反応が終わり、分液と濃縮を済ませて粗生成物が得られた。TLC を見ると、目的物のスポットのほかに原料と副生成物のスポットが並んでいる。ここから目的物だけを取り出す操作がカラムクロマトグラフィー(以下、カラム)です。有機合成の研究室では、精製の中心になる操作です。

この記事の答え
カラムクロマトグラフィーは、極性の高い化合物ほどシリカゲルに強く吸着されて遅く流れ出る性質を使い、混合物を流れ出る順に分けて集める精製法です。

手順書には「TLC で Rf 0.3 くらいになる溶媒で流す」「シリカは湿式で詰める」「試料は少ない溶媒で乗せる」と書いてあります。ところが理由を知らないまま真似すると、「スポットが尾を引いて混ざる」「途中でシリカにひびが入った」「いつまで流しても出てこない」と、どこで失敗したのか分からなくなります。

この記事では、カラムを「化合物がシリカゲルにくっついたり離れたりをくり返しながら進む」という1つの原理で見て、展開溶媒の決め方、詰め方、試料の乗せ方、分取とフラクションの確認、失敗の原因と対処までを説明します。

この記事で学ぶこと
・極性の高い化合物ほど遅く出てくる理由(シラノール基との相互作用)
・TLC の Rf から展開溶媒を決める考え方と、Rf を低めに合わせる理由
・湿式・乾式充填の違いと、シリカを乾かしてはいけない理由
・液体ロードと乾式ロードの使い分け、フラクションの TLC 確認
・テーリング、ひび割れ、分離しないときの原因と対処

カラムの原理:極性の高い化合物ほどシリカゲルに引き止められる

シリカゲルは二酸化ケイ素(SiO2)の多孔質な粒子で、表面にシラノール基(Si–OH)がたくさん出ています。このOH基は、化合物の極性の高い部分(OH、NH、C=O など)と水素結合や双極子どうしの相互作用で引き合います。

カラムの中で、化合物は「シリカゲル表面に吸着する」と「展開溶媒に溶けて流される」の2つの状態を何度も行き来しています。シリカゲルと強く相互作用する分子ほど吸着している時間が長く、そのぶん流される時間が短いので、カラムを下りる速さが遅くなります。こうして、極性の低い化合物から順に流れ出てきます。

展開溶媒の側も同じ吸着点を取り合っています。極性の高い溶媒(酢酸エチルやメタノール)はシラノール基に強く結びつくので、化合物を吸着点から押しのけます。そのため展開溶媒の極性を上げると、どの化合物も速く流れ出るようになります。どんな相互作用がどれくらい強いかは分子間力とは?で整理しています。

化合物の種類(おおよその目安) シリカゲルとの相互作用 流れ出る順
炭化水素(アルカン・芳香族炭化水素) ほぼ分散力のみで弱い 早い
ハロゲン化アルキル・エーテル 弱い双極子・水素結合の受容 ↓
エステル・ケトン・アルデヒド C=O の酸素が水素結合を受ける ↓
アルコール OH が水素結合を与えも受けもする ↓
アミド・アミン アミドは共鳴で C=O の酸素の電子が多く、強い水素結合を受ける。アミンは弱酸性のシラノール基と酸塩基的にも相互作用する ↓(アミンは尾を引きやすい。芳香族アミンは塩基性が弱く、もっと速く動く)
カルボン酸 シラノール基と非常に強い水素結合を作り、一部が電離した形も混ざる 遅い(尾を引きやすい)

この順は官能基1つで見た目安です。同じアミンでも、アニリンのような芳香族アミンは塩基性が弱いぶん、脂肪族アミンより速く動きます。実際の分子は複数の官能基と炭素骨格を持つので、最終的な順番は TLC で確かめます。逆に言えば、TLC とカラムは同じシリカゲルの上で同じ現象を見ているので、TLC の結果からカラムの結果を予想できます。これが「まず TLC で溶媒を決める」理由です。

逆相カラムでは順番が逆:表面を長い炭化水素鎖(C18 など)で覆ったシリカを使い、水とメタノールやアセトニトリルの混合溶媒で流す方法を逆相といいます。この場合は極性の高い化合物ほど先に出てきます。この記事で扱うのは、有機合成の精製で一般的な順相(未修飾のシリカゲル)です。

カラムの基本手順

カラムは下記の手順で進めます。

  1. TLC で展開溶媒を決める
  2. カラム管の太さとシリカゲルの量を決める
  3. シリカゲルを詰める(湿式または乾式)
  4. 試料を乗せる(液体ロードまたは乾式ロード)
  5. 展開溶媒を流してフラクションを集める
  6. フラクションを TLC で確認し、まとめて濃縮する

TLC で展開溶媒を決める

目的物の Rf は低めに合わせる

展開溶媒は、TLC で目的物の Rf が 0.2〜0.35 前後になる組成を目安に選ぶ、と実験書ではよく説明されます。フラッシュカラムを提案した Still らの論文(1978年)では、目的物の Rf が約 0.35 になる溶媒が推奨されています。ここで大事なのは数字そのものより、なぜ Rf を低めに合わせるのかです。

TLC の Rf は「化合物が溶媒先端の何割の速さで進むか」を表しています。カラムでも化合物は溶媒のおよそ Rf 倍の速さで下りていくと考えると、カラムの長さを進み切るには、カラムの空隙を満たす溶媒量(カラム体積、CV)のおよそ 1/Rf 倍の溶媒を流す必要があります。この近似は TLC の条件とカラムの条件が完全には一致しないので目安にとどまりますが、溶媒選びの理由はこれで説明できます。

Rf 0.5 と 0.4 の2成分を、そのままの溶媒と、もう少し極性の低い溶媒(それぞれ Rf 0.25 と 0.15 になったとする)で流した場合を比べます(計算のためのモデルです)。

展開溶媒 成分A 成分B 出てくるまでの差
極性が高め Rf 0.5 → 約 2 CV Rf 0.4 → 約 2.5 CV 約 0.5 CV
極性が低め Rf 0.25 → 約 4 CV Rf 0.15 → 約 6.7 CV 約 2.7 CV

TLC 上の Rf の差は同じ 0.1 でも、Rf が低い領域では出てくるまでの溶媒量の差が大きく開きます。Rf が高いと、2つのバンドがカラムの中で離れる前に出口へ着いてしまうのです。反対に Rf を低くしすぎると、流す溶媒が増えて時間がかかり、カラムの中にいる時間が長いぶんバンドが拡散して幅広くなります。0.2〜0.35 前後という目安は、この2つの兼ね合いです。

Rfが高い場合と低い場合の比較。Rf 0.5と0.4の成分は出てくるまでの差が約0.5 CV、Rf 0.25と0.15では約2.7 CVと、Rfが低いほどバンドが離れる

溶媒の組み合わせの選び方

展開溶媒は、極性の低い溶媒と高い溶媒を混ぜて極性を調節するのが基本です。最初の候補はヘキサン/酢酸エチルで、比を変えながら TLC を何枚か展開します。

溶媒 シリカゲル上での溶出力(おおよその順)
ヘキサン・ペンタン・石油エーテル 弱い
トルエン ↓
ジクロロメタン ↓
ジエチルエーテル ↓
酢酸エチル ↓
アセトン ↓
メタノール 強い

この並びはシリカゲルでの目安です。ジエチルエーテルと酢酸エチルのように近い位置にある溶媒どうしは、測り方や分ける化合物によって順序が入れ替わることがあります。

  • Rf が高すぎる(スポットが上に寄る):酢酸エチルの割合を下げる
  • Rf が低すぎる(原点からほとんど動かない):酢酸エチルの割合を上げる。酢酸エチルだけでも動かない極性の高い化合物は、ジクロロメタン/メタノールに切り替える
  • Rf はちょうどよいが、隣のスポットと重なる:比を変えても重なったまま動くことがある。このときは溶媒の種類を変える(ヘキサン/ジエチルエーテル、トルエン/酢酸エチル、ジクロロメタン/酢酸エチルなど)

最後の項目が起こるのは、溶媒ごとに得意な相互作用が違うからです。酢酸エチルは水素結合の受容体として、ジクロロメタンは双極子として、トルエンは芳香環との相互作用として吸着点を取り合います。極性の「強さ」が同じでも、どの化合物を押し出しやすいかという選択性が溶媒ごとに違うので、組み合わせを変えると重なっていた2つが離れることがあります。

TLC は目的物だけでなく、すぐ上下のスポットで判断する:分けたいのは目的物と、その直上・直下にある不純物です。それ以外のスポットが遠く離れていても、分離の難しさは近い2つで決まります。Still らの論文では、Rf の差がおよそ 0.15 以上ある成分の分離が想定されています。差がそれより小さいときについて、同論文はカラムを長くするか、極性を少し下げて目的物の Rf を 0.25 程度にすることを挙げています。溶媒の種類を変えて差を広げるのも1つの手です。

Rf の計算方法やスポットの見方、発色の方法はTLC の記事で詳しく扱います。

カラム管とシリカゲルの量を決める

シリカゲルの量は、試料の量と分離の難しさで決めます。実験書では試料の重さの数十倍程度からという目安がよく示され、TLC で近いスポットを分けたいときほど多くします。シリカの量を増やすと、化合物が吸着と脱着をくり返す回数が増えてバンドどうしが離れやすくなり、同時にシリカ1粒あたりに乗る試料が減ってバンドの形が崩れにくくなるからです。

カラム管は、決めたシリカを詰めたときに高さが十分取れ、上に溶媒をためる空間が残る太さを選びます。太すぎるとシリカの層が低くなって分離が悪くなり、細すぎると試料を乗せたときのバンドが厚くなります。研究室ごとに「この量ならこの管」という目安があるので、最初は先輩の条件を確認するのが確実です。

管の下端には綿かガラスウールを軽く詰めてシリカが落ちないようにし、その上に薄く海砂を敷いて表面を平らにします。綿を強く押し込みすぎると、溶媒が流れにくくなります。

カラム管の断面図。下から綿、海砂、シリカゲル、海砂、試料のバンド、展開溶媒の液面の順に重なり、液面を砂の表面より下げないことを示す

シリカゲルの詰め方:湿式と乾式

カラムの分離の良し悪しは、シリカゲルがすき間なく均一に詰まっているかに大きく左右されます。詰め方にむらがあると、溶媒は抵抗の小さいところを選んで流れ、バンドが斜めになったり割れたりするからです。

湿式充填(スラリー法)

  1. ビーカーにシリカゲルを量り取り、展開溶媒(極性の低い側の組成)を加えてかき混ぜ、流動性のあるスラリーにする
  2. カラム管に溶媒を少し入れておき、スラリーを一気に流し込む。ビーカーに残ったシリカは溶媒で洗い込む
  3. コックを開けて溶媒を流しながら、管の側面を軽くたたいてシリカを沈ませる。必要なら上から軽く加圧して締める
  4. シリカの表面が平らになったら、表面の少し上まで溶媒を残してコックを閉める。液体ロードで乗せる場合は、ここで表面に海砂を薄く敷く(乾式ロードの場合は、試料の粉を乗せてから砂を敷く)

湿式が勧められる理由は、シリカが溶媒に濡れるときに出る熱と気泡を、カラムに入れる前のビーカーの中で済ませられるからです。シリカゲルの表面に溶媒が吸着すると熱が出ます(濡れの熱)。これがカラムの中で起こると、局所的に温まった溶媒が気化して気泡になり、ひび割れの原因になります。

乾式充填

乾いたシリカゲルを管に入れ、たたいて詰めたあと、上から展開溶媒を流して(多くは加圧して)全体を濡らす方法です。スラリーを作る手間が無く、Still らの原法でも、乾いたシリカを詰めてから溶媒を満たし、加圧してシリカの中の空気を押し出しています。ただし濡らすときに熱と気泡が出やすく、乾いた粉を扱うので粉じんも舞いやすくなります。最初に極性の低い溶媒で濡らし、全体が透明に濡れて気泡が抜けたことを確かめてから使います。表面に砂を敷くタイミングは湿式と同じです。

比べる点 湿式充填 乾式充填
均一に詰まりやすさ 詰まりやすい 慣れが要る
濡れの熱・気泡 ビーカーで済ませられる カラム内で出る
粉じん 量り取りのときだけ 管に入れるときも舞う
手間 スラリー作りが要る 少ない
詰めたら最後まで、液面をシリカ(砂)の表面より下げない:溶媒が表面より下がると、シリカのすき間に空気が入り込みます。空気の通り道ができると溶媒はそこを優先して流れ、バンドが崩れます(ひび割れ・チャネリング)。試料を乗せるときは液面を表面ちょうどまで下げますが、それより下げません。コックを開けたまま目を離さない、を習慣にしましょう。

試料の乗せ方:液体ロードと乾式ロード

カラムの出口で2つの成分が分かれるかどうかは、スタート時点のバンドの厚さに大きく左右されます。最初から厚いバンドで乗せると、どれだけ長く流しても隣の成分と重なったまま出てきます。乗せ方の工夫は、すべて「試料を薄く平らな層にして、シリカ層の上端に置く」ためのものです。

液体ロード

粗生成物をできるだけ少量の展開溶媒(溶けなければ、少しだけ極性の高い溶媒やジクロロメタン)に溶かし、あらかじめ液面を砂の表面ちょうどまで下げておき、ピペットで管壁に沿わせるように砂の上へ静かに乗せます。乗せたらコックを開けて液面を再び砂の表面まで下げ、少量の展開溶媒で容器と管壁を2〜3回洗い込んで、試料をすべてシリカに吸わせてから本格的に流し始めます。

溶かす溶媒の量と極性が問題になるのは、乗せた溶媒そのものが最初の展開溶媒としてはたらくからです。極性の高い溶媒にたっぷり溶かして乗せると、その溶媒が流れ下る間、化合物は吸着されずに一緒に運ばれ、バンドが縦に引き伸ばされます。

乾式ロード

粗生成物が展開溶媒に溶けにくいとき、または溶かすのに極性の高い溶媒がたくさん要るときは、乾式ロードを使います。

  1. 粗生成物を、よく溶ける溶媒(ジクロロメタン、アセトンなど)に溶かす
  2. 試料の数倍量のシリカゲル(またはセライト)を加えて混ぜる
  3. エバポレーターで溶媒を完全に除き、さらさらの粉にする
  4. カラムの液面をシリカの表面ちょうどまで下げ、この粉をシリカの上に平らに乗せて、上に海砂を敷く。砂を乱さないように展開溶媒を静かに満たす

溶媒を除いてしまうので、試料を溶かした溶媒がバンドを引き伸ばす問題が起こりません。粉が湿っていたり塊が残っていたりすると、そこから先に溶け出してバンドが乱れるので、さらさらになるまで乾かします。

エバポレーターで粉が飛ぶ:シリカを含む溶液を急に減圧すると、突沸して粉がトラップや装置に吹き上がります。フラスコに入れる量は少なめにし、トラップ(突沸よけ)を付け、減圧はゆっくりかけます。

溶出とフラクションの取り方

試料を乗せたら、砂の層を乱さないように展開溶媒を管壁に沿わせて静かに注ぎ、流し始めます。出てきた溶出液を試験管に一定量ずつ分けて受けます。この1本1本をフラクションといい、試験管立てに番号順に並べておきます。

1本あたりの量は、カラムの大きさに合わせて決めます。細かく分けるほど混ざったフラクションを減らせますが、TLC で確認する本数が増えます。2つのバンドが近いと予想されるときは、そのあたりだけ細かく取ると無駄がありません。

溶媒の極性は段階的に上げる

同じ組成の溶媒で最後まで流す方法(定組成)のほかに、途中で極性の高い組成に切り替えて、遅い成分を早く出す方法(グラジエント)があります。切り替えるときは、少しずつ段階的に上げます。急に上げてはいけない理由は2つあります。

  • まだ出ていない成分がまとめて押し出される:極性の高い溶媒は、吸着しているすべての化合物を一度に吸着点から押しのけるので、離れていたバンドが追いつき合って一緒に出てくる
  • 熱が出て気泡とひびが入る:極性の高い溶媒(特にメタノール)がシリカに吸着するときに熱が出る。極性の低い溶媒で平衡になっていたシリカに急に流し込むと、カラムの中で温まって気泡が生じ、シリカの層が割れる

TLC でフラクションを確認してまとめる

フラクションに何が入っているかは、見た目では分かりません(色の付いた化合物を除く)。1本ずつ、または1本おきに TLC プレートにスポットし、カラムに使ったのと同じか、少し極性の高い展開溶媒で展開します。1枚のプレートに数本ずつ並べ、粗生成物と標品(あれば)を同じプレートに並べると、どのスポットが目的物か迷いません。

  1. 目的物のスポットだけが見えるフラクションを、1つのフラスコにまとめる
  2. 隣の成分と混ざったフラクションは、別のフラスコにまとめる(量が多ければ再カラムする)
  3. まとめたものを濃縮し、重さを量って NMR などで純度を確かめる

UV ランプ(254 nm)で見えない化合物もあります。紫外線を吸収する共役系や芳香環を持たない化合物は、蛍光剤入りのプレートでも暗いスポットにならないので、発色試薬で確認します。目的物が UV で見えるかどうかは、カラムを始める前の TLC で確かめておきます。

レポートや実験ノートに TLC の結果を書くときは、Rf 値と、その値を得た展開溶媒・プレートをセットで書きます。書き方の例は実験レポートの書き方の TLC の節にあります。カラムの条件も同様に、シリカゲルの量と展開溶媒の組成(グラジエントなら切り替えた順)を記録しておくと、再現と再カラムが楽になります。

よくある失敗と対処

症状 主な原因 対処
テーリング(尾を引く) アミンやカルボン酸と酸性のシラノール基の強い相互作用、試料の乗せすぎ アミンには少量のトリエチルアミン、カルボン酸には少量の酢酸を展開溶媒に加える。試料を減らす
ひび割れ・気泡 溶媒が表面より下がった、極性を急に上げた、乾式充填の濡れの熱 溶媒を切らさない、極性は段階的に上げる、湿式で詰める
分離しない Rf が高すぎる、Rf の差が小さい、乗せたバンドが厚い、試料が多すぎる 溶媒の極性を下げる、溶媒の種類を変える、乾式ロード、シリカを増やす
いつまでも出てこない 溶媒の極性が低すぎる、シリカゲル上で分解した 極性を段階的に上げる、2次元 TLC で安定性を確かめる
バンドが斜めになる 管が傾いている、表面が平らでない、試料を乗せるときに表面を崩した 管を垂直に固定する、砂を敷く、管壁に沿わせて静かに注ぐ

テーリング:なぜアミンとカルボン酸で起こるのか

シリカゲルのシラノール基は弱い酸としてはたらきます。アミンのような塩基性の化合物は、水素結合に加えて酸塩基的にも強く引きつけられ、吸着点から離れにくくなります。吸着の強い点に捕まった分子だけが遅れるので、スポットやバンドの後ろ側が尾を引きます。展開溶媒にトリエチルアミンを少量(0.5〜1%程度がよく使われます)加えると、トリエチルアミンが先に酸性の吸着点をふさぐので、目的のアミンが尾を引きにくくなります。

カルボン酸は、シリカ上で一部が解離したり、強く水素結合したりして、吸着の強さがそろわなくなります。展開溶媒に少量の酢酸を加えると解離が抑えられ、カルボン酸が中性の分子のままそろって動くので、スポットが締まります。どちらの場合も、加えた添加剤は目的物と一緒に出てくるので、濃縮しただけでは残ることがあります。酢酸は沸点が高めで残りやすく、トルエンを加えて共沸させて除く方法が使われます。トリエチルアミンも塩になって残ることがあるので、NMR で残っていないかを確かめます。

試料の乗せすぎでもテーリングは起こります。吸着点の数には限りがあるので、試料が多すぎると強い吸着点が埋まり、あふれた分子が先へ進んでバンドの形が崩れます。

シリカゲル上で分解していないか確かめる

シリカゲルは弱い酸性なので、アセタールや TMS エーテルのような酸に弱い化合物は、カラムの中で分解することがあります。「流しても出てこない」「出てきた量が少ない」「TLC に無かったスポットが出てきた」ときは、2次元 TLC で確かめます。正方形のプレートの角に試料を1点スポットして展開し、乾かしてから90°回転させて同じ溶媒でもう一度展開します。安定な化合物はプレートの対角線上に並び、展開中に分解した化合物は対角線から外れた位置にスポットが出ます。分解するときは、トリエチルアミンで中和したシリカや、アルミナなど別の固定相を検討します。

フラッシュカラムと重力式カラムの違い

溶媒を重力だけで流す方法(重力式、オープンカラム)に対し、上から空気や窒素で軽く加圧して流す方法をフラッシュカラムクロマトグラフィーといいます。1978年に Still らが J. Org. Chem. で報告した方法で、粒径の小さいシリカと加圧の組み合わせで、短時間で分けられるのが特徴です。

比べる点 重力式 フラッシュ
シリカゲルの粒径(代表例) 63〜200 μm(70〜230 メッシュ) 40〜63 μm(230〜400 メッシュ)
溶媒の流し方 重力のみ 上から軽く加圧
所要時間 長い 短い
分離能 粒径が大きく、時間がかかるぶん拡散でバンドが広がる 粒径が小さく、バンドが締まりやすい

Still らは同じ論文で、シリカの粒径と流速を変えて分離を比べ、70〜230 メッシュのシリカは調べた中で分離が最も悪く、40〜63 μm で流速をある程度速く保つと分離がよいことを示しました。粒径が小さいほど、化合物が粒の内部まで出入りする距離が短くなり、吸着と脱着の平衡に素早く追いつけるので、バンドが広がりにくくなります。一方で、細かい粒のすき間は狭く、溶媒が重力だけではほとんど流れません。そこで加圧して流速を上げる、というのがフラッシュの考え方です。速く流せば、拡散でバンドが広がる時間も短くなります。

近年は、充填済みのカートリッジにポンプで溶媒を送り、UV 検出器で溶出を見ながら自動でフラクションを取る装置(自動フラッシュ精製装置)も使われます。装置でも原理は同じで、展開溶媒の条件は TLC から決めます。

安全上の注意

カラムは、大量の有機溶媒と微粉末を扱い、ときに加圧もする操作です。研究室の規則と SDS を確認したうえで、次の点に気をつけます。保護めがね・白衣・手袋は、カラムに限らず実験中は常に着けます。SDS の読み方はSDS のまとめ方で扱っています。

  • シリカゲルの粉じん:シリカゲルは非晶質の二酸化ケイ素ですが、粒子が細かく舞いやすく、吸い込むと呼吸器を刺激します。くり返し吸い込まないよう、量り取り・充填・乾式ロードの粉の扱いはドラフト内で静かに行い、研究室の規則に従って防じんマスクなどの保護具を着けます。使用済みのシリカや乾式ロードの粉は、化合物も吸着しているので同じように扱います。こぼした粉は乾いたまま掃かず、濡らして拭き取ります
  • 有機溶媒の蒸気:ヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどは引火しやすく、1回のカラムで使う量も多くなります。溶媒の補充、フラクションの受け取り、濃縮までドラフト内で行い、近くで火気や火花の出る機器を使いません。ヘキサン(n-ヘキサン)はくり返し吸い込むと神経への影響があり、ジクロロメタンは有害性が高く手袋も透過しやすいので、蒸気を吸わない・皮膚に付けないよう特に注意します。ジエチルエーテルは古いものに過酸化物がたまることがあるので、濃縮乾固する前に研究室の管理ルールを確認します
  • 加圧するとき:ガラスのカラム管は、傷やひびがあると加圧で割れることがあります。耐圧の管を使い、傷が無いことを確かめ、継ぎ目はクリップで固定します。加圧はポンプやレギュレーターで低い圧から少しずつかけ、下のコックを閉じたまま加圧しないこと、溶媒を足すときは先に圧を抜くことを守ります。研究室によっては、管を保護ネットやテープで覆う、シールドを置くといった決まりがあります
  • TLC の確認:UV ランプ(254 nm)の光は目や皮膚を傷めるので、光源を直接見ず、UV を通さない保護めがねやのぞき窓付きの箱を使います。発色試薬には濃硫酸などを含むものがあり、ヒートガンで加熱するときは、近くに引火しやすい溶媒を置きません
  • 使用済みのシリカゲル:溶媒と化合物を含んでいます。研究室の廃棄ルールに従って処理し、溶媒が残ったまま一般のごみ箱へ捨てません

まとめ

・カラムは、極性の高い化合物ほどシリカゲルのシラノール基に引き止められて遅く出てくる現象を使う
・展開溶媒は TLC で決め、目的物の Rf は 0.2〜0.35 前後を目安に低めに合わせる(Rf が低いほど出てくるまでの溶媒量の差が開く)
・シリカは均一に詰め(初めてなら湿式が扱いやすい)、詰めたら液面を表面より下げない
・試料は薄い層で乗せる。溶けにくい試料や極性の高い溶媒が要る試料は乾式ロード
・極性は段階的に上げ、フラクションは TLC で確かめてからまとめる

カラムの失敗の多くは、「バンドが厚くなった」か「溶媒の流れが乱れた」のどちらかに行き着きます。原理が分かっていれば、うまくいかなかったときにどの工程を直せばよいかを自分で判断できるようになります。精製のもう1つの柱である再結晶は、固体の目的物で使える方法です。カラムの前の後処理は分液漏斗の使い方を参照してください。

よくある質問

カラムクロマトグラフィーの展開溶媒はどうやって決めればよいですか?

TLC でいくつかの組成を試し、目的物の Rf が 0.2〜0.35 前後になり、すぐ上下の不純物のスポットと離れる組成を選ぶのが目安です。最初はヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒で比を変えて調べ、Rf が低すぎて動かない化合物にはジクロロメタンとメタノールの混合溶媒を使います。比を変えても2つのスポットが重なったまま動く場合は、溶媒の種類を変えると分かれることがあります。

カラムでは極性の高い化合物と低い化合物のどちらが先に出てきますか?

シリカゲルを使う順相のカラムでは、極性の低い化合物が先に出てきます。シリカゲル表面のシラノール基は、極性の高い化合物と水素結合などで強く相互作用するので、極性の高い化合物ほど吸着している時間が長く、カラムを下りる速さが遅くなるためです。表面を炭化水素鎖で覆った逆相のカラムでは、順番が逆になります。

シリカゲルの湿式充填と乾式充填はどちらがよいですか?

初めて詰める場合は湿式充填(スラリー法)が扱いやすい方法です。シリカゲルが溶媒に濡れるときに出る熱と気泡を、カラムに入れる前のビーカーの中で済ませられるので、均一に詰まりやすく、ひび割れが起こりにくくなります。乾式充填は手間が少ない反面、カラムの中で濡れの熱と気泡が出やすく、粉じんも舞いやすいので慣れが必要です。

カラムでアミンのスポットが尾を引くのはなぜですか?

シリカゲル表面のシラノール基が弱い酸としてはたらき、塩基性のアミンを強く引きつけるためです。強い吸着点に捕まった分子だけが遅れるので、バンドの後ろ側が尾を引きます(テーリング)。展開溶媒にトリエチルアミンを少量加えると、トリエチルアミンが先に酸性の吸着点をふさぐので、アミンが尾を引きにくくなります。カルボン酸の場合は、少量の酢酸を加えます。

フラッシュカラムと普通のカラムの違いは何ですか?

フラッシュカラムは、粒径の小さいシリカゲル(代表例は40〜63 μm)を使い、上から空気や窒素で軽く加圧して溶媒を流す方法です。粒径が小さいほど吸着と脱着の平衡が速く、バンドが広がりにくい一方、溶媒が重力だけでは流れにくくなるので加圧します。重力だけで流すカラムより短時間で、分離もよくなります。1978年に Still らが報告しました。

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