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【第7章】SN1・SN2・E1・E2反応の比較

有機化学では、「この基質はSN1で反応するのか?それともE2なのか?」といった判断が頻繁に求められます。そのためには、各反応の特徴や違い、適用条件を正しく理解し、比較できることが重要です。

本章では、求核置換反応(SN1・SN2)脱離反応(E1・E2)を徹底比較し、それぞれの機構・条件・見分け方を明確に解説します。理解を深めるために、反応機構の模式図・比較表・代表例もあわせて紹介します。

1. SN1反応(一分子求核置換)

特徴

  • 2段階反応:脱離 → 求核攻撃
  • 中間体にカルボカチオンが生成
  • 反応速度は基質の濃度に依存(1次反応)

条件

  • 基質:3級>2級(安定なカルボカチオンを形成しやすい)
  • 求核剤:弱くてもよい(溶媒など)
  • 溶媒:極性プロトン性(H₂O、エタノールなど)

生成物

平面状のカルボカチオンを経由するため、立体異性体(ラセミ体)が生じやすい。

(CH₃)₃C–Br + H₂O → (CH₃)₃C–OH + HBr

2. SN2反応(二分子求核置換)

特徴

  • 1段階反応:脱離と求核攻撃が同時進行
  • 遷移状態を経て結合が置換される
  • 反応速度は基質・求核剤の濃度に依存(2次反応)

条件

  • 基質:メチル>1級>2級(3級は反応しにくい)
  • 求核剤:強く、陰イオン性が好ましい
  • 溶媒:極性非プロトン性(DMSO, アセトニトリル)

生成物

反応は背面攻撃で進行し、立体反転(ワルデン反転)が起こる。

CH₃CH₂Br + OH⁻ → CH₃CH₂OH + Br⁻

3. E1反応(一分子脱離)

特徴

  • SN1と同様にカルボカチオンを経由
  • プロトンの除去により二重結合が生成
  • 1次反応(基質の濃度に依存)

条件

  • 基質:3級>2級
  • 塩基:強くなくてよい(溶媒が塩基を兼ねる)
  • 高温条件が有利

生成物

ザイツェフ則に従い、より置換されたアルケンが主生成物。

(CH₃)₃C–Br + H₂O → (CH₃)₂C=CH₂ + HBr

4. E2反応(二分子脱離)

特徴

  • 1段階でプロトン除去と脱離が同時進行
  • 強塩基の存在が必要
  • 2次反応(基質・塩基に依存)

条件

  • 基質:1級~3級に対応可能
  • 塩基:強い塩基(例:EtONa、t-BuOK)
  • 構造:β水素と脱離基が反対向き(アンチペリプラナー)が必要

生成物

反応の立体化学が支配的で、E/Z異性も考慮される。

CH₃CHBrCH₃ + EtO⁻ → CH₂=CHCH₃ + EtOH + Br⁻

5. SN1/SN2とE1/E2の違いを比較表で整理

項目 SN1 SN2 E1 E2
反応段階 2段階 1段階 2段階 1段階
中間体 カルボカチオン なし カルボカチオン なし
立体化学 ラセミ化 反転 混合 幾何異性体あり
好ましい基質 3級>2級 メチル>1級>2級 3級>2級 1級~3級
求核剤/塩基 弱くてもよい 強求核剤 弱塩基 強塩基
溶媒 極性プロトン性 極性非プロトン性 極性プロトン性 様々に対応

6. 実践的な見分け方のポイント

  • 3級基質+弱塩基 → SN1またはE1(温度で分岐)
  • 2級基質+強塩基 → SN2またはE2(塩基のかさ高さで分岐)
  • 1級基質+強求核剤 → SN2
  • 1級基質+強塩基(かさ高い) → E2

これらの条件判断は、問題演習を通じてパターンを身につけるのが効果的です。

まとめ:反応の本質を比較して理解する

  • SN1・SN2・E1・E2は似た条件で競合することが多い
  • 各反応の反応段階・中間体・立体化学を理解することが大切
  • 基質・求核剤・塩基・溶媒・温度で反応経路を予測できる
  • 図・比較表・例題で繰り返し確認しよう

次章では、実際にこれらの反応を使った代表的な合成例や、応用的な選択性の考え方について学びます。

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