※本記事にはプロモーション(アフィリエイト広告)が含まれています。

バージェス試薬(Methyl N-(triethylammoniumsulfonyl)carbamate )は、有機化学でよく使われるマイルドで選択的な脱水試薬である。

概要

  • 低温・中性というマイルドな条件下に脱水が行える
  • 古典的脱水条件である「酸もしくは塩基触媒存在下に加熱」は不要
  • 第一級アルコールは脱水しない

歴史

ジョージア工科大学のEdward M. Burgessの研究室で開発された。

反応機構

Burgess試薬は、プロトンが隣接している2級および3級アルコールをアルケンに変換するために使用されます。第1級アルコールの脱水はうまくいかない。この試薬は一般の有機溶媒に溶け、アルコールの脱水は分子内脱離反応によるシン脱離で行われる。Burgess試薬はカルバミン酸塩と内塩である。

応用例

  • Paclitaxelの全合成1)

なぜ「マイルド」なのか

アルコールを脱水してアルケンにする古典的な方法は酸触媒+加熱です。しかしこれは、分子の中にほかの官能基があると使えません。バージェス試薬が重宝されるのは、酸も強塩基も高温も要らないからです。

酸触媒による脱水 バージェス試薬
条件 強酸・加熱 中性・低温〜穏やかな加熱
経由する中間体 カルボカチオン カルボカチオンを経ない
起こりやすい副反応 転位(より安定なカチオンへ骨格が組み替わる)・重合 転位が起こらない
立体 制御しにくい syn脱離なので立体が決まる
酸に弱い基質 使えない 使える
カルボカチオンを経ないことが、そのまま「選択的」である理由です。酸触媒の脱水では、いったんカチオンができるとより安定な位置へ転位してしまうことがあり、思った骨格のアルケンが得られません。バージェス試薬は分子内で一気に脱離するので、OHがあった場所から素直にアルケンができます。

なぜ第一級アルコールは脱水されないのか

概要にあるとおり、この試薬は第二級・第三級アルコールには効くが、第一級には効きません。理由は脱離の形にあります。

段階 何が起こるか
① 試薬がOHに付く アルコールの酸素が試薬のスルホニル基に結合し、OHが良い脱離基に変わる
② 分子内でsyn脱離する 試薬側の窒素が、同じ面にあるβ位の水素を環状の遷移状態で引き抜く→アルケンができる

②は分子内の反応なので、引き抜く水素と脱離基が同じ側を向いていないと環が組めません。第一級アルコールでは、この配置をとったときの遷移状態が不利になり、反応が進みません。第二級・第三級では、置換基が多いぶん必要な配置をとりやすく、できるアルケンも安定です。

「syn脱離」という点が、E2脱離との決定的な違いです。E2脱離はanti(脱離基と水素が反対側)を好みますが、バージェス試薬はsyn(同じ側)。つまり同じ基質から、違う立体のアルケンができることがあります。立体を狙って作りたいときに、どちらを選ぶかが設計の分かれ目になります。

よくある質問

酸触媒の脱水と比べて何が良いのですか?

カルボカチオンを経ないことです。酸触媒の脱水ではカチオンがより安定な位置へ転位してしまい、思った骨格のアルケンが得られないことがあります。バージェス試薬は分子内で一気に脱離するので転位が起こらず、OHがあった場所から素直にアルケンができます。中性・穏やかな条件なので、酸に弱い基質にも使えます。

なぜ第一級アルコールには使えないのですか?

脱離が分子内のsyn脱離だからです。試薬側の窒素がβ位の水素を環状の遷移状態で引き抜くため、水素と脱離基が同じ側を向いた配置をとる必要があります。第一級アルコールではこの遷移状態が不利になり、反応が進みません。第二級・第三級では必要な配置をとりやすく、できるアルケンも安定です。

E2脱離とはどう違うのですか?

脱離の向きが逆です。E2脱離は脱離基と水素が反対側を向くanti脱離を好みますが、バージェス試薬は同じ側を向くsyn脱離です。そのため同じ基質から違う立体のアルケンができることがあり、立体を狙って作りたいときはどちらを選ぶかが設計の分かれ目になります。

参考文献

1) Iiyama, Shota, Fukaya, Keisuke, Yamaguchi, Yu, Watanabe, Ami, Yamamoto, Hiroaki, Mochizuki, Shota, Saio, Ryosuke, Noguchi, Takashi, Oishi, Takeshi, Sato, Takaaki, Chida, Noritaka. Total Synthesis of Paclitaxel. Organic letters. 2022, Vol. 24, No. 1, p. 202–206.

関連書籍



関連記事