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シャープレス ジヒドロキシル化【Sharpless dihydroxylation】

Sharpless dihydroxylation

シャープレス ジヒドロキシル化は、プロキラルオレフィンから1,2-ジオールをエナンチオ選択的に調製する際に用いられる。この手順は、オスミウム触媒と化学量論的酸化剤[K3Fe(CN)6やN-メチルモルホリンオキシド(NMO)など]を用いて行われる。反応は弱塩基性条件下でより迅速に進行するため、安定したpHを確保するために緩衝溶液中で行われる。エナンチオ選択性は、エナンチオマーに濃縮されたキラルリガンド[(DHQD)2PHAL、(DHQ)2PHALまたはそれらの誘導体]の添加によって達成される。これらの試薬は、いずれのエナンチオ選択性に対しても安定な、包装済みの混合物(AD-mix αおよびAD-mix β、AD=不斉ジヒドロキシル化)としても入手可能である。

Sharpless dihydroxylation_(DHQ)2PHAL

概要

シャープレスジヒドロキシル化は、不飽和炭化水素(アルケン)を1,2-ジオールに変換する不斉触媒反応であり、オスミウムテトロキシド(OsO₄)を触媒として使用します。この反応は、キラルリガンドを使用することで高いエナンチオ選択性が得られるため、医薬品や天然物の合成において重要な役割を果たします。1980年代にK. Barry Sharplessによって開発され、2001年にノーベル化学賞が授与される基盤となりました。

歴史

1980年代にK. Barry Sharplessによって開発された。

反応機構

  1. オスミウムテトロキシドによる酸化
    • オスミウム(VIII)(OsO₄)がアルケンと反応し、酸化剤として作用します。
    • この反応では、二重結合がオスミウムによりジヒドロキシ化され、オスマオキセタン(osmaoxetane)中間体が形成されます。
  2. 中間体の加水分解
    • 生成されたオスマオキセタン中間体は、加水分解されて1,2-ジオールが生成されます。
    • Os(VI)グリコレート中間体は再酸化されてOs(VIII)に戻り、触媒サイクルが完了します。
  3. 不斉制御
    • キラルリガンド(シンコナアルカロイド誘導体)を使用することで、不斉中心の立体選択性を制御します。

実験手順

 

実験のコツ

 

発展

リガンドと選択性

  • シンコナアルカロイド誘導体リガンド
    • ジヒドロキニジン(DHQD)やジヒドロキニン(DHQ)誘導体が使用されます。これらはオスミウムに結合し、基質(アルケン)との相互作用を調整します。
    • リガンドは基質の立体選択的な攻撃を誘導し、生成物のエナンチオ選択性を高めます。
  • 最新のリガンド開発
    • ジアミンや「ジマー型」リガンドなど、新たなリガンド設計が進められており、広範な基質に適用可能な手法が確立されています。

反応条件

酸化剤と再酸化系

  • N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)やフェリシアン化カリウム(K₃Fe(CN)₆)が酸化剤として使用されます。
  • NMOを共酸化剤として使用すると、反応が効率的に進行します。

溶媒

  • tert-ブチルアルコールと水の混合溶媒が一般的に使用されます。これにより、オスミウムが溶解しやすくなり、反応が均一に進行します。

温度

  • 反応は0℃~室温で行われることが多く、低温条件が選択性を向上させる場合があります。

適用範囲と課題

適用可能な基質

  • 末端アルケン、1,1-ジ置換アルケン、トランス-1,2-ジ置換アルケン、トリ置換アルケンに対して優れたエナンチオ選択性を示します。
  • エナンチオ選択性は、基質の構造やリガンドの選択に依存します。

課題

  • シス-アルケンや四置換アルケンの選択性は他の基質に比べて劣る場合があります。
  • 酸化剤として使用されるオスミウム化合物の毒性やコストが、環境的および経済的な課題となります。

応用例

 

参考文献

 

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