アルケンのラジカル付加と重合:連鎖成長反応の基本
アルケンの反応というと、まず求電子付加反応を思い浮かべることが多いですが、二重結合はラジカル種とも反応します。
このタイプの反応では、電子対ではなく不対電子が関与するため、極性反応とは異なる機構で進行します。
ラジカル付加反応は、有機化学の基礎として重要であるだけでなく、高分子化学とも深く結びついています。
特にアルケンの重合は、プラスチックや合成材料の製造に直結する重要な反応です。
ここでは、アルケンに対するラジカル付加の基本的な考え方と、そこから発展する連鎖成長型重合の仕組みを整理します。
ラジカル反応とは何か
ラジカル反応とは、不対電子をもつ化学種が関与する反応です。
極性反応では電子対が移動しますが、ラジカル反応では電子が一個ずつ動きます。
不対電子をもつ種は一般に反応性が高く、結合を切断したり、新しい結合を作ったりしやすい性質を示します。
そのため、ラジカル反応では、分子の変換が連鎖的に進行することがあります。
アルケンは π 結合をもつため、このようなラジカル種の攻撃を受けやすい反応基質の一つです。
アルケンへのラジカル付加
アルケンにラジカルが付加すると、もともとの π 結合の一部が使われて新しい σ 結合が形成されます。
同時に、二重結合のもう一方の炭素には新たなラジカル中心が生じます。
つまり、ラジカル付加では、最初のラジカルが消える一方で、新しいラジカルが生成します。
この性質が、反応を連鎖的に進める原動力になります。
生成した新たなラジカルは、さらに別のアルケン分子へ付加できる場合があります。
この繰り返しが、後で述べる重合反応の本質です。
ラジカル連鎖反応の三段階
ラジカル反応は、一般に開始、成長、停止の三段階で説明されます。
開始段階では、過酸化物などの開始剤が分解してラジカルを生じます。
この最初のラジカルが、反応全体の出発点になります。
成長段階では、そのラジカルがアルケンへ付加し、新しいラジカルを生じます。
生じたラジカルはさらに別のアルケンに付加し、反応が連鎖的に続いていきます。
停止段階では、二つのラジカルが結合するなどして、不対電子が失われます。
この段階に入ると、連鎖反応は終結します。
この三段階の枠組みを押さえておくと、単純なラジカル付加も、重合反応も同じ論理で理解できるようになります。
ラジカル付加の位置選択性
ラジカル付加でも、どちらの炭素に新しい結合ができるかは重要です。
一般に、反応はより安定なラジカル中間体が生じる方向に進みやすくなります。
たとえば、二重結合の一方にラジカルが付加したとき、もう一方の炭素に二級または三級ラジカルが生じるなら、その経路は有利になります。
これは、ラジカルも置換度が高いほど超共役などによって安定化されるためです。
したがって、ラジカル反応でも「どの中間体が安定か」を考えることが、生成物予測の基本になります。
アルケンの重合とは何か
アルケンの重合とは、多数のアルケン分子が連続して結びつき、巨大な分子を作る反応です。
生成物は高分子、すなわちポリマーです。
アルケンは二重結合をもつため、その π 結合を開いて新しい C–C 結合を次々に作ることができます。
その結果、同じ単位構造が繰り返し並んだ高分子鎖が形成されます。
このとき、出発物質となる小分子をモノマー、生成する高分子をポリマーと呼びます。
たとえばエチレンを重合するとポリエチレンが得られます。
連鎖成長型重合
アルケンのラジカル重合は、連鎖成長型重合の代表例です。
これは、一つの活性種が次々にモノマーへ付加し、鎖を伸ばしていく形式の重合です。
開始段階で生じたラジカルがまず一個のアルケンに付加します。
すると、新しい末端ラジカルができます。
この末端ラジカルがさらに別のアルケンへ付加し、鎖は一段ずつ伸びていきます。
この過程では、一度成長が始まると短時間のうちに多くのモノマーが連続して取り込まれます。
そのため、連鎖成長型重合では高分子が急速に形成されます。
代表例:エチレンとプロピレンの重合
エチレンの重合では、CH2=CH2 の二重結合が開いて、–CH2–CH2– という繰り返し単位をもつポリエチレンが生じます。
この反応は、最も基本的な高分子生成反応の一つです。
同様に、プロピレンの重合では、–CH2–CH(CH3)– という繰り返し単位をもつポリプロピレンが得られます。
このように、アルケンの置換基の違いは、得られる高分子の構造と性質に直接影響します。
つまり、重合は単に分子が長くなる反応ではなく、材料の性質を設計する化学でもあります。
ラジカル重合が重要である理由
ラジカル重合は、工業的に非常に重要な反応です。
ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなど、多くの高分子材料はアルケンの重合を基盤として作られています。
また、有機化学の学習という観点でも、ラジカル重合は「ラジカル反応がどのように連鎖的に進行するか」を理解する格好の例です。
開始、成長、停止という三段階の考え方は、他のラジカル反応にもそのまま応用できます。
そのため、アルケンのラジカル付加と重合を学ぶことは、高分子化学への入口であると同時に、ラジカル機構全体を理解するための基礎でもあります。
生体反応とのつながり
ラジカル付加は工業反応だけでなく、生体内の反応とも関係しています。
酵素反応の中には、ラジカル中間体を経由して進行するものがあります。
もちろん、基礎有機化学の段階では、まず人工的な重合反応を理解することが中心になります。
ただし、ラジカルという概念は、材料化学だけでなく生化学にも広がる重要な考え方であることを意識しておくと、学習内容の位置づけが見えやすくなります。
練習問題
解答:電子対ではなく、不対電子が一個ずつ移動します。
解答:開始、成長、停止です。
解答:モノマーと呼びます。
解答:ポリエチレンが得られます。
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