タングステン(W)は、周期表の6族に属する遷移金属で、原子番号74です。非常に高い融点と優れた機械的強度を持つため、さまざまな工業用途で広く使用されています。以下にタングステンの主な特性、用途、歴史、製造方法などを紹介します。
タングステンの基本情報
和名 | タングステン |
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英名 | Tungsten |
語源 | スウェーデン語「重い石(tungsten)」 |
元素記号 | W |
原子番号 | 74 |
原子量 | 183.8 |
常温(25℃)での状態 | 固体(金属) |
色 | 灰白色 |
密度 | 19.300 g/cm3(20℃) |
融点 | 3407℃ |
沸点 | 5555℃ |
発見者 | シェーレ(スウェーデン)[1781年] |
含有鉱物 | 灰重石, 鉄マンガン重石 |
タングステンの主な特徴
- 遷移金属元素
- 金属元素中で最も高い融点(3422℃)を持ち、密度(19.3 g/cm³)も極めて高く、硬度や強度に優れるため、耐熱材料や高強度合金に多用される
- 熱電子放出性・放射線遮蔽性にも優れており、産業用から軍事・医療分野に至るまで多岐にわたる応用を持つ
- 空気中で酸化されにくく、酸に対しても耐性がある
- 高温では酸素と反応して三酸化タングステン(WO3)を生成する
タングステンの歴史
発見
タングステン化合物は18世紀から知られており、1781年にスウェーデンのカール・シェーレが酸化タングステンを報告、
1783年にスペインのエルハル兄弟が酸化タングステン(WO₃)を還元して金属単体を初めて得ました。
名前の由来
「タングステン(Tungsten)」という名称はスウェーデン語で「重い石(tung sten)」に由来します。
一方、元素記号「W」はドイツ語での名称「Wolfram(ヴォルフラム)」に由来しており、これは鉱石がスズの精錬を妨げたことから「オオカミの唾液」と呼ばれたことに起因しています。
タングステンの主な用途
タングステンはその高融点・高強度・高密度を活かして、次のような分野で幅広く活用されています:
- 電球フィラメント: 高温でも蒸発しにくいため、白熱電球・真空管に利用(現在は主に研究用)
- 超硬合金: タングステンカーバイド(WC)をベースとした切削工具、ドリル、耐摩耗部品に使用
- 放射線遮蔽材: 高密度を活かし、医療・原子力分野の放射線防護材に利用
- 軍需用途: 弾頭、装甲貫通弾、ミサイルのバランスウェイトなどに用いられる
- 化学触媒・電極材料: 高耐熱性を生かした反応場として
電気・電子産業
電球のフィラメント
タングステンは、融点が約3422°Cという驚異的な高温耐性を持つ金属です。この特性から、タングステンはフィラメント材料として広く採用され、特に白熱電球やタングステンハライドランプなどの光源に欠かせない素材となっています。
高融点と耐熱性
- 高融点:タングステンの融点は約3422°Cで、ほかの金属に比べ圧倒的に高いため、フィラメントとして使用しても極めて高温になっても溶解しません。
- 耐熱性:高温状態でも安定しており、酸化や蒸発による劣化が抑えられるため、長寿命が実現されます。
電気伝導性と発光
- 電気伝導性:タングステンは十分な電気伝導性を持ち、電流が流れることで発熱し、白熱状態となります。
- 発光:高温での白熱発光により、暖かみのある自然な光を放ちます。この発光特性は、チョコレートのテンパリングのような熱制御が重要な工程とは異なり、タングステンフィラメント自体が直接エネルギー変換を行う点で注目されます。
タングステンフィラメントは、白熱電球の中心的な部品です。電流が流れることでフィラメントが高温になり、白熱して光を発生します。以下がその特徴です:
- 光沢と均一な発光:タングステンフィラメントが生成する光は、均一で温かみのある色調を持ち、視覚的な美しさが求められる用途に適しています。
- 長寿命:カーボンフィラメントに比べ、タングステンは酸化に強く、長期間安定して動作するため、製品の寿命が延びます。
タングステンハライドランプは、従来の白熱電球よりも効率が高く、より明るい光を提供するために開発されました。これらは、車両のヘッドライトや舞台照明などで広く利用されています。
初期の白熱電球ではカーボンフィラメントが主流でしたが、タングステンの導入により、発光効率や耐久性が大幅に向上しました。微細加工技術の進歩により、より均一で細いタングステンフィラメントが製造され、これが高品質な光源の実現に貢献しています。
電子管
電子管の陰極や他の電子部品にも使用されます。
機械加工
切削工具
タングステンカーバイド(WC)は非常に硬く、切削工具やドリルの材料として利用されます。
放電加工(EDM)電極
高温に耐えるため、放電加工機の電極に使用されます。
航空宇宙産業
ロケットエンジンのノズル
高温高圧に耐えるため、ロケットエンジンのノズル材料として使用されます。
防熱材
高温に耐える特性を活かし、耐熱シールドとしても利用されます。
医療
放射線シールド
高密度のため、放射線防護シールドとして使用されます。
医療機器
X線撮影装置のターゲットとしても利用されます。
タングステンの生成方法
タングステンは主に以下の鉱石から製造されます:
- 主要鉱石: シェーライト(CaWO₄)、ウルフラマイト((Fe,Mn)WO₄)
- 生成工程: 鉱石 → 精鉱 → WO₃ → 水素還元 → 金属タングステン
- 粉末冶金法: 高融点のため、焼結による成形(粉末タングステンを圧縮・加熱)
タングステンの製造は、主に鉱石からの抽出と精製によって行われます。主要な鉱石には、シェーライト(CaWO4)とウルフラマイト((Fe,Mn)WO4)があります。
鉱石の精製
鉱石を粉砕し、重力選鉱や浮遊選鉱などの方法でタングステン鉱物を濃縮します。
化学的処理
濃縮された鉱石をアルカリや酸で処理し、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)を生成します。
タングステン酸ナトリウムを酸で処理してタングステン酸(H2WO4)を得ます。
還元
タングステン酸を水素ガスで還元し、金属タングステン粉末を生成します。
粉末を焼結して固体タングステンを得ることもあります。
タングステンを含む化合物
タングステンは酸化数+6を中心に、さまざまな安定な化合物を形成します:
- 酸化タングステン(WO₃): 黄色の酸化物。電気クロミック材料や光触媒に利用
- タングステン酸(H₂WO₄): WO₃の加水分解により得られ、分析化学で使用
- タングステンカーバイド(WC): 極めて硬いセラミック。切削工具・ドリルなどに必須
- 六フッ化タングステン(WF₆): 半導体製造におけるCVD用前駆体
タングステンに関する研究事例
タングステンはその物理的特性と応用可能性から、以下のような先端研究に関わっています:
- 核融合炉材料: 高熱・高中性子束環境下でも耐えるプラズマ対向材(ITERなど)としての利用
- 熱電変換材料: W系化合物を用いた高温熱電素子の開発
- 量子材料研究: タングステンジテルル化物(WTe₂)のワイル半金属性・トポロジカル絶縁体特性の探究
- 高機能セラミックス: WCとTiCの複合材料による超硬工具の性能向上
- ナノ構造電極: 微細加工されたWナノワイヤーによる走査型電子顕微鏡(SEM)プローブ
筆者が勧める元素本