有機化学の問題集を探すと、書名の候補はすぐに10冊以上見つかります。困るのはその先です。「基本から大学院入試まで」「大学院入試から最先端まで」と守備範囲を広く書いた書名が並ぶので、表紙の言葉だけでは自分の今の段階に合う1冊が決まりません。

選び方の軸は1つです。今受けようとしている試験が、何を答えさせるか。授業の範囲から出る定期試験では生成物や試薬を答える問いが中心になりやすいのに対し、院試では機構を巻矢印で書く・選択性の理由を述べる・スペクトルから構造を決める・合成経路を組む、が組み合わさります。答えさせる形が違えば、必要な問題集も違います。この記事では、書名・著者・出版社・版を出版社の書籍ページと国立国会図書館の書誌で確かめた12冊を、目的別とレベル別の表に並べ、どの順に何周回すかまで書きます。

この記事の答え
有機化学の問題集は「試験が何を答えさせるか」で選ぶ。定期試験は教科書の章末問題と解答書、院試は解答に機構まで載った演習書を1冊。構造決定と合成は、範囲に入るなら専用の1冊を足す。
この記事で学ぶこと
・問題集を「問題数」より「解答の詳しさ」で選ぶべき理由
・目的別(反応機構・合成・構造決定・院試対策)とレベル別の12冊の一覧
・各書の向き不向きと、手持ちの教科書との組み合わせ方
・1周目・2周目で目的を変える回し方と、院試の計画への組み込み方

問題集を選ぶ前に決めること

教科書・問題集・過去問は役割が違う

問題集の話に入る前に、3種類の教材の役割を分けておきます。混ざると「問題集を3冊買ったのに伸びない」が起きます。

教材 役割 足りないと起きること
教科書(1冊) 反応がなぜ起きるかの説明と、進み具合を管理する地図 解けなかった問題の戻り先が無く、解答を丸暗記するだけになる
問題集(1〜2冊) 教科書で読んだ判断を、初見の問題で使えるかの確認 「読んで分かった」と「書ける」の差に気づけない
志望先の過去問 出題範囲と答え方の確定、時間配分の練習 出ない分野に時間を使い、出る形式に慣れないまま本番を迎える

教科書の選び方は有機化学の教科書の比較に、院試に向けた半年間の計画表と過去問の使い方は有機化学の勉強法の院試の節にまとめてあります。この記事は、その間に入る問題集の選び方と回し方だけを扱います。

問題数より「解答の詳しさ」で選ぶ理由

問題集を比べるとき、つい問題数を見てしまいます。しかし有機化学では、問題数より解答に何が書いてあるかのほうが、伸び方を大きく左右します。

理由は、間違えたときに得られる情報の量です。解答が生成物の構造式だけだと、分かるのは「自分の答えが違った」ことだけです。解答に巻矢印つきの機構が載っていれば、自分の答案と1段ずつ突き合わせて、どの段で判断を誤ったか(求核剤の取り違えか、どの水素が抜けるかの読み違いか、立体の見落としか)まで特定できます。どの判断を誤ったかが分かれば、教科書のどの章へ戻ればよいかも決まります。

院試ではこの差がさらに大きくなります。院試の記述問題は生成物だけでなく機構や理由を書かせるので、機構が載っていない解答では、自分の答案が採点に耐えるかを確かめようがありません。問題集の書籍ページや目次を見るときは、問題数と並べて「全問に解答があるか」「解答に機構や解説が付くか」を確認してください。

問題集選びでよくある失敗
・問題数の多さで選び、解答が生成物だけで間違いの原因が分からない
・教科書の基礎(共鳴・酸と塩基・巻矢印)が固まる前に院試レベルの本へ進む
・1冊を終える前に次の本へ移り、どれも1周目で止まる
・院試の直前期に新しい問題集を買い足す

目的別・レベル別の早見表

12冊を、問われる内容(目的)と段階(レベル)で並べたのが下の表です。レベルは出版社の紹介文・目次・収録問題の出典をもとにした目安で、同じ本でも章によって難しさは違います。

書名 目的 レベルの目安 解答
演習で学ぶ有機化学基礎の基礎 基礎(構造・異性体・置換・脱離) 学部1年・入門 書誌では未確認
『有機反応機構』ワークブック 反応機構(巻矢印の書き方) 学部1年・入門 書誌では未確認
有機化学1000本ノック(シリーズ) 命名法・立体・反応機構・生成物・スペクトル・逆合成 入門〜定期試験(逆合成編は合成の入口としてレベル4でも使う) 別冊(反応機構編・逆合成編で確認)
基礎有機化学演習 基礎〜反応・構造解析・合成 入門〜定期試験 あり
有機化学演習―基本から大学院入試まで 官能基別の総合演習 定期試験〜院試の基本 全問
大学院をめざす人のための有機化学演習 院試対策(基礎・反応・構造解析・合成) 学部3・4年 あり
有機化学演習 III―大学院入試問題を中心に 院試対策(過去問中心) 院試 全問
演習で学ぶ有機反応機構 反応機構 院試〜それ以上(初級・中級・上級) あり
有機反応機構の書き方 第2版 反応機構(書き方の体系) 院試〜研究 総合問題の章あり
有機化合物のスペクトルによる同定法 演習編 第8版 構造決定 学部3年〜院試 書誌では未確認
有機化学のためのスペクトル解析法 第3版 構造決定(解説と演習) 学部3年〜研究 総合問題
ウォーレン有機合成―逆合成からのアプローチ 合成(逆合成の考え方) 院試〜研究 演習書ではなく教科書

「解答」の列は出版社の書籍ページと書誌で確認できた範囲で、「未確認」は解答が無いという意味ではありません。とくに解答の詳しさ(機構まで書いてあるか)は本によって違うので、購入前に書店や図書館で解答ページを1見開き見ることをすすめます。

下の表は、同じ12冊を「どのレベルで使うか」の順路にしたものです。レベル1以降は、上の行を終えてから下の行へ進むのが原則です。レベル0は全員が通る段ではなく、教科書の章末問題で機構を書こうとして手が止まる人が、章末問題の前に通す段です。

レベル このレベルで答えられるようにすること 使う本の例
0. 基礎の確認 巻矢印を正しく書き、求核剤と求電子剤を指させる 基礎の基礎/『有機反応機構』ワークブック
1. 定期試験 授業の範囲で、生成物と試薬を機構つきで答えられる 教科書の章末問題と解答書/1000本ノック/基礎有機化学演習
2. 院試の基本 官能基をまたいで、初見の基質の生成物と機構を書ける 有機化学演習―基本から大学院入試まで/大学院をめざす人のための有機化学演習
3. 院試の実戦 他大学の過去問で、機構・理由・構造決定を答案にできる 有機化学演習 III/演習で学ぶ有機反応機構(初級〜中級)
4. 範囲に応じた追加・発展 構造決定・合成が出る研究科なら、その分野を単独で解ける。機構を体系として学び直す スペクトルの演習書/ウォーレン有機合成/1000本ノック 逆合成編/有機反応機構の書き方 第2版

レベル0を飛ばさない理由は、巻矢印の書き方が曖昧なままレベル2以降の本に入ると、解答の機構を読んでも自分の答案と比べられないからです。比べられなければ、前の節で書いた「解答の詳しさ」の価値がまるごと消えます。

定期試験までの問題集(学部1〜2年)

演習で学ぶ有機化学基礎の基礎

M. Cook・P. Cranwell 著、新藤充 訳、化学同人、2021年(原書 Workbook in Organic Chemistry)。132ページ。目次は、構造式の描き方・命名・混成軌道・共鳴・芳香族性などの基礎から、異性体、求核置換反応(SN1・SN2)、脱離反応(E2・E1・E1cB)、求電子付加へと進みます。

向いている人:有機化学の授業が始まったばかりで、教科書の最初の数章でつまずいている人。範囲が基礎に絞られているので、薄い本で一通り手を動かしたい場合に合います。向いていない人:カルボニル化合物の反応や合成まで演習したい人。目次の範囲を超えるので、次の段階の本が要ります。

『有機反応機構』ワークブック―巻矢印で有機反応を学ぶ!

奥山格 著、丸善出版、2016年。51ページ。ルイス構造式と結合の極性、巻矢印による反応の表し方、酸塩基反応(プロトン移動)から始めて、有機反応機構の書き方を練習する構成です。同じ著者による2009年刊の『有機化学』ワークブック―巻矢印をつかって反応機構が書ける!(丸善)とは別の本なので、書名の取り違えに注意してください。

向いている人:反応の生成物は覚えているのに、機構を書けと言われると手が止まる人。巻矢印の練習だけに絞った薄さが、この段階では利点になります。向いていない人:網羅的な演習を求める人。分量は多くないので、反応の範囲を広げるには他の本と組み合わせます。巻矢印の基本は巻矢印の書き方でも解説しています。

有機化学1000本ノック(シリーズ)

矢野将文 著、化学同人。テーマ別に分冊されていて、国立国会図書館の書誌で確認できるのは命名法編(2019年)、立体化学編(2019年)、反応機構編(2019年)、反応生成物編(2021年)、スペクトル解析編(2022年)、逆合成編(2026年)です。反応機構編は本体150ページに別冊の「解答・解法」72ページが付き、酸と塩基、共鳴、結合の生成と切断の基礎から、アルケン・アルキンの反応へと章が進みます。逆合成編は、一段階の変換から始めて、学部レベルの三〜四段階の逆合成設計までの土台を目指す構成と紹介されています。

向いている人:苦手な分野だけを、同じ型の問題で反復したい人。分冊なので、立体化学だけ、命名法だけ、と弱点に合わせて選べます。向いていない人:1冊で全分野を通したい人。分冊を何冊も揃えると、前の節の「1冊を終える前に次へ移る」失敗に近づきます。

基礎有機化学演習

齋藤勝裕・中村修一 著、東京化学同人、2009年。152ページ。基礎事項の解説・例題・練習問題の3段構成で、結合と構造、表記法・命名法・官能基、立体構造、構造解析、反応、合成の6章です。出版社の紹介では、限られた時間で取り組めるよう問題を厳選したとされています(東京化学同人の書籍ページ)。

向いている人:構造解析と合成まで含めて、有機化学の全体を薄い1冊で一巡したい人。向いていない人:院試の記述問題の練習をしたい人。そこは次の段階の本の役割です。

定期試験から院試への橋渡し(学部2〜4年)

有機化学演習―基本から大学院入試まで

山本学・伊与田正彦・豊田真司 著、東京化学同人、2008年。298ページ。例題91題と演習問題158題を収録し、全問題に解答が付きます。章立ては、有機化学の基礎、アルカン、アルケンとアルキン、芳香族化合物、立体化学、ハロゲン化アルキル、アルコール・エーテル、アルデヒドとケトン、カルボン酸誘導体、α置換と縮合、アミン、ペリ環状反応、スペクトルによる構造解析の13章です(東京化学同人の書籍ページ)。

向いている人:定期試験から院試まで、1冊で段階を上げたい人。章が官能基の順に並んでいるので、同じく官能基順に章を立てた教科書と、章を対応させながら進められます。向いていない人:院試の過去問形式に慣れることを最優先にしたい人。その目的には、次の2冊のほうが直接的です。

大学院をめざす人のための有機化学演習

東郷秀雄 著、化学同人、2019年。B5判320ページ。全309問のうち96問が実際の大学院入試問題です。第I部 有機化学の基礎、第II部 有機反応様式(置換・付加・脱離・酸化・還元・カルボニル・芳香環・転位・ラジカル・ペリ環状)、第III部 構造解析、第IV部 反応機構と3〜6工程の合成、第V部 最新の論文から、の5部構成です。各章の冒頭に「ポイント解説」、各問題に「ヒント」があり、解答は2色刷です(化学同人の書籍ページ)。

向いている人:院試を意識し始めた学部3・4年生で、基礎の総復習と院試問題を1冊でつなぎたい人。構造解析と合成の部があるので、範囲の広い研究科を受ける場合の1冊目の候補になります。向いていない人:基礎がまだ固まっていない段階の人。問題数が多いぶん、レベル0〜1を終えてから入るほうが、ヒントと解答を活かせます。

院試の実戦と反応機構(学部3〜4年)

有機化学演習 III―大学院入試問題を中心に

豊田真司 著、東京化学同人(化学演習シリーズ8)、2016年。A5判248ページ。2008年以降の主要大学院の入学試験問題を中心に、近年の傾向を反映した問題を集めた296題で、全問に解答が付きます。各章の冒頭に例題と解説があり、命名法・酸塩基・立体化学・反応機構から、各官能基、有機金属化合物、ペリ環状反応、糖質とアミノ酸、スペクトルによる構造解析、総合問題まで章が立っています(東京化学同人の書籍ページ)。

向いている人:志望先の過去問で出題分野を確かめたあと、他大学の院試問題で同じ分野の演習量を増やしたい人。志望先の過去問は年度数が限られるので、その不足をこの本で補う使い方が合います。向いていない人:基礎の解説を求める人。例題の解説はありますが、主役は院試問題です。

同じシリーズには『有機化学演習 I』(湊宏 著、1978年)と『有機化学演習 II』(務台潔 著、1995年)もあります。刊行年が古いぶん収録問題も古い年代のものになる点を踏まえて選び、入手できるかは出版社ページで確認してください。

演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで

有機合成化学協会 編、化学同人、2005年。271ページ。問題編は初級78問・中級128問・上級109問の3段階で(既存記事では A・B・C 問題として紹介しています)、そのあとに解答編が続きます。副題のとおり、院試レベルから研究の最前線の反応までを機構の問題として扱います。

向いている人:生成物は分かるが、機構を1段ずつ書く力を院試レベルまで上げたい人。院試に向けては初級から始めます。既存記事では A 問題まで自力で解ければ院試の問題に対応できるという考え方を紹介しており、その先へ進むかは志望先の過去問の難しさで決めます。向いていない人:基礎が固まる前の人と、構造決定・合成の演習を求める人。この本の主題は機構です。レベル別の具体的な使い方は「演習で学ぶ有機反応機構」の使い方にまとめています。

有機反応機構の書き方 第2版―基礎から有機金属反応まで

Robert B. Grossman 著、奥山格 訳、丸善出版、2022年12月。409ページ。原書 The Art of Writing Reasonable Organic Reaction Mechanisms の第3版の翻訳です。基本事項から、塩基性条件・酸性条件での極性反応、ペリ環状反応、ラジカル反応、遷移金属が関わる反応へと進み、最後に総合問題が置かれています。

向いている人:院試レベルの演習書を一通り終えたあと、「機構を書くときの手順と規則」を体系として整理し直したい人、院試の先の研究まで見据える人。機構の本としてこの節で紹介していますが、レベル表では4(追加・発展)に置いています。向いていない人:短期間で院試の演習量を確保したい人。読み物としての分量が大きいので、院試直前に新しく始める本ではありません。

構造決定と合成の問題集

構造決定(NMR・IR・MS)

構造決定は、反応の知識とは別の手順(分子式から不飽和度を出し、IRで官能基を絞り、NMRでつなぎ方を決める)を練習しないと解けるようになりません。範囲に入る研究科を受けるなら、反応の問題集とは別に1冊用意する価値があります。

  • 有機化合物のスペクトルによる同定法 演習編 第8版:岩澤伸治・豊田真司・村田滋 著、東京化学同人、2018年。158ページ。本編『有機化合物のスペクトルによる同定法―MS, IR, NMRの併用 第8版』(Silverstein ほか著、同訳者、2016年)と対になる演習書です。本編を教科書、演習編を問題集として組み合わせます。
  • 有機化学のためのスペクトル解析法 第3版―UV, IR, NMR, MSの解説と演習:S. Bienz・L. Bigler・T. Fox・H. Meier 著、三浦雅博 監修、化学同人、2024年。UV/Vis・IR・NMR・MSの章のあとに、スペクトルと分析データを実際に扱う章(構造決定の事例)があり、出版社の紹介では最終章の総合問題が新しくなったとされています。解説の比重が大きいので、1冊で解説と演習を済ませたい人に向きます。

どちらに入る前でも、不飽和度の求め方、IR吸収帯の読み方、13C NMRとDEPTの読み方、構造決定の基礎で手順を一度通しておくと、演習書の解答が読みやすくなります。

合成(逆合成)

合成の問題は、反応を「出発物から生成物へ」ではなく「生成物から出発物へ」逆向きに使う問題です。だから反応機構の段階を終えてから入るのが順序になります。反応の向きを逆にたどるには、まずその反応を順方向に確実に書けなければならないからです。

  • ウォーレン有機合成―逆合成からのアプローチ:Stuart Warren・Paul Wyatt 著、柴﨑正勝・橋本俊一 監訳、東京化学同人、2014年。375ページ。原書 Organic Synthesis: The Disconnection Approach の第2版の翻訳で、逆合成の考え方、シントンと反応剤、反応を行う順序、官能基選択性といった章で、結合をどこで切るかの判断を積み上げます。問題を数多く解くための本というより、合成問題の考え方そのものを学ぶ本です。
  • 有機化学1000本ノック 逆合成編:前述のシリーズの1冊。B5判200ページ。アルケン・アルキン・ハロゲン化アルキル・アルコール・カルボニル化合物・カルボン酸誘導体・カルボアニオン・芳香族から逆合成する章を経て、「ちょっと高度な方法」の章へ進みます(化学同人の書籍ページ)。ウォーレン有機合成で考え方を学び、こちらで手を動かす、という組み合わせができます。

逆合成の基本は逆合成解析の手法と例、シントンと合成等価体、保護基の選び方で先に確認できます。

教科書と問題集の組み合わせ方

教科書の章末問題と解答書を先に使う

手持ちの教科書に章末問題と解答書があるなら、最初の問題集はそれです。章末問題は本文と同じ表記・同じ順序で作られているので、解けなかったときの戻り先が同じ本の数ページ前にあります。別の問題集では、表記や章立ての違いを読み替える手間がかかります。

教科書の比較記事で取り上げた教科書のうち、解答書を確認できたものを並べます(書誌は国立国会図書館サーチ・出版社ページ等で確認)。日本語の解答書が無く、英語の解答書だけを確認できた教科書もあります。

教科書 解答書 注意
ボルハルト・ショアー現代有機化学 第8版 ボルハルト・ショアー現代有機化学問題の解き方 第8版(N. E. Schore 著、大嶌幸一郎 訳者代表、化学同人、2020年) 教科書と版を揃える
ジョーンズ有機化学 第5版 ジョーンズ有機化学問題の解き方 第5版 英語版(M. Jones, Jr.・H. L. Gingrich・S. A. Fleming 著、東京化学同人が取り扱い) 解答は英語
マクマリー有機化学 第9版 Study Guide and Student Solutions Manual(Susan McMurry 著、原書第9版向け) 日本語版は確認できなかった・解答は英語
ウォーレン有機化学 第2版 Solutions Manual to Accompany Organic Chemistry(J. Clayden・S. Warren 著、Oxford University Press、2013年、原書第2版向け) 日本語版は確認できなかった・解答は英語

このほか、教科書の比較記事で扱っていない教科書にも解答書があります。たとえば『有機化学 改訂3版』(奥山格・石井昭彦・箕浦真生 著、丸善出版、2023年)には『有機化学 改訂3版 問題の解き方』(奥山格 著、丸善出版、2023年)が、D. R. Klein の教科書には『クライン有機化学問題の解き方 日本語版』(伊藤喬 監訳、東京化学同人、2020年)があります。どの教科書でも、解答書は教科書と同じ版のものを選ぶことが前提です。版が違うと章末問題の番号や内容がずれます。

問題集を足すのは「章末問題では足りない」と分かってから

章末問題だけで足りないのは、次の2つの場合です。1つは、章末問題を解き終えても初見の問題で手が止まる場合。もう1つは、院試の範囲が教科書の章末問題より広い場合です。前者ならレベル2の総合演習書を足します。後者のうち、官能基をまたぐ総合問題が出るならレベル3の院試問題集を、構造決定や合成の比重が大きいならレベル4の分野別の本を足します。

足すのは一度に1冊です。教科書1冊と問題集1冊の組み合わせなら、どこまで終わったかを2冊の目次の上で管理できます。3冊以上を並行すると、同じ反応を別の表記で何度も解き、抜けている分野に気づけなくなります。

1周目と2周目の回し方

同じ問題集でも、1周目と2周目では目的が違います。目的を変えずに同じやり方で2周すると、2周目は「答えを覚えているから解ける」問題を解き直すだけになります。

周回 目的 やり方 終わりの基準
1周目 弱点の診断 解答を見る前に、生成物だけでなく機構を巻矢印まで書く。答え合わせで○・△(生成物は合ったが機構が違う)・×を付け、△と×は誤りの原因を1行で書く 全問に○△×と原因が付いた
2周目 弱点の修正 △と×だけを、解答を隠して機構から書き直す。間違えたら、1行メモの原因に対応する教科書の章を読んでから解き直す △と×が○になった
3周目(院試) 時間内の再現 2周目でも一度は間違えた問題を、時間を区切って解く 時間内に機構まで書ける

1周目で△を独立させるのは、△と×では戻る場所が違うからです。×は生成物から外れているので、どこが求核剤でどこが求電子剤かという反応の判定から見直す必要があります。△は生成物が合っているので、原因は機構の途中の段(巻矢印の向き、プロトン移動の順序など)に絞れます。また△を○に数えると、「生成物は合っているが機構が違う」答案を正解扱いすることになり、機構まで書かせる院試の記述問題に対する実力を高く見積もってしまいます。

誤りの原因は、「求核剤と求電子剤の取り違え」「どの水素が抜けるかの読み違い」「巻矢印の書き方」「立体の取り違え」「試薬の役割を知らない」のように、反応名ではなく判断の種類で書きます。分類と戻り先の対応は、有機化学の勉強法の誤答の原因の表と同じものを使えます。原因が判断の種類で書いてあれば、偏りが見えたときにその判断の章だけを読み直せば済みます。

回し方のコツ
・1周目は解答を見るまでの時間を区切る(手が止まったら機構の途中までで答え合わせしてよい)
・解答の機構は、自分の答案の横に1段ずつ写して比べる
・2周目に入る前に、△×の原因を集計して多い順に並べる

院試の計画に問題集を組み込む

院試の有機化学の準備では、問題集は単独の作業ではなく、計画表のどこで使うかで役割が変わります。有機化学の勉強法の院試の計画表(範囲の確定 → 基礎の再建 → 舞台ごとの演習 → 過去問を分野別に → 通しで解く → 直前は誤答の見直しだけ)に当てはめると、次のようになります。

計画表の段階 問題集の使い方
範囲の確定 問題集はまだ買わない。志望先の過去問を眺め、構造決定・合成・総合問題が出るかを確かめる。その結果で、レベル4の本が要るかが決まる
基礎の再建 教科書の章末問題(と解答書)。巻矢印に不安があれば『有機反応機構』ワークブックなどレベル0の本
舞台ごとの演習 総合演習書を1冊選び、1周目(診断)と2周目(修正)を回す。範囲の確定で構造決定・合成が出ると分かっていれば、総合演習書の2周目に入った時点でレベル4の分野別の本を1冊始める
過去問を分野別に 志望先の過去問で足りない分野を、有機化学演習 III などの他大学の院試問題で補う
通しで解く 問題集は3周目(時間内の再現)だけ。新しい本は始めない
直前の見直し 誤答記録に残った問題だけ。新しい問題集には手を出さない

最後の2段で新しい本を始めない理由は、新しい本の1周目は「診断」の周回だからです。直前期に診断をしても、見つかった弱点を修正する時間が残りません。過去問の入手方法と出願までの流れは外部院試の進め方に、院試の過去問を1問ずつ解いた解説例は(R)-2-ブロモブタンのSN2反応に学ぶ立体反転【東大院試2023】やボンビコール合成に学ぶWittig反応の選択性【東大院試2025】にあります。英語の試験の参考書は院試の英語で別に扱っています。

まとめ

この記事のまとめ
・問題集は「試験が何を答えさせるか」で選び、問題数より解答の詳しさ(機構まで載っているか)を見る
・最初の問題集は教科書の章末問題と、同じ版の解答書(機構で手が止まるなら、その前にレベル0の薄い本)
・レベルは「基礎の確認 → 定期試験 → 院試の基本 → 院試の実戦 → 範囲に応じた追加・発展」。足すのは一度に1冊
・1周目は○△×と原因で診断、2周目は△×だけを機構から書き直して修正
・院試の直前期には新しい問題集を始めず、誤答記録の解き直しに絞る

書籍の版や在庫は変わることがあるので、購入前に出版社の書籍ページで最新の版を確認してください。教科書を安く手に入れる方法は理系大学生が教科書を安く買う方法に、大学有機化学の全体の地図は大学有機化学の完全攻略ガイドにまとめてあります。

よくある質問

有機化学の問題集は何冊必要ですか?

教科書1冊に対して、問題集は同時に1冊が基本です。最初は教科書の章末問題と解答書で足ります。章末問題を終えても初見の問題で手が止まる場合に総合演習書を1冊、院試で構造決定や合成の比重が大きい場合にその分野の本を1冊足します。複数の本を並行すると、どこまで終わったかの管理が難しくなり、同じ反応を別の表記で何度も解くことになります。

院試対策の有機化学の問題集はいつから始めればよいですか?

教科書の基礎(共鳴・酸と塩基・巻矢印・立体化学)を章末問題で固め直したあとが目安です。基礎が不安定なまま院試問題を解くと、間違えても「知らなかった」以上の情報が得られず、解答の機構を読んでも自分の答案と比べられないからです。何か月前から始めるかは、志望先の試験科目と配点に合わせて決めてください。

問題集の解答を見ても機構が分からないときはどうすればよいですか?

解答の機構を1段ずつ自分の答案の横に写し、最初に食い違った段を探します。その段で何を判断しているか(どこが求核剤か、どの水素が抜けるか、どの脱離基が外れるか)を言葉にし、その判断を説明している教科書の章を読み直してください。教科書で根拠が見つかれば理解は固まり、見つからなければそこが次に学ぶ箇所です。

英語の問題集や解答書を使ってもよいですか?

使えます。マクマリー有機化学の Study Guide and Student Solutions Manual や、ウォーレン有機化学の Solutions Manual to Accompany Organic Chemistry のように、教科書によっては解答書が英語のものしか確認できない場合もあります。反応機構の解答は構造式と巻矢印が中心なので、英文の量は解説ほど多くありません。英語の読解そのものの対策は、院試の英語の対策と分けて進めると負担が偏りません。

問題集は1周で終わりにしてよいですか?

1周目は弱点を見つけるための周回なので、それだけでは弱点が直りません。1周目で△(生成物は合ったが機構が違う)と×に付けた問題を、2周目に解答を隠して機構から書き直してはじめて、問題集を使った意味が出ます。院試を受ける場合は、2周目でも一度間違えた問題を、時間を区切ってもう一度解く3周目を加えます。