医薬品やペプチドの構造式を眺めると、アミド結合があちこちに出てきます。ところが、カルボン酸とアミンをフラスコに入れて室温でかき混ぜても、アミドはできません。白い塩ができて終わりです。そこで使うのが縮合剤です。論文の実験項には DCC、EDC、HATU、HOBt、DMAP とアルファベットの略号が並び、研究室に配属されたばかりの学生が最初に戸惑うところでもあります。

この記事の答え
縮合剤とは、カルボン酸の OH を外れやすい脱離基に付け替え、アミド・エステル形成を温和な条件で進める試薬です。代表例はカルボジイミド系の DCC・EDC と、ウロニウム/アミニウム系の HATU です。

略号は多くても、縮合剤がしていることは1つです。違いは「OH を何に付け替えるか」と「付け替えたあとに何が副生するか」の2点に集約できます。この2点を軸にすると、機構も、副反応も、後処理も、使い分けも、同じ筋道で説明できます。

この記事で学ぶこと
・カルボン酸とアミンを混ぜても塩になるだけでアミドができない理由
・DCC 縮合の反応機構(O-アシルイソ尿素)と、N-アシル尿素への転位という副反応
・DCC と EDC の違い——DCU はろ過、EDC の尿素は酸洗浄で除ける理由
・HOBt・HOAt・Oxyma がラセミ化を抑える仕組みと、DMAP が Steglich エステル化で果たす役割
・HATU・PyBOP・CDI・T3P・混合酸無水物を含めた縮合剤の一覧と使い分け
Contents
  1. 縮合剤とは——カルボン酸の OH を脱離基に付け替える試薬
  2. カルボン酸とアミンを混ぜてもアミドにならない理由
  3. DCC 縮合の反応機構——O-アシルイソ尿素を経てアミドになる
  4. DCC と EDC(EDCI・WSC)の違い——副生する尿素の除去法で選ぶ
  5. HOBt・HOAt・Oxyma の役割——活性エステルでラセミ化と N-アシル尿素を抑える
  6. DMAP の役割——Steglich エステル化の反応機構
  7. HATU・HBTU・COMU の反応機構——ウロニウム/アミニウム系
  8. PyBOP(ホスホニウム系)——BOP との違いとグアニジノ化しない理由
  9. そのほかの縮合剤——CDI・T3P・混合酸無水物・TCFH
  10. 縮合剤の一覧と使い分け
  11. 縮合剤を安全に扱うための注意
  12. 試験での問われ方
  13. まとめ
  14. よくある質問
  15. 関連記事

縮合剤とは——カルボン酸の OH を脱離基に付け替える試薬

縮合とは、2つの分子が水などの小さな分子を失いながら結合する反応のことです。カルボン酸とアミンからアミドができる反応は、形式的には水が1分子とれる縮合です。

縮合の全体式(構造式)。カルボン酸とアミンから水がとれてアミドができ、カルボン酸とアルコールから水がとれてエステルができる

縮合剤は、この「とれる水」を自分が引き受ける試薬です。カルボン酸の OH を一時的に自分の一部と結びつけて外れやすい形に変え、相手の求核剤(アミン・アルコール)がカルボニル炭素を攻撃したところで、その部分を自分ごと切り離します。反応が終わると、縮合剤は水を1分子受け取った形の化合物(カルボジイミドなら尿素)になって残ります。だから脱水縮合剤とも呼ばれます。

系統ごとに「OH を何に付け替えるか(活性種)」と「最後に何が残るか(副生物)」をまとめると、次のようになります。この記事の後半はすべて、この表の各行を「なぜそうなるか」まで掘り下げたものです。

系統(代表例) カルボン酸が変わる活性種 縮合剤の行き先(副生物)
カルボジイミド(DCC・DIC・EDC) O-アシルイソ尿素 尿素(DCU など)
カルボジイミド+添加剤(HOBt・HOAt・Oxyma) 活性エステル(OBt・OAt・Oxyma エステル) 尿素(添加剤は再生する)
ウロニウム/アミニウム系(HATU・HBTU・COMU) 活性エステル テトラメチル尿素などの尿素
ホスホニウム系(PyBOP) 活性エステル(OBt エステル) ホスフィンオキシド
CDI アシルイミダゾール CO2+イミダゾール
T3P・クロロギ酸エステル 混合酸無水物 ホスホン酸/CO2+アルコール

カルボン酸とアミンを混ぜてもアミドにならない理由

最初の疑問は「なぜ縮合剤が要るのか」です。アミンは求核剤、カルボン酸のカルボニル炭素は求電子剤なのだから、混ぜれば反応しそうに見えます。実際には、両者が出会った瞬間に起こるのは酸塩基反応です。

カルボン酸の pKa はおよそ4〜5、アルキルアンモニウムイオン(RNH3+)の pKa はおよそ10〜11です。プロトンは pKa の小さい酸から、共役酸の pKa が大きい塩基へほぼ完全に移るので、混ぜるとすぐにカルボン酸アンモニウム塩(RCOO− R’NH3+)になります(pKa での判断はpKa表の使い方)。

カルボン酸とアミンを混ぜるとプロトンが移ってカルボキシラートとアンモニウムができ、アミドにはならないことを示す反応式

この塩になると、反応する両者がそろって「やる気」を失います。

  • アミン側:窒素の孤立電子対がプロトンとの結合に使われ、アンモニウムイオンには求核攻撃に使える電子対が残っていない。
  • カルボン酸側:カルボキシラートイオンの負電荷は2つの酸素に共鳴で分散し、カルボニル炭素の正の性質が弱まっている。しかも負電荷をもつので、求核剤を静電的に遠ざける。

仮にプロトン移動が起こらなかったとしても、まだ問題が残ります。アミンが中性のカルボン酸に付加して四面体中間体ができても、そこから抜けなければならないのは OH− です。水の pKa は15.7で、その共役塩基の OH− は強い塩基=悪い脱離基です(脱離基の強さの順)。

カルボン酸アンモニウム塩を強く加熱すれば水が抜けてアミドになり、ナイロン66の工業製造はこの考え方を使っています。しかし、複数の官能基や立体中心をもつ分子は高温に耐えられません。そこで取る道は2つです。あらかじめ塩化チオニルで酸塩化物に変えておく(塩化チオニル(SOCl2)の解説)か、中性に近い温和な条件のまま、反応系の中でカルボン酸を活性化するかです。後者を担うのが縮合剤です。

縮合剤の本質は「OH− という悪い脱離基を、よい脱離基に取り替えること」です。求核アシル置換の反応性は脱離基の安定性で決まる——酸塩化物・酸無水物・エステル・アミドの反応性の順と同じ原理です(カルボン酸誘導体と求核アシル置換反応)。

DCC 縮合の反応機構——O-アシルイソ尿素を経てアミドになる

もっとも基本的な縮合剤が DCC(N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド、Cy-N=C=N-Cy)です。1955年に Sheehan と Hess がペプチド結合の形成法として報告しました。カルボジイミドの中央の炭素は、電気陰性な窒素2つと二重結合でつながっているため電子不足で、イソシアネート(-N=C=O)の中央炭素とよく似た求電子中心になっています(イソシアネートとは)。

段階1:カルボン酸が DCC に付加して O-アシルイソ尿素になる

まず、カルボン酸のプロトンがカルボジイミドの窒素に移ります。窒素がプロトン化されると、中央の炭素が正電荷を帯びた共鳴構造(Cy-NH-C+=N-Cy)をもち、求電子性がさらに上がります。そこへ、プロトンを失ったカルボキシラートの酸素が中央の炭素を攻撃します。こうしてできるのが O-アシルイソ尿素です。

DCC 縮合の段階1の反応機構(巻矢印つき)。DCC の窒素がカルボン酸の H+ を受け取り、カルボキシラートの酸素が中心の炭素を攻撃して O-アシルイソ尿素になる

O-アシルイソ尿素は、カルボン酸の OH が「イソ尿素」に付け替わった形です。この段階でカルボニル炭素は酸無水物に近い反応性をもつ、強いアシル化剤になっています。

段階2:アミンが攻撃し、DCU が抜けてアミドができる

アミンの窒素が O-アシルイソ尿素のカルボニル炭素を攻撃して四面体中間体ができ、C=O が再生するときにイソ尿素部分が脱離します。抜けた部分はプロトンを受け取ってジシクロヘキシル尿素(DCU、ジシクロヘキシルウレア)になります。

DCC 縮合の段階2の反応機構(巻矢印つき)。アミンが O-アシルイソ尿素のカルボニル炭素を攻撃して四面体中間体になり、C=O が再生してアミドとジシクロヘキシル尿素(DCU)に分かれる

イソ尿素部分がよい脱離基になる理由は2つあります。1つは、抜けるときに生じる負電荷が O-C-N にわたって共鳴で分散すること。もう1つは、抜けたあとにプロトンを受け取ると、共鳴で安定化された C=O をもつ尿素という非常に安定な化合物になることです。カルボジイミドの C=N 結合1本が尿素の C=O 結合に置き換わるこのエネルギー差が、反応全体を押し進める駆動力になっています。全体式を見ると、DCC は水1分子を受け取って DCU になったのと同じ収支です。

もう1つの経路:対称酸無水物を経る

O-アシルイソ尿素を攻撃できるのはアミンだけではありません。反応系に残っている2分子目のカルボン酸が攻撃すると、対称酸無水物((RCO)2O)と DCU ができます。酸無水物もアミンと反応してアミドを与える(もう半分はカルボン酸に戻る)ので、生成物は同じです。カルボン酸に対して DCC が少ない条件では、この酸無水物経由の経路も重なって進みます。

副反応:N-アシル尿素への転位(O→N アシル移動)

DCC 縮合で最も注意すべき副反応が、N-アシル尿素への転位です。O-アシルイソ尿素の中には、アシル基のすぐそばに求核性のある窒素(C=N-Cy の窒素)があります。この窒素が分子内でカルボニル炭素を攻撃すると、アシル基が酸素から窒素へ移り、RC(=O)-N(Cy)-C(=O)-NH-Cy という N-アシル尿素になります。

O-アシルイソ尿素が分子内攻撃で O から N へアシル基が移り、アミンと反応しない N-アシル尿素になる副反応(巻矢印つき)

N-アシル尿素はアミドの一種なので安定で、もうアシル化剤として働きません。カルボン酸を消費する行き止まりの副生物で、しかも目的物と極性が近く分離しにくいことがあります。

この転位は分子内反応なので、相手の濃度に関係なく一定の速さで起こります。だから、アミンがすばやく攻撃してくれる素直な組み合わせでは目立たず、相手の求核剤が遅いとき——かさ高いアミン、求核性の低いアニリン類、そしてアミンより求核性の低いアルコール——に問題になります。DCC 単独のエステル化がうまくいかず、DMAP を加える Steglich エステル化が必要になるのはこのためです(後述)。

よくある間違い
・N-アシル尿素を「アミドができる途中の中間体」と書く → 誤り。N-アシル尿素はアミドにならない行き止まりの副生物です
・O-アシルイソ尿素と N-アシル尿素を取り違える → アシル基が酸素についているのが活性な O-アシルイソ尿素、窒素に移って不活性になったのが N-アシル尿素です

DCC と EDC(EDCI・WSC)の違い——副生する尿素の除去法で選ぶ

カルボジイミド系の縮合剤は、機構はどれも同じです。違うのは窒素についた置換基で、それが副生する尿素の溶けやすさを変え、後処理の方法を決めます。実務で DCC・DIC・EDC を使い分ける理由は、ほぼこの1点です。

カルボジイミド 副生する尿素 尿素の溶けやすさ 除去法 向く場面
DCC(N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド) DCU(ジシクロヘキシル尿素) 水にも多くの有機溶媒にもほとんど溶けない 析出した固体をろ過 溶液中の縮合・Steglich エステル化
DIC(N,N′-ジイソプロピルカルボジイミド) ジイソプロピル尿素 ジクロロメタンなどの有機溶媒に溶けやすい 溶媒で洗い流す 固相ペプチド合成(樹脂上に固体が残らない)
EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド) ジメチルアミノ基をもつ尿素 水溶性(酸性水溶液によく溶ける) 希酸で洗って分液 後処理を分液で済ませたいとき・水中での縮合

副生する DCU(ジシクロヘキシル尿素)の除去

DCU が溶けにくいのは、尿素の構造そのものに理由があります。尿素は N-H 2つと C=O 1つをもち、分子どうしが強い水素結合でつながった結晶をつくります(ウレア(尿素)とは)。DCU はそこに大きな疎水性のシクロヘキシル基が2つついているため、水には溶けず、有機溶媒も結晶どうしの水素結合をほどききれません。

この性質のおかげで、DCC 縮合では反応が進むにつれて DCU が白い固体として析出し、反応液をろ過すれば大部分を除けます。ただし「ほとんど溶けない」は「まったく溶けない」ではありません。溶け残った微量の DCU はろ液に入り、濃縮すると目的物と一緒に出てきます。ろ液を濃縮してから DCU の溶けにくい溶媒に溶かし直し、冷やしてもう一度ろ過する、それでも残る分はカラムクロマトグラフィーで除く、という手順がとられます(カラムクロマトグラフィーのやり方)。微量の DCU が取り切れないことは DCC の実務上の弱点としてよく知られており、これが EDC を選ぶ大きな理由になっています。

DCC 縮合で析出した DCU のような固体をこし取る吸引ろ過・セライトろ過のやり方はろ過の方法と使い分け|吸引ろ過のやり方・セライトろ過・ブフナー漏斗で説明しています。

EDC の尿素は酸洗浄で水層に移る——その理由

EDC は EDCI、EDAC とも書かれ、国内の試薬カタログでは WSC(水溶性カルボジイミド)の名でも売られています。ふつうは塩酸塩(EDC・HCl、WSC・HCl)の固体として扱います。

EDC が「水溶性」と呼ばれる理由は、分子の端にあるジメチルアミノ基(第三級アミン)です。縮合後に副生する尿素にもこのアミノ基が残っています。反応後の有機層を希塩酸などの酸性水溶液で洗うと、第三級アミンがプロトン化されてアンモニウム塩になり、イオンになった尿素は水層へ移ります。未反応の EDC も同じ理由で水層へ抜けます。ろ過のいらない、分液だけの後処理で済むわけです(分液漏斗の使い方と分液のコツ)。

酸洗浄の落とし穴
・目的物そのものが塩基性のアミンだと、酸洗浄で目的物まで水層に移ってしまう
・Boc 基のような酸に弱い保護基は、強い酸で長く洗うと外れるおそれがある
・どちらの場合も、洗浄に使う酸の強さと接触時間を基質に合わせて選ぶ

EDC は水中でも使えるため、タンパク質や表面への分子の固定(バイオコンジュゲーション)にも使われます。ただし、水中では O-アシルイソ尿素が加水分解されてカルボン酸に戻りやすく不安定です。そこで N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を加えて、より安定な NHS エステルに変えてからアミンと反応させる方法が標準になっています。これは次に述べる「活性エステル」の考え方そのものです。

HOBt・HOAt・Oxyma の役割——活性エステルでラセミ化と N-アシル尿素を抑える

カルボジイミドは単独よりも、HOBt(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール)などの添加剤と組み合わせて使うことが多い試薬です。添加剤が抑えるのは、N-アシル尿素への転位と、もう1つの大きな問題であるラセミ化です。

アミノ酸を活性化するとラセミ化しやすい理由(オキサゾロン機構)

ペプチド合成では、α位に立体中心をもつアミノ酸のカルボキシ基を活性化します。このとき、アミノ基側がアシル基(アミド)で保護されていると、そのアミドのカルボニル酸素が、活性化されたカルボニル炭素を分子内で攻撃できます。こうして5員環の5(4H)-オキサゾロンができます。

オキサゾロンの環の4位の水素(もとのアミノ酸の α 水素)は、ふつうの α 水素よりずっと引き抜かれやすくなっています。引き抜いてできるアニオンでは、環の5原子に6個の π 電子が非局在化して芳香族性を帯びるためです(芳香族性とは)。平面のアニオンに上下どちらの面からプロトンが戻っても構わないので、α 炭素の立体配置が失われます。このほか、塩基が活性化されたアミノ酸の α 水素を直接引き抜く経路(エノール化)もあります。

オキサゾロン機構によるアミノ酸のラセミ化。N-アシルアミノ酸の活性種が 5(4H)-オキサゾロンになり、4位の脱プロトン化で平面のアニオンを経て立体配置が失われる

1つのアミノ酸の立体中心が反転すればラセミ化、ペプチド鎖の中の1残基だけが反転してジアステレオマーになるならエピマー化と呼び分けます。実務でとくに重要なのが次の経験則です。

  • Boc・Fmoc・Cbz のようなウレタン型(カルバマート型)保護基で守ったアミノ酸は、活性化してもラセミ化しにくい。だから N 末端を保護したアミノ酸を1残基ずつつなぐ逐次伸長は比較的安全(Boc保護基とは)。
  • ペプチド断片どうしをつなぐフラグメント縮合では、活性化される C 末端残基の窒素がふつうのアミドなので、オキサゾロン経由のエピマー化が起こりやすい。

HOBt が副反応を抑える仕組み——活性を一段下げる

HOBt の働きは、反応性の高すぎる O-アシルイソ尿素を、転位やオキサゾロン形成が起こる前にすばやく捕まえて、ほどよい反応性の活性エステル(OBt エステル)に変えることです。1970年に König と Geiger が DCC との組み合わせを報告しました。

HOBt の役割。O-アシルイソ尿素を捕まえて OBt エステル(活性エステル)に変え、アミンの攻撃でアミドと HOBt に戻る反応式

OBt エステルが都合のよい理由は3つです。

  • 転位が起こらない:OBt エステルはもうイソ尿素ではないので、O→N アシル移動で N-アシル尿素になる経路そのものが無い。
  • 反応性が一段低い:O-アシルイソ尿素より穏やかなアシル化剤なので、オキサゾロン形成が遅く、ラセミ化が抑えられる。
  • それでもアミンとは十分に反応する:HOBt の N-OH は比較的強い酸で、共役塩基の OBt− は負電荷が非局在化した安定なアニオン=よい脱離基である。

「活性が高すぎる中間体を、あえて少し穏やかな活性種に置き換えて選択性を上げる」——これは縮合剤の化学全体を通じて何度も出てくる考え方です。

HOAt が HOBt より速い理由——7位の窒素による隣接基効果

HOAt(1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール)は、HOBt のベンゼン環の7位の CH を窒素に置き換えた化合物で、1993年に Carpino が報告しました。OAt エステルでは、このピリジン型の窒素がちょうどカルボニル基の近くに来ます。攻撃してくるアミンの N-H がこの窒素と水素結合をつくり、アミンをカルボニル炭素へ導く隣接基効果がはたらくと説明されています。その結果、HOBt を使うよりも縮合が速く、ラセミ化も少なくなります。窒素の位置を変えた異性体と比べても、7位の窒素だけがこの効果を示します。

Oxyma——ベンゾトリアゾール骨格を使わない添加剤

Oxyma(オキシマ、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル)は、オキシムの N-OH をもつ添加剤です。シアノ基とエステル基という2つの電子求引基が N-OH の酸性を高めているため、HOBt と同じように「よい脱離基になる活性エステル」をつくれます。2009年の報告では、ラセミ化を抑える力は HOBt より高く、縮合効率は HOAt と同等以上とされました。開発の背景には、HOBt・HOAt のようなベンゾトリアゾール類が爆発性をもつという安全上の問題があります(後述)。

DMAP の役割——Steglich エステル化の反応機構

カルボジイミドでエステルをつくると、N-アシル尿素への転位がいっそう問題になります。アルコールはアミンより求核性が低く、O-アシルイソ尿素を攻撃するのが遅いので、その間に分子内転位が先に進んでしまうからです。この問題を解いたのが、1978年に Neises と Steglich が報告した DCC/DMAP 法(Steglich エステル化)です。

DMAP(4-ジメチルアミノピリジン)は、ピリジンの4位にジメチルアミノ基がついた化合物です。ジメチルアミノ基の孤立電子対が共鳴で環の窒素側へ電子を押し込むので、ピリジン窒素はふつうのピリジンよりはるかに求核性が高くなっています。DMAP は次のように求核触媒として働きます。

  • 段階1:DMAP の環の窒素が O-アシルイソ尿素のカルボニル炭素を攻撃し、DCU の陰イオンを追い出して(のちにアルコールの H+ を受け取って DCU になる)N-アシルピリジニウムイオン(アシルピリジニウム)になる。この攻撃は O→N 転位より速いので、N-アシル尿素ができる前にアシル基を横取りできる。
  • 段階2:アシルピリジニウムは正電荷をもつ強いアシル化剤で、しかも抜けるのは中性で安定な DMAP そのもの。求核性の低いアルコールでも攻撃できる。
  • 段階3:アルコールが攻撃してエステルができ、DMAP が放出されて次のサイクルに戻る。だから DMAP は触媒量でよい。
Steglich エステル化における DMAP の触媒サイクル。DMAP が O-アシルイソ尿素を攻撃して DCU の陰イオンが外れ、アシルピリジニウムとアルコールからエステルができて DMAP が再生する。DCU の陰イオンはアルコールの H+ を受け取って DCU になる

アシルピリジニウムを経由してアシル基を運ぶ DMAP の働きは、山口エステル化(山口エステル化の解説)や、Boc2O による Boc 化でも同じです。エステル化の方法全体の比較はエステル化反応と加水分解にまとめています。

DMAP はアミノ酸の縮合には向かない
・DMAP は塩基性も強く、アミノ酸の活性種に加えるとラセミ化を促しやすい
・アミド形成では、ふつうアミンが十分に速く攻撃するので DMAP は要らない
・立体中心をもつ酸のエステル化では、DMAP の量と反応時間を最小限にする

HATU・HBTU・COMU の反応機構——ウロニウム/アミニウム系

「カルボジイミド+HOBt(HOAt)」で活性エステルをつくるなら、はじめから活性エステルをつくる部品を1つの試薬にまとめてしまえばよい——この発想でできたのが、HBTU(HOBt 由来)と HATU(HOAt 由来)です。どちらも、テトラメチル尿素骨格の炭素にベンゾトリアゾールの酸素(または窒素)が結合した塩で、対アニオンはヘキサフルオロリン酸イオン(PF6−)です。

名前のもとになった構造は、酸素が炭素についたウロニウム塩でした。しかし X 線結晶構造解析(1994年、Abdelmoty・Albericio・Carpino ら)で、市販の HBTU・HATU は窒素が炭素についたグアニジニウム型(N-オキシド)であることが分かりました。2002年には Carpino らが本来のウロニウム型(O-体)を合成して単離し、こちらのほうが反応性が高いことを示しています。そのため「アミニウム塩」とも呼ばれ、ウロニウム/アミニウム系とまとめて書かれます。図は市販品の N 結合型で描いています。O 結合型でも、カルボキシラートが中央の炭素を攻撃して同じ OAt− が外れるので、以降の流れは同じです。

HATU の反応機構——塩基が必要な理由

  • 段階1:第三級アミン(DIPEA など)がカルボン酸からプロトンを引き抜き、カルボキシラートにする。HATU を攻撃する求核剤はカルボキシラートなので、塩基が欠かせない。
  • 段階2:カルボキシラートが HATU の中央の炭素(正電荷を帯びた炭素)を攻撃し、OAt− が外れる。
  • 段階3:外れた OAt− がアシル基を攻撃して OAt エステルができ、テトラメチル尿素(TMU)が副生する。
  • 段階4:アミンが OAt エステルを攻撃してアミドになる。7位の窒素の隣接基効果が、ここでも縮合を速める。
HATU の反応機構。HATU は市販品の N 結合型(PF6- 塩)で描く。塩基がカルボン酸から H+ を引き抜き、カルボキシラートが中央の炭素を攻撃して OAt- が外れ、OAt エステルとテトラメチル尿素を経て、アミンの攻撃でアミドと HOAt ができる

つまり HATU の強さは、「HOAt を添加剤に使ったときと同じ OAt エステルを、カルボジイミドを介さずに直接つくれる」ところにあります。反応が速いので、かさ高い基質や、ペプチド合成の難しい縮合でよく使われます。

注意すべき副反応:アミンのグアニジノ化

HATU・HBTU の中央の炭素は、カルボキシラートだけでなくアミンからも攻撃されます。アミンが直接 HATU と反応すると、アミンの窒素にテトラメチルグアニジン部分がついたグアニジノ化体ができ、そのアミンはもう縮合に使えません。ペプチド合成では、N 末端がふさがって鎖の伸長が止まります。

この副反応は、ウロニウム/アミニウム系を過剰に入れたときや、環化やフラグメント縮合のようにカルボン酸の活性化が遅いときに起こりやすくなります。HATU は過剰に使わない、そうした遅い縮合ではグアニジノ化を起こさないホスホニウム系(次節)を選ぶ、というのが実務上の対策です。

COMU——Oxyma を組み込んだウロニウム塩

COMU は、HOBt・HOAt の代わりに Oxyma を脱離基部分にもち、ジメチルアミノ基の片方をモルホリン環に替えたウロニウム塩です(2009年、El-Faham・Albericio ら)。原著では塩基1当量でもよく進むことが報告されており、副生物は水に溶けるので洗って除けます。メーカー資料では HATU に匹敵する縮合力とされています。ベンゾトリアゾール骨格をもたないため、爆発の危険性がベンゾトリアゾール系より低く、アレルギー反応も起こしにくいとされています。

PyBOP(ホスホニウム系)——BOP との違いとグアニジノ化しない理由

ホスホニウム系の縮合剤は、リンのカチオンにベンゾトリアゾールの酸素がついた塩です。カルボキシラートが正電荷をもつリンを攻撃してアシルオキシホスホニウムになり、外れた OBt− がアシル基を攻撃して OBt エステルができます。リンは非常に強い P=O 結合をつくってホスフィンオキシドとして抜けるので、これが駆動力になります。

先に使われていた BOP は、リンにジメチルアミノ基が3つついていたため、副生物として発がん性のある HMPA(ヘキサメチルリン酸トリアミド)が出ました。そこでジメチルアミノ基をピロリジン環に替え、副生物を HMPA でないトリ(ピロリジノ)ホスフィンオキシドにしたのが PyBOP です(1990年、Coste・Castro ら)。HOAt 型の PyAOP もあります。

ホスホニウム系の利点は、アミンのグアニジノ化を起こさないことです。グアニジノ化はウロニウム/アミニウム系の「アミジニウム型の炭素」があってこそ起こる反応で、ホスホニウム塩にはその炭素がありません。そのため過剰に使っても鎖の末端をふさがず、活性化の遅い環化やフラグメント縮合で選ばれます。

そのほかの縮合剤——CDI・T3P・混合酸無水物・TCFH

CDI(カルボニルジイミダゾール)

CDI(N,N′-カルボニルジイミダゾール)は、カルボニル基の両側にイミダゾールが1つずつついた化合物です。カルボン酸と反応すると、二酸化炭素とイミダゾールを放出してアシルイミダゾールになり、これがアミンと反応してアミドを与えます。副生物が気体の CO2 と水に溶けるイミダゾールだけなので、後処理が簡単です。気体の発生が反応を押し進める一方、密閉した容器で行うと圧力が上がるので、ガスの逃げ道を確保します。

CDI によるアミド形成。カルボン酸と CDI から二酸化炭素とイミダゾールが抜けてアシルイミダゾールになり、アミンと反応してアミドを与える

T3P(プロピルホスホン酸無水物)

T3P は、プロピルホスホン酸が3分子つながった環状の酸無水物です。カルボキシラートがリンを攻撃して、カルボン酸とホスホン酸の混合酸無水物ができ、これをアミンが攻撃します。副生するホスホン酸は水に溶けるので、水洗いで除けます。ピリジンと組み合わせるとエピマー化しやすい基質でもエピマー化の少ないアミド化ができることが報告されており、医薬品の大スケール合成でもよく採用されています。

混合酸無水物法(クロロギ酸イソブチル)

カルボン酸を N-メチルモルホリンなどの第三級アミンでカルボキシラートにし、低温でクロロギ酸イソブチル(ClCOO-iBu)と反応させると、カルボン酸と炭酸モノエステルの混合酸無水物(RCO-O-COO-iBu)ができます。

この無水物には2つのカルボニルがありますが、アミンはおもにカルボン酸側(RCO 側)を攻撃します。主因は電子的な差で、炭酸側のカルボニルは両側の酸素から孤立電子対の共鳴による電子供与を受けて求電子性が弱くなっています。かさ高いイソブトキシ基の立体障害もこれを補います。抜けたイソブチル炭酸は CO2 とイソブタノールに分解するので、副生物も扱いやすい。ただし、アミンが炭酸側を攻撃するとイソブチルカルバマート(ウレタン)という副生物になり、その割合は塩基と溶媒の組み合わせで変わることが知られています。求核剤が反応しやすい側のカルボニルを選ぶ点で、山口エステル化の位置選択性と共通しています。

TCFH–NMI

TCFH(クロロ-N,N,N′,N′-テトラメチルホルムアミジニウム ヘキサフルオロリン酸塩)を N-メチルイミダゾール(NMI)と組み合わせると、カルボン酸は N-アシルイミダゾリウムに変わります。かさ高いカルボン酸や求核性の低いアミンなど、ほかの縮合剤で進みにくい組み合わせに強い方法です。詳しくは縮合剤TCFHとNMI|アミド結合をつくる仕組みと他の縮合剤との使い分けで解説しています。

縮合剤の一覧と使い分け

ここまでの内容を一覧にします。ラセミ化の抑えやすさとコスト感は、同じ系統どうしを比べた相対的・定性的な目安です。実際には基質・溶媒・塩基・温度で大きく変わります。

縮合剤 副生物と除去法 ラセミ化の抑えやすさ コスト感 向く場面
DCC DCU(不溶)→ ろ過。微量が残りやすい 単独では低い(添加剤で改善) 安い 素直な基質の縮合・DMAP と組んでエステル化
DIC ジイソプロピル尿素(有機溶媒に可溶)→ 洗浄 単独では低い(Oxyma・HOBt と併用) 安い 固相ペプチド合成
EDC・HCl(WSC・HCl) 水溶性の尿素 → 希酸で洗って分液 単独では低い(添加剤で改善) 比較的安い 分液で後処理したい縮合・水中での縮合(NHS 併用)
カルボジイミド+HOBt/HOAt/Oxyma 尿素(カルボジイミドに依存)・添加剤 高い(HOAt・Oxyma は HOBt より高い) 安い〜中程度 立体中心をもつ酸・ペプチド合成の標準
HATU テトラメチル尿素・HOAt → 水洗・カラム 高い 高い 難しい縮合・かさ高い基質(過剰に使わない)
HBTU テトラメチル尿素・HOBt → 水洗・カラム 中〜高い HATU より安い 標準的なペプチド伸長
COMU 水溶性の尿素・Oxyma → 水洗 高い 高い ベンゾトリアゾール系を避けたい場面
PyBOP(PyAOP) トリ(ピロリジノ)ホスフィンオキシド・HOBt → 水洗・カラム 中〜高い 高い 環化・フラグメント縮合(グアニジノ化しない)
CDI CO2(気体)・イミダゾール(水溶性) 基質と条件しだい 安い 副生物を少なくしたい単純なアミド・エステル
T3P 水溶性のホスホン酸 → 水洗 高い(ピリジン併用) 中程度 大スケール・エピマー化しやすい基質
混合酸無水物法 CO2・イソブタノール・アミン塩酸塩 条件しだい(低温で行う) 安い 安価に大量に縮合したいとき
TCFH–NMI テトラメチル尿素など(水溶性)→ 水洗 高い 中程度 かさ高い酸・求核性の低いアミン

縮合剤の選び方——4つの問いで絞り込む

使い分けは、次の4つを順に問うと整理できます。

  • 何をつくるか:アミドならカルボジイミド+添加剤が出発点。エステルなら DCC(EDC)+DMAP の Steglich 法、大員環ラクトンなら山口法。
  • 立体中心が壊れやすいか:α 位に立体中心をもつ酸、とくにフラグメント縮合なら、HOAt・Oxyma を組み合わせるか、HATU・COMU・T3P/ピリジンを選ぶ。DMAP は避ける。
  • 反応しにくい組み合わせか:かさ高い酸、アニリン類のような求核性の低いアミンなら、HATU や TCFH–NMI。活性化の遅い環化では、グアニジノ化しない PyBOP・PyAOP。
  • 後処理をどうするか:ろ過で済ませたいなら DCC、分液で済ませたいなら EDC・T3P・CDI、固相合成なら DIC。
「いちばん強い縮合剤をいつも使う」のは良い選択ではありません。活性が高い試薬ほど高価で、過剰に使えば副反応(グアニジノ化など)も増えます。素直な基質なら安価なカルボジイミドで十分で、うまくいかなかったときに強い試薬へ段階的に切り替える、という順序が実務的です。

縮合剤を安全に扱うための注意

縮合剤は「タンパク質と共有結合をつくりうる試薬」でもあります。皮膚や粘膜のタンパク質と反応しうる性質が、感作性(アレルギー)につながると考えられています。安全データシート(SDS)で確かめられる範囲の要点をまとめます。

  • DCC:SDS で、皮膚感作性(アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ)、皮膚に接触すると有毒(経皮急性毒性)、眼に対する重篤な損傷に分類されている。発疹を起こしやすい試薬として知られ、手袋を着け、ドラフト内で量り取る。
  • HATU・HBTU・HCTU:これらに繰り返しさらされた研究者がアナフィラキシーを起こした事例が報告されている(2020年)。ウロニウム/アミニウム系も感作性をもつ前提で、粉末を吸い込まない・皮膚につけない取り扱いをする。
  • HOBt:無水物は爆発性をもつことが試験で確かめられている。市販品が水を含ませた水和物として売られているのは、この危険を下げるため。乾燥させたり加熱したりしない。同じベンゾトリアゾール骨格の HOAt なども同様に注意し、この問題を避ける目的で Oxyma・COMU が開発された。
  • テトラメチル尿素(HATU・HBTU・TCFH の副生物):動物実験で催奇形性が報告され、GHS では生殖毒性区分1B に分類されているので、水層の廃液も適切に処理する。
  • BOP:副生物の HMPA に発がん性があるため、PyBOP などで代替する。
  • CDI:反応で CO2 が出るので、密閉せずガスを逃がす。

試験での問われ方

大学の定期試験や大学院入試で縮合剤が出るときは、次のような形が典型です。

  • DCC によるアミド形成の機構を巻矢印で書け(O-アシルイソ尿素を経て、アミドと DCU ができる)
  • カルボン酸とアミンを混ぜただけではアミドができない理由を説明せよ(酸塩基反応で塩になる・OH− が悪い脱離基)
  • Steglich エステル化で DMAP を加える理由、または HOBt を加える理由を説明せよ
  • 保護したアミノ酸2つを DCC で縮合してジペプチドをつくる合成を設計せよ

最後の型は、ペプチド合成の保護基戦略とセットで出ます。アミノ酸の合成全体はアミノ酸・ペプチド・タンパク質の解説、保護基の選び方は保護基の選び方と直交性も参照してください。

例題:Ala と Leu からジペプチド Ala-Leu を DCC でつくるには、何をどの順で行えばよいか

解答の流れ:保護せずに Ala と Leu を DCC で処理すると、Ala-Ala・Leu-Leu・Leu-Ala・Ala-Leu が混ざり、さらに長い鎖もできてしまう。そこで ①Ala のアミノ基を Boc で保護する(Boc-Ala-OH)、②Leu のカルボキシ基をメチルエステルで保護する(H-Leu-OMe)、③両者を DCC で縮合して Boc-Ala-Leu-OMe にする、④TFA などの酸で Boc を外し、塩基で加水分解してメチルエステルを外す、の順で行う。Boc はウレタン型保護基なので、③で Ala を活性化してもオキサゾロン経由のラセミ化が起こりにくい。HOBt や Oxyma を加えると、N-アシル尿素とラセミ化をさらに抑えられる。

まとめ

縮合剤のまとめ
・カルボン酸とアミンは混ぜると塩になり、OH− も悪い脱離基なのでアミドにならない。縮合剤は OH をよい脱離基に付け替える試薬
・DCC は O-アシルイソ尿素を経てアミドと DCU を与える。求核剤が遅いと N-アシル尿素へ転位する
・DCU は不溶でろ過、EDC の尿素はジメチルアミノ基のおかげで酸洗浄により水層へ、DIC の尿素は有機溶媒に溶けるので固相合成向き
・HOBt・HOAt・Oxyma は活性エステルをつくって転位とラセミ化を抑え、DMAP はアシルピリジニウムを経てエステル化を加速する
・HATU は OAt エステルを直接つくる強力な試薬だが過剰でグアニジノ化、PyBOP はグアニジノ化しない

よくある質問

DCCとEDCの違いは何ですか?

反応機構はどちらも同じカルボジイミドの機構(O-アシルイソ尿素を経由)で、違うのは副生する尿素の溶けやすさです。DCC から出るジシクロヘキシル尿素(DCU)は水にも多くの有機溶媒にもほとんど溶けないので、ろ過で除きます。EDC から出る尿素はジメチルアミノ基をもつため、希酸で洗うとプロトン化されて水層に移り、分液で除けます。微量の DCU が生成物に残るのを避けたいときや、水中で縮合したいときは EDC を選びます。

DCCやEDCで縮合するときにHOBtを加えるのはなぜですか?

反応性の高すぎる O-アシルイソ尿素を、副反応が起こる前に HOBt が捕まえて、ほどよい反応性の OBt エステル(活性エステル)に変えるためです。OBt エステルはイソ尿素ではないので N-アシル尿素への転位が起こらず、反応性が一段低いのでアミノ酸のラセミ化(オキサゾロン形成)も抑えられます。それでも OBt アニオンはよい脱離基なので、アミンとは十分に反応します。

Steglichエステル化でDMAPが必要なのはなぜですか?

アルコールはアミンより求核性が低く、O-アシルイソ尿素を攻撃する前に分子内転位で N-アシル尿素ができてしまうからです。求核性の高い DMAP が先に O-アシルイソ尿素を攻撃してアシルピリジニウムイオンをつくり、この強いアシル化剤にアルコールが攻撃してエステルができます。DMAP は放出されて再び使われるので、触媒量で足ります。

HATUとHBTUの違いは何ですか?

HATU は HOAt 由来、HBTU は HOBt 由来の縮合剤で、カルボン酸をそれぞれ OAt エステル、OBt エステルに変えます。OAt エステルでは7位のピリジン型窒素がアミンを導く隣接基効果がはたらくため、HATU のほうが縮合が速く、ラセミ化も少なくなります。そのぶん HATU は高価です。どちらも過剰に使うとアミンがグアニジノ化される副反応に注意が必要です。

縮合剤を使わずにカルボン酸からアミドをつくる方法はありますか?

あります。カルボン酸を塩化チオニルなどで酸塩化物に変えてからアミンと反応させる方法が代表的です。ただし酸塩化物をつくる条件は酸性で、塩化水素も出るので、酸に弱い官能基や立体中心をもつ基質には向きません。カルボン酸アンモニウム塩を強く加熱して脱水する方法もありますが、高温に耐える単純な分子に限られます。温和な条件で縮合したいときに縮合剤を使います。

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