」と書けば問題ありません。

分子量が載っていません。どうすればいいですか?

項目3の化学式から計算するか、CAS番号で検索して調べます。混合物(たとえば濃塩酸や調製済みの試薬溶液)の場合は分子量が定義できないので、主成分の分子量と濃度を併記してください。

まとめ

・書き出すのはSDSの項目3・4・7・9・11から拾う12個だけでよい
・項目番号を頼りに開くと、16項目を読み通さずに埋まる
・物理的性質は安全確認と収率計算の両方に使う——ここを省くと後で困る
・危険有害性・環境・毒劇物を求められたら項目2・12・15を見る
・急性毒性はGHS区分と並べて「他の試薬より何桁危ないか」で読む
・参考文献には発行元・改訂年月日・参照日を必ず残す

ここで紹介したものは、あくまでも私の一例です。

迷っている方は、まずこれを参考にして、少しずつ自分なりのまとめ方を見つけてください。

SDSは「安全データシート」です。安全第一で試薬を取扱いましょう。