分液を終えて有機層を三角フラスコに集めると、多くの手順書には「無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過して濃縮した」と1行だけ書いてあります。ところが研究室に入ると、棚には無水硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、モレキュラーシーブ 3A と 4A が並び、先輩によって使うものが違います。どれを選んでも同じなのでしょうか。

この記事で扱うのは、お菓子の袋に入っているシリカゲルのような家庭用の乾燥剤ではなく、有機合成・有機化学実験で溶液や溶媒から水を除く乾燥剤です。乾燥剤には「どれだけ水を抱えられるか」「どれだけ速いか」「どこまで乾かせるか」という別々の性質があり、さらに乾かす相手の化合物と反応しないかどうかも効いてきます。この4点が分かると、手順書の1行の裏にある選択の理由が読めるようになります。

この記事の答え
有機層は無水硫酸マグネシウムか無水硫酸ナトリウム、反応用の溶媒は活性化モレキュラーシーブで乾かします。メタノール・エタノール・アセトニトリルは 3A、アミン・DMF・DMSO は 4A を使います。
この記事で学ぶこと
・乾燥剤を比べる3つの物差し(容量・速さ・強さ)と、それぞれが決まる理由
・無水硫酸ナトリウム・無水硫酸マグネシウム・塩化カルシウムなどの使い分け(一覧表)
・モレキュラーシーブとは何か、3A と 4A の違い、活性化のしかた
・有機層の乾燥のやり方と、反応用の溶媒を乾かすときの考え方

有機合成の乾燥剤とは——家庭用の乾燥剤との違い

家庭用の乾燥剤は、袋の中の空気から湿気を取るためのものです。これに対して有機合成の乾燥剤の多くは、液体(有機溶媒やその溶液)の中に溶けている水を取り除くために使います。液体に直接入れるので、乾燥剤自体が溶媒に溶けないこと、乾かしたい化合物と反応しないこと、使い終わったらろ過などで簡単に取り除けることが条件になります。

実験室で乾燥剤を使う場面は、大きく次の3つに分かれます。

  • 有機層(抽出液)の乾燥:分液のあと有機層に残ったわずかな水を除き、濃縮に進む。無水硫酸マグネシウムや無水硫酸ナトリウムを使う
  • 溶媒の脱水(無水溶媒づくり):グリニャール試薬や水素化アルミニウムリチウムのように水と反応する試薬を使う前に、溶媒の水を ppm の水準まで減らす。モレキュラーシーブや反応性の乾燥剤を使う
  • 気体・固体の乾燥:反応容器に湿った空気が入らないよう乾燥管(還流装置の組み方)に塩化カルシウムを詰める、デシケーターで固体の試料を乾かす、など

同じ「乾燥」でも、目標とする乾き具合が大きく違います。抽出液なら、濃縮したときに水滴が残らない程度で十分です。一方、水に敏感な反応の溶媒では、目に見えない量の水でも試薬を壊してしまいます。この違いが、乾燥剤を使い分ける最初の理由です。

乾燥剤を比べる3つの物差し——容量・速さ・強さ

乾燥剤の性質は、ふつう容量(どれだけ水を取り込めるか)、速さ(どれだけ早く水を取り込むか)、強さ(最終的にどこまで乾かせるか)の3つで比べます。この3つは互いに独立していて、容量が大きいからといって強いとは限りません。

容量:水を何個抱えられるか

無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウムのような無機塩は、水を結晶の中に取り込んで水和物になることで水を除きます。硫酸ナトリウムは十水和物(Na2SO4・10H2O)、硫酸マグネシウムは七水和物(MgSO4・7H2O)が代表的な水和物です。1 mol の塩が多くの水分子を抱えられるほど、少ない量で多くの水を処理できます。これが「容量が大きい」ということです。

モレキュラーシーブは水和物をつくるのではなく、結晶の内部にある小さな空洞に水分子を吸着させます。メーカーや文献の値では、3A・4A ともに自分の質量のおよそ2割の水を吸着できます。

速さ:粒の大きさと表面積で決まる

乾燥剤が水を取り込むのは、溶液と接している粒の表面からです。そのため同じ物質でも、細かい粉ほど表面積が大きく速く効きます。無水硫酸マグネシウムは細かい粉で、実験書では「速い」と評価されます。無水硫酸ナトリウムは粒が粗く、水和物になる変化もゆっくりなので「遅い」とされます。手順書で硫酸ナトリウムを使うときに「しばらく置く」と書かれているのはこのためです。

強さ:水和物と無水物のつり合いで決まる

3つの中でいちばん誤解されやすいのが強さです。水和物をつくる乾燥剤は、溶液中の水をすべて取り切るわけではありません。「無水物+水 ⇌ 水和物」というつり合い(平衡)があり、溶液中の水がある量まで減ると、それ以上は水和物の側へ進まなくなります。どこで止まるかは乾燥剤と溶媒の組み合わせで決まっていて、乾燥剤をいくら足しても下げられません。容量は「量を増やせば補える」性質ですが、強さは「物質を変えないと変えられない」性質だということです。

強さが必要な場面では、別のしくみの乾燥剤を使います。水素化カルシウムやナトリウムは水と化学反応して水を水素と水酸化物に変えてしまうので、逆向きに水が戻ることがありません。活性化したモレキュラーシーブは、空洞の中の陽イオンが水分子を強く引きつけるため、塩の水和物より低い水準まで水を減らせます。Leonard らの実験書は、活性化したシーブを「おそらく最も強力な乾燥剤」と評価しています。ただし十酸化四リン(P4O10)も非常に強力で、使い分けは場面で決まります。気体やデシケーターでは十酸化四リン、溶媒の中では活性化したシーブと覚えておきましょう。十酸化四リンは多くの有機化合物と反応するので、溶媒に入れる用途には向かないからです。

同じ乾燥剤でも、溶媒によって効き方が変わる

もう1つ大事なのは、乾燥剤の強さに溶媒に依存しない絶対的な順位はないという点です。Burfield と Smithers は、トリチウムで標識した水を使って溶媒中の残存水分を測り、ある乾燥剤の効き目が溶媒の種類によって大きく変わることを示しました。DMF や DMSO のように水と強く引き合う溶媒では、水が溶媒側にとどまろうとするので、乾燥剤が水を奪い取りにくくなります。乾燥剤と溶媒が水を取り合っている、と考えるとイメージしやすいでしょう。

乾燥剤の種類と使い分け(一覧)

有機化学実験でよく使う乾燥剤を、水を取るしくみ・性質・向く用途・避ける相手で並べました。容量と速さの評価は、コロラド大学ボルダー校の実験手引きと Leonard らの実験書の記述にもとづく定性的なものです。

乾燥剤 水を取るしくみ 容量/速さ 主な用途 避ける相手・注意
無水硫酸ナトリウム(Na2SO4) 十水和物をつくる 大/遅い 抽出液。酸に非常に弱い化合物 約30 °C 以上では効かない。強さは弱いとされる
無水硫酸マグネシウム(MgSO4) 七水和物をつくる 大/速い 抽出液の第一選択 わずかに酸性。細かい粉なのでろ過が要る
塩化カルシウム(CaCl2) 水和物をつくる 大/中程度 炭化水素・エーテルの予備乾燥、乾燥管 酸・アルコール・アミン・一部のカルボニル化合物
硫酸カルシウム(CaSO4) 水和物をつくる 小/速い 抽出液、デシケーター 青色の指示薬入りは液体に入れない
炭酸カリウム(K2CO3) 水和物をつくる 中/中程度 アミンなど塩基性の化合物 塩基性なので酸性の化合物には使わない
モレキュラーシーブ 3A・4A 細孔に吸着する 質量の約2割/遅い(静置で半日〜数日) 溶媒の脱水・保存、反応系の水の除去 使う前に活性化が要る。アセトンには使わない
水素化カルシウム(CaH2) 水と反応する —/遅い アミン・ピリジン・炭化水素・エーテルの蒸留前 水素が発生する。残渣はゆっくり処理する
ナトリウム(Na、ベンゾフェノンと併用) 水と反応する —/— エーテル系溶媒・炭化水素 塩素系溶媒には絶対に入れない
五酸化二リン(十酸化四リン、P4O10) 水と反応する —/速い デシケーター、気体の乾燥 アルコール・アミン・酸・カルボニル化合物と反応

無水硫酸ナトリウム——穏やかで扱いやすいが、遅くて弱い

無水硫酸ナトリウムは中性で化学的にほとんど反応しないので、どんな化合物の抽出液にも入れやすい乾燥剤です。粒が粗く容器の底に沈むので、乾燥後は上澄みを傾けて移す(デカンテーション)だけで分けられます。弱点は遅いことと、強さが弱いことです。Leonard らの実験書は「弱い乾燥剤で、抽出液の乾燥にだけ向く」と位置づけています。

もう1つの弱点は温度です。硫酸ナトリウム十水和物は 32.38 °C で結晶水を放して融ける(転移する)ため、それより高い温度では十水和物の形で水を抱えていられません。そのため無水硫酸ナトリウムが乾燥剤として働くのは約30 °C 以下に限られます。温かいままの抽出液や、夏場の暑い部屋では効きが落ちると考えておきましょう。

無水硫酸マグネシウム——抽出液の第一選択

無水硫酸マグネシウムは容量が大きく、細かい粉で速く効くため、抽出液の乾燥に最もよく使われます。ただし Leonard らは「わずかに酸性なので、非常に敏感な化合物には注意」としています。酸で壊れやすい保護基をもつ化合物などで迷ったら、硫酸ナトリウムを選ぶのが安全です。

粉が細かいため、デカンテーションでは粒が一緒に流れてしまいます。乾燥後はひだ折りろ紙や綿栓を使ってろ過します。表面積が大きい分、目的物が粉の表面に残りやすいので、ろ過のあと乾燥剤を新しい溶媒ですすぎ、すすぎ液も合わせます。

塩化カルシウム——アルコールやアミンには使わない

塩化カルシウムは安価で容量が大きく、炭化水素やエーテルの予備乾燥、反応容器の口に付ける乾燥管の充填剤として使われます。注意が要るのは乾かす相手です。Ca2+ は水だけでなく、アルコールやアミンの酸素・窒素の孤立電子対にも配位して付加物をつくります。そのためアルコールやアミンの溶液に入れると、目的物そのものが乾燥剤に取り込まれてしまいます。Leonard らは、酸・アルコール・アミン・一部のカルボニル化合物と反応すると注意しています。

硫酸カルシウム・炭酸カリウム

硫酸カルシウム(商品名ドライエライト)は容量が小さい代わりに速く、デシケーターの乾燥剤としてもよく使われます。水を吸うと色が変わる指示薬入りの製品は便利ですが、色のついた化合物が溶け出すので液体の乾燥には使いません。炭酸カリウムは塩基性なので、アミンなど塩基性の化合物の乾燥に向き、カルボン酸やフェノールのような酸性の化合物には使えません。酸性の化合物は炭酸カリウムと反応して塩になってしまうからです。

反応性の乾燥剤——水素化カルシウム・ナトリウム・五酸化二リン

水素化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムと水素になります。水が化学的に消費されて戻らないので、溶媒をこの上で還流してから蒸留すると、乾いた溶媒が得られます。ただし溶液中の水が固体の表面に触れたところでしか反応しないので乾燥は遅く、Burfield らは、DMSO では水素化カルシウムによる乾燥が比較的遅く、効率もあまりよくないこと(アセトニトリルでも以前に同様の結果)を報告しています。

ナトリウムはベンゾフェノンと組み合わせて、THF やジエチルエーテルの乾燥に使われてきました。ナトリウムとベンゾフェノンからできるケチルラジカルは濃い青色で、水があると消費されて色が消えます。青色が続いていること自体が、水が残っていない目印になるわけです。五酸化二リン(分子式は P4O10 なので十酸化四リンとも呼ぶ)は非常に強力ですが、アルコール・アミン・酸・カルボニル化合物と反応するので液体に入れる用途は限られ、主にデシケーターや気体の乾燥に使います。

反応性の乾燥剤の注意
・ナトリウムはジクロロメタンやクロロホルムなどの塩素系溶媒に入れない(爆発的に反応することがある)
・ナトリウムの残渣はエタノール→メタノール→水の順に少しずつ反応させる。水素が出るので、まとめて水に入れない
・五酸化二リンは氷水に少しずつ加えて処理する。五酸化二リンに水を加えない(発熱で容器が割れることがある)
・処理の手順と危険性は、使う前に必ず各試薬の SDS と研究室の手順書で確かめる

これらの残渣の処理は、少しずつ反応させて発熱と水素の発生を抑えるのが原則です。SDS の読み方と予習での整理のしかたはSDS のまとめ方で解説しています。

硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムの違い

抽出液の乾燥で迷うのは、ほぼこの2つの選択です。違いを並べると次のようになります。

比べる点 無水硫酸ナトリウム 無水硫酸マグネシウム
できる水和物 十水和物(Na2SO4・10H2O) 七水和物(MgSO4・7H2O)
速さ 遅い(粒が粗い) 速い(細かい粉)
酸性・塩基性 中性で穏やか わずかに酸性
温度の制約 約30 °C 以上で効かない 室温付近では特に問題にならない
除き方 デカンテーションでよい ろ過が要る
向く場面 酸に非常に弱い化合物、急がないとき ふつうの抽出液、早く乾かしたいとき

違いの根っこは2つです。1つは粒の細かさで、これが速さと除き方の違いを生みます。細かい硫酸マグネシウムは速く効く代わりにろ紙が要り、粗い硫酸ナトリウムは遅い代わりに傾けて移すだけで済みます。もう1つは陽イオンの性質です。Mg2+ は Na+ より小さく電荷が大きいので、水や酸素原子を強く引きつけます。これが硫酸マグネシウムのわずかな酸性につながります。

どちらでも困らない化合物なら、早く終わる硫酸マグネシウムを選び、酸に敏感な化合物や、ろ過で目的物を失いたくない少量の試料なら硫酸ナトリウムを選ぶ、というのが実用的な判断です。研究室ごとに慣習があるので、迷ったら同じ化合物を扱った前例の手順に合わせましょう。

モレキュラーシーブとは——3A と 4A の違い

モレキュラーシーブ(molecular sieve、分子ふるい)は、アルミノケイ酸塩の結晶であるゼオライトを乾燥剤や吸着剤として使えるように粒やビーズにしたものです。結晶の中には一定の大きさの空洞が規則正しく並び、空洞どうしは決まった大きさの「窓」でつながっています。窓より小さい分子だけが中に入って吸着され、大きい分子は入れません。この「大きさでふるい分ける」性質が名前の由来です。

3A と 4A の違いは陽イオンの違い

3A・4A・5A の数字は、窓の大きさのおよその値をオングストローム(Å、1 Å=0.1 nm)で表したものです。Sigma-Aldrich の技術資料では、3A は約3 Å、4A は約4 Å、5A は約5 Å、骨格の異なる 13X は約10 Å とされています。

3A・4A・5A は同じ骨格(A 型ゼオライト)で、違うのは骨格の負電荷を打ち消している陽イオンです。4A は Na+ 型で、その Na+ の一部(約6割)を大きな K+ に交換したものが 3A です。陽イオンは窓の近くに座っているので、大きな K+ に替えると窓が狭くなります。反対に、2価の Ca2+ に交換すると、同じ電荷を打ち消すのに必要な陽イオンの数が半分で済み、窓をふさぐ陽イオンが減るので窓が広がります。これが 5A です。

水分子の大きさ(動的直径)は約2.65 Å なので、3A の窓も 4A の窓も通り抜けられます。違いが出るのは、水以外の分子です。4A は水に加えてエタノールなども吸着しますが、3A は約3 Å より大きい分子を吸着しません。

3A と 4A の使い分け

ここから使い分けの理由が見えてきます。4A はエタノールまで取り込むので、それより小さいメタノールも通してしまうと考えられます(メタノールについては類推です)。つまりメタノールやエタノールを 4A で乾かそうとすると、溶媒の分子そのものが窓を通って空洞に入り、水と場所を取り合います。そのため小さな極性分子の溶媒には、水だけを通して溶媒を締め出せる 3A を使います。

乾かしたい溶媒 使うシーブ 理由・注意
メタノール・エタノール・アセトニトリル 3A 小さい溶媒分子を締め出し、水だけを吸着させる
THF・ジエチルエーテル・トルエン・ジクロロメタンなど 3A または 4A 水と強く引き合わず乾かしやすい。Williams と Lawton は THF を 3A で評価している
アミン・DMF・DMSO 4A(DMF は 3A の逐次乾燥が最も効果的という測定もある) 水と強く引き合う溶媒なので、時間をかけ、新しいシーブで繰り返す
アセトン 使わない シーブ上で自己縮合が進み、水ができてしまう

表の DMF・DMSO の行について補足します。Leonard らの実験書は 4A を推奨し、Burfield と Smithers の測定では DMF に 3A を新しいものへ替えながら使う方法(逐次乾燥)が最も効果的でした。DMSO については、先に分留してからシーブで逐次乾燥する方法を勧めています。どちらにしても、水と強く引き合う溶媒では1回の処理で終わらせず、新しいシーブで繰り返すのが要点です。

シーブが向かない溶媒——アセトン

アセトンをモレキュラーシーブで乾かすと、はじめは水が減るものの、その後かえって水分が増えていきます。Burfield と Smithers は、乾かしたアセトンからメシチルオキシドを検出し、シーブの上でアセトンどうしの縮合(アルドール縮合)が進んで、脱水で水が生じていることを確かめました。乾燥剤が「水を取る」以上に「水を作る」反応を進めてしまう例で、乾燥剤は乾かす相手と反応しないことが前提だということがよく分かります。アルドール縮合で水が出るしくみはアルドール反応の記事で扱っています。

使う前の活性化(再生)と注意

市販のモレキュラーシーブは、保管中に空気中の水を吸っていることがあります。水で埋まった空洞はもう水を取り込めないので、乾燥に使う前に加熱して水を追い出す(活性化する)必要があります。Sigma-Aldrich の技術資料では、再生温度の目安は 3A で 175〜260 °C、4A・5A で 200〜315 °C です。少量なら乾燥器で加熱し、デシケーターのような閉じた容器の中でゆっくり冷ますよう勧めています。Leonard らは 250〜320 °C で3時間以上の活性化を挙げています。研究室では減圧下で加熱することもあります。

活性化したシーブは空気中ですぐに水を吸い直すので、冷めたら密閉容器に入れて保管します。活性化できているかは、数粒に水を1滴たらして温かくなるかで確かめられます。水が吸着されるときに熱が出るためです。同じ理由で、大量の活性化したシーブに水の多い溶媒を注ぐと発熱します。

シーブの再生の注意
・有機溶媒を吸ったシーブをそのまま加熱すると、可燃性の蒸気が出る。溶媒を十分に飛ばしてから加熱する
・色が変わったシーブは不純物を吸っているので、再生せずに処分する
・加熱直後のシーブと容器は非常に熱い。やけどに注意し、扱いは研究室の手順に従う

Leonard らの手順では、使用済みのシーブは揮発性の溶媒でよく洗い、乾かしてから 100 °C 程度で数時間乾燥し、そのうえで改めて高温で活性化します。いきなり高温にしないのは、残った有機物を穏やかに追い出すためです。

有機層の乾燥のやり方(手順)

分液で集めた有機層を乾かす手順を、理由とあわせて示します。分液そのものの手順は分液漏斗の使い方と分液のコツを参照してください。

  1. 飽和食塩水(ブライン)で洗う:有機層には水がわずかに溶け込んでいて、特に酢酸エチルやジエチルエーテルは水を多く含みます。濃い食塩水と接触させると、その水が食塩水の側へ移るので、乾燥剤が処理する水の量を先に減らせます
  2. 目に見える水を除く:三角フラスコに移した有機層に水滴や水の層が見えたら、ピペットで取り除きます。乾燥剤は溶けている微量の水を取るためのもので、水の層を吸わせると大量に必要になります
  3. 乾燥剤を少しずつ加えて振り混ぜる:量に決まりはなく、水の量しだいです。少量を入れて回し、様子を見ながら足していきます
  4. さらさらと動く粒が残るか確かめる:水和物になった乾燥剤は固まって底やガラスに張りつきます。フラスコを回したときに、最初の粒と同じ細かさの粒がさらさらと動くようになれば、まだ水を取り込める乾燥剤が残っている、つまり乾燥剤が足りているということです
  5. しばらく置く:コロラド大学の手引きは、多くの場合20分ほどで乾燥が頭打ちになるとしています。硫酸ナトリウムは遅いので長めに置きます
  6. 乾燥剤を除く:硫酸マグネシウムや細かい塩化カルシウムはろ過、硫酸ナトリウムや粒状の塩化カルシウムはデカンテーションで分けます
  7. 乾燥剤をすすぐ:乾燥剤の表面に目的物が残っているので、新しい溶媒で数回すすぎ、すすぎ液も合わせます
  8. 濃縮する:エバポレーターで溶媒を留去し、粗生成物を得ます

手順4の「さらさら」の判断が、この操作の中心です。乾燥剤が全部固まっているうちは、乾燥剤がすべて水和物になって水を取り込む余力が残っていない状態です。余力が残っていなければ、溶液中の水は減りきっていないかもしれません。さらさらの粒が残っていれば、溶液中の水は「その乾燥剤で下げられるところ」まで下がっていると判断できます。前の節で見たとおり、ここからさらに乾燥剤を足しても乾き具合は良くならないので、入れすぎは目的物の損失を増やすだけです。

よくある失敗
・水の層が残ったまま乾燥剤を大量に入れてしまう(先にピペットで除く)
・硫酸マグネシウムをデカンテーションして、粉が濃縮フラスコに入る
・乾燥剤をすすがずに捨てて、目的物を失う
・温かい抽出液に硫酸ナトリウムを入れて、乾かないまま濃縮する

なお、ジクロロメタンは水をあまり溶かさないので、酢酸エチルやジエチルエーテルに比べて乾燥剤の消費は少なくなります。溶媒ごとの水との混ざりやすさは有機溶媒の沸点・極性一覧表にまとめています。乾燥と濃縮のあと、精製(カラムや再結晶)へ進む流れは有機化学実験の基本操作まとめで全体像を確認できます。

濃縮に使うエバポレーターの仕組みと突沸の防ぎ方はロータリーエバポレーターとは|化学実験での原理・使い方・突沸対策・洗浄で、乾燥剤を除くろ過(ひだ折りろ紙・吸引ろ過)の使い分けはろ過の方法と使い分け|吸引ろ過のやり方・セライトろ過・ブフナー漏斗で説明しています。

溶媒を乾かす——無水溶媒のつくり方と考え方

反応に使う溶媒の乾燥では、目標が ppm(100万分の1)の水準になります。グリニャール試薬のように水と速やかに反応する試薬は、溶媒にわずかに残った水でも分解されてしまうからです。グリニャール試薬が水に弱い理由はグリニャール試薬(RMgX)完全解説で詳しく扱っています。

この水準の水分は目で見ても分からないので、カールフィッシャー滴定で測ります。Williams と Lawton(2010年)は、電量法のカールフィッシャー滴定で、いくつかの溶媒をさまざまな乾燥剤で処理したあとの残存水分を比べました。THF では、未処理の市販品が約108 ppm だったのに対し、昔から定番だったナトリウム/ベンゾフェノン法では約43 ppm、活性化した 3A シーブ(溶媒の体積に対して20%の質量)に3日置くと約4 ppm、中性アルミナのカラムに1回通すと約5 ppm まで下がりました。

この結果が示すのは、危険な金属ナトリウムを加熱しなくても、活性化したシーブに置いておくだけでより乾いた溶媒が得られるということです。シーブは遅い代わりに強いので、「時間をかけて静置する」使い方が合っています。活性アルミナなどのカラムに溶媒を通す方式は、市販の溶媒精製装置にも使われています。Pangborn・Grubbs らは1996年に、可燃性の溶媒を金属ナトリウムとともに加熱還流する蒸留器(スチル)の代わりに、カラムに通して溶媒を精製する方法を報告しています。

研究室で反応用の溶媒を用意する方法には、主に次の3つがあります。

  • 市販の脱水溶媒をそのまま使う:開封後は空気中の水を吸うので、活性化したシーブを入れて保存する
  • 溶媒精製装置から必要な分だけ取る:カラムに通した溶媒を、乾いた容器に不活性ガス下で受ける
  • 反応性の乾燥剤の上で蒸留する:アミンやピリジンを水素化カルシウムから蒸留する、など

蒸留する場合に覚えておきたいのは、乾燥剤が水を可逆に取るか、不可逆に取るかです。硫酸マグネシウムや塩化カルシウムの水和物、シーブへの吸着は可逆なので、加熱すると水を放してしまいます。そのためこれらは蒸留の前にろ過やデカンテーションで除きます。水素化カルシウムや五酸化二リンは水を化学的に消費しているので、乾燥剤を入れたまま蒸留できます。

溶媒を乾かしても、反応容器が濡れていれば意味がありません。ガラス器具を乾燥器で乾かし、乾燥管や不活性ガスで外気の湿気を遮る操作も、溶媒の乾燥とセットで考えます。また、シーブは溶媒の乾燥だけでなく、アセタールやイミンの生成のように水が出る平衡反応から水を除いて、平衡を生成物側へ傾ける目的でも反応容器に入れられます。平衡を動かす考え方はアセタール・ヘミアセタールとはで扱っています。

試験・実験レポートでの問われ方

乾燥剤は大学の学生実験の予習課題やレポートの考察、口頭試問で、「なぜその操作をするのか」の形で問われます。答えるときは、性質の名前ではなく理由まで言えるようにしておきましょう。

  • 「乾燥剤を入れる前に飽和食塩水で洗うのはなぜか」:有機層に溶けた水を食塩水側へ移し、乾燥剤で処理する水を減らすため
  • 「硫酸マグネシウムのあとにろ過するのはなぜか」:細かい粉でデカンテーションでは分けられず、残すと濃縮後の試料に混ざるため
  • 「アルコールの溶液を塩化カルシウムで乾かさないのはなぜか」:Ca2+ がアルコールの酸素に配位して付加物をつくり、目的物ごと取り込まれるため
  • 「メタノールの乾燥に 3A を使うのはなぜか」:4A はエタノールまで取り込むので、それより小さいメタノールも通してしまうと考えられる。3A は水だけを通すため

レポートでは、使った乾燥剤の名前と、どう判断して加える量を決めたか(さらさらの粒が残るまで加えた、など)を書くと、操作の理解が伝わります。書き方の型は実験レポートの書き方を参考にしてください。

まとめ

まとめ
・乾燥剤は容量・速さ・強さの3つで比べる。強さは量を足しても上がらない
・抽出液は硫酸マグネシウム(速い・ろ過)か硫酸ナトリウム(穏やか・遅い)で乾かす
・塩化カルシウムはアルコール・アミンに使わない。シーブはアセトンに使わない
・シーブは陽イオンで窓の大きさが変わる。メタノール・エタノール・アセトニトリルは 3A
・シーブは加熱して活性化してから使い、溶媒の中で時間をかけて静置する

乾燥剤の選び方は、「何を乾かすか(抽出液か、反応用の溶媒か)」と「乾かす相手が何と反応するか」の2点でほぼ決まります。迷ったときは、この記事の一覧表で避ける相手を確かめ、使う前に SDS で取り扱いを確認してください。

よくある質問

無水硫酸ナトリウムと無水硫酸マグネシウムはどちらを使えばよいですか?

ふつうの抽出液なら、速く効く無水硫酸マグネシウムで十分です。ただし細かい粉なのでろ過が必要で、わずかに酸性です。酸に非常に弱い化合物や、ろ過で失いたくない少量の試料なら、中性で傾けて移すだけで分けられる無水硫酸ナトリウムを選びます。硫酸ナトリウムは遅く、約30 °C 以上では効かない点に注意します。

乾燥剤はどのくらいの量を入れればよいですか?

決まった量はなく、溶液に含まれる水の量で変わります。少量ずつ加えて振り混ぜ、フラスコを回したときに最初の粒と同じ細かさの粒がさらさらと動くようになったら十分です。粒が全部固まっているうちは、乾燥剤が水を取り込む余力を使い切っているので足します。それ以上入れても乾き具合は良くならず、目的物が乾燥剤の表面に残る量が増えるだけです。

モレキュラーシーブの3Aと4Aの違いは何ですか?

どちらも同じ A 型ゼオライトで、窓の大きさを決める陽イオンが違います。4A は Na+ 型で窓は約4 Å、3A は大きな K+ に交換した型で窓は約3 Å です。水はどちらにも入りますが、4A はエタノールなどの小さな溶媒分子も吸着するので、メタノール・エタノール・アセトニトリルの乾燥には溶媒を締め出せる 3A を使います。

モレキュラーシーブはそのまま使えますか?再生できますか?

保管中に空気中の水を吸っていることがあるので、加熱して活性化してから使います。メーカー資料の目安は 3A で 175〜260 °C、4A で 200〜315 °C です。使用済みのシーブは揮発性の溶媒で洗って溶媒を十分に飛ばしてから加熱すれば再生できますが、色が変わったものは不純物を吸っているので処分します。加熱の手順は研究室の決まりと SDS に従います。

塩化カルシウムでアルコールやアミンを乾燥してはいけないのはなぜですか?

カルシウムイオンが水だけでなく、アルコールやアミンの酸素・窒素の孤立電子対にも配位して付加物をつくるためです。乾かしたい化合物そのものが乾燥剤に取り込まれてしまうので、アルコールやアミンの溶液には硫酸マグネシウム・硫酸ナトリウム、アミンなら炭酸カリウムやモレキュラーシーブを使います。

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