TLCのやり方とRf値の求め方|展開溶媒の選び方・コスポット・テーリング
有機合成の実験で、TLC は何度もくり返す分析です。反応を仕掛けたら TLC、終わったか確かめるのも TLC、分液で水層に目的物が残っていないかも TLC、カラムの溶媒を決めるのも TLC。それなのに、配属されたばかりのころは「スポットが縦に伸びて読めない」「原料と生成物の Rf 値が同じに見える」「溶媒先端に印を付け忘れた」と、同じところでつまずきます。
TLC のつまずきの多くは、1つの原理から説明できます。極性の高い化合物ほどシリカゲルに強く引きつけられて上がらない、という原理です。展開溶媒の選び方も、テーリングの対処も、反応追跡でのスポットの読み方も、ここから導けます。
この記事では、この原理から Rf 値の意味と計算、展開溶媒の選び方、スポットから検出までの手順、コスポットを置く理由、反応追跡の読み方、失敗パターンと対処までを順に説明します。
TLC の原理:極性の高い化合物ほどシリカゲルに捕まる
TLC(Thin-Layer Chromatography、薄層クロマトグラフィー)では、ガラスやアルミニウムの板にシリカゲルを薄く塗ったプレートを使います。シリカゲルが固定相、プレートをしみ上がっていく溶媒(展開溶媒)が移動相です。
シリカゲルの表面には Si–OH(シラノール基)がびっしり並んでいます。シラノール基は極性が高く、水素結合を作れます。化合物は、このシラノール基に吸着している状態と、展開溶媒に溶けて一緒に流れている状態のあいだを、何度も行き来しながら上がっていきます。
- シラノール基と強く相互作用する化合物(OH・NH・COOH を持つものなど、水素結合を作れるもの、極性の高いもの)は、吸着している時間が長いので、あまり上がらない
- 相互作用の弱い化合物(炭化水素のように極性の低いもの)は、大半の時間を溶媒の中で過ごすので、溶媒先端の近くまで上がる
つまり TLC は、化合物ごとの「吸着している時間の割合」の差を、上がった距離の差として見せる方法です。分子どうしの相互作用(水素結合・双極子相互作用)の詳しい話は分子間力とは?を参照してください。
シリカゲルでのおおよその上がりやすさは、次の順です。官能基が1つだけの、骨格の似た化合物どうしで比べたときの傾向で、分子全体の大きさや官能基の数で入れ替わることはあります。
| 化合物の種類(例) | シラノール基との相互作用 | Rf 値の傾向 |
|---|---|---|
| アルカン・芳香族炭化水素 | ほとんど無い | 大きい(上がる) |
| ハロゲン化アルキル・エーテル | 弱い双極子相互作用、水素結合の受容 | やや大きい |
| エステル・アルデヒド・ケトン | C=O が水素結合を受け取る | 中くらい |
| アルコール | O–H が水素結合を与えも受け取りもする | 小さい |
| アミド・アミン | 第一級・第二級アミンは水素結合を与えも受け取りもする。アミンは酸性のシラノール基と酸塩基の相互作用もする | より小さい(アミンは尾を引きやすい。アニリンのような芳香族アミンは塩基性が弱く、もっと上がる) |
| カルボン酸 | 強い水素結合 | 小さい(尾を引きやすい) |
| 塩(イオン) | 非常に強い | ほぼ 0(原点に残る) |
たとえばケトンを還元してアルコールにすると、生成物のスポットは原料より下に出ます。ケトンの C=O は水素結合を受け取るだけですが、アルコールの O–H はシラノール基へ水素結合を与えることもでき、そのぶん強く吸着するからです。逆にアルコールをアルデヒドに酸化すれば、生成物は原料より上に出ます。このように、スポットの上下から極性の変化を推定できることが、TLC が反応追跡に使われる理由です。
Rf 値の求め方:距離の比で表す
化合物がどれだけ上がったかは、Rf 値(retardation factor / retention factor)という比で表します。
Rf = (原点からスポットの中心までの距離)÷(原点から溶媒先端までの距離)
どちらも原点(試料を付けた線)から測ります。プレートの下端から測ると、原点より下の部分が分子と分母の両方に足されて値がずれます。スポットは点ではなく広がりを持つので、スポットの中心(いちばん濃い部分)までを測ります。
Rf 値は比なので単位はなく、必ず 0 から 1 のあいだに入ります。原点から動かなければ 0、溶媒先端と一緒に上がれば 1 です。比にする理由は、展開した長さに左右されない値にするためです。同じ化合物でも、5 cm 展開したプレートと 8 cm 展開したプレートでは上がった距離が違いますが、比はほぼ同じになります。
計算例
次のプレートで考えます(距離は計算手順を示すための例です)。
- スポット A:Rf = 1.5 ÷ 5.0 = 0.30
- スポット B:Rf = 3.5 ÷ 5.0 = 0.70
A のほうがシリカゲルに強く吸着している、つまりA のほうが極性が高いと読めます。報告するときは、Rf 値を小数第2位までにして、プレートと展開溶媒の組成を必ず添えます(例:Rf 0.30(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=4:1))。条件を書かない Rf 値は他と比べられない、という点は実験レポートの書き方の TLC の記入例でも説明しています。
Rf 値は展開溶媒の極性で変わる
展開溶媒の極性を上げると、すべてのスポットの Rf 値が大きくなります。極性の高い溶媒分子もシラノール基に吸着するので、化合物と吸着の場所を取り合います。さらに溶媒そのものが極性化合物をよく溶かすので、化合物は溶媒側にいる時間が長くなります。この2つの効果で、化合物はシリカゲルから引きはがされて上がりやすくなります。
シリカゲルの TLC でよく使う溶媒を、展開する力(溶出力)の弱い順に並べると、おおよそ次のとおりです。
ヘキサン < トルエン < ジクロロメタン < ジエチルエーテル < 酢酸エチル < アセトン < メタノール (左ほど Rf 値が小さくなり、右ほど大きくなる)
この並びはシリカゲルでの目安です。ジエチルエーテルと酢酸エチルのように近い位置にある溶媒どうしは、測り方や分ける化合物によって順序が入れ替わることがあります。
実際には、極性の低い溶媒と高い溶媒を混ぜて、比率で極性を調整します。よく使うのはヘキサン/酢酸エチルの混合溶媒で、酢酸エチルの割合を増やすほど Rf 値が大きくなります。ヘキサン/酢酸エチルでは原点からほとんど動かない極性の高い化合物には、ジクロロメタン/メタノールのような組み合わせを使います。
どのくらいの Rf 値を狙うか
Rf 値が 0.8 を超えるような溶媒では、どの化合物も溶媒先端に集まって差がつきません。逆に 0.1 を下回ると、原点の近くに固まって分かれません。反応追跡などで読むときは、分けたい化合物が中ほど(0.2〜0.6 くらい)に散らばる溶媒を探すのが基本です。
- 反応追跡:原料と生成物の Rf 値の差が、見て分かるほど開く溶媒を選ぶ
- カラムの条件決め:目的物の Rf 値が 0.2〜0.35 程度になる溶媒が目安。Still らの論文(J. Org. Chem. 1978)は 0.35 を勧め、隣のスポットとの差が 0.15 より小さいときは極性を下げて 0.25 程度にすることを挙げています。Rf 値が小さい化合物ほど、カラムでは遅れて出てきます
TLC の結果をカラムでどう使うかはカラムクロマトグラフィーのやり方で説明しています。
TLC のやり方:スポットから溶媒先端のマークまで
TLC は次の順で進めます。
- 展開槽を準備して飽和させる
- プレートに原点の線を引く
- 試料をスポットする
- 展開する
- 溶媒先端に印を付ける
- 検出する
作業中は保護めがね・白衣・手袋を着けます。展開溶媒は揮発性の有機溶媒なので、展開槽の準備から検出まで、ドラフト(局所排気装置)の中で行います。使い終わった展開溶媒は流しに捨てず、研究室の区分(ハロゲン系・非ハロゲン系など)に従って廃液として回収します。
展開槽を準備して飽和させる
ふた付きの展開槽(ガラスの瓶やビーカーと時計皿でもよい)に展開溶媒を入れ、内側の壁にろ紙を1枚立てかけて溶媒で濡らし、ふたをして数分おきます。溶媒の量は、液面がプレートの原点より下になる量にします(深さ 0.5 cm 程度)。
飽和させる理由は、展開中にプレートの表面から溶媒が蒸発するのを防ぐためです。槽の中が溶媒の蒸気で満たされていないと、しみ上がる途中で溶媒が蒸発し、蒸発しやすいプレートの両端で溶媒先端が遅れて弓なりに曲がったり、蒸発した分を補うように余分な溶媒が吸い上げられて Rf 値が大きめに出たりします。どちらも蒸発の程度しだいで変わるので、Rf 値が再現しなくなります。混合溶媒では、揮発しやすい成分(ヘキサンやジクロロメタンなど)が先に抜けて組成が変わることもあります。混合溶媒は使うたびに新しく作り、何度も使い回さないようにします。
プレートに原点の線を引く
プレートの下端から約 1 cm のところに、鉛筆で軽く線を引きます(原点)。ボールペンやサインペンは使いません。インクに含まれる色素が展開溶媒に溶けて、それ自体がスポットとして上がってしまうからです。鉛筆の黒鉛は溶媒に溶けないので動きません。強く引いてシリカゲルを削ると、そこで溶媒の上がり方が乱れるので、軽く引きます。
レーンは原点の線の上に、端から少し離して等間隔に取ります。プレートの端すれすれは溶媒の上がり方が不安定なので避けます。
試料をスポットする
試料を揮発しやすい溶媒(酢酸エチルやジクロロメタンなど)に薄く溶かし、ガラスの毛細管(キャピラリー)の先に吸わせて、原点に軽く触れさせます。スポットの直径は 1〜2 mm 程度に収めます。濃く付けたいときは、一度に大きく付けるのではなく、乾かしてから同じ点に重ねて付けます。
スポットが大きいと、展開したあともスポットが大きく広がって、近い Rf 値の化合物と重なります。分離の良し悪しは、展開する前のスポットの小ささに大きく左右されると考えてください。
反応追跡では、原料・コスポット・反応液の3レーンを並べるのが基本です(理由は後述)。
展開する
スポットが乾いたら、プレートをピンセットで持ち、原点が液面より上にくるようにまっすぐ立てて展開槽に入れ、ふたをします。原点が液に浸かると、試料が展開されずに液だまりへ溶け出してしまいます。プレートが壁やろ紙に触れると、そこから溶媒が流れ込んで先端が乱れるので、触れないように置きます。
展開中は展開槽を動かさずに待ちます。溶媒先端がプレートの上端から約 0.5〜1 cm 下まで来たら取り出します。上端まで上がりきると溶媒先端の位置が分からなくなり、Rf 値が計算できません。
溶媒先端に印を付ける
取り出したら、すぐに溶媒先端の位置に鉛筆で線を引きます。展開溶媒は数秒〜数十秒で蒸発し、先端の跡は見えなくなります。ここで印を忘れると、そのプレートの Rf 値は求められません。
印を付けたら、ドラフトの中で溶媒を十分に乾かしてから検出に進みます。溶媒が残っていると、UV で見たときにスポットがぼやけたり、発色試薬がうまく染みなかったりします。
検出する
多くの有機化合物は無色なので、展開しただけではスポットが見えません。検出には、プレートを壊さない方法(UV)から先に使い、次にヨウ素、最後に発色試薬という順で進めるのが基本です。発色試薬で染めたプレートは、もう他の方法では見られないからです。
| 検出法 | 見え方 | 見えやすい化合物 | 見え方の理由 |
|---|---|---|---|
| UV(254 nm) | 緑に光る背景に暗いスポット | 芳香環や共役系を持つ化合物 | 蛍光剤入りのプレート(F254 などの表示)で、化合物が UV を吸収した場所だけ蛍光が弱まる |
| ヨウ素 | 黄褐色〜茶色のスポット | 多くの有機化合物(不飽和化合物・芳香族は特に) | ヨウ素の蒸気が化合物に溶け込んだり弱く結びついたりして色が付く。時間がたつと消える |
| 過マンガン酸カリウム | 紫〜桃色の背景に黄〜褐色のスポット | 酸化されやすいもの(アルケン・アルコール・アルデヒドなど) | 化合物が MnO4− を還元し、紫色が消えて MnO2 の色になる |
| p-アニスアルデヒド | 加熱でさまざまな色のスポット | アルコール・カルボニル化合物など幅広い | 酸と加熱で化合物と反応し、色のある生成物になる(反応の中身は化合物によって異なる)。化合物によって色が違うので見分けにも使える |
| リンモリブデン酸 | 加熱で黄緑の背景に暗い青緑のスポット | 幅広い有機化合物 | 化合物がモリブデン(VI)を還元し、青い還元体(モリブデンブルー)ができる |
| ニンヒドリン | 加熱で紫色のスポット | 第一級アミン・アミノ酸(プロリンのような第二級アミンは黄色っぽく出ることがある) | アミノ基と反応して紫色の色素(ルーエマン紫)ができる |
| 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン | 黄色〜橙色のスポット | アルデヒド・ケトン | カルボニル基と縮合して色のあるヒドラゾンになる |
UV で見えたスポットは、ランプを当てている間に鉛筆で丸く囲んでおきます。ランプを消すと見えなくなるからです。ヨウ素のスポットも時間がたつとヨウ素が抜けて消えるので、取り出したらすぐに囲みます。
UV で見えないから「何も無い」とは限りません。アルカンや単純なアルコールのように 254 nm の UV をほとんど吸収しない化合物は、UV では見えず、ヨウ素や発色試薬で初めて見えます。原料と生成物で見え方が違うことがあるので、反応追跡では両方が見える検出法を選びます。どの試薬でどの官能基が見えるかは研究室ごとの使い分けがあるので、配属先の先輩に確かめるのが確実です。
コスポットの意味:同じ場所に重ねて付ける理由
コスポット(co-spot)とは、原料と反応液を原点の同じ点に重ねて付けたレーンのことです。原料のレーンと反応液のレーンを並べるだけでは足りない理由は2つあります。
- 反応液のレーンだけ Rf 値がずれることがある:反応液には、塩・酸・塩基・高沸点の溶媒(DMF・DMSO など)が含まれます。これらがスポットの周りのシリカゲルの性質を変えるので、同じ化合物でも、純粋な原料のレーンとは少し違う高さに出ることがあります
- レーンの位置で上がり方が違うことがある:溶媒先端が少しでも曲がっていると、離れたレーンどうしの高さを比べても意味がありません
コスポットでは、原料と反応液の中の化合物が同じ条件で、同じ場所を一緒に上がるので、このずれが打ち消されます。
- 反応液のそのスポットが原料そのものであれば、コスポットでも1つの丸いスポットに重なる(原料に加えて Rf の近い生成物が共存すると、縦に伸びたり雪だるま形になったりする)
- 反応液のスポットが原料とは別の化合物で、Rf 値だけが近いなら、コスポットでは縦に伸びたり、2つが重なった「雪だるま」形になったりする(ただし、その溶媒で Rf 値がたまたま一致していれば1つに重なって見える)
原料と生成物の Rf 値が近い反応ほど、コスポットが判断の決め手になります。実験レポートの書き方の考察例にある「原料のスポットはコスポットでも分裂しなかった。したがって原料が未反応のまま残っており」という書き方は、この読み方をそのまま文章にしたものです。
反応追跡の読み方:プレートから何が分かるか
反応の途中で反応液を少量取り、原料・コスポット・反応液の3レーンで TLC をとると、プレートは次のどれかになります。
| 反応液のレーンの見え方 | 読み方 | 次にすること |
|---|---|---|
| 原料のスポットだけ | まだ反応が進んでいない | 時間をおく。試薬の入れ忘れ・温度を確認する |
| 原料と新しいスポットの両方 | 反応の途中 | 時間をおいて再び TLC。新しいスポットが濃くなるのを確かめる |
| 原料が消え、新しいスポットだけ | 原料が検出できなくなった(反応が完結した可能性が高い) | 後処理(クエンチ・分液)に進む |
| 新しいスポットが複数 | 副生成物ができている、または生成物が分解している | 時間を追って濃さの変化を見る。増え続けるスポットは止めどきの判断材料になる |
| 原点に残るスポット | 塩・非常に極性の高い物質・分解物 | ミニ分液(下記)をしてから TLC をとり直す |
「原料が消えた」は、正確には「この検出法で見える量より少なくなった」という意味です。原料が UV で見えにくい化合物なら、UV で消えて見えても発色試薬では残っていることがあります。完結の判断は、原料がいちばんよく見える検出法で行います。
新しいスポットの位置も情報になります。前の節で見たとおり、生成物が原料より下に出れば極性が上がった(OH や COOH が生じた、など)、上に出れば極性が下がった(OH が保護された、カルボニルに酸化された、など)と推定できます。予想した生成物とスポットの上下が逆なら、狙った反応が起きていない可能性を考えます。
ミニ分液:反応液をそのまま付けないほうがよいとき
反応液に塩や DMF・DMSO のような高沸点の溶媒が多く含まれていると、スポットが乾かず、縦に伸びてにじみます。このときは、小さな試験管やバイアルで反応液を少量取り、水と酢酸エチルを加えて振り、上の有機層だけを付けます。分液と同じ原理で、塩や DMF の大部分が水層に移るからです(原理は分液漏斗の使い方と分液のコツ)。分液のあとも、水層に目的物が残っていないかを TLC で確かめます。
失敗パターンと対処
テーリング(スポットが尾を引く)
スポットが丸くならず、下に向かって尾を引いたように縦に伸びる現象をテーリングといいます。原因は大きく分けて3つです。付けすぎ、酸性・塩基性の化合物(カルボン酸・アミン)、シリカゲル上での分解です。
- 付けすぎ:シリカゲルの吸着できる量を超えると、吸着しきれない分が先に流れ、残りが後から少しずつはがれて尾になる。対処:試料を薄めて付け直す
- 酸性・塩基性の化合物(カルボン酸):COOH はシラノール基と非常に強い水素結合を作り、さらに一部が電離した形も混ざる。吸着の強さの違う状態が混ざるので、スポットが1点にまとまらない。対処:展開溶媒に少量(0.5〜1%程度)の酢酸を加える。酢酸は電離を抑えて化合物を中性の形にそろえるとともに、自分がシラノール基に吸着して、強く吸着する場所をふさぐ
- 酸性・塩基性の化合物(アミン):シリカゲルの表面は弱い酸性を持つので、アミンの一部がシラノール基からプロトンを受け取ってアンモニウムイオンになり、イオンとして強く結びつく。中性の形とプロトン化した形が混ざるので尾を引く。対処:展開溶媒に少量(0.5〜1%程度)のトリエチルアミンを加える。トリエチルアミンが酸性のシラノール基を先にふさぎ、試料のアミンを中性の形にそろえる
- シリカゲル上での分解:酸に弱い化合物は、展開中にシリカゲルの上で少しずつ分解し、分解物が尾を引く。確かめ方:2次元 TLC(下記)
スポットが大きい・にじむ
スポットが大きいと、近い Rf 値の化合物が重なって分離が見えなくなります。
- 濃すぎる・一度に付けすぎた:薄めて、小さく付けて乾かすのをくり返す
- 試料を溶かした溶媒の極性が高い:メタノールなどに溶かして付けると、付けた瞬間に溶媒と一緒に化合物が輪のように広がる。揮発しやすく極性の低めの溶媒(酢酸エチル・ジクロロメタン)に溶かす
- スポットの溶媒が乾いていない:乾く前に展開すると、残った溶媒が展開溶媒の極性を局所的に変える。しっかり乾かしてから展開する
溶媒先端が乱れる・スポットが斜めに上がる
- プレートが壁やろ紙に触れている:触れた場所から溶媒が流れ込む。触れないように立て直す
- 展開槽が飽和していない:プレートの端から溶媒が蒸発して、先端が曲がる。ろ紙を入れてふたをし、数分おいてから展開する
- プレートが傾いている・端が欠けている:シリカゲルが欠けた所や削れた所で溶媒の上がり方が変わる。まっすぐ立て、傷のないプレートを使う
- 原点が液面より下:スポットが展開されずに液だまりへ溶け出し、何も上がってこない。溶媒の量を減らす
全部が上がる・全部が残る・何も見えない
- 全部が溶媒先端に集まる:展開溶媒の極性が高すぎる。極性の低い溶媒(ヘキサン)の割合を増やす
- 全部が原点に残る:極性が低すぎる。酢酸エチルを増やすか、ジクロロメタン/メタノールに替える
- 何も見えない:試料が薄すぎる、UV を吸収しない化合物を UV だけで見ている、沸点の低い化合物が乾かすあいだに蒸発した、のどれかを疑う。濃く付け直すか、発色試薬を試す
TLC と再結晶・カラムの関係
TLC は分ける操作そのものではなく、分ける操作の前後を判断するための分析です。反応を止めるか、カラムをどの溶媒で流すか、カラムのどのフラクションに目的物が出たか、再結晶でどれだけ純度が上がったかを、すべて TLC で判断します。たとえば再結晶の前後で TLC をとり、粗結晶にあった不純物のスポットが結晶では消え、母液側に残っていれば、再結晶で不純物を除けたと判断できます。再結晶の操作そのものは再結晶のやり方で説明しています。
まとめ
TLC は、1枚とるのに数分しかかからない分析です。原理を押さえておけば、スポットの上下や形から「いま反応液の中で何が起きているか」を自分で読めるようになります。
よくある質問
Rf 値は、原点からスポットの中心までの距離を、原点から溶媒先端までの距離で割って求めます。たとえば溶媒先端が原点から 5.0 cm、スポットが原点から 1.5 cm なら、Rf 値は 1.5÷5.0=0.30 です。どちらの距離もプレートの下端ではなく原点から測ります。Rf 値は単位のない 0〜1 の値で、展開溶媒とプレートの種類を添えて報告します。
シリカゲルの TLC では、展開溶媒の極性を上げるとすべての化合物の Rf 値が大きくなります。極性の高い溶媒分子がシリカゲル表面のシラノール基への吸着を化合物と取り合い、さらに化合物を溶媒側に溶かし込むので、化合物がシリカゲルから引きはがされて上がりやすくなるためです。ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒なら、酢酸エチルの割合を増やすほど Rf 値が大きくなります。
シリカゲルの表面には極性の高いシラノール基(Si–OH)が並んでいて、極性の高い化合物、特に OH・NH・COOH のように水素結合を作れる化合物はシラノール基に強く吸着するためです。化合物は吸着した状態と溶媒に溶けた状態を行き来しながら上がるので、吸着している時間が長い化合物ほど上がる距離が短くなり、Rf 値が小さくなります。逆相(C18)のプレートでは順序が逆になります。
コスポットは、原料と反応液を原点の同じ点に重ねて付けたレーンで、反応液の中のスポットが原料と同じ Rf 値かどうかを確実に比べるために付けます。反応液に含まれる塩や溶媒の影響、溶媒先端の曲がりで、離れたレーンどうしの高さはずれることがあるからです。反応液のそのスポットが原料そのものであれば、コスポットでも1つの丸いスポットに重なります。原料に加えて Rf 値の近い生成物が共存すると、縦に伸びたり雪だるま形になったりします。
主な原因は、試料の付けすぎ、カルボン酸やアミンのような酸性・塩基性の化合物、シリカゲル上での分解の3つです。付けすぎなら試料を薄めます。カルボン酸は展開溶媒に少量の酢酸を加えて電離を抑えつつ強く吸着する場所をふさぎ、アミンは少量のトリエチルアミンを加えてシリカゲルの酸性のシラノール基をふさぐと、スポットがまとまります。分解が疑われるときは、2次元 TLC で確かめます。
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