エステルのα位を使って炭素–炭素結合を作りたい。素直に考えれば、強塩基でエノラートにしてアルドール反応です。ところがエステルの場合、これがうまくいかないことがあります。生じたエノラートが、まだ反応していないエステル自身を攻撃してしまう(クライゼン縮合)からです。

レフォルマトスキー反応は、この問題を塩基を使わずにエノラート等価体を作ることで回避します。1887年に Sergey Reformatsky が報告した古い反応ですが、いまも「エステルのα位を安全に使う」場面で現役です。

この記事で学ぶこと
・α-ハロエステルと亜鉛からβ-ヒドロキシエステルを作る流れ
・亜鉛エノラートができる機構(酸化的付加で C–Zn 結合を作る)
・なぜ自己縮合(クライゼン縮合)が起きないのか
・グリニャール試薬との違い——エステルを壊さない理由
・亜鉛の活性化と、反応が始まらないときに疑うこと

レフォルマトスキー反応とは

α-ハロエステル(多くはα-ブロモエステル)に金属亜鉛を作用させて亜鉛エノラートを作り、これをアルデヒドやケトンに付加させてβ-ヒドロキシエステルを得る反応です。

レフォルマトスキー反応の反応式(構造式)。α-ブロモエステルに金属亜鉛が挿入して亜鉛エノラートBrZn-CH2COOEtができ、アルデヒドR-CHOのカルボニルに付加してβ-ヒドロキシエステルR-CH(OH)-CH2COOEtが生じる

生成物のβ-ヒドロキシエステルは、脱水すればα,β-不飽和エステルになり、還元すれば1,3-ジオールになります。使い勝手のよい中間体です。

反応機構——金属を挿し込んでから付加させる

① 亜鉛が C–Br 結合に挿入する

金属亜鉛がα-ハロエステルの炭素–臭素結合に酸化的付加し、炭素–亜鉛結合をもつ有機亜鉛化合物ができます。これが亜鉛エノラートです。

ここで重要なのは、この操作に塩基がいらないことです。エノラートを「プロトンを抜いて作る」のではなく、「ハロゲンを金属で置き換えて作る」。発想そのものが違います。

② カルボニル化合物に付加する

亜鉛エノラートの炭素が求核剤として働き、アルデヒドやケトンのカルボニル炭素を攻撃します。このとき亜鉛がカルボニル酸素に配位した六員環の遷移状態を経ると考えられています(Zimmerman–Traxler 型)。

③ 後処理でアルコールにする

生じた亜鉛アルコキシドを酸で処理すると、β-ヒドロキシエステルが得られます。

「作り方」が選択性を決める
・塩基で作る → 系中に強塩基とエノラートが共存する → 副反応が起きる
・金属で作る → 強塩基が存在しない → 基質が壊れない
・同じエノラート化学でも、どう作るかで使える場面が変わる

なぜ自己縮合が起きないのか

この反応の価値は、ここに尽きます。

エステルを強塩基(NaOEt など)で処理すると、生じたエノラートが別のエステル分子のカルボニル炭素を攻撃し、クライゼン縮合が進んでβ-ケトエステルができます。狙った相手がいるのに、仲間どうしで反応してしまうわけです。

レフォルマトスキー反応では事情が違います。

自己縮合が起きない2つの理由
・強塩基がいない:エノラートは金属挿入で作られるので、ほかの分子から H を抜く力をもつ塩基が系中にない
・亜鉛エノラートは穏やか:C–Zn 結合の分極が C–Li や C–Mg ほど大きくないため、反応性の低いエステルには手を出さず、反応性の高いアルデヒド・ケトンだけを攻撃する

つまり「弱い求核剤」であることが、そのまま選択性になっているという設計です。

グリニャール試薬との違い

同じ有機金属でも、グリニャール試薬ではこの変換はできません。

  亜鉛エノラート(レフォルマトスキー) グリニャール試薬
金属 Zn Mg
C–金属結合の分極 中くらい 大きい(強い求核剤)
エステルとの反応 反応しない(だから共存できる) 反応する(2回付加して3級アルコールに)
エステル基をもつ試薬 作れる 作れない(自分自身を攻撃する)

α-ブロモエステルからグリニャール試薬を作ろうとしても、できた試薬が別の分子のエステル基を攻撃してしまいます。亜鉛の「おとなしさ」があってはじめて、エステル基をもった有機金属試薬が成立するわけです。

実験でつまずきやすいところ

亜鉛が反応を始めない

金属亜鉛の表面は酸化被膜に覆われており、そのままでは酸化的付加が進みません。亜鉛の活性化が必要です。希塩酸で洗って乾燥させる、ヨウ素や 1,2-ジブロモエタンを少量加える、亜鉛–銅対を使う、といった方法がとられます。

溶媒と温度

THF やベンゼン、エーテルなどが使われ、加熱還流することが多い反応です。発熱して急に進むことがあるため、いったん開始したら発熱に注意します。

水分

有機亜鉛化合物は水で分解します。溶媒とガラス器具は乾燥させ、不活性ガス下で行います。

どこで使うか

β-ヒドロキシエステルは、次の3方向へ展開できます。

生成物の使い道
・脱水 → α,β-不飽和エステル(マイケル受容体として使える)
・還元 → 1,3-ジオール(奈良坂・プラサード還元などで立体も制御できる)
・そのまま → 水酸基とエステルを両方もつ中間体として次の工程へ

現代では、亜鉛エノラートの代わりにLDAで低温エノラート化する方法や、シリルエノールエーテルを使う向山アルドール反応が選ばれる場面も増えました。それでも、塩基を使えない基質や、穏やかな条件が必要なときには今も有効な選択肢です。

まとめ

レフォルマトスキー反応のまとめ
・何をする反応か:α-ハロエステル+カルボニル化合物 → β-ヒドロキシエステル
・試薬:金属亜鉛(活性化が必要)、THF やベンゼン中で加熱
・機構:C–Br への酸化的付加で亜鉛エノラート → 六員環遷移状態で付加
・利点:塩基を使わないので自己縮合が起きない
・鍵:亜鉛エノラートが「弱い求核剤」であること自体が選択性になっている

よくある質問

レフォルマトスキー反応とアルドール反応はどう違いますか?

どちらもエノラートがカルボニル化合物に付加する反応ですが、エノラートの作り方が違います。アルドール反応は塩基でα水素を引き抜いて作るのに対し、レフォルマトスキー反応は金属亜鉛をα位の炭素-ハロゲン結合に挿入して作ります。塩基を使わないため、エステルの自己縮合(クライゼン縮合)が起こらないのが最大の利点です。

なぜマグネシウムではなく亜鉛を使うのですか?

グリニャール試薬は求核性が強すぎて、エステル基そのものを攻撃してしまうためです。α-ブロモエステルからグリニャール試薬を作ろうとすると、生じた試薬が別の分子のエステルに付加して目的の反応になりません。炭素-亜鉛結合は分極が中くらいで、反応性の高いアルデヒドやケトンだけを攻撃します。

亜鉛が反応を始めないときはどうしますか?

金属亜鉛の表面の酸化被膜を取り除く活性化が必要です。希塩酸で洗って十分に乾燥させる、ヨウ素や1,2-ジブロモエタンを少量加えて表面を削る、亜鉛-銅対を使うといった方法があります。活性化後に反応が急に始まって発熱することがあるので、加熱の仕方には注意します。

生成物のβ-ヒドロキシエステルは何に使えますか?

脱水すればα,β-不飽和エステルになり、マイケル付加の受容体として使えます。還元すれば1,3-ジオールになり、立体を制御したい場合は奈良坂・プラサード還元やエバンス・サクセナ還元につなげられます。水酸基とエステルを両方もつため、どちらを先に使うかで展開の幅があります。

現在でも使われている反応ですか?

使われています。ただし低温でLDAを使うエノラート化や、シリルエノールエーテルを用いる向山アルドール反応が選ばれる場面も増えました。レフォルマトスキー反応が今も有利なのは、強塩基に弱い官能基が基質にある場合や、穏やかな条件で進めたい場合です。古い反応ですが役割は残っています。