再結晶は、固体の有機化合物を精製するための基本操作です。学生実験ではアセトアニリドや安息香酸を水から再結晶する課題がよく出され、研究室に入ると、合成した固体を分析用にきれいにするたびに使います。

操作そのものは「熱い溶媒に溶かして、冷やして、ろ過する」だけです。それでも初めのうちは、「冷やしても結晶が出てこない」「結晶ではなく油が出てきた」「きれいな結晶になったのに、量がほとんど残らなかった」とつまずきます。こうした失敗は、再結晶を溶解度は温度で変わることと、結晶はゆっくり育つほど同じ分子だけで組み上がることの2つから見ると、原因と対処を自分で判断できるようになります。

この記事の答え
再結晶とは、固体を熱い溶媒に溶かして冷やし、溶解度の差で目的物だけを結晶として析出させる精製法です。少量の不純物は、冷えた溶媒にも溶けきる量なので母液に残ります。
この記事で学ぶこと
・再結晶で不純物が除ける2つの理由(溶解度と結晶格子)
・溶媒の選び方と、代表的な溶媒・混合溶媒の使い分け
・溶解→活性炭→熱時ろ過→徐冷→吸引ろ過→洗浄→乾燥の各段で、なぜそうするか
・結晶が出ない・油状化・細かい結晶・回収率が低いときの対処
・融点とTLCで純度を確かめる方法

再結晶の原理:なぜ溶かして冷やすと純粋になるのか

理由1:溶解度は温度で大きく変わる

多くの固体は、温かい溶媒には多く溶け、冷たい溶媒には少ししか溶けません。粗生成物を沸点近くの溶媒に、溶けきる最小限の量で溶かすと、その溶液は高温でほぼ飽和しています。これを冷やすと、目的物は冷たい溶媒に溶けていられる量を超えた分だけ、固体として出てきます。

一方、不純物は粗生成物の中に少量しか含まれていません。冷えた溶媒にも、その少量なら溶けきってしまうので、飽和に達せず溶液(母液)に残ります。再結晶で精製できるのは、目的物と不純物の「量の差」と「溶けやすさの差」を利用しているからです。

この原理から、2つのことが分かります。

  • 回収率は100%にならない:目的物も冷たい溶媒に少しは溶けるので、その分は母液に残る。溶媒を多く使うほど、母液に残る量も増える
  • 不純物が多いと効きにくい:不純物の量が多いと、冷やしたときに不純物も飽和を超えて一緒に出てくる。粗生成物の中で目的物が主成分であることが、再結晶の前提になる

理由2:結晶は同じ分子を規則正しく並べて育つ

結晶は、分子が決まった向きと間隔で規則的に並んだ固体です。結晶が育つとき、溶液中の分子は結晶の表面にくっついたり離れたりをくり返し、ぴったりはまる位置に入った分子だけが残ります。形や大きさの違う不純物の分子は、はまる位置が無いので、くっついても離れやすく、結晶に取り込まれにくくなります。

ただし、これは結晶がゆっくり育つ場合の話です。急に析出させると、分子が正しい位置を選ぶ前に次々と積み重なり、不純物や母液を結晶のすき間に閉じ込めたまま固まってしまいます。手順の中で「ゆっくり冷やす」が繰り返し出てくるのは、この理由によります。

分子間力とのつながり:溶けるかどうか、結晶になりやすいかどうかは、分子どうしの引き合い(水素結合やファンデルワールス力)で決まります。詳しくは分子間力とは?を参照してください。

再結晶で除ける不純物、除けない不純物

不純物の種類 除かれる段階 しくみ
冷えた溶媒にも溶ける少量の不純物 冷却・ろ過(母液に残る) 飽和に達しないので析出しない
熱い溶媒にも溶けない固体(無機塩・ほこり・副生成物) 熱時ろ過 目的物が溶けているうちに固体だけをこし取る
着色した不純物 活性炭処理 活性炭の表面に吸着させて、熱時ろ過で一緒に除く
目的物と溶けやすさがよく似た不純物・多量の不純物 除きにくい 冷却で目的物と一緒に析出する。カラムクロマトグラフィーなど別の方法を考える

なお、ジアステレオマーの塩どうしの溶解度の差を利用して分ける分別再結晶も、同じ原理の応用です(ラセミ体と光学分割)。

溶媒の選び方

よい再結晶溶媒の条件

再結晶がうまくいくかどうかは、溶媒選びで大きく左右されます。次の条件を満たす溶媒を探します。

  • 目的物を、熱いときによく溶かし、冷たいときにはあまり溶かさない:この温度差が大きいほど、冷やしたときに多く析出し、回収率が上がる
  • 不純物は、冷たいときにもよく溶ける(母液に残る)か、熱いときにも溶けない(熱時ろ過で除ける)
  • 目的物と反応しない:たとえば酸塩化物や酸無水物をアルコールや水から再結晶すると、加溶媒分解してエステルやカルボン酸に変わってしまう
  • 沸点が目的物の融点より低い(目安):溶媒の沸点が融点より高いと、加熱中に目的物が融けて油になり、後で述べる油状化を起こしやすい。ただし沸点が融点より低くても油状化は起こりうるし、沸点の高い溶媒でも融点より低い温度で溶かしきれれば使える。あくまで油状化を避けるための目安
  • 沸点が低すぎず、高すぎない:低すぎると(ジエチルエーテルなど)温度差を大きく取れず、加熱中にすぐ蒸発する。高すぎると結晶から除きにくく、乾燥に時間がかかる

溶媒の極性は、「似たものは似たものを溶かす」を出発点に考えます。ただし、目的物と極性がよく似すぎた溶媒は、冷えていてもよく溶かしてしまうので再結晶には向きません。「熱いと溶けるが、冷えると溶けにくい」程度に極性がずれた溶媒が狙い目です。

代表的な再結晶溶媒

溶媒 沸点(約) 極性 特徴・注意
水 100 °C 高い 燃えないので扱いやすい。アセトアニリドや安息香酸のように、熱水には溶け冷水に溶けにくい化合物に使う。結晶から乾きにくい
メタノール 65 °C 高い 極性のある化合物をよく溶かす。水との混合溶媒としても使う
エタノール 78 °C 高い 汎用。水との混合溶媒としてもよく使う
アセトン 56 °C 中程度 多くの有機物を冷えていても溶かしてしまうので、単独より混合溶媒の良溶媒として使うことが多い
酢酸エチル 77 °C 中程度 汎用。ヘキサンとの混合溶媒としてよく使う
ジクロロメタン 40 °C 中程度 よく溶かすが沸点が低く、温度差を取りにくい。混合溶媒の良溶媒として使う
トルエン 111 °C 低い 芳香族化合物に向く。沸点が高く、結晶から除きにくい
ヘキサン 69 °C 低い 極性の低い化合物に。多くの化合物では混合溶媒の貧溶媒として使う

水以外の溶媒はいずれも有害性があり(蒸気を吸わないようドラフト内で扱う)、ジクロロメタン以外は燃えやすい溶媒です。使う溶媒の危険性と取り扱いは、事前にSDS(安全データシート)で確認しておきましょう。予習レポートへのまとめ方はSDSのまとめ方で解説しています。

試験管で溶媒を探す方法

文献や指導書に溶媒が書かれていない場合は、少量の試料で試します。

  • 試験管に粗生成物を少量取り、溶媒を数滴ずつ加えて室温で振る。すぐ溶けるなら、その溶媒は溶かしすぎるので単独では使えない(混合溶媒の良溶媒の候補)
  • 室温で溶けなければ、湯浴で加熱しながら溶媒を少しずつ足す。熱いと溶けるなら候補
  • 溶けた液を室温まで冷まし、さらに氷水で冷やす。結晶がたくさん出れば合格
  • 加熱しても溶けない溶媒は単独では使えない(混合溶媒の貧溶媒の候補)

混合溶媒の使い方

ちょうどよい単独の溶媒が見つからないときは、目的物をよく溶かす良溶媒と、ほとんど溶かさない貧溶媒を組み合わせます。2つの溶媒は互いに混ざり合うものでなければなりません。混ざらない組み合わせ(酢酸エチルと水、ヘキサンと水)では、2層に分かれてしまいます。

良溶媒 貧溶媒 向く化合物の例
エタノール(またはメタノール) 水 極性のある化合物(水だけでは溶けにくく、アルコールでは溶けすぎるもの)
アセトン 水 同上
酢酸エチル ヘキサン 中程度の極性の化合物
ジクロロメタン ヘキサン 中程度〜低い極性の化合物
トルエン ヘキサン 極性の低い芳香族化合物

手順は次のとおりです。

  • 良溶媒に、加熱しながら溶けきる最小量で溶かす
  • 熱いまま貧溶媒を少しずつ加え、白い濁りがわずかに残って消えなくなったところで止める(これ以上溶けていられない境目に達した印)
  • 良溶媒を数滴加えて、濁りをちょうど消す
  • 単独溶媒のときと同じように、ゆっくり冷やす

貧溶媒を一度に入れると、その場で溶解度が急に下がって粉状に析出したり、油状化したりします。少しずつ加えるのはこのためです。

組み合わせによっては沸点の関係にも注意します。貧溶媒の沸点が良溶媒より低い組み合わせ(トルエンとヘキサンなど)では、沸騰しているトルエン溶液にヘキサンを入れると、ヘキサンがその場で激しく沸騰して危険です。溶液を貧溶媒の沸点より下まで少し冷ましてから加えます。逆に良溶媒のほうが沸点の低い組み合わせ(ジクロロメタンとヘキサンなど)では、加熱を続けると良溶媒が先に蒸発して組成が変わり、溶けていたものが析出してきます。

再結晶の手順と、各段の理由

再結晶は、次の順に進めます。活性炭処理と熱時ろ過は、着色した不純物や溶けない固体があるときだけ行います。

再結晶の手順フロー図。溶解、活性炭処理、熱時ろ過、徐冷、吸引ろ過、洗浄、乾燥の7段と、各段をそうする理由、事故につながりやすい3つの注意点

  1. 溶解:最小量の熱い溶媒に溶かす
  2. 活性炭処理(色がついている場合)
  3. 熱時ろ過(溶けない固体・活性炭がある場合)
  4. 徐冷:室温までゆっくり冷まし、その後氷浴で冷やす
  5. 吸引ろ過:結晶を集める
  6. 洗浄:少量の冷たい溶媒で結晶の表面を洗う
  7. 乾燥:溶媒を除き、質量を量る
始める前に:粗生成物をほんのひとかけら、別に取っておきましょう。結晶が出ないときの種結晶として使えます。

1. 溶解:最小量の熱い溶媒に溶かす

粗生成物を三角フラスコに入れ、加熱する前に沸騰石を入れて(またはかくはん子で混ぜながら)溶媒を少量加え、加熱します。沸騰し始めたら溶媒を少しずつ足し、沸点付近でちょうど溶けきる量にします。

  • なぜ最小量か:冷えたあと母液に溶けて残る目的物の量は、溶媒の量が多いほど増える。溶媒が多すぎると、冷やしても飽和に達せず、結晶がまったく出ないこともある
  • なぜ三角フラスコか:口がすぼまっているので溶媒の蒸発が少なく、ビーカーのように壁の上のほうで液が乾いて結晶がこびりつくことも少ない
  • なぜ沸騰石か:沸騰石の細かい穴から出る気泡が沸騰のきっかけになり、液が沸点を超えて一気に沸き立つ突沸を防ぐ

いくら溶媒を足しても溶け残る固体があるときは、それは目的物ではなく溶けない不純物かもしれません。溶媒を足し続けると溶媒過多になるので、ある程度足しても変化が無ければ、熱時ろ過で除きます。

ただし、フラスコの底にたまっているのが固体ではなく油滴なら、それは不純物ではなく、溶媒を含んで融けた目的物であることが多く、水からアセトアニリドを再結晶するときなどに見られます。捨てずに、熱い溶媒を少しずつ足して溶かしきります。

熱時ろ過をしない場合は、冷やし始める前に沸騰石を取り除いておきます。そのまま冷やすと、沸騰石のまわりに結晶が育って結晶に混ざってしまうからです。

加熱は、有機溶媒なら直火(ガスバーナー)を使わず、湯浴・水浴やホットプレートで行います。有機溶媒の蒸気は空気より重く、低い所を伝って火元に届くことがあるからです。ジエチルエーテルのように引火しやすい低沸点溶媒は、熱板に直接触れさせず湯浴で温めます。加熱はドラフト内で行い、有機溶媒を長く加熱するときは還流冷却器を付けて蒸気を逃がさないようにします。

2. 活性炭処理:着色した不純物を吸着させる

溶液に色がついていて、目的物が本来無色(または淡色)のはずなら、活性炭で色のもとを除きます。色のもとになる不純物の多くは、共役系の広がった大きな分子で、活性炭の広い表面に吸着されやすいからです。

活性炭は、目的物が溶けきったのを確かめたあと、必ず加熱を止め、沸騰が収まって少し冷めてから加えます。溶け残りがあるうちに入れると、黒く濁って溶けきったかどうかが見えなくなり、溶け残った目的物を活性炭ごとろ過で捨ててしまいます。活性炭は細かい穴だらけで表面積がとても大きく、そのすべてが気泡のきっかけになります。沸点付近の液に入れると、一斉に泡立って突沸・吹きこぼれを起こします。加えたら再び穏やかに加熱し、熱時ろ過で活性炭ごと除きます。

活性炭は入れすぎないことも大切です。目的物も表面に吸着されるので、多く入れるほど回収率が下がります。

3. 熱時ろ過:冷える前に溶けない固体をこし取る

溶けない不純物や活性炭は、溶液が熱いうちにろ過して除きます。冷えてしまうと、目的物がろ紙の上やろうとの脚の中で結晶になり、目的物まで捨てることになるからです。

  • ひだ折りろ紙を使う:ろ過できる面積が広がり、速く落ちる(その分、冷める時間が短い)
  • 脚の短いろうと(または脚の無いろうと)を使う:細い脚の中は冷えやすく、結晶が詰まりやすい
  • ろうとと受け器をあらかじめ温めておく:受け器に少量の溶媒を入れて加熱し、その蒸気でろうとを温める方法もある
  • 熱時ろ過は吸引ろ過でなく自然ろ過で行うのが基本:減圧すると溶媒の沸点が下がって激しく蒸発し、液が冷えて結晶が出やすくなる

熱い溶液を開いたろうとに注ぐので、溶媒の蒸気が多く出ます。有機溶媒の熱時ろ過はドラフト内で行い、近くに火気が無いことを確かめます。ろ紙の上で結晶が出てしまったら、少量の熱い溶媒を注いで溶かし込みます。ろ過のあいだに溶媒が蒸発して溶液の上のほうに結晶が出てきたら、もう一度温めて溶かしてから冷却に進みます。

4. 徐冷:室温までゆっくり、それから氷浴

ろ液(または溶液)の入ったフラスコに時計皿などでふたをして、動かさずに室温まで放冷します。室温で結晶が出そろったら、氷浴に移してさらに冷やします。

ゆっくり冷やす理由は、結晶が新しくできる(核生成)ことと育つ(成長)ことの釣り合いにあります。

  • ゆっくり冷やすと、溶けきれない分が少しずつしか生まれないので、できる結晶の芽は少数で、それが時間をかけて大きく育つ。分子が正しい位置を選びながら積み重なるので、不純物が入りにくい
  • 急に冷やすと、溶けきれない分が一度に大量に生まれ、芽が一斉にできて細かい結晶が急に析出する。結晶のすき間に母液や不純物を閉じ込めやすく、表面積が大きいぶん表面に付く母液も多くなる

最後に氷浴に移すのは、溶解度をさらに下げて、母液に残る目的物を減らすためです。最初から氷浴に入れないのは、上の「急冷」になってしまうからです。

5. 吸引ろ過:結晶を母液から分ける

結晶は、ブフナーろうと(または桐山ろうと)と吸引瓶で吸引ろ過して集めます。ろ紙は少量の冷たい溶媒で湿らせて、吸引しながらろうとに密着させてから結晶を流し込みます。ろ紙が浮いていると、すき間から結晶が吸引瓶に落ちてしまうからです。

フラスコの壁に残った結晶は、新しい溶媒ではなく、ろ液(母液)で洗い込みます。母液はすでに冷たい状態で飽和しているので、それ以上目的物を溶かさないからです。新しい溶媒で洗い込むと、そのぶん結晶が溶けて失われます。

6. 洗浄:表面の母液を冷たい溶媒で洗い流す

ろ過したての結晶の表面には母液が付いています。母液には不純物が濃縮されているので、そのまま乾かすと、不純物が結晶の表面に残ります。

洗浄は、吸引をいったん切る(安全瓶のコックを開けるなどして常圧に戻す)、少量の冷たい溶媒を結晶全体にかけてなじませる、再び吸引して溶媒を引き抜く、の順で行います。吸引したまま溶媒を注ぐと、溶媒が結晶の間を素通りして、表面の母液を洗い切れません。冷たい溶媒を少量だけ使うのは、洗浄で目的物を溶かして失わないためです。

7. 乾燥:溶媒を除いてから量る

結晶をしばらく吸引して溶媒を切ったあと、ろ紙ごと時計皿に移して風乾するか、デシケーターや減圧で乾燥させます。溶媒が残っていると、

  • 質量が実際より多く出て、回収率が見かけ上高くなる
  • 残った溶媒が不純物としてはたらき、融点が下がる

ので、乾燥は手を抜けません。時間をおいて2回量り、質量が変わらなくなったら(恒量)乾燥できたと判断します。乾燥機で温める場合は、融点の低い化合物や昇華しやすい化合物が融けたり失われたりしないよう、温度に気をつけます。

再結晶の安全上の注意

  • 保護メガネと白衣を着ける。沸騰石は加熱前に入れる(沸騰しかけた液に後から入れると突沸する)
  • 一度冷えた液を温め直すときは新しい沸騰石を使う(冷えると穴に液が入り込み、気泡のきっかけにならなくなる)
  • 活性炭は加熱を止めて少し冷ましてから加える(突沸・吹きこぼれ)
  • 可燃性の溶媒は直火で加熱しない。湯浴・ホットプレートを使い、ドラフト内で作業する
  • 栓をした容器を加熱しない(内圧が上がる)。熱いフラスコはトングや耐熱手袋で持つ
  • 吸引瓶にひびが無いか確かめる(減圧で割れることがある)。吸引を止めるときは、先に系を大気に開放してからアスピレーターやポンプを止める(逆の順だと、アスピレーターの水が吸引瓶へ逆流することがある)
  • 溶媒を含んだ使用済みの活性炭やろ紙は、乾いたまま放置せず指定の廃棄容器へ入れる
  • 母液・洗液は指示に従って分別して捨てる(ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒は別の廃液にすることが多い)
とくに事故につながりやすい3点
・沸騰しかけた液に沸騰石や活性炭を入れない(突沸)
・可燃性の溶媒を直火で加熱しない
・栓をした容器を加熱しない

うまくいかないときの対処

冷やしても結晶が出ない

原因は大きく2つです。溶媒が多すぎて飽和していないか、溶けきれない状態(過飽和)なのに結晶の芽ができないかです。

後者が起こるのは、できたばかりの小さな結晶の芽は不安定で、ある大きさに育つ前に溶けて消えやすいからです。ここを越えるきっかけを与えれば、結晶は一気に育ち始めます。次の順に試します。

  • ガラス棒で、液面近くのフラスコの内壁をこする:こすった跡の細かな傷やガラスのかけらが結晶の育ち始める足場になる、また壁に付いた液が乾いてできた微小な結晶が種になる、などと説明されている
  • 種結晶を入れる:取っておいた粗生成物をひとかけら入れる。すでにできあがった結晶の表面に分子が並んでいくので、芽をつくる段階を飛ばせる。ガラス棒の先を溶液にひたして引き上げ、乾かしてできた固体を入れてもよい
  • さらに冷やす:室温で出なければ氷浴へ。それでも出なければ、氷と食塩の寒剤で冷やす
  • 濃縮する:溶媒が多すぎた場合は、溶液を温めて溶媒の一部を蒸発させ(またはエバポレーターで減らし)、もう一度冷やす
  • 混合溶媒にする:良溶媒の溶液なら、貧溶媒を少しずつ加える

それでもだめなら、溶媒をすべて留去して固体に戻し、別の溶媒で最初からやり直します。

結晶ではなく油が出てきた(油状化・oiling out)

冷やしていくと、結晶ではなく油滴が出てきて、フラスコの底にたまることがあります。これを油状化(オイルアウト、oiling out)といいます。

原因は、溶液から目的物が出てくる温度が、その場での目的物の融点より高いことです。その温度では固体でいられないので、液体(油)として分かれて出てきます。ここでいう融点は、純物質の文献値ではありません。出てくる油には溶媒や不純物が溶け込んでいて、そのぶん融点が下がっている(融点降下)ので、文献値よりかなり低い温度でも油状化は起こります。粗生成物に不純物が多いと、さらに起こりやすくなります。濃すぎる溶液や、沸点の高い溶媒でも起こりやすくなります。

油のままではいけない理由は、油が不純物をよく溶かし込むからです。この油が後で固まると、不純物を抱えたままの固体になり、精製になりません。対処は次のとおりです。

  • 温め直して油を溶かし、溶媒を少し足してから冷やす:溶液が薄くなると、目的物が出始める温度が下がり、融点より低い温度で結晶として出てくるようになる
  • もっとゆっくり冷やす、そして油が出始める少し手前の温度で、種結晶を入れるかガラス棒でこする:油になる前に結晶の芽を与える
  • 沸点の低い溶媒に変える、混合溶媒なら貧溶媒の割合を減らす
  • 不純物が多くて融点が大きく下がっている場合は、先にカラムクロマトグラフィーなどで大まかに精製してから再結晶する

細かい粉のような結晶になった

溶液を急に冷やしたか、混合溶媒で貧溶媒を一度に入れたときに起こります。結晶のすき間や表面に母液が残りやすく、ろ過にも時間がかかります。純度が必要なら、温め直して溶かし、ゆっくり冷やし直します。冷えるのを遅くしたいときは、フラスコをコルクリングやタオルの上に置き、ビーカーをかぶせるなどして、まわりへ熱が逃げにくくします。

回収率が低い

再結晶では、ある程度の損失は原理上避けられません。それでも予想より明らかに少ないときは、原因を工程ごとにたどります。

原因 どこで失われたか 対処
溶媒が多すぎた 母液に溶けて残った 母液を濃縮して冷やし、二番晶を得る(純度は落ちやすいので一番晶と混ぜずに別に確かめる)
冷却が足りない 母液に溶けて残った 室温のあと氷浴で十分に冷やす
熱時ろ過で結晶が出た ろ紙・ろうとの上 ろうと・受け器を温める。ろ紙上の結晶を熱い溶媒で溶かし込む
洗浄の溶媒が多い・温かい 洗液に溶けた 冷たい溶媒を少量だけ使う
活性炭が多すぎた 活性炭に吸着された 活性炭はごく少量にする
溶媒選びが合っていない 冷えても溶けたまま 冷たいときにもっと溶けにくい溶媒・混合溶媒に変える

回収率と純度は引き換えの関係にあります。再結晶をくり返すほど純度は上がりますが、そのたびに母液に残る分だけ量は減ります。学生実験のレポートでは、「回収率が100%にならない理由」を原理に戻って説明することが求められます(書き方は実験レポートの書き方の再結晶の記入例を参照)。

純度の確かめ方:融点とTLC

融点:純粋なほど高く、鋭くなる

純粋な結晶性の化合物は、決まった温度で、狭い温度範囲のうちに融けます。不純物を含むと、融点が下がり、融け始めから融け終わりまでの範囲が広がります(融点降下)。不純物が混ざると、融けた液体の側が不純物を溶かし込んで安定になるため、純物質より低い温度から融け始めます(結晶に取り込まれた不純物が並びを乱す効果も加わります)。

  • 粗結晶と再結晶後の融点を比べ、融点が上がって範囲が狭くなっていれば精製が効いている
  • 文献値と比べて、近くて範囲が狭ければ純度は高いと判断できる
  • 目的物の標品があるなら、得られた結晶と標品を混ぜて融点を測る(混融試験)。融点が下がれば別の物質、下がらなければ原則として同じ物質と判断できる(よく似た別の物質どうしが混晶をつくる例外もあるので、確実な同定にはスペクトルも使う)

結晶がよく乾いていないと、残った溶媒で融点が下がります。融点を測る前に、乾燥が十分か(恒量か)を確かめましょう。

TLC:スポットが1つになったか

TLC(薄層クロマトグラフィー)では、粗生成物・再結晶後の結晶・母液を同じ板に並べて展開します。結晶のスポットが1つで、粗生成物にあった不純物のスポットが母液のほうに濃く出ていれば、不純物は母液に残って除けたと分かります。TLC の操作と Rf 値の読み方はTLCのやり方とRf値で解説しています。

ただし、TLC で1スポットでも、展開溶媒によっては重なって見えている場合があります。研究室では、融点やTLCに加えてNMRなどのスペクトルで純度を確かめます。

操作と理由の一覧(レポート・試験の確認用)

操作 理由
溶媒は最小量 母液に溶けて残る目的物を減らすため。多すぎると結晶が出ない
加熱前に沸騰石 突沸を防ぐため
活性炭は加熱を止めて少し冷ましてから 活性炭の表面が気泡のきっかけになり、突沸・吹きこぼれが起こるため
熱時ろ過は温めたろうとで素早く ろ紙やろうとの上で目的物が結晶にならないようにするため
室温まで徐冷してから氷浴 少数の結晶をゆっくり育て、不純物を取り込ませないため。氷浴は最後に溶解度を下げて回収率を上げるため
フラスコの洗い込みは母液で 母液は飽和しているので、それ以上結晶を溶かさないため
洗浄は少量の冷たい溶媒 表面の母液(不純物)を除きつつ、結晶を溶かさないため
恒量まで乾燥 残った溶媒で質量が多く出たり、融点が下がったりするのを防ぐため

まとめ

・再結晶は「溶解度は温度で変わる」と「結晶はゆっくり育つほど同じ分子だけで組み上がる」の2つの原理で不純物を除く
・溶媒は、熱いと溶かし冷たいと溶かさないもの。沸点は目的物の融点より低いものが目安で、見つからなければ混合溶媒にする
・溶媒は最小量、熱時ろ過は冷える前に、冷却は室温まで徐冷してから氷浴
・結晶が出なければ、こする→種結晶→冷却→濃縮の順に試す。油状化したら溶媒を足して温め直し、ゆっくり冷やす
・純度は融点(高く・鋭く)とTLC(1スポット)で確かめる

再結晶は、分液で取り出した粗生成物を固体として精製する操作で、分液と並んで有機合成の後処理の基本になります。原理が分かっていれば、初めて扱う化合物でも、溶媒を選び、失敗の原因を自分で切り分けられるようになります。

よくある質問

再結晶の溶媒はどうやって選べばよいですか?

目的物を熱いときによく溶かし、冷たいときにはあまり溶かさない溶媒を選びます。あわせて、目的物と反応しないこと、乾燥で除きやすいことも条件で、油状化を避けるには沸点が目的物の融点より低い溶媒が目安になります。文献に溶媒が無ければ、試験管に少量の試料を取り、室温では溶けず、加熱すると溶け、冷やすと結晶が出る溶媒を探します。単独で見つからなければ、エタノールと水、酢酸エチルとヘキサンのような、互いに混ざる良溶媒と貧溶媒の組み合わせを使います。

再結晶で冷やしても結晶が出ないときはどうすればよいですか?

溶媒が多すぎて飽和していないか、過飽和なのに結晶の芽ができていないかのどちらかです。まずガラス棒でフラスコの内壁をこするか、取っておいた粗生成物を種結晶として入れます。それでも出なければ氷浴でさらに冷やし、溶媒が多すぎる場合は溶媒の一部を蒸発させて濃縮してから冷やし直します。良溶媒の溶液なら貧溶媒を少しずつ加える方法もあります。

再結晶で油状化(オイルアウト)が起きるのはなぜですか?

溶液から目的物が出てくる温度が、その場での目的物の融点より高いためです。その温度では固体でいられないので油として分かれます。出てくる油には溶媒や不純物が溶け込んで融点が下がっているので、純物質の融点より低い温度でも起こり、不純物が多いほど起こりやすくなります。温め直して油を溶かし、溶媒を少し足して薄めてからゆっくり冷やし、油が出る手前で種結晶を入れると結晶として出やすくなります。沸点の低い溶媒に変えるのも有効です。

再結晶で溶液をゆっくり冷やすのはなぜですか?

ゆっくり冷やすと結晶の芽が少数しかできず、それが時間をかけて大きく育つので、分子が正しい位置を選んで並び、不純物が結晶に入りにくくなるためです。急に冷やすと芽が一斉にできて細かい結晶が急に析出し、結晶のすき間に母液や不純物を閉じ込めやすくなります。そのため、まず室温まで放冷し、結晶が出そろってから氷浴で冷やして回収率を上げます。

再結晶の回収率が低くなる原因は何ですか?

代表的なのは溶媒の使いすぎで、冷えた溶媒にも目的物は少し溶けるため、溶媒が多いほど母液に残る量が増えます。ほかに、冷却不足、熱時ろ過でろ紙の上に結晶が出たこと、洗浄に温かい溶媒や多量の溶媒を使ったこと、活性炭の入れすぎ、溶媒選びの誤りが原因になります。母液を濃縮して二番晶を得ることもできますが、純度が落ちやすいので一番晶とは別に確かめます。

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