13C NMRとDEPTの読み方|本数で対称性・四級炭素を見抜く【院試対策】

1H NMR は水素の地図を与えますが、水素を持たない炭素については何も教えてくれません。四級炭素、カルボニル炭素、三置換・四置換アルケンの炭素——骨格のつなぎ目には、たいてい水素がありません。
そこを埋めるのが 13C NMR です。そして 13C には、1H にはない使い方があります。シグナルの本数を数えるだけで、分子の対称性が読めるのです。
この記事では、13C が測りにくい理由から、本数の数え方、DEPT による級数の判定までを扱います。
13Cはなぜ測りにくいのか
13C NMR には、1H にはない障害が2つあります。
核スピンを持つのは、陽子数か中性子数のどちらかが奇数の核です。13C(陽子6・中性子7)は測れますが、12C(陽子6・中性子6)は測れません。16O も同じ理由で見えません——エーテルの酸素そのものはNMRに映らないのは、このためです。
1回の測定ではノイズに埋もれて何も見えません。これを解決したのが2つの技術です。
| 技術 | やっていること | 効き方 |
|---|---|---|
| 信号平均 | 同じ測定を数百–数千回くり返して足し合わせる | ノイズはランダムなので相殺され、シグナルは積み上がる |
| FT-NMR(フーリエ変換) | パルスで全周波数を一度に照射し、応答をまとめて取ってから周波数に分解する | 周波数を1つずつ掃引する方式より劇的に速い |
この2つがそろって、数時間で数千回の積算ができるようになりました。感度の差はいまも残っていて、実務では「1H は1分、同じ試料量の 13C は十数時間」という感覚になります。「13C を測るなら試料を多めに用意する」という経験則は、この数字から来ています。
なぜ一重線ばかりなのか——デカップリング
13C も隣の 1H とカップリングします。しかし通常の 13C スペクトルでは、すべてのシグナルが1本の鋭い線です。理由は測り方にあります。
ブロードバンドデカップリング——炭素を観測しているあいだ、プロトンの全共鳴周波数をカバーする第2のラジオ波を当てつづけます。プロトンのスピンが高速で反転し続けるので、炭素から見た局所磁場は平均してゼロになり、カップリングが消えます。
13Cの化学シフト——範囲が広いから重ならない
13C の測定範囲は δ 0–220 で、1H(0–12)の20倍近くあります。これが大きな利点です——シグナルが重なりにくく、炭素をほぼ全部分離して数えられます。
| 炭素の種類 | δ |
|---|---|
| アルキル(sp3) | 0–50 |
| ハロゲン・窒素・酸素に結合した sp3 炭素 | 40–90 |
| アルキン(sp) | 65–90 |
| 芳香族・アルケン(sp2) | 110–160 |
| カルボニル(C=O) | 160–220 |
読み方の原則は 1H と同じです——電子が薄いほど左(低磁場)。混成が sp3 から sp2 へ変わり、電気陰性な原子が付くほど左へ動きます。
C=O の位置で種類が分かれるのは、赤外分光法で C=O 伸縮の波数が官能基を教えるのと同じことです。まったく別の原理から同じ結論が出るので、両方そろえば帰属は確実になります。
本数を数える——13Cは対称性を見せる
13C NMR のいちばん単純で強力な使い方は、線の本数を数えることです。
シグナルの本数 = 化学的に非等価な炭素の種類の数。
これが構造の絞り込みに直結します。ジクロロベンゼンの3つの異性体を見てください。
| 異性体 | 非等価な炭素 | 13C の本数 |
|---|---|---|
| ortho-(1,2-) | 3種類 | 3 |
| meta-(1,3-) | 4種類 | 4 |
| para-(1,4-) | 2種類 | 2 |
分子式はどれも C6H4Cl2 で同じ、赤外でも紫外でも決めにくい3つが、線を数えるだけで区別できます。
反応の生成物確認にそのまま使える
1-クロロ-1-メチルシクロヘキサンを強塩基で処理すると、2つのアルケンが生じえます。
1-メチルシクロヘキセン(環内・三置換) sp3 5本 / sp2 2本 ← 対称面がない メチレンシクロヘキサン(環外・末端) sp3 3本 / sp2 2本 ← 左右対称
sp3 領域の本数(5 か 3)を数えるだけで、どちらができたかが決まります。1H では環のメチレンが δ 1.5–2.1 に重なって出るので、積分も分裂も読みにくい——13C の広い測定範囲が効く場面です。
13Cは積分できない
1H と違って、13C のピーク面積は炭素の個数に比例しません。理由は2つあります。
したがって「ピークが小さいから炭素が1個」ではありません。むしろ「小さいピークは四級炭素かもしれない」と読むのが正しい方向です。個数は 1H の積分と分子式から出します。
DEPT——炭素の級数を決める
デカップリングで捨てた「水素が何個ついているか」を取り戻す測定が DEPT(Distortionless Enhancement by Polarization Transfer)です。
使い方は3枚のスペクトルを見比べるだけです。
| スペクトル | CH3 | CH2 | CH | 四級 C |
|---|---|---|---|---|
| 通常の 13C | 出る | 出る | 出る | 出る |
| DEPT-90 | — | — | 正で出る | — |
| DEPT-135 | 正 | 負 | 正 | 消える |
やってみる——C4H10O
13C が3本(δ 19.0・31.7・69.5)とします。
① 炭素4個に対して線が3本 → 2個が等価 ② DEPT-90 に 31.7 が出る → 31.7 は CH ③ DEPT-135 で 69.5 が負 → 69.5 は CH2(しかも δ 69.5 = 酸素の隣) ④ 19.0 は正で DEPT-90 になし → CH3(等価な2個) → (CH3)2CH−CH2OH = 2-メチル-1-プロパノール
DEPT だけで構造が決まりました。本数・級数・化学シフトの3つが同時に効いた例です。
DEPT-90 が空であることも情報になる
DEPT-90 にシグナルが1本も出なければ、その分子にCHは存在しない——つまり分岐がありません。「ないこと」が構造を絞るのは、赤外で吸収がないことが官能基の不在を示すのと同じ型です。
13Cのあとに何をするか
13C と DEPT で分かるのは「炭素が何種類あり、それぞれ何個の水素を持つか」までです。どうつながっているかは、2次元測定の仕事になります。
| 測定 | 結ぶもの | 使いどころ |
|---|---|---|
| COSY | H と H(カップリング) | 水素の鎖をたどる |
| HSQC | 1結合の H と C | 帰属の対応表を作る |
| HMBC | 2–3結合先の H と C | 水素のない炭素をまたいで断片をつなぐ |
骨格のつなぎ目には水素がないことが多いので、構造決定の決め手は HMBC になります。各測定の中身は二次元NMR(COSY・HSQC・HMBC・NOESY)で扱っています。1H 側の読み方は一次元NMRとNMR分光法による構造決定を参照してください。
大学院入試での問われ方
「13C の感度が低い理由を2つ述べよ」
→ 天然存在比 1.1% と、磁気回転比が小さいこと
「通常の 13C スペクトルが一重線ばかりになる理由を述べよ」
→ ブロードバンドデカップリングで 1H の局所磁場を平均ゼロにしている
「C6H4Cl2 の 13C が2本。どの異性体か」
→ para 体(非等価な炭素が2種類)
「13C で積分してはいけない理由を述べよ」
→ 緩和時間と核オーバーハウザー効果の差で、面積が炭素数に比例しない
「DEPT-135 で下向きのシグナルは何か」
→ CH2
「通常の 13C にあって DEPT-135 にないシグナルは何か」
→ 四級炭素
「δ 77 に3本の線がある。これは何か」
→ 重クロロホルムの溶媒シグナル。試料の本数に数えないまとめ
よくある質問
理由は2つあります。第一に、炭素の大部分は核スピンを持たない12Cであり、測定できる13Cは天然に1.1パーセントしか存在しません。第二に、13Cの磁気回転比が小さく、検出感度はその3乗に比例するため大きく不利になります。合わせると実効感度は1Hの約1.8掛ける10のマイナス4乗倍で、信号平均とフーリエ変換NMRによってはじめて実用的な測定が可能になりました。
ブロードバンドデカップリングという測定法を使っているからです。炭素を観測しているあいだ、プロトンの全共鳴周波数をカバーする第2のラジオ波を照射し続けると、プロトンのスピンが高速で反転して炭素から見た局所磁場が平均ゼロになり、カップリングが消えます。分裂を捨てることで、もともと弱いシグナルの感度を確保しています。
化学的に非等価な炭素の種類の数が分かります。炭素の総数より本数が少ない場合、それは分子に対称性があることを示します。たとえばジクロロベンゼンの3つの異性体は分子式が同じですが、オルト体は3本、メタ体は4本、パラ体は2本になるため、線を数えるだけで区別できます。赤外や紫外では決めにくい判別が、これで可能になります。
分かりません。緩和時間が炭素ごとに違うことと、デカップリングにともなう核オーバーハウザー効果の受け方が結合水素の数に依存することの2つの理由で、ピーク面積が炭素数に比例しないからです。実際には水素を多く持つ炭素ほど強く、四級炭素は弱く出ます。小さいピークを見たら個数が少ないと考えるのではなく、四級炭素を疑うのが正しい読み方です。
通常の13Cスペクトルには現れるのに、DEPT-135には現れないシグナルが四級炭素です。DEPTは水素から炭素への磁化移動を利用するため、水素が結合していない炭素は信号を持ちません。同じ原理で、DEPT-90に現れるのはメチン、DEPT-135で下向きになるのはメチレン、上向きでDEPT-90に出ないものがメチル基となります。
重クロロホルムの溶媒シグナルです。重水素との核スピン結合によって3本に分裂して観測されます。試料自身のシグナルではないので、炭素の本数を数えるときには除外します。重ジメチルスルホキシドを溶媒に使った場合は、δ39.5付近に5本に分裂した溶媒シグナルが現れます。溶媒を変えると位置と本数が変わることを覚えておくと迷いません。









