共鳴構造の書き方:電子はどこまで動かせる?
共鳴(resonance)が分かると、有機化学が「暗記」から「理解」に変わります。
酸性度(pKa)、中間体の安定性、反応点(求核/求電子)、配向性まで、共鳴はあらゆる判断の土台です。
このページでは、共鳴構造を“正しく・速く・試験で使える形”で描くための作法をテンプレ化します。
この記事でできること
- 共鳴構造で「動かせるのは電子だけ」という大原則を守れる
- 正しい曲矢印(出発点・到着点)で共鳴構造を量産できる
- どの共鳴構造が重要(寄与が大きい)かを判断できる
- 共鳴から「反応点」と「安定性」を説明できる
先に結論(ここだけ読めばOK)
- 共鳴で動かせるのは電子のみ(原子骨格は固定)
- 曲矢印は電子対の移動(出発点=孤立電子対/負電荷/π結合、到着点=結合形成先 or 孤立電子対化)
- 共鳴構造は「同じ分子・同じ原子配置・同じσ骨格」
- 寄与が大きいのは「八電子則を満たす」「電荷分離が小さい」「電荷が適切な原子にある」構造
- 負電荷が共鳴で分散できるほど安定(=酸性度が上がる/求核性が変わる)
共鳴とは何か(試験用の最短定義)
共鳴構造は「実在する別分子」ではなく、1つの分子の電子配置を複数の描き方で表したもの。
実際の分子は、複数の共鳴構造を“混ぜた”状態(共鳴混成体)として存在します。
だから共鳴は「平衡」ではなく、矢印も ⇄ ではなく共鳴矢印(↔)を使います。
大原則:共鳴で動かせるのは電子だけ
動かしていいもの
- π結合の電子(π電子)
- 孤立電子対
- 負電荷(=余分な電子対)
動かしてはいけないもの
- 原子そのもの(炭素や酸素が移動するのは不可)
- σ結合(基本的に固定:共鳴はπ系/孤立電子対の話)
- 分子式や原子のつながり(骨格が変わるなら共鳴ではなく反応)
共鳴の曲矢印ルール(作法テンプレ)
矢印の出発点
- 孤立電子対(:O、:N など)
- π結合(C=C、C=O など)
- 負電荷(O−、C− など)
矢印の到着点
- 隣の原子との間(新しいπ結合を作る場所)
- 原子(π結合を切って孤立電子対にする場所)
最重要チェック(1ステップごと)
- 原子骨格(つながり)が変わっていないか
- 各原子の八電子則が破綻していないか(例外は後述)
- 形式電荷が合っているか
共鳴構造が描ける“条件”
条件1:連続したp軌道(共役系)がある
典型:アリル位(C=C–C)、カルボニル(C=O)、芳香環、隣接する孤立電子対(N/O)など
条件2:隣に「動かせる電子」がある
π結合、孤立電子対、負電荷が隣接していると共鳴が起こりやすい
条件3:σ骨格は同じ
原子の並びや結合のつながりが変わるなら、それは共鳴ではなく反応
寄与が大きい共鳴構造の見分け方(採点基準そのまま)
優先順位(実戦用)
- オクテット則を満たす構造が最優先(特に第2周期のC/N/O/F)
- 電荷分離が小さい方が有利(+と−が離れて増えるほど不利)
- 負電荷は電気陰性度の高い原子(O, N)にある方が安定
- 正電荷は電気陰性度の低い原子(C)にある方がまだマシ
- 同じ条件なら「より多くの結合(より強い結合)」を持つ構造が有利
超重要:全部の共鳴構造が「同じ重み」ではない
試験で「共鳴構造を書け」だけでなく、「どれが主要寄与か」まで問われる理由はここです。
例題で覚える:共鳴の定番パターン
パターンA:アリル型(π結合が隣にある)
アリルカチオン(C=C–C+)やアリルアニオン(C=C–C−)は、電荷が両端に分散します。
「πをずらす」だけで構造が作れます。
パターンB:カルボキシラート(最重要:負電荷が2つのOに分散)
カルボン酸が脱プロトン化してできるカルボキシラートは、負電荷が2つの酸素に分散して強く安定。
これが「カルボン酸がアルコールより酸性」の理由の中核です。
パターンC:フェノキシド(芳香環へ分散)
フェノールの共役塩基(フェノキシド)は、負電荷が芳香環のo/p位へ分散。
「負電荷が動く=反応点が動く」ので、芳香族反応の配向性や、求核点の議論にも直結します。
パターンD:アミド(Nの孤立電子対がC=Oへ供与)
アミドでNの孤立電子対がカルボニルへ共鳴供与できるため、C–N結合は部分的に二重結合性を持ち、回転しにくい。
さらに、カルボニル炭素の求電子性が弱まり、エステルより反応しにくい(置換が起こりにくい)ことの根拠になります。
パターンE:ニトロ基(−NO2:電荷分離を伴うが重要)
ニトロ基は電荷分離した共鳴構造を含みますが、電子求引性・配向性の議論で必須です。
「電荷分離=不利」ではあるものの、実在する共鳴混成体の性質を説明するために書ける必要があります。
共鳴から「反応点」を読む(超重要)
負電荷が分散する=求核点が広がる
例:フェノキシドやエノラートでは、負電荷がOだけでなく炭素側にも現れる共鳴構造がある。
その結果、OでもCでも反応できる(どちらで反応するかは条件や試薬で変わる)。
正電荷が分散する=求電子点が広がる
アリルカチオンやベンジルカチオンでは、求電子点が複数箇所に分散して見える。
生成物の位置選択性(どこに攻撃されるか)を説明する時に使う。
よくあるミスと対策
ミス1:原子を動かしてしまう(骨格が変わる)
対策:共鳴は電子のみ。
まずσ骨格を固定して、動かせる電子(π/孤立電子対/負電荷)にだけ印をつけてから矢印を書く。
ミス2:矢印の出発点が「原子」になっている
対策:矢印は必ず電子対から。
必要なら孤立電子対を明示してから描く。
ミス3:八電子則が破綻しているのに気づかない
対策:第2周期(C/N/O/F)は八電子則が強い。
描いた後に「Cが5結合」「Oが3結合」になっていないかを必ずチェック。
ミス4:共鳴構造を“平衡”として扱う
対策:共鳴は同一分子の描き方。
⇄ ではなく ↔(共鳴矢印)を使い、実在は混成体であると意識する。
練習問題(演習)
解くコツ:まず「動かせる電子」を丸で囲み、σ骨格は固定したまま、曲矢印を最小本数で入れる。
解答:
共鳴構造は2つ。
1つ目:末端炭素に負電荷、π結合は隣
2つ目:π結合が移動し、反対側の末端炭素に負電荷が現れる
つまり負電荷は両端に分散する(中央ではなく末端に現れる形が基本)。
解答:
2つの共鳴構造で、二重結合の位置と負電荷の位置が入れ替わる。
2つは対称でエネルギーが等しいため、主要寄与は基本的に同等(同じ重み)として扱える。
負電荷が2つのOに分散することが安定化の本質。
解答:
Nの孤立電子対がC=Oへ供与してC=Nのようなπ結合ができる共鳴構造では、
Nに正電荷(N+)、Oに負電荷(O−)が現れる。
この共鳴によりC–N結合は部分的二重結合性を持ち、カルボニル炭素の求電子性が弱まる。
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