反応座標図の読み方|律速段階の見つけ方と触媒が変える・変えないもの
反応座標図は、有機化学でもっとも情報密度の高い図です。1枚の中に、反応が何段階で進むか、どこが一番の関門か、中間体はいくつあるか、反応が発熱か吸熱か——そのすべてが描き込まれています。
ところが試験でこの図を描かせると、山と谷の数が合わない答案が非常に多い。原因ははっきりしていて、「山が何を意味し、谷が何を意味するか」を決めないまま線を引いているからです。
この記事では、図を読む手順と描く手順を分けて整理します。遷移状態そのものの性質は遷移状態とはで扱っています。
まず軸を確認する
どんな反応座標図も、軸の意味は共通です。ここを曖昧にしたまま読むと必ず間違えます。
| 軸 | 表すもの | 注意 |
|---|---|---|
| 横軸 反応座標 |
反応がどこまで進んだか(結合の切れ具合・できかけ具合) | 時間ではない。目盛りにも意味はない |
| 縦軸 自由エネルギー |
その状態のエネルギーの高さ | 高さの差だけに意味がある |
一段階反応——山が1つ、谷はなし
SN2反応のように中間体を経ない反応では、図は単純な山1つになります。読み取るべき量は2つだけです。
ΔG‡(活性化自由エネルギー) = 反応物 → 山の頂 の高さ → 反応の速さを決める ΔG(反応の自由エネルギー変化) = 反応物 → 生成物 の高さ → 平衡の位置を決める
生成物が反応物より低ければ発熱的(ΔG < 0)、高ければ吸熱的(ΔG > 0)です。図を描くときは、この上下関係を必ず問題文の条件に合わせてください。
多段階反応——中間体の数だけ谷ができる
SN1反応のように中間体を経る反応では、図は山・谷・山になります。数え方には明快な規則があります。
SN1反応なら、①脱離基が外れてカルボカチオンができる段階と、②求核剤が結合する段階の2つがあるので、山2つ・谷1つ。谷の底にいるのがカルボカチオンです。
律速段階の見つけ方——ここが最頻出の誤り
律速段階とは、全体の速さを支配している段階のことです。図から見つけられますが、基準を取り違えている人が非常に多い箇所です。
なぜこうなるかというと、中間体は谷にいるあいだ両側の山を行き来しており、系全体としては出発物からいちばん高い峠まで登れるかどうかで速さが決まるからです。段階ごとの登り幅を足し算するのではありません。
SN1反応では、1つ目の山(イオン化)が圧倒的に高いので1段階目が律速です。だからSN1の速度式に求核剤の濃度が入らず、一次反応になります。この対応関係はSN1・SN2で確認してください。
触媒は何を変えるのか
図が最も威力を発揮するのが、触媒の働きの説明です。
| 触媒が変えるもの | 変えないもの |
|---|---|
| ΔG‡(山の高さ)を下げる より低い峠を通る別経路を用意する |
ΔG(反応物と生成物の高さの差) したがって平衡定数も収率の上限も変わらない |
ここは記述問題で差がつきます。「触媒は活性化エネルギーを下げるが、平衡の位置は変えない」——図では、山だけが低くなり、両端の高さはそのまま、と描きます。触媒が反応を速くするのは、正反応と逆反応を同じだけ速くするからです。
ルイス酸がカルボニルに配位して反応を加速するのも、図の上では同じことをしています(→ ルイス酸とルイス塩基)。
図を描くときの手順
試験で「エネルギー図を描け」と言われたら、次の順に手を動かせば形が決まります。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | 機構を書き、中間体が何個あるかを数える |
| 2 | 中間体の数だけ谷を、その数+1だけ山を置く |
| 3 | 発熱か吸熱かで両端の高さを決める |
| 4 | 律速段階の山をいちばん高く描く |
| 5 | 軸名・ΔG‡・ΔG・中間体の構造を書き込む |
採点で落とされるのは、たいてい手順5です。矢印と記号を書き込んでいない図は、描いていないのと同じに扱われます。
図から読めないこと
万能に見えますが、読めないものもはっきりしています。
- 実際の反応時間は読めない。 ΔG‡ から速度定数は出ますが、濃度が分からなければ何分かかるかは決まりません。
- 立体化学は読めない。 生成物がR体かS体かは、エネルギーの高さの情報だけでは表せません。
- 横軸方向の距離に意味はない。 山が横に広いから遅い、ということはありません。
- 競合する別経路は、描かないかぎり存在しない。 速度論支配と熱力学支配を論じるときは、2本の経路を1枚に重ねて描く必要があります(→ 速度論支配と熱力学支配)。
大学院入試での問われ方
- 「この反応のエネルギー図を描き、律速段階を示せ」……中間体の数から山と谷を決める
- 「触媒を加えたときの変化を図中に破線で示せ」……山だけ下げ、両端は動かさない
- 「ΔG‡ と ΔG はそれぞれ何を決めるか」
- 「2段階目の遷移状態が1段階目より高い場合、律速段階はどちらか」……2段階目
まとめ
遷移状態そのものの性質は遷移状態とは、遷移状態が反応物と中間体のどちらに似るかはハモンドの仮説、反応の分類そのものは有機反応の分類で扱っています。
図の上ではなく実験で得た速度式から律速段階を読む手順は律速段階と反応次数、2つの生成物が競合する場合は速度論支配と熱力学支配へ続きます。
よくある質問
時間ではありません。横軸は反応座標と呼ばれ、結合がどれだけ切れ、どれだけできたかという反応の進行度を表します。目盛りにも物理的な意味はなく、山が横に広いからといって反応が遅いわけでもありません。反応の速さを決めるのは縦軸方向の高さ、すなわち反応物と遷移状態のエネルギー差だけです。
谷の数は反応中間体の数と一致し、山の数は遷移状態の数すなわち段階の数と一致します。中間体が1つある二段階反応なら山2つと谷1つ、中間体が2つある三段階反応なら山3つと谷2つです。SN2反応のような一段階反応には中間体がないため谷はなく、山が1つだけになります。
出発物から見ていちばん高い位置にある遷移状態をもつ段階が律速段階です。各段階の登り幅で比べるのは誤りで、2段階目の山が1段階目より絶対的に高ければ、谷からの登りが小さくても2段階目が律速になります。中間体は谷で両側の山を行き来しているため、全体の速さは最も高い峠を越えられるかどうかで決まります。
山の高さ、すなわち活性化自由エネルギーを下げます。より低い峠を通る別の経路を用意するためです。一方、反応物と生成物の高さの差である反応の自由エネルギー変化は変わらないため、平衡定数も理論的な収率の上限も変化しません。図では山だけが低くなり、両端の高さはそのままに描きます。
活性化自由エネルギーは反応物から遷移状態までの高さで、反応の速さを決めます。反応の自由エネルギー変化は反応物から生成物までの高さの差で、平衡がどちらに偏るかを決めます。両者は独立しているため、生成物が非常に安定でも山が高ければ反応は遅く、逆に生成物がわずかに安定なだけでも山が低ければ速く進みます。
