極性共有結合と分子の極性:電気陰性度と双極子の考え方
有機化学では、結合や分子が極性をもつかどうかを正しく判断できることが、反応性や溶解性を理解するための出発点になります。
同じ共有結合であっても、電子がどちらの原子に偏っているかによって、反応点の現れ方は大きく変わります。
ここでは、電気陰性度という概念を手がかりに、極性共有結合と分子全体の極性を系統的に整理します。
共有結合と極性共有結合の違い
共有結合とは、二つの原子が電子対を共有することで生じる結合です。
ただし、共有している電子が常に等しく分け合われているとは限りません。
原子ごとに電子を引きつける力には差があり、その差が小さい場合には結合はほぼ無極性とみなされます。
一方、その差が大きい場合には電子が一方の原子側へ偏り、結合の一方がわずかに正、もう一方がわずかに負に帯電します。
このような結合を極性共有結合と呼びます。
電気陰性度と部分電荷(δ⁺・δ⁻)
原子が共有電子対を引きつける強さの尺度を、電気陰性度と呼びます。
電気陰性度が高い原子ほど、共有電子対を強く引き寄せます。
その結果、原子間に電子密度の偏りが生じ、部分電荷として表現できるようになります。
電子を多く引き寄せる側の原子は、わずかに負に帯電しているとみなし、δ−と表記します。
反対に、電子を引き寄せられる側の原子は、わずかに正に帯電しているとみなし、δ+と表記します。
たとえば炭素と酸素の結合では、酸素の方が電気陰性度が高いため、酸素側がδ−、炭素側がδ+になります。
この部分電荷は反応点の予測に直結します。
一般に、δ+を帯びた原子は電子不足になりやすく、求電子的に振る舞います。
結合双極子と分子双極子
極性共有結合では、電子密度の偏りに対応して結合双極子が生じます。
結合双極子は、δ+側からδ−側へ向かうベクトルとして表されます。
分子中に複数の極性結合がある場合、それぞれの結合双極子はベクトルとして合成されます。
この合成の結果として残るベクトルが分子双極子です。
分子双極子がゼロであれば、分子全体としては無極性とみなされます。
逆に、ベクトルが打ち消されずに残る場合、分子は極性分子になります。
分子の形と極性の打ち消し
分子が極性をもつかどうかは、結合の極性だけでなく分子の形にも強く依存します。
たとえば二酸化炭素では、個々のC=O結合は極性をもっています。
しかし、分子は直線形であり、二つの結合双極子は正反対の向きに並びます。
そのため、分子全体としての双極子は打ち消され、二酸化炭素は無極性分子になります。
一方、水分子ではO–H結合が極性をもち、さらに分子が折れ曲がった形をしているため、二つの結合双極子は打ち消されません。
この結果、水分子は分子双極子をもつ極性分子になります。
極性が溶解性と反応性に与える影響
分子の極性は、物質の溶解性に直接影響します。
一般に、極性分子は極性溶媒に溶けやすく、無極性分子は無極性溶媒に溶けやすい傾向があります。
これは、分子間で働く静電的相互作用や水素結合の形成が、極性の有無によって大きく変わるためです。
反応性の観点では、結合の極性は反応点の偏りとして現れます。
δ+を帯びた原子は求核剤から攻撃されやすく、反応の起点になりやすいと考えられます。
逆に、δ−を帯びた原子や孤立電子対、あるいはπ電子は、電子を与えやすく、求核的に振る舞う傾向があります。
このように、極性の理解は有機反応の方向性を読み解くための基礎になります。
練習問題
解答:電気陰性度の差が小さい場合、電子はほぼ等しく分布します。電気陰性度の差が大きい場合、電子は電気陰性度の高い原子側へ偏ります。
解答:δ⁺は電子密度が相対的に低く、わずかに正に帯電している部分を表します。δ⁻は電子密度が相対的に高く、わずかに負に帯電している部分を表します。
解答:結合双極子は個々の結合における電荷の偏りを表すベクトルです。分子双極子は、分子中の結合双極子をベクトルとして合成した結果として現れる、分子全体の極性の指標です。
解答:二酸化炭素は直線形で、二つのC=O結合の双極子が互いに反対向きに並ぶため、分子全体の双極子が打ち消されるからです。
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