反応機構を書けない人の多くは、機構でつまずいているのではありません。その手前で、孤立電子対がどこにあるか分かっていないのです。巻矢印は孤立電子対か結合から出るので、電子の居場所が見えていなければ矢印の出発点が決められません。

ルイス構造は、その電子の居場所を紙の上に全部書き出す作業です。そして幸いなことに、手順さえ決めてしまえば考える余地はほとんどありません。価電子を数え、骨格を作り、余った電子を配り、足りなければ多重結合にする。それだけです。

この記事では、その手順を5ステップに固定します。オクテット則がなぜ成り立つのかという原理はオクテット則で扱っているので、ここでは手を動かす順番だけを扱います。

この記事で学ぶこと
・価電子の数え方(イオンの電荷をどう足し引きするか)
・中心原子の決め方と骨格の組み立て
・多重結合をどこに、いくつ入れるかの判断
・八電子則を超える場合・満たせない場合の扱い

5ステップの全体像

先に流れを示します。迷ったらここへ戻ってください。

ステップ やること
1 価電子の総数を数える(イオンなら電荷ぶんを調整)
2 中心原子を決め、単結合だけで骨格を組む
3 残りの電子を外側の原子から配ってオクテットにする
4 中心原子が不足していたら多重結合にする
5 形式電荷を確認し、電子の総数が合っているか検算する

二酸化炭素CO2を例に、ステップ1(価電子16個)→ステップ2(O-C-Oの単結合骨格)→ステップ3(外側の酸素をオクテットにする)→ステップ4(炭素が不足なので二重結合2本に)→ステップ5(形式電荷すべて0を確認)と、各段階で構造がどう変わるかを左から右へ並べたフロー図

ステップ1:価電子を数える

主族元素なら、価電子の数は族番号から一目で分かります。

原子 H B C N O F・Cl・Br・I
価電子 1 3 4 5 6 7
イオンの扱い(符号を逆にしがち)
・陰イオンは電子が余っているので、電荷のぶんだけ価電子を足す(NO3− なら +1個)
・陽イオンは電子が足りないので、電荷のぶんだけ引く(NH4+ なら −1個)
・「マイナスだから引く」と考えると必ず間違える。マイナス=電子が多い
CO2     : 4 + 6×2 = 16個
NO3−    : 5 + 6×3 + 1 = 24個   ← 陰イオンなので +1
NH4+    : 5 + 1×4 − 1 = 8個    ← 陽イオンなので −1

ステップ2:中心原子を決めて骨格を組む

骨格を作る段階では、すべて単結合で結びます。多重結合は後で必要になったときだけ入れます。

中心原子の決め方
・電気陰性度がいちばん小さい原子が中心(→ 電気陰性度)
・水素は絶対に中心にならない(結合を1本しか作れないため)
・炭素が含まれていれば、まず炭素が中心
・同じ原子が複数あるときは対称に並べるのが原則

CO2 なら、炭素のほうが酸素より電気陰性度が小さいので O–C–O。単結合2本で電子を4個使い、残りは16 − 4 = 12個です。

有機化合物では、そもそも骨格が問題文の構造式で与えられていることがほとんどです。その場合はステップ2を飛ばして構いません。線結合式で書かれていても、省略されている水素と孤立電子対を自分で補うのが実質的な作業になります。

ステップ3:外側の原子から電子を配る

残った電子を、外側(末端)の原子から孤立電子対として配置し、オクテットを満たしていきます。中心原子は最後です。

CO2 では、残り12個を2つの酸素に6個ずつ配ると、それぞれ孤立電子対3組+結合1本=8電子でオクテット達成。ここで電子は使い切りました。

水素とハロゲンの扱い
・水素は2電子で満席(デュエット則)。孤立電子対は付かない
・末端のハロゲンは、結合1本+孤立電子対3組で必ずオクテット
・この2つは自動的に決まるので、考えるのは中心原子だけでよい

ステップ4:中心原子が不足なら多重結合にする

ステップ3を終えた時点で中心原子のオクテットが満たされていなければ、外側の原子の孤立電子対を1組、結合に移動させます。これで多重結合が1本できます。

CO2 の炭素は、単結合2本=4電子しかありません。4電子足りないので、両側の酸素から1組ずつ電子対を持ってきて二重結合を2本作ります。

ステップ3の時点   O–C–O     炭素は4電子(不足)
                  ↓  酸素の孤立電子対を1組ずつ結合へ
完成              O=C=O     炭素も酸素もすべて8電子
ここでよくある間違い
・電子を新しく足してはいけない。総数はステップ1で決まっている
・多重結合を作るのは「移動」であって「追加」ではない
・不足が2電子なら二重結合1本、4電子なら二重結合2本か三重結合1本
・どの原子と多重結合を作るかは、形式電荷が小さくなる置き方を選ぶ

結合数の目安を覚えておくと速い

中性の有機化合物では、原子ごとに作る結合の数がほぼ決まっています。これを知っていれば、多くの場合ステップ3・4を暗算で飛ばせます。

原子 結合の数 孤立電子対
C 4 0
N 3 1組
O 2 2組
ハロゲン 1 3組
H 1 0

この本数から外れていたら、その原子には形式電荷がついています。結合が4本の窒素は +1、結合が1本の酸素は −1、といった具合です。この対応を覚えておくと、形式電荷を計算せずに読み取れるようになります。

ステップ5:検算する

最後に2つだけ確認します。ここを飛ばすから間違いに気づけません。

  • 電子の総数がステップ1で数えた数と一致しているか(結合1本=2個、孤立電子対1組=2個で数え直す)
  • 形式電荷の合計が、分子なら0、イオンならその電荷と一致しているか

実例で通して練習する

硝酸イオン NO3−

① 価電子   5 + 6×3 + 1 = 24個
② 骨格     N を中心に O を3つ単結合  → 6個使用、残り18個
③ 配る     3つの O に6個ずつ  → 18個使用、残り0個
④ 不足     N は3本=6電子で不足 → O の1組を移して N=O を1本つくる
⑤ 検算     電子24個 ✓ / 形式電荷 N:+1、単結合のO:−1×2、二重結合のO:0
           合計 = +1 − 2 = −1 ✓

ここで窒素は第2周期なので、絶対に8電子を超えられません。二重結合を2本にして形式電荷を消したくなりますが、それは誤りです。この制約は暗記ではなく、第2周期には d 軌道がないという理由に基づいています。

硫酸イオン SO42−——第3周期の扱い

硫黄は第3周期なので、八電子則を超える書き方が許容されます(拡張オクテット)。教科書では二重結合を2本入れて硫黄の形式電荷を0にする構造がよく使われます。

補足:拡張オクテットの現在の位置づけ
・高度な計算では、硫黄の d 軌道はほとんど寄与しないと考えられている
・そのため単結合のみで書き、電荷分離を認める構造のほうが実態に近いとする立場もある
・試験では教科書の流儀に合わせれば問題ない。どちらでも電子の総数は合う

八電子則が成り立たない場合

手順どおりに進めても収まらない分子があります。3パターンだけ知っていれば足ります。

型 例 どうするか
電子不足 BF3、AlCl3(6電子) そのまま。空軌道があるのでルイス酸になる(→ ルイス酸)
拡張オクテット PCl5、SF6、SO42− 第3周期以降のみ許される。第2周期では不可
奇数電子 NO、NO2、ラジカル 不対電子を点1つで書く(→ ラジカル)

詳しい理由はオクテット則で扱っています。

有機化学でルイス構造が効く場面

手順を覚える目的は、テストで構造を描くことではありません。孤立電子対の位置が見えるようになることです。

  • 巻矢印の出発点が決まる。 矢印は孤立電子対か結合から出ます(→ 巻矢印の書き方)
  • 求核剤かどうかが見える。 孤立電子対をもつ原子は求核剤の候補です
  • 分子の形が決まる。 孤立電子対の数からVSEPRで立体が予測できます(→ VSEPR)

省略記法に慣れると孤立電子対を書かなくなりますが、機構を考えるときだけは必ず書き込んでください。書いてある電子しか動かせません。

大学院入試での問われ方

  • 「次の分子・イオンのルイス構造を描け」……孤立電子対と形式電荷まで書く
  • 「窒素が5本の結合をもつ構造が誤りである理由を述べよ」……第2周期は8電子が上限
  • 「BF3 がオクテットを満たさない理由と、そこから予測される性質を述べよ」

まとめ

この記事のまとめ
・手順は5ステップ。価電子を数える → 骨格 → 外側から配る → 多重結合 → 検算
・陰イオンは価電子を足す、陽イオンは引く
・多重結合は電子の移動であって追加ではない
・第2周期の原子は8電子を超えられない(N が4本結合なら形式電荷 +1)
・目的は機構を書くこと。孤立電子対を書かなければ巻矢印は引けない

形式電荷の計算と、複数の候補から最も有利な構造を選ぶ基準は形式電荷の求め方で扱っています。

よくある質問

イオンのルイス構造で価電子はどう調整しますか?

陰イオンは電荷の絶対値だけ価電子を足し、陽イオンは引きます。マイナスの電荷は電子が余っていることを意味するためです。たとえば硝酸イオンでは窒素5個と酸素6個×3個の合計23個に1個を足して24個、アンモニウムイオンでは窒素5個と水素1個×4個の合計9個から1個を引いて8個になります。符号を逆にする誤りが最も多い箇所です。

中心原子はどうやって決めますか?

電気陰性度が最も小さい原子を中心にします。電気陰性度が小さい原子ほど電子を引きつける力が弱く、多くの原子と結合を分け合う位置に収まりやすいためです。水素は結合を1本しか作れないので決して中心になりません。炭素を含む化合物ではほとんどの場合炭素が中心になり、同じ原子が複数あるときは中心のまわりに対称に配置します。

多重結合はどのタイミングで入れますか?

外側の原子にすべて電子を配り終えた後、中心原子のオクテットが満たされていない場合にだけ入れます。このとき電子を新たに追加するのではなく、外側の原子がもつ孤立電子対を1組ずつ結合へ移動させます。不足が2電子なら二重結合1本、4電子なら二重結合2本または三重結合1本になります。電子の総数は最初に数えた値から変わりません。

窒素に二重結合を2本つけて形式電荷を消してはいけないのですか?

いけません。窒素は第2周期の元素で最外殻に収容できる電子は8個までであり、結合を4本分つくると10電子になってしまうためです。硝酸イオンでは窒素の形式電荷が+1のまま残るのが正しい構造です。一方、硫黄やリンのような第3周期以降の元素では8電子を超える書き方が許容され、この違いが両者の扱いを分けています。

有機化学で孤立電子対を省略してもよいですか?

構造を示すだけなら省略して構いませんが、反応機構を考えるときは必ず書き込んでください。巻矢印は孤立電子対か結合から出発する決まりになっており、紙の上に書かれていない電子は動かしようがないからです。孤立電子対の位置が見えていないことが、機構を書けない原因になっている場合は少なくありません。

カズ塾有機化学 第1巻「基礎編」第2章 ルイス構造と形式電荷
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