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マロン酸エステル合成は、マロン酸エステルから酢酸誘導体を合成する手法です。

先に結論——「使い捨てのCOOH」でα位を活性化する

マロン酸エステル合成がやっていることは、ひとことで言えば酢酸のα位に置換基を入れることです。ところが酢酸エチルのα水素は、そのままでは引き抜きにくい。そこでもう1つエステルを付けて酸性度を上げ、用が済んだら外す——この段取りが反応の本体です。

段階 やること 狙い
① 脱プロトン化 ナトリウムエトキシドなどの塩基でα水素を引き抜く 2つのエステルに挟まれているので引き抜ける
② アルキル化 ハロゲン化アルキルを加える(SN2) 炭素−炭素結合をつくる
③ 加水分解 酸または塩基で2つのエステルをカルボン酸に戻す マロン酸誘導体になる
④ 加熱して脱炭酸 片方のCOOHがCO2として抜ける 足場として使ったCOOHを捨てる→置換酢酸が残る
余分なカルボキシ基は「足場」です。最初から付いていたのではなく、α水素を引き抜きやすくするためだけに用意し、最後に捨てる。この「使い捨ての活性化基」という発想は、アセト酢酸エステル合成でもクライゼン縮合でも同じように出てきます。

なぜα水素が引き抜けるのか

鍵は生じたアニオンがどれだけ安定かです。マロン酸エステルのα炭素は2つのエステルカルボニルに挟まれています。引き抜いたあとの負電荷が、両側のカルボニル酸素へ共鳴で非局在化できる——だから引き抜きやすいのです。

化合物 α位の環境 引き抜きやすさ
エタン 何もない 実質的に不可能
酢酸エチル カルボニル1つ 弱い塩基では無理。強塩基(LDA等)が要る
マロン酸ジエチル カルボニル2つ アルコキシドで足りる
塩基にナトリウムエトキシドを使うのには理由があります。エステルのアルコキシ部分と同じエトキシドを使えば、塩基がカルボニル炭素を攻撃しても元のエステルに戻るだけで、別のエステルに作り変わってしまう(エステル交換)心配がない。マロン酸ジメチルならナトリウムメトキシドを組み合わせます。

ハロゲン化アルキルは一級でなければならない

②のアルキル化はSN2反応です。マロン酸エステルのアニオンが求核剤として炭素を背面から攻撃します。ここから使える基質がはっきり限られます。

ハロゲン化アルキル 結果 理由
メチル・一級 うまくいく 立体障害が小さく SN2 が進む
二級 収率が落ちる 立体障害で SN2 が遅くなり、脱離と競合する
三級 使えない SN2 が進まず、アニオンが塩基として働いてE2脱離でアルケンになる
アリル・ベンジル うまくいく 遷移状態が共鳴で安定化されて速い
「三級アルキル基を入れたい」という問題が出たら、マロン酸エステル合成は答えになりません。マロン酸エステルのアニオンは求核剤であると同時に強い塩基なので、三級ハロゲン化物に対しては脱離を起こしてしまいます。この「求核剤か塩基か」の競合は SN2 と E2 の判断そのものです。

なぜ加熱すると二酸化炭素が抜けるのか

カルボン酸はふつう、加熱したくらいでは脱炭酸しません。マロン酸誘導体が脱炭酸するのは、もう一方のカルボニルがβの位置にあるからです。

段階 何が起こるか
① 6員環の遷移状態をつくる COOHの水素が、β位のカルボニル酸素に向かって環状に配置する
② 電子が環を回る 結合の組み替えが一気に進み、CO2が外れる
③ エノールができる いったんエノールになる
④ ケト形に戻る 互変異性でふつうのカルボン酸(置換酢酸)になる

つまりβ位のカルボニルが水素の受け皿になって、6員環という無理のない形で反応が進むわけです。β位にカルボニルがない普通のカルボン酸ではこの環が組めないので、脱炭酸は起こりません。

β-ケト酸が脱炭酸するのも、まったく同じ仕組みです。アセト酢酸エステル合成の最後の段階も、クエン酸回路で起こる脱炭酸も、「β位にカルボニルがあれば6員環を組んでCO2が抜ける」という同じ1つの型で説明できます。

アセト酢酸エステル合成との使い分け

段取りがそっくりな反応がもう1つあります。違いは出発物に何が付いているかだけで、それがそのままできあがる化合物の種類を決めます。

マロン酸エステル合成 アセト酢酸エステル合成
出発物 マロン酸ジエチル(エステル2つ) アセト酢酸エチル(ケトン+エステル)
α位を挟むもの エステル・エステル ケトン・エステル
脱炭酸後に残るもの カルボン酸 ケトン
できる化合物 置換酢酸 RCH2COOH 置換アセトン RCH2COCH3
「カルボン酸が欲しいか、メチルケトンが欲しいか」で選びます。どちらもα位をアルキル化して、使い捨てのCOOHを脱炭酸で捨てるという骨格は同じ。覚える対象は2つではなく、1つの型と、その入口の違いです。

概要

マロン酸エステル合成は、マロン酸ジエチルまたはマロン酸の他のエステルを両カルボニル基のα位でアルキル化した後、酢酸誘導体に変換する化学反応である。

マロン酸エステル合成の大きな欠点は、アルキル化の段階でジアルキル化された構造も生成してしまうことである。このため、製品の分離が難しく、収率も低くなる。

マロン酸エステル合成マロン酸エステル合成

詳しくはアセト酢酸エステル合成をご覧ください。

反応機構

マロン酸エステル合成の反応機構

反応例

ジアルキル化

水酸の添加前に脱プロトン化とアルキル化を繰り返すと、エステルがジアルキル化されることがある。

シクロアルキルカルボン酸の合成

ジハライドを反応させると、分子内でマロン酸エステルが合成される。この反応は、研究者のWilliam Henry Perkin, Jr.にちなんで、Perkin脂環式合成とも呼ばれている。

よくある質問

マロン酸エステルのα水素が引き抜きやすいのはなぜですか?

α炭素が2つのエステルカルボニルに挟まれているためです。引き抜いたあとの負電荷が両側のカルボニル酸素へ共鳴で非局在化でき、アニオンが安定になります。カルボニルが1つしかない酢酸エチルではLDAのような強塩基が必要ですが、マロン酸ジエチルならナトリウムエトキシドで足ります。

なぜ三級ハロゲン化アルキルは使えないのですか?

アルキル化の段階がSN2反応だからです。三級では立体障害でSN2が進まず、マロン酸エステルのアニオンが求核剤ではなく塩基として働いてE2脱離を起こし、アルケンができてしまいます。使えるのはメチルと一級(アリル・ベンジルも可)で、二級は収率が落ちます。

加熱するとなぜ二酸化炭素が抜けるのですか?

β位にもう1つカルボニルがあるためです。COOHの水素がβ位のカルボニル酸素に向かって6員環の遷移状態を組み、そこで電子が一巡してCO2が外れます。いったんエノールになり、互変異性でカルボン酸に戻ります。β位にカルボニルがない普通のカルボン酸ではこの環が組めないので脱炭酸しません。

アセト酢酸エステル合成とどう使い分けるのですか?

欲しいものがカルボン酸かメチルケトンかで決まります。マロン酸ジエチル(エステル2つ)から出発すると脱炭酸後にカルボン酸が残り、置換酢酸 RCH2COOH ができます。アセト酢酸エチル(ケトン+エステル)から出発するとケトンが残り、置換アセトン RCH2COCH3 ができます。α位をアルキル化して使い捨てのCOOHを捨てるという骨格は共通です。

ジアルキル化を抑えるにはどうすればよいですか?

塩基とハロゲン化アルキルを過剰にしないことが基本です。1回目のアルキル化で残ったα水素も、2つのカルボニルに挟まれたままなので引き続き引き抜かれて2回目が進みます。塩基を1当量に抑える、ハロゲン化アルキルをゆっくり加える、低温で止めるといった操作で偏りを減らします。逆に意図的に2回アルキル化したいときは、過剰の塩基とハロゲン化アルキルを使います。

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