メソ体の見分け方|ラセミ体との違いと酒石酸の3異性体をわかりやすく解説
不斉炭素があれば、その分子はキラル——そう覚えていると必ず引っかかるのがメソ体(メソ化合物)です。不斉炭素を2つ以上もっているのに、分子全体としてはアキラルで、旋光性を示しません。
試験では「次のうちキラルなものをすべて選べ」という形で、メソ体を混ぜて出題されます。この記事では、目の前の構造式がメソかどうかをその場で判定できるようになることを目標にします。
先に結論——メソ体の判定は3ステップ
順番が大事です。1つ目で止まれば、それ以上考える必要はありません。
① 不斉炭素は2つ以上あるか?
│
├─ 0〜1個 → メソ体ではない(そこで終了)
│
└─ 2個以上
│
② 分子内に対称面(内部鏡面)があるか?
│
├─ ない → キラル。鏡像とは重ならない
│
└─ ある
│
③ ⇒ メソ体。不斉炭素はあるが分子全体はアキラル。旋光性なし
なぜ不斉炭素があるのに旋光しないのか
メソ体では、分子の片側ともう片側が互いに鏡像の関係になっています。つまり一方の不斉炭素が偏光を回す向きと、もう一方が回す向きがちょうど逆で、分子の中で打ち消し合っているのです。
よく「分子内ラセミ体」と表現されます。ただし次の節のとおり、ラセミ体とはまったく別物なので注意してください。
メソ体とラセミ体の違い——ここが最大の混同ポイント
どちらも旋光を示さないので同じに見えますが、一方は1種類の化合物、もう一方は2種類の混合物です。
| メソ体 | ラセミ体 | |
|---|---|---|
| 中身 | 単一の化合物 | エナンチオマー2種の等量混合物 |
| キラルか | 分子そのものがアキラル | 成分はどちらもキラル(混ざって相殺しているだけ) |
| 旋光性 | なし | なし(打ち消し合うため) |
| 光学分割 | できない(分けるべき相手がいない) | できる(分ければ旋光する) |
| 融点 | 単一の化合物としての融点を示す | 純粋な鏡像体とは異なる融点を示すことがある |
| 表記 | メソ-〇〇 | (±)-〇〇 または rac-〇〇 |
酒石酸で確かめる——同じ側ならメソ
典型例が酒石酸です。不斉炭素が2つあり、立体異性体は3種類存在します。
| 立体配置 | フィッシャー投影式での–OHの位置 | キラルか | 旋光性 |
|---|---|---|---|
| (2R,3S) | 2つが同じ側 | アキラル(メソ体) | 示さない |
| (2R,3R) | 2つが反対側 | キラル | 示す((+)体) |
| (2S,3S) | 2つが反対側(上と鏡像) | キラル | 示す((−)体) |
(2R,3R) と (2S,3S) は互いにエナンチオマーの関係です。そしてメソ体とこの2つはジアステレオマーの関係になります——鏡像ではない立体異性体だからです。
ジアステレオマーなので、メソ体は(+)体や(−)体と融点も溶解度も異なります。エナンチオマー同士((+)と(−))はこれらが一致するのと対照的で、ここが「分離できるかどうか」の分かれ目になります。
立体異性体の数——2n はいつ崩れるか
不斉炭素が n 個あるとき、立体異性体は最大で 2n 個です。ここで大事なのは「最大で」という部分です。
よくある誤解が「不斉炭素が2つなら異性体は3種類」というものですが、これは正しくありません。通常は 22 = 4種類で、3種類になるのは特別な場合だけです。
| 化合物 | 2つの不斉炭素が持つ置換基 | 立体異性体の数 | メソ体 |
|---|---|---|---|
| 2,3-ジブロモブタン | C2も C3も(CH3, Br, H, 相手の炭素)で同じ組 | 3種類 | ある |
| 2,3-ジブロモペンタン | C2は(CH3, Br, H, …)、C3は(C2H5, Br, H, …)で違う組 | 4種類(22のまま) | ない |
違いは2つの不斉炭素が同じ置換基の組を持っているかだけです。同じなら分子を半分に折ったときに重なる並べ方が1つ存在し、それがメソ体になります。その分だけ異性体の総数が1つ減って 4 → 3 になる、という理屈です。
判定でつまずく3点
① 対称面は「都合のよい形」で探してよい
単結合は回転するので、見ている配座にたまたま対称面が見えなくても、回転させれば対称面が現れる配座があるなら、その分子はメソ体です。
判定のときにフィッシャー投影式に直すことが勧められるのはこのためです。投影式は重なり形(eclipsed)で書く約束なので、対称面があるなら必ず見える向きになっています。
② 不斉炭素が3つ以上でもメソはありうる
「メソ体は不斉炭素が2つのときの話」と思われがちですが、違います。不斉炭素が奇数個あっても、分子全体に対称面があればメソ体です。判定基準はあくまで対称面の有無であって、不斉炭素の個数ではありません。
③ 「不斉炭素がある=キラル」ではない
この記事の出発点そのものですが、答案で最も多い失点です。キラリティーは分子全体の性質で、不斉炭素はその原因のひとつにすぎません。逆に、不斉炭素が1つも無くてもキラルな分子(アレン類やビアリール類)も存在します。全体像はキラリティーとはにあります。
練習問題
解答:2つ以上の不斉炭素をもちながら、分子内に対称面があるために分子全体としてはアキラルで、旋光性を示さない単一の化合物です。
解答:メソ体は単一の化合物でそれ自体がアキラルなので、光学分割できません。ラセミ体はキラルな化合物2種(エナンチオマー)の等量混合物で、分割すれば旋光性を示す成分が得られます。
解答:通常は4種類(22)です。2つの不斉炭素が同じ置換基の組を持つ場合に限り、メソ体が現れて3種類になります。酒石酸や2,3-ジブロモブタンが後者にあたります。
解答:主鎖を縦にして–COOHを上下に置いたとき、2つの–OHが同じ側(両方とも右、または両方とも左)に並びます。上下の中央で折り返すと重なります。立体配置は(2R,3S)です。
解答:ジアステレオマーです。鏡像の関係ではない立体異性体だからです。そのため融点や溶解度といった物理的性質が異なり、再結晶などで分離できます。
まとめ
次に読むべき記事
- フィッシャー投影式の書き方——メソ判定に使う「折り返し」の土台。R/S判定の例題つき
- キラリティーとは?R/S表記と鏡像異性体——「不斉炭素があるのにアキラル」の前提になる考え方
- ジアステレオマーとは——メソ体と(+)体の関係
- ラセミ体の光学分割——メソ体と混同しやすい相手
- 四面体中心の立体化学(完全解説)——立体化学を通しで整理したい場合はこちら
- エナンチオマーの性質
