【元素図鑑】金 Au【金色に見える理由も触媒になる理由も相対論効果】
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金は、第11族元素に属する、原子番号79の金属元素です。
なぜ金だけが「金色」なのか
金属はふつう銀白色です。銅も金も、その例外にあたります。なぜこの2つだけ色がつくのか——答えは電子の遷移エネルギーがちょうど可視光の範囲に落ちているからです。
金属が光るのは、電子が下の軌道から上の軌道へ飛び移って光を吸収し、残りを反射するためです。銀ではこの遷移に必要なエネルギーが大きく、吸収するのは紫外線。可視光は全部跳ね返ってくるので銀白色に見えます。金では5d軌道と6s軌道のすき間が小さく、吸収が青〜紫の領域に入ります。青を吸い取られた残りが反射されるので、黄色〜赤みを帯びた色になります。
| 金属 | 吸収する光 | 見える色 |
|---|---|---|
| 銀 Ag | 紫外線(可視光は吸収しない) | 銀白色 |
| 金 Au | 青〜紫 | 黄金色(補色が残る) |
| 銅 Cu | 青〜緑 | 赤銅色 |
なぜ錆びないのか、そしてどうやって溶かすのか
金は単体のまま自然界に存在する数少ない金属です。酸素とも水とも反応せず、ふつうの酸では溶けません。電子を手放して陽イオンになりたがらない——つまり酸化されにくいということです。
ところが、イオンになったあとの状態を安定化してやれば溶けるようになります。ここが受験でも院試でも問われるポイントです。
| 溶かす方法 | 何を使うか | なぜ溶けるのか |
|---|---|---|
| 王水 | 濃硝酸+濃塩酸(体積比1:3) | 硝酸が酸化し、塩化物イオンが[AuCl4]−として錯イオンに囲い込む |
| シアン化物法 | シアン化物の水溶液+空気 | [Au(CN)2]−が非常に安定なため、空気の酸素だけで酸化が進む(鉱山での金の回収法) |
| 水銀を使うアマルガム法 | 水銀 | 化学反応ではなく金を溶け込ませる(水銀汚染のため現在は規制) |
有機化学での金——三重結合を活性化する触媒
金は「資産」や「装飾品」の顔で知られていますが、2000年代以降の有機合成でもっとも注目された金属のひとつでもあります。鍵はやはり相対論効果です。
6s軌道が縮んだ金(I)は、炭素−炭素の多重結合のπ電子をつかむのがとてもうまい(カルボフィリックと呼ばれます)。アルキンやアレンに金(I)が配位すると、π電子が引き抜かれて求核攻撃を受けやすくなります。アルコールや水、アミンといった穏やかな求核剤が、室温でもアルキンに付加するようになるのです。
| 金触媒の特徴 | 意味すること |
|---|---|
| アルキン・アレンを選択的に活性化 | アルケンやカルボニル基が共存していても手をつけない |
| 水や空気にかなり強い | 厳密な無水・不活性条件を組まなくても反応が進む |
| β水素脱離を起こしにくい | 遷移金属触媒でよくある副反応の経路が働かない |
| 触媒量がごく少量で足りる | 高価な金属でも実用になる |
意外な用途——電子部品と医薬
| 用途 | 金を使う理由 |
|---|---|
| 電子回路の接点・ボンディングワイヤ | 酸化被膜ができないので接触抵抗が変わらない。延性が高く髪の毛より細い線に引ける |
| 金の表面への単分子膜 | チオール(−SH)が金と強く結びつくので、分子を並べて貼り付ける土台に使える(センサー・分子エレクトロニクス) |
| 金ナノ粒子 | 粒径によって色が変わる(赤〜紫)。検査キットの発色や、触媒としての利用 |
| 関節リウマチの薬 | 金(I)の有機化合物が抗リウマチ薬として使われてきた |
| 歯科材料 | 口の中という過酷な環境でも変質しない |
基本情報
| 和名 | 金 |
|---|---|
| 英名 | Gold |
| 語源 | インド・ヨーロッパ語「輝く(ghel)」 |
| 元素記号 | Au |
| 原子番号 | 79 |
| 原子量 | 197.0 |
| 常温(25℃)での状態 | 固体(金属) |
| 色 | 黄金色 |
| 密度 | 19.320 g/cm3(20℃) |
| 融点 | 1064.43℃ |
| 沸点 | 2857℃ |
| 発見者 | 古来より知られている |
| 含有鉱物 | 自然金 |
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よくある質問
5d軌道と6s軌道のエネルギー差が小さく、吸収が青〜紫の可視光域に入っているためです。青を吸収した残りが反射されるので、黄金色に見えます。銀ではこの差が大きく紫外線を吸収するため、可視光はすべて反射されて銀白色になります。金で差が小さいのは相対論の効果で6s軌道が縮み、5d軌道が広がって両者が近づくからです。
酸化するだけでは足りず、生じた金イオンを錯イオンとして取り去る相手が必要だからです。王水は濃硝酸と濃塩酸を体積比1:3で混ぜたもので、硝酸が金を酸化し、塩酸の塩化物イオンが[AuCl4]−として囲い込みます。イオンが安定化されるぶん反応が進むようになる、という仕組みです。
反応しにくいことが、むしろ触媒としての長所になっているからです。金(I)は相対論効果で6s軌道が縮んでいるため炭素−炭素三重結合のπ電子をつかむのが得意で、アルキンを求核攻撃されやすい状態に変えます。一方で自分自身は酸化も還元もされにくく、水や空気にも強いので、穏やかな条件で反応を回せます。
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