院試の面接の準備で多くの人が最初にやるのは「よく聞かれる質問」の検索である。そして志望理由、卒業研究、併願先……という項目の一覧を見て、だいたい分かった気になる。ところが本番で詰まるのは、質問そのものではなく2問目の追加質問だ。「その条件にした理由は?」「うまくいかなかったら次に何をする?」「その反応はなぜ背面から攻撃するの?」。

面接官は質問リストを読み上げているのではない。答えの中から一番弱いところを見つけて、そこを掘る。だから準備すべきなのは模範解答の暗記ではなく、掘られても崩れない回答の骨格である。この記事では化学系大学院の面接で聞かれる12問について、面接官が何を確かめているのか、どう組み立てて答えるか、どんな答えが評価を下げるかを表にまとめる。あわせて、卒業研究を1分と3分で話すテンプレート、有機化学の口頭試問で問われやすい反応機構と答え方、服装とオンライン面接のチェックリスト、俗に「不合格フラグ」と呼ばれる現象の読み方を扱う。

なお本記事は個人の見解であり、特定の大学・研究科の公式情報ではない。面接の有無・時間・配点・形式(個人か集団か、発表があるか、口頭試問を含むか)は研究科ごとに異なり、年度で変わることもある。自分が受ける研究科については、必ずその年度の募集要項と入試説明会で確認してほしい。

この記事の答え
院試の面接で確かめられるのは「2年間ここで研究を続けられるか」。質問は卒研・志望・基礎知識の3系統で、準備は質問ごとに「結論→理由→具体例」の骨格を作り、追加質問を3段まで掘っておくこと。
この記事で分かること
・院試の面接で聞かれる質問12問と、回答の骨格・NG回答例
・卒業研究を1分・3分で説明するテンプレートと、追加質問への備え方
・有機化学の口頭試問で問われやすいテーマと、口頭での答え方
・服装・持ち物・オンライン面接のチェックリストと「不合格フラグ」の読み方

院試の面接は何を確かめる場なのか

質問の対策に入る前に、面接という試験が何のために置かれているかを押さえておく。ここが分かると、どの質問にも同じ軸で答えられるようになる。

大学院の修士課程は、講義を受ける場である以上に研究の訓練を受ける場である。受け入れる教員から見ると、合格者は少なくとも2年間、自分の研究室で実験し、議論し、学会で発表する相手になる。筆記試験は「基礎知識があるか」を測れるが、「研究を続けられるか」「この研究室と噛み合うか」は紙では測れない。面接はその部分を確かめるために置かれている。

具体的には、面接官が確かめたいことは次の3つに分けられる。

確かめたいこと それを見る質問 評価が上がる答え方
①自分の研究を理解しているか 卒業研究の説明、苦労した点、今後の展開 「なぜその方法か」を自分の言葉で説明できる。分かっていないことを分かっていないと言える
②この研究科・研究室と噛み合うか 志望理由、研究計画、併願、内部/外部の理由、修了後の進路 志望先の研究内容を具体的に知っていて、自分の経験との接点を言える
③研究に必要な基礎があるか 専門の口頭試問、筆記試験の出来、英語 答えだけでなく理由の連鎖を声に出せる。知らないことから推論できる

3つに共通するのは、「正解を知っているか」より「考え方が見えるか」が問われている点である。研究では答えの分からない問いを扱い続けるので、答えに至る筋道を説明できる人のほうが、指導する側にとって安心できる。面接対策のすべては、この一点から逆算すればよい。

まず確認する:面接の形式は研究科ごとに違う

「院試の面接は何分か」「プレゼンはあるか」という問いに一般的な答えはない。研究科・専攻・年度で違うからである。ネットの体験談をそのまま当てはめるのは危険で、確認すべき場所は決まっている。

確認したいこと どこで確認するか 読み方のコツ
面接があるか・配点はいくらか 募集要項の「試験科目」「配点」「選抜方法」の欄 名称は「面接」「口述試験」「口頭試問」など研究科で違う。専門の質問を含むかは名称だけでは判断できない
発表(スライド)が必要か 募集要項の「口述試験」の説明、受験票と一緒に届く案内 「卒業研究の概要を説明」とあれば発表前提で準備する。資料の持ち込み可否も同じ欄に書かれることが多い
面接の時間・面接官の人数 入試説明会、研究室訪問で話す先輩 公開されていないことが多い。「前年はどうだったか」を聞くのは失礼にあたらない
対面かオンラインか 募集要項の「試験実施方法」、研究科からの通知 年度ごとに変わることがある。受験年度の要項と通知を必ず見る
合否の判定方法 募集要項の「選抜方法」「合否判定」の欄 「筆記と面接の結果を総合して判定」のような書き方か、面接の評価だけで不合格になりうる旨の記載があるかを確認する

特に外部受験の場合、募集要項に書かれていない運用(例:口述試験で卒業研究の説明から入る、専門の質問が出る)を知る手段は研究室訪問と説明会しかない。訪問で聞いてよい質問の作り方は研究室訪問の文例と質問リストで、出願までのスケジュール全体は外部院試の準備ガイドでまとめている。

院試の面接で聞かれる質問12問と回答の骨格

以下の12問は、化学系の院試面接で聞かれる質問を「研究と志望に関する質問(①〜⑥)」と「進路と受験に関する質問(⑦〜⑫)」の2群に分けたものである。3系統目の専門知識(口頭試問)は、後の節で別に扱う。すべての研究科でこの12問が出るわけではないが、どの研究科の面接もおおむねこの範囲に収まる。各質問について、面接官が見ていること・回答の骨格・NG回答を1行ずつ示す。

研究と志望に関する質問(①〜⑥)

質問 見ていること 回答の骨格 NG回答
①大学院に進学する理由は 研究そのものに動機があるか 卒研で面白いと感じた具体的な場面 → それを深めるには修士の時間が要る理由 → 修了後どう使うか 「就職に有利だから」「周りがみんな進学するので」だけで終わる
②なぜこの研究科・研究室か 研究内容を調べたか、自分との接点があるか 研究室の具体的な研究(論文・テーマ)を1つ挙げる → 自分の卒研の経験とつながる点 → そこで自分が何をしたいか 「設備が充実しているから」「有名だから」。ホームページの冒頭文をそのまま言う
③卒業研究の内容を説明してください 自分の研究を自分の言葉で説明できるか 背景 → 目的 → 方法 → 現在の結果 → 課題と次の一手(下のテンプレート参照) 先輩の研究の説明になっている。専門用語を並べるだけで「なぜ」が無い
④卒研でうまくいかなかったことは 失敗から原因を考えられるか 起きた現象 → 立てた仮説 → 確かめた方法 → 分かったこと(未解決なら次に試すこと) 「特にありません」。または「先生に言われて条件を変えたら直りました」で終わる
⑤卒研は今後どう展開しますか 研究を先に進める発想があるか 今の結果で言えること・言えないことの境界 → 言えないことを確かめる実験 → うまくいった場合の意義 「まだ始めたばかりなので分かりません」。展開を指導教員に丸投げする
⑥大学院での研究計画は 志望研究室で何をしたいかが具体的か やりたいテーマ → それが研究室のどの研究と接続するか → 自分の経験で貢献できる点 → テーマは相談して決める柔軟さ 研究室で扱っていない分野の計画。逆に「何でもやります」で中身が無い

進路と受験に関する質問(⑦〜⑫)

質問 見ていること 回答の骨格 NG回答
⑦外部生には「なぜ今の大学の大学院に進まないのか」、内部生には「なぜ他大学を受けないのか」 前向きな理由で選んでいるか(惰性や不満でないか) 外部生:卒研で得た関心 → それを扱う研究室が志望先にある → 今の所属で学んだことを持ち込める点。内部生:卒研のテーマを続ける意義 → 今の研究室でしかできない点 外部生:今の研究室や指導教員への不満を述べる。内部生:「受験勉強が楽だから」「慣れているから」
⑧併願先はどこですか/合格したら来ますか 志望の一貫性と、入学の意思 事実を簡潔に答える → 併願先と志望先に共通する軸(研究分野)を言う → 第一志望ならそう言う 併願を隠して後で矛盾する。分野がばらばらで軸を説明できない
⑨修了後の進路は 修士の2年間をどう使うかの見通し 現時点の希望(就職か博士進学か)→ その理由 → 修士の間に身につけたいこと 「まだ何も考えていません」。研究とまったく関係のない進路だけを語る
⑩筆記試験の出来はどうでしたか 自分の理解の穴を特定できるか できた所・できなかった所を具体的に → できなかった理由 → 今なら解ける部分があれば一言 「全然だめでした」で止まる。逆に「完璧です」と言い切る
⑪研究で英語をどう使っていますか 論文を読む習慣があるか 卒研で読んだ論文を1本挙げる → そこから何を得たか → 自分の実験にどう活かしたか 「英語は苦手です」で終わる。読んだ論文の内容を説明できない
⑫最後に何か質問はありますか 研究室への関心の深さ 研究室訪問で聞けなかった研究上の質問を1つ。無ければ「訪問で伺えたので大丈夫です」と礼を言う 合否・面接の出来を尋ねる。募集要項を読めば分かることを聞く

表の「回答の骨格」がすべて3段前後の矢印になっているのには理由がある。面接の答えは、結論だけだと「なぜ?」と掘られ、理由から話し始めると結論までに時間を使い切る。結論を先に置き、理由と具体例を1つずつ添えると、面接官は次にどこを掘るか選びやすく、こちらも準備した範囲で受けられる。

NG回答に共通するのは、中身が「自分の言葉」ではないことだ。「就職に有利」「設備が充実」は誰でも言えるので、その学生について何の情報も与えない。逆に言えば、評価される答えには必ずその人にしか言えない具体(卒研で見た現象、読んだ論文、研究室訪問で聞いた話)が入っている。⑩・⑪に関連して、英語の筆記試験の出来を聞かれた場合の答え方は、院試の英語の「面接で英語の出来を聞かれたら」の節にまとめている。

⑧の併願の質問で嘘をつかない
・併願は一般的なことで、それ自体は減点理由になりにくい
・隠すと、別の質問(進路・志望理由)との矛盾から見抜かれやすい
・問題になるのは併願先の分野がばらばらで、志望の軸を説明できないこと

卒業研究を1分・3分で説明するテンプレート

12問の中で最も重く見るべきなのは③の卒業研究の説明である。理由は単純で、志望理由も研究計画も今後の展開も、すべて卒研の話から派生するからだ。ここが崩れると後の質問も崩れる。

面接では「簡単に説明してください」と短く求められる場合と、発表として数分間話す場合がある。どちらにも対応できるよう、同じ骨格で長さだけ変えた2つの版を作っておくとよい。

1分版(5文で話す)

【背景】  ○○は△△に使われているが、□□という問題がある。
【目的】  私の研究の目的は、□□を解決するために◆◆を実現することである。
【方法】  そのために、◇◇という方法(反応・測定・計算)を用いている。
【結果】  現在までに、●●であることが分かった。
【課題】  一方で▲▲が未解決であり、次は■■を確かめる予定である。

3分版(各ブロックを2〜3文に広げる)

【背景】  分野の大きな文脈 → その中の具体的な問題 → 既存の方法の限界
【目的】  何を明らかにする/何を作るのか(1文で言い切る)
【方法】  選んだ方法 → その方法を選んだ理由(他の方法ではだめな理由)
【結果】  主要な結果を1〜2点 → その結果から言えること
【課題】  まだ言えないこと → それを確かめる次の実験 → 成功したときの意義

3分版で1分版から増やすべきなのは、【方法】の「その方法を選んだ理由」と【課題】の「次の実験」の2か所である。ここが面接官の追加質問が最も集中する場所だからだ。逆に【背景】を長くしても評価は上がりにくい。分野の一般論は面接官のほうが詳しい。作った原稿は必ず声に出して時間を測り、長ければ【背景】から削る。

卒研がまだ始まったばかりで【結果】が無い場合は、無理に結果を作らない。「現在は条件検討の段階で、先行研究の再現までは確認できた」のように、どこまで進んだかを正確に言うほうが信頼される。修士入試の時期に卒研が途中なのは、面接官も分かっている。

例:有機合成の卒研を1分版で話すと

以下は架空のテーマを使った例である。数値や化合物名は伏せ、型だけを示す。

ある医薬品の中間体は不斉炭素を1つ持つが、現在はラセミ体を合成してから
光学分割で一方のエナンチオマーを取り出している。
私の研究の目的は、この中間体を不斉触媒反応で直接作ることである。
そのために、研究室で開発された有機分子触媒を使い、アルデヒドへの付加反応を検討している。
現在までに、溶媒を変えるとエナンチオ選択性が大きく変わることが分かった。
一方で、なぜ溶媒でエナンチオ選択性が変わるのかは未解明であり、次は遷移状態での
水素結合の関与を確かめるため、水素結合受容能の異なる溶媒での比較と、
触媒の水素結合部位を潰した対照触媒での実験を行う予定である。

この例が良いのは、最後の文に「現象」と「仮説」と「確かめ方」が揃っている点である。面接官が「なぜ溶媒で変わると思う?」と掘ってきても、すでに答えの入口を自分で示している。冒頭で「光学分割では不要な一方を捨てることになる」という問題を示しているので、目的の必然性も伝わる。

卒研の説明で必ず来る追加質問

本番までに、自分の卒研について以下の質問に声に出して答えておく。頭の中で答えられることと、口で説明できることは別物である。

  • その反応条件(溶媒・温度・試薬)を選んだ理由は何か
  • 対照実験は何をしたか。しなかったなら、なぜ不要と言えるか
  • 生成物の構造はどうやって決めたか(どのスペクトルのどのシグナルが根拠か)
  • 結果は再現したか。何回やって、ばらつきはどうだったか
  • うまくいかなかった場合、次の手は何か
  • この研究が成功すると、誰が・何が良くなるのか

このうち3つ目の構造決定の根拠は、有機化学系の研究室では特によく聞かれる。「NMRで確認しました」では答えにならない。「1H NMRで原料のアルデヒドの水素のシグナルが消えてヒドロキシ基の付け根の水素のシグナルが現れ、13C NMRでもアルデヒドのカルボニル炭素のシグナルが消えてヒドロキシ基が付いた炭素のシグナルが現れたので、付加が起きたと判断した」のように、どのシグナルが何の根拠かまで言えるようにしておく。スペクトルの読み方に不安があれば13C NMRとDEPTの読み方や不飽和度の求め方で確認しておくとよい。

研究計画を聞かれたときの答え方

⑥の研究計画は、外部受験で特に重みを持つ。内部生は卒研の延長を語れば筋が通るが、外部生は「なぜ新しい研究室で、そのテーマなのか」を説明しなければならない。

答えを組み立てる手順は次の3段である。

  1. 志望研究室の研究を1つ、具体的に挙げる。最近の論文や学会発表から選ぶ。ホームページの研究紹介の要約ではなく、自分で読んだものを使う。
  2. 自分の卒研の経験との接点を示す。同じ反応でなくてよい。「卒研で扱った○○の知識が、この研究の△△の部分で活かせる」という接点があれば十分である。
  3. テーマは相談して決める姿勢を添える。修士のテーマは入学後に教員と相談して決まることが多い。「現時点ではこう考えているが、研究室の方針に合わせて柔軟に考えたい」と添えると、意欲と現実感の両方が伝わる。

研究計画で評価を下げるのは、研究室で扱っていない分野の計画を熱心に語ることである。意欲があっても「この研究室を調べていない」という情報として受け取られる。研究室の研究内容は訪問の時点で確認しておくのが確実で、そのための質問の作り方は研究室訪問の文例と質問リストにまとめた。

専門の口頭試問:有機化学で聞かれやすいテーマと答え方

研究科によっては、面接の中で専門分野の質問(口頭試問)が出る。有機化学系では、反応機構をホワイトボードや紙に描きながら説明させる形が典型的だ。なぜ筆記試験とは別に口頭で聞くのか。筆記では最終的な答えしか見えないが、口頭なら「なぜそうなるのか」を一段ずつ掘れるからである。

つまり口頭試問で問われるのは、反応名と生成物の暗記ではない。巻矢印で電子対の動きを示しながら、各段階がなぜ起きるかを言えるかである。以下は有機化学で問われやすいテーマと、口頭で答えるときに最低限言うべき3点を整理したものだ。出題範囲は研究科・研究室ごとに違うので、志望先の筆記試験の過去問と合わせて優先順位を決めてほしい。

テーマ 聞かれ方の例 言うべき3点
SN1とSN2 「SN2の立体化学を説明して」「第三級ハロゲン化アルキルではどちらが起きる?」 段階数(協奏か、カルボカチオン経由か)/速度式の次数/立体化学(反転か、ラセミ化か)
E1とE2 「E1とE2はどう違う?」「E2で脱離するHはどれ?」「かさ高い塩基を使うと生成物はどう変わる?」 E1はカルボカチオンを経る2段階で速度は基質だけの一次、E2は協奏的で塩基と基質の二次/E2でアンチペリプラナー配置が原則で、それが有利な理由(軌道の重なり)/Zaitsev則の根拠(置換基の多いアルケンが安定)と、かさ高い塩基で置換の少ないアルケンが増える理由
アルドール反応 「アルドール反応の機構を描いて」「交差アルドールで生成物を1つにするには?」 α水素が酸性な理由(エノラートの共鳴安定化)/エノラートのカルボニル炭素への付加/脱水が進む駆動力(共役による安定化)
Diels-Alder反応 「なぜ電子求引基のついたジエノフィルが反応しやすい?」「endo体が主になる理由は?」 協奏的な[4+2]環化付加と立体特異性/ジエンのHOMOとジエノフィルのLUMOの相互作用(電子求引基でLUMOが下がる)/endo体が主になる理由(二次軌道相互作用で説明される速度論支配の生成物)
芳香族求電子置換 「トルエンのニトロ化はどこに入る?」「ハロゲンはなぜ不活性化なのにオルト・パラ配向?」 アレニウムイオン(σ錯体)を経る2段階で律速はσ錯体の生成/中間体の共鳴構造による配向性の説明/ハロゲンは誘起効果で環を不活性化しつつ、共鳴効果(孤立電子対の供与)でオルト・パラ配向になる理由
酸性度の比較 「酢酸とエタノールではどちらが強い酸?理由は?」 共役塩基の安定性で比べる/効く要因(電気陰性度・原子の大きさ・共鳴・誘起効果・混成)/この比較でどの要因が効いているかの特定
Grignard試薬 「なぜ水があるとだめ?」「エステルと反応させると何が得られる?」 炭素が負に分極した強塩基・求核剤であること/水やアルコールでプロトン化されて炭化水素になる/エステルには2当量付加して第三級アルコールになる理由(中間のケトンのほうが反応しやすい)
カルボカチオンの安定性 「第三級カルボカチオンが安定な理由は?」「転位はなぜ起きる?」 超共役と誘起効果による正電荷の分散/より安定なカチオンへの1,2-シフト/それが生成物の予想にどう効くか

どのテーマでも「言うべき3点」の中に、必ず理由が入っている。口頭試問で差がつくのはここだ。反応の結果は教科書の太字を覚えていれば言えるが、「なぜ」は理解していないと言えない。面接官はそこを確かめるために口頭で聞いている。巻矢印の描き方そのものに不安があれば、先に巻矢印の書き方を確認しておくとよい。

回答例:「SN2反応を説明してください」

口頭試問の答え方を、実際の流れで示す。面接官の質問は1回で終わらず、答えの中の一語を拾って掘り下げてくる。

段 面接官の質問 答えの骨格
1 SN2反応を説明してください 求核剤が脱離基の反対側から炭素を攻撃し、結合の生成と切断が1段階で同時に起きる反応。速度は基質と求核剤の両方の濃度に比例する二次反応で、反応点の立体配置は反転する(Walden反転)
2 なぜ反対側(背面)から攻撃するのですか 求核剤の孤立電子対が入るのは C–X 結合の反結合性軌道(σ*)で、その大きな広がりが脱離基の反対側にあるから。脱離基側から近づくと、脱離基の電子と反発する
3 では第三級の基質で遅いのはなぜですか 背面に3つのアルキル基があり、求核剤がσ*に近づく経路がふさがれる(立体障害)。そのため第三級ではSN2はほとんど起きず、条件によってカルボカチオンを経るSN1や脱離が起きる
4 溶媒は何を選びますか 陰イオン性の求核剤を使う場合は、DMSOやDMFなどの極性非プロトン性溶媒。陽イオン(対イオン)は溶媒和されるが、陰イオンの求核剤は水素結合で囲まれにくく、反応性が高いまま残るから

この例で注目してほしいのは、2段目と3段目の質問が1段目の答えの中の語から来ている点である。「反対側」と言えば「なぜ反対側か」が来て、「1段階」と言えば「では第三級は」が来る。逆に言えば、1段目で自分が使う語を選んだ時点で、次の質問はある程度予測できる。準備のときは、自分の説明の中の語に「なぜ?」を3回つけて、答えられない段がどこかを確かめておくとよい。

SN1とSN2の判定、E1・E2との競合までをまとめて整理したいならアルキルハライドの反応(SN1・SN2・E1・E2)を、遷移状態の考え方を固めたいならハモンドの仮説を読んでおくと、3段目以降で詰まりにくくなる。

回答例:「アルドール反応の機構を描いてください」

機構を描かせる質問では、描きながら一段ごとに理由を言うのが基本である。黙って描き切ってから説明すると、面接官は途中の理解を確かめられない。

  1. 塩基がα水素を引き抜く。「α水素が抜けやすいのは、生じた負電荷がカルボニル酸素まで共鳴で広がり、エノラートとして安定化するからです」と言いながら共鳴構造を描く。
  2. エノラートがもう1分子のカルボニル炭素を攻撃する。「カルボニル炭素は酸素に電子を引かれて正に分極しているので、求核剤の攻撃を受けます」と巻矢印を描く。
  3. アルコキシドがプロトン化され、β-ヒドロキシカルボニル化合物になる。
  4. 加熱すると脱水してα,β-不飽和カルボニル化合物になる。塩基性条件では、α水素がもう一度引き抜かれてエノラートになり、そこから水酸化物イオンが抜けるE1cb型の脱離で進む。「脱水が進むのは、生成物のC=CとC=Oが共役して安定になるからです」と駆動力を添える。

ここから来やすい追加質問は「交差アルドールで生成物を1つにするには?」である。答えの骨格は、一方の成分を先に完全にエノラートにしてから、もう一方を加える(例:低温でLDAを使う)か、α水素を持たないカルボニル化合物を相手に選び、塩基とその相手の中にα水素を持つ側をゆっくり加える(エノラートができても周囲には相手のカルボニル化合物が多く、自己縮合が起きにくい)か、である。理由まで含めた詳しい整理はアルドール反応の機構にある。

分からない質問が来たときの返し方

口頭試問では、準備していない質問が必ず来る。ここでの振る舞いは、正答するかどうか以上に見られている。

  • ○「まず○○の点から考えると、△△になると思います。ただ□□の部分は自信がありません」(既知のことから推論の過程を声に出す)
  • ○「その反応は勉強していませんが、似た反応の○○から類推すると……」(知らないことは認めて、手がかりから考える)
  • ✗ 長い沈黙のあと「分かりません」(考える過程が何も見えない)
  • ✗ 知っているふりをして断定する(掘られて崩れると、それまでの答えの信頼まで落ちる)

面接官がヒントを出してきたら、素直に乗ってよい。ヒントを受けて考えを修正できることは、研究室でのディスカッションで必要な力そのものだからである。

服装・持ち物・オンライン面接のチェックリスト

服装は、研究科から指定が無い限りスーツが無難である。理由は、スーツで減点されることは考えにくい一方、私服は面接官によって受け取り方が分かれるからだ。「服装自由」「私服可」と案内されている場合も、清潔感のある落ち着いた服装であれば問題になりにくい。迷ったら研究室訪問の際に先輩に聞くのが確実である。暑い時期の面接では、上着を手に持って移動し、控室で着る人も多い。

対面面接の持ち物

□ 受験票(試験期間中ずっと必要。予備のコピーを別の場所に)
□ 募集要項・受験案内で指定された持ち物(写真付き身分証など)
□ 提出した書類のコピー(志望理由書・研究計画書)→ 直前に読み返す
□ 卒研の説明資料(持ち込みが許可されている場合のみ)
□ 筆記用具(ホワイトボードがあるとは限らない。紙に描く想定も)
□ 時計(スマートフォンは試験中に使えない前提で)
□ 会場までの経路と、遅延時の連絡先(研究科事務室の電話番号)

オンライン面接で準備すること

オンラインの面接は、対面にはない機材と通信のトラブルが加わる。研究科から実施要領が届いたら、まず以下を確認する。

□ 使用するツール(Zoom・Teams等)と、事前の接続テストの有無
□ 通信が切れたときの連絡方法(電話番号・メールアドレス)を手元に
□ 有線LANか安定したWi-Fi。家族に面接時間を伝えて回線を空けてもらう
□ カメラは目の高さ。顔が暗くならないよう正面から照明
□ 背景は無地か、片付いた壁。バーチャル背景の可否は要領を確認
□ 画面共有で資料を見せるか、口頭のみか(要領に記載がなければ問い合わせる)
□ 手元に紙とペン(機構を描いてカメラに見せる可能性がある)
□ 手元資料を見てよいか(見てよいと書かれていなければ見ない前提で準備)
□ 前日に同じ部屋・同じ時刻帯で、通しのリハーサルを1回

オンラインで特に注意したいのは、口頭試問で機構を描く場面である。対面ならホワイトボードを使えるが、オンラインでは紙に描いてカメラに見せるか、画面共有で描くことになる。どちらの方法になるかは研究科によるので、要領に書かれていなければ事前に事務室に問い合わせておくとよい。手順の確認を問い合わせることは、受験生として普通の行動である。

「不合格フラグ」と言われる現象をどう読むか

面接が終わると、多くの受験生が「あれは不合格フラグだったのでは」と不安になる。ネット上にはそうした体験談が多くあるが、面接中の様子から合否を推定できるという公開された根拠は無い。以下は、よく「不合格フラグ」として語られる現象と、それに対する別の解釈を並べたものである。どちらが正しいと断定するものではなく、1つの現象に複数の解釈がありうることを示すために置いている。

よく言われる「フラグ」 俗説での解釈 別の解釈
面接が予定より短く終わった 見込みが無いので早めに切り上げた 筆記と書類で十分に判断でき、確認事項が少なかった。進行が押していた
専門の質問で厳しく突っ込まれた 落とす理由を探されていた 理解の深さを測るために、答えられる限界まで掘っていた。口頭試問では普通のこと
併願先を詳しく聞かれた 本気度を疑われた 合格者の入学意思を把握して、受け入れの見通しを立てるために聞いている
「合格したら来ますか」と聞かれなかった 合格させる気が無い 書類や研究室訪問ですでに意思を確認済み。そもそもその質問をしない研究科もある
面接官が無表情・メモばかり取っていた 興味を持たれなかった 受験生ごとに態度が変わらないよう、反応を表に出さないようにしている。記録は評価の手続き
他の受験生より質問が少なかった 評価対象から外れていた 確かめる必要のある点が少なかった。他の受験生の面接の中身はそもそも分からない

表を見ると分かるとおり、どの現象にも正反対の解釈が成り立つ。面接の進め方は面接官や研究科によって違い、受験生の側からはその違いを観測できない。さらに多くの研究科では、合否は筆記・書類・面接を合わせて判定される(判定方法は募集要項の「選抜方法」の欄で確認できる)。面接の数分間の印象だけで結果を推測するのは、根拠の薄い推論になりやすい。

面接のあとにできることは、まだ終わっていない試験に集中することだけである。複数日程の試験なら残りの科目の復習に、併願があるなら次の研究科の準備に時間を使う。終わった科目の自己採点を続けても結果は変わらない、という考え方は院試の英語の「本番で英語がボロボロだったとき」の節と同じである。万一不合格だった場合の選択肢(二次募集・研究生・就職への切り替え)は院試に落ちたら考えることで整理している。

面接後の手応えと合否の関係について
・面接中の様子から合否を推定できるという公開された根拠は無い
・合否の判定方法は研究科ごとに募集要項に書かれている
・体験談は「その人の面接」の記録であって、自分の面接の予測には使えない

内部生と外部生で準備は何が違うか

面接の質問はおおむね共通だが、重みのかかる質問が違う。内部生は研究室の教員がすでに自分を知っていることが多く、卒研の進み具合や基礎の確認が中心になりやすい。外部生は「なぜここなのか」「ここで何をしたいのか」を初対面の教員に説明しなければならない。

準備の重点 内部生 外部生
最も厚く準備する質問 ③卒研の説明、⑤今後の展開 ②なぜこの研究室か、⑥研究計画、⑦なぜ移るのか
陥りやすい失敗 「知られているから」と準備を省き、基本の説明が雑になる 志望研究室の研究を調べきれず、志望理由が一般論になる
情報源 研究室の先輩・指導教員 研究室訪問・入試説明会・志望研究室の論文

外部生にとっては、面接で話す内容の多くが研究室訪問の時点でほぼ決まる。訪問で聞いた研究の話、先輩から聞いた面接の様子が、そのまま②⑥⑦の答えの材料になるからである。そもそも大学院に進むかどうかから考えたい場合は化学系は大学院に行くべきかを、研究室の忙しさを事前に知っておきたい場合は化学系研究室のコアタイムと拘束時間を参照してほしい。

面接までの準備スケジュール

面接の準備は、筆記試験の勉強と並行して進めることになる。以下は面接日から逆算した準備の型である。筆記の勉強時間を削りすぎないよう、1日の中で短時間ずつ進めるのが現実的だ。

時期 やること
出願書類の作成時 志望理由書・研究計画書を書く。面接ではこの書類をもとに質問されることが多いので、口頭で説明できない内容は書かない。提出前にコピーを取る
面接の1か月ほど前 12問それぞれの骨格を箇条書きで作る。卒研の1分版・3分版を書く
2〜3週間前 口頭試問のテーマ表を、紙に機構を描きながら声に出して説明する練習。1テーマにつき「なぜ?」を3回
1〜2週間前 研究室の先輩・指導教員・友人に模擬面接を頼む。卒研の説明は時間を測る
前日 提出書類のコピーを読み返す。持ち物チェック。オンラインなら接続の最終確認
当日 新しいことは覚えない。卒研の1分版を1回だけ声に出す

模擬面接を頼むときは、「答えの中の語を拾って掘ってほしい」と伝えると効果が上がる。質問リストを順に読むだけの模擬面接では、本番で一番困る追加質問の練習にならない。有機化学の口頭試問の準備を体系的に進めたい場合は、反応を型で整理する有機化学の勉強法も役に立つ。

まとめ

院試の面接の要点
・確かめられるのは「2年間ここで研究を続けられるか」。質問は卒研・志望・基礎の3系統
・12問それぞれに「結論→理由→具体例」の骨格を作り、追加質問を自分で3段掘っておく
・卒研は1分版と3分版を同じ骨格で作る。厚くするのは「方法を選んだ理由」と「次の実験」
・口頭試問は反応の結果でなく「なぜ」を、機構を描きながら一段ずつ言う
・面接の形式・配点は研究科ごとに違う。募集要項と説明会で確認する

面接は筆記試験と違って、準備の量がそのまま当日の答えの具体性に表れる試験である。12問の骨格と卒研の2つの版を作り、それを声に出して誰かに掘ってもらう。この順番で進めれば、本番で初めて聞く質問が来ても、自分の言葉で考えながら答えられるはずだ。

よくある質問

院試の面接ではどんな質問をされることが多いですか?

化学系大学院の面接では、卒業研究の説明、大学院に進学する理由、志望する研究科・研究室を選んだ理由、大学院での研究計画、併願先、修了後の進路がよく聞かれます。研究科によっては専門分野の口頭試問が含まれ、有機化学系では反応機構を紙やホワイトボードに描いて説明させる形が典型的です。面接の有無・時間・形式は研究科と年度で異なるため、受験する年度の募集要項と入試説明会で確認してください。

院試の面接で卒業研究がまだ始まったばかりの場合はどう説明すればよいですか?

結果が無いことを隠さず、どこまで進んだかを正確に伝えるのが最善です。「現在は条件検討の段階で、先行研究の再現までは確認できた」のように到達点を述べ、研究の背景・目的・方法を選んだ理由・次に行う実験を中心に説明します。面接官も修士入試の時期に卒業研究が途中であることは分かっているので、結果の量よりも、研究の目的と方法を自分の言葉で説明できるかが評価の中心になります。

院試の面接で専門の質問に答えられなかったら不合格になりますか?

1問答えられなかっただけで不合格が決まるとは限りません。多くの研究科では筆記試験・書類・面接を合わせて判定しており、判定方法は募集要項の選抜方法の欄に書かれています。口頭試問では答えの正誤だけでなく考え方の過程も見られるため、分からない質問には、知っていることから推論の過程を声に出し、自信の無い部分はそう伝えるのがよい対応です。知っているふりをして断定するのは避けてください。

院試の面接の服装はスーツでないといけませんか?

研究科から服装の指定が無い限り、スーツを選んでおくのが無難です。スーツで減点されることは考えにくい一方、私服は面接官によって受け取り方が分かれるためです。「服装自由」「私服可」と案内されている場合も、清潔感のある落ち着いた服装であれば問題になりにくいでしょう。判断に迷うときは、研究室訪問の際にその研究室の先輩に前年の様子を聞くのが確実です。オンライン面接でも、上半身は対面と同じ服装にしておきます。

院試の面接で不合格フラグと言われる現象は本当に当たりますか?

面接中の様子から合否を推定できるという公開された根拠はありません。「面接が短かった」「厳しく突っ込まれた」「併願先を詳しく聞かれた」などの現象は、どれも正反対の解釈が成り立ちます。面接の進め方は面接官や研究科で違い、受験生の側からはその違いを観測できません。面接が終わったら手応えの分析は切り上げ、残りの試験科目や併願先の準備に時間を使うほうが結果につながります。

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