水銀はその独特な物理的および化学的性質から、多くの用途で利用されてきましたが、毒性の高さから使用が制限されつつあります。環境や健康への影響を考慮し、水銀の使用は慎重に管理される必要があります。代替材料の開発や環境保護の観点から、今後も水銀使用の削減が進むと考えられます。
水銀の基本情報
和名 | 水銀 |
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英名 | Mercury |
語源 | ローマ神話の商売の神メルクリウス (Mercurius), 水星 (Mercury) |
元素記号 | Hg |
原子番号 | 80 |
原子量 | 200.6 |
常温(25℃)での状態 | 液体(金属) |
色 | 銀白色 |
密度 | 13.546 g/cm3(液体, 20℃) |
融点 | -38.87℃ |
沸点 | 356.58℃ |
発見者 | 古来より知られている |
含有鉱物 | 自然水銀, 辰砂 |
水銀の主な特徴
- 常温常圧で液体状態にある唯一の金属
- 銀白色の光沢があり、非常に高い密度を持つ
- 蒸気圧も比較的高く、蒸発しやすい性質を持つ
- 化学的に比較的安定で、酸化されにくい
- 高温でハロゲンと反応して水銀ハロゲン化物を形成する
- 重金属としての毒性も高く、取り扱いには細心の注意が必要
水銀の歴史
発見
水銀は古代より知られており、最古の記録は紀元前1500年ごろのエジプト文明や中国の古文献に遡ります。
鉱石である辰砂(しんしゃ、HgS)から加熱還元により得られ、古代から錬金術・医療・顔料に利用されてきました。
名前の由来
「Mercury(英語)」はローマ神話の商業と知恵の神「メルクリウス」に由来し、流動性・移動性の高さが連想されています。
元素記号「Hg」は、ラテン語の「Hydrargyrum(銀の水)」に由来しています。
水銀の主な用途
水銀はその液体性と蒸気圧の特性から、かつて以下のような用途で広く使用されてきました:
- 温度計・気圧計: 熱膨張による変化を高精度で計測できる
- 水銀灯・蛍光灯: 水銀蒸気放電による紫外線発生 → 蛍光体により可視光を放出
- 電気接点・スイッチ: 耐アーク性・導電性を利用した水銀リレー
- 金の抽出: アマルガム法による金の精錬(現在は規制対象)
- 医療用・歯科用合金: 歯科用アマルガム(現在は多くの国で使用制限)
水銀は多様な用途で利用されていますが、その毒性のため、使用は減少しています。
温度計・気圧計
水銀は広い温度範囲で液体状態にあるため、正確な温度計や気圧計に使用されてきました。
蛍光灯
水銀蒸気は放電により紫外線を発生させ、蛍光体を励起して光を放つため、蛍光灯や水銀灯に使用されます。
金の採取
水銀はアマルガムを形成する性質があるため、金の採取に利用されます。金と水銀のアマルガムを加熱して水銀を蒸発させ、純金を得る方法が使われています。
電池
水銀は一部のボタン電池に使用されていましたが、環境問題から代替品が用いられるようになっています。
水銀の生成方法
水銀は主に鉱石「辰砂(HgS)」から次のような手順で生成されます:
- 焙焼: HgSを高温で加熱 → HgとSO₂に分解
- 蒸留分離: 発生した水銀蒸気を冷却・凝縮して液体水銀を得る
- 精製: 蒸留やろ過により不純物を除去
水銀は主に鉱物である辰砂(HgS)から、焙焼と呼ばれる工程を経て生産される。典型的な抽出プロセスでは、辰砂を空気の存在下で加熱し、硫化水銀を酸化させ、二酸化硫黄とともに水銀蒸気を放出させる。この化学反応は次のように要約できる:
2 HgS + 3 O₂ → 2 Hg + 2 SO₂
放出された水銀蒸気は冷却・凝縮され、液体水銀となり、さらに精製・精製される。このプロセスは何世紀にもわたって使用されており、元素状水銀を得るための基本的な方法であることに変わりはないが、現代の安全規制や環境規制によって、製造工程は改善され、より厳しく管理されるようになった。
水銀を含む化合物
水銀は+1価(Hg₂²⁺)および+2価(Hg²⁺)の酸化状態で多様な化合物を形成します:
- 硫化水銀(HgS): 辰砂。赤色顔料(バーミリオン)として利用
- 塩化水銀(I)(Hg₂Cl₂): 甘汞(かんこう)とも呼ばれ、かつては整腸剤などに使用
- 塩化水銀(II)(HgCl₂): 消毒剤・防腐剤として利用(現在は毒性のため制限)
- 有機水銀化合物: メチル水銀などは強い神経毒性を持ち、公害問題の原因物質に
塩化水銀(I)(甘汞)(Hg2Cl2)
塩化水銀(I)は、化学式 Hg2Cl2 で表される水銀の化合物で、一般には「カルメレル」とも呼ばれています。塩化水銀(I)は、その独特な化学構造と物性から、歴史的にも現代の実験や工業分野においても重要な役割を果たしてきました。ここでは、その基本的な性質、合成法、用途、さらには安全性について解説します。
基本的な性質
化学式と構造
- 化学式: Hg₂Cl₂
- 塩化水銀(I)は、二量体構造をとっており、二つの水銀原子が短い Hg–Hg 結合で結ばれた形になっています。各水銀原子は +1 の酸化状態にありますが、実際には Hg₂²⁺ イオンとして存在します。
物理的性質
- 外観: 白色または淡黄色の結晶性固体
- 溶解性: 水にはほとんど溶けず、アルコールやアンモニア溶液にはわずかに溶解する特性があります
- 安定性: 高い光や空気中での安定性があり、保存性が良いとされています
合成法
塩化水銀(I)は、以下のような方法で合成されることが一般的です:
- 直接合成法: 水銀と塩素ガスを反応させる方法。反応中に生成する一酸化水銀(Hg₂Cl₂)は、適切な温度と条件下で析出します。
- 溶液中の反応: 塩化水銀(II)(HgCl₂)の還元や、他の水銀化合物を条件を調整して二量体の Hg₂Cl₂ を生成する方法もあります。
主な用途
参照電極としての利用
- カルメレル電極: 塩化水銀(I)は、参照電極として非常に有用です。カルメレル電極は、電気化学実験で標準電極として広く用いられており、その安定な電位が評価されています。
医薬品としての歴史的利用
- 過去には、カルメレルは下剤や水銀治療薬として用いられていましたが、水銀の毒性が問題視されるようになり、現在では使用は大幅に制限されています。
その他の応用
- 一部の有機合成プロセスにおいて、特殊な触媒または反応媒介剤としての利用例も報告されています。
安全性と環境影響
塩化水銀(I)は、水銀を含む化合物であるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
- 毒性: 水銀化合物は神経系や内臓に悪影響を与える可能性があるため、実験室での取り扱い時には防護具を着用し、適切な廃棄方法を守る必要があります。
- 環境への影響: 水銀は環境中で生体蓄積しやすく、食物連鎖を通じて広範な影響を及ぼすことがあるため、排出規制やリサイクル対策が講じられています。
塩化水銀(II)(昇汞)(HgCl2)
酸化水銀 (HgO)
メチル水銀 (CH3HgX)
雷酸水銀 (Hg(ONC)2)
硫化水銀(I) (Hg2S)
硫化水銀(II) (HgS)
辰砂(硫化水銀(II)の鉱物)
水銀に関する研究事例
水銀に関連する研究は、毒性制御や物理化学的特性の応用に集中しています:
- 水銀汚染の浄化技術: 活性炭・チオール官能基などを用いた吸着材の開発
- アマルガム電極: 電気化学測定における基準電極・滴定法に利用
- 液体金属流体の研究: 熱輸送・磁場応答性に注目した液体金属MHD研究
- 高圧下での水銀の構造変化: 結晶構造の遷移や金属–絶縁体転移の観測
- バイオセンサー応用: Hg²⁺の選択的検出を目的とした蛍光プローブの開発
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