酸と塩基の定義:Brønsted–Lowry と Lewis を反応に使う
有機化学で扱う多くの反応は、酸と塩基の相互作用として整理することができます。
反応の中には、プロトンの移動として捉えられるものもあれば、電子対の授受として理解した方が本質が見えやすいものもあります。
こうした反応を一貫した視点で理解するために重要なのが、Brønsted–Lowry の酸塩基と Lewis の酸塩基という二つの定義です。
これらの定義を適切に使い分けることで、個々の反応を暗記に頼らず、共通の原理に基づいて整理できるようになります。
Brønsted–Lowry の酸と塩基
Brønsted–Lowry の定義では、酸はプロトンを与える物質、塩基はプロトンを受け取る物質と定義されます。
この定義は、水溶液中の酸塩基反応に限らず、有機反応におけるプロトン移動の理解にも広く用いられます。
たとえば、アルコールが塩基としてプロトンを受け取り、オキソニウムイオンになる反応や、カルボン酸がプロトンを放出してカルボキシラートになる反応は、いずれも Brønsted–Lowry の枠組みで整理できます。
ここで重要なのは、酸と塩基は常に対になって現れるという点です。
ある物質が酸として振る舞うとき、その相手として必ず塩基が存在し、逆の場合も同様です。
共役酸と共役塩基の関係
Brønsted–Lowry の酸塩基では、酸がプロトンを失うと共役塩基になり、塩基がプロトンを受け取ると共役酸になります。
したがって、酸塩基反応は、共役酸と共役塩基の間の平衡として捉えることができます。
たとえば、酢酸がプロトンを失うと酢酸イオンが生じます。
この酢酸イオンは、酢酸の共役塩基にあたります。
逆に、酢酸イオンがプロトンを受け取れば、再び酢酸に戻ります。
このような対応関係を意識することで、酸性度の大小や平衡の向きを pKa と結びつけて考えやすくなります。
Lewis の酸と塩基
Lewis の定義では、酸は電子対を受け取る物質、塩基は電子対を与える物質と定義されます。
この定義の特徴は、プロトンの移動を伴わない反応も酸塩基反応として整理できる点にあります。
たとえば、ホウ素化合物やアルミニウム化合物のように、価電子が不足していて空の軌道をもつ種は、Lewis 酸として振る舞います。
一方、アミンやアルコールの酸素原子に存在する孤立電子対は、Lewis 塩基として電子対を供与する役割を果たします。
Brønsted–Lowry と Lewis の関係
Brønsted–Lowry の酸塩基は、Lewis の酸塩基の特別な場合と考えることができます。
プロトンは電子対を受け取って結合を形成するため、Lewis 酸として振る舞います。
したがって、Brønsted–Lowry の塩基は、必ず Lewis 塩基でもあります。
一方で、Lewis の枠組みは、プロトン移動を伴わない付加反応や配位反応まで含めて説明できるため、有機反応全体をより広い視野で捉えることができます。
有機反応を酸塩基として読み解く視点
有機反応の初期段階には、プロトン化や脱プロトン化が含まれることが少なくありません。
たとえば、カルボニル酸素がプロトン化されると、炭素原子はより電子不足になり、求核剤による攻撃を受けやすくなります。
この現象は、Lewis 塩基であるカルボニル酸素が、Lewis 酸であるプロトンと相互作用した結果として理解できます。
また、塩基による脱プロトン化によって新たな求核種が生じ、その後の置換反応や付加反応が進行する場合も多く見られます。
このように、反応を個別の操作として暗記するのではなく、どこで酸が働き、どこで塩基が働いているのかという視点で整理すると、反応機構全体の流れが理解しやすくなります。
練習問題
解答:Brønsted–Lowry の定義では、酸はプロトンを与える物質であり、塩基はプロトンを受け取る物質です。
解答:酸がプロトンを失うと共役塩基になり、塩基がプロトンを受け取ると共役酸になります。
解答:Lewis の定義では、酸は電子対を受け取る物質であり、塩基は電子対を与える物質です。
解答:Brønsted–Lowry の塩基はプロトンを受け取る際に電子対を供与するため、Lewis の定義においても電子対供与体となり、Lewis 塩基に該当するからです。
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