SN1/SN2の入口:基質・溶媒・求核剤で一発判定
SN1とSN2は、有機化学で最も頻出の「置換反応の2大ルート」
ここを最初に整理すると、反応が進む/進まない、生成物の立体、条件の意味が一気に見えるようになる
この記事では、暗記ではなく
「基質(何級?)」「溶媒(プロトン性?)」「求核剤(強い?かさ高い?)」の3点で
SN1/SN2を機械的に判定できるテンプレを作る
この記事でできること
- SN1/SN2の違い(段階・速度式・立体)を一文で説明できる
- 基質・溶媒・求核剤から、SN1/SN2を即判定できる
- 「なぜその条件でそうなるか」を脱離基・安定性・立体障害で説明できる
- 試験で落としやすい“競合(E1/E2)”を最低限回避できる
先に結論(ここだけ読めばOK)
判定はこの順が最速で安定する
- Step1:基質の級数を見る
- 3級(R3C–LG)→ 基本SN1寄り(SN2は立体でほぼ無理)
- メチル/1級 → 基本SN2寄り(SN1はカチオン不安定)
- 2級 → 条件次第(溶媒と求核剤で決まる)
- Step2:溶媒を見る
- 極性プロトン性(H2O, ROH)→ SN1を押しやすい(イオンを溶媒和して脱離を助ける)
- 極性非プロトン性(DMSO, DMF, アセトン, MeCN)→ SN2を押しやすい(求核剤が働きやすい)
- Step3:求核剤を見る
- 強い求核剤(小さくて攻撃しやすい)→ SN2を押す
- 弱い求核剤(H2O, ROH)でも反応が進むなら → SN1の可能性が高い
- 最後に:脱離基が悪いなら、そもそも進みにくい(OHはそのままでは弱い、OTsは強い)
SN1とSN2を最小セットで整理
SN2:一段階(同時に結合ができて切れる)
- 速度:基質と求核剤の両方に依存(2分子が同時に関与)
- 立体:背面攻撃 → ワルデン反転(立体反転)
- 特徴:混み合うほど遅い(3級はほぼ不可)
SN1:二段階(脱離→攻撃)
- 速度:主に基質に依存(まず脱離が律速になりやすい)
- 立体:平面状カチオンを経由 → ラセミ化傾向(完全ラセミでない場合もある)
- 特徴:カチオンが安定なほど進む(3級、ベンジル、アリルが有利)
判定テンプレ:3つの軸(基質・溶媒・求核剤)
軸1:基質(最優先)
| 基質 | SN2 | SN1 | 理由(本質) |
|---|---|---|---|
| メチル(CH3–LG) | ◎ | × | SN2は立体が空いている/SN1はメチルカチオンが不安定 |
| 1級(RCH2–LG) | ◎ | ×(例外あり) | SN2が通りやすい/SN1は1級カチオンが不安定(ベンジル・アリルは例外) |
| 2級(R2CH–LG) | △ | △ | 条件で決まる(溶媒と求核剤が勝敗を分ける) |
| 3級(R3C–LG) | × | ◎ | SN2は背面攻撃が立体的に困難/SN1は3級カチオンが比較的安定 |
例外として押さえると強いもの
- ベンジル位・アリル位:共鳴でカチオンが安定 → SN1が起こりやすい
- ネオペンチル:1級でも異常に混み合う → SN2が非常に遅い
軸2:溶媒(SN1は「イオンを安定化」、SN2は「求核剤を働かせる」)
| 溶媒タイプ | 代表例 | SN1への影響 | SN2への影響 |
|---|---|---|---|
| 極性プロトン性 | H2O, MeOH, EtOH | ◎(カチオン・アニオンを溶媒和して脱離を助ける) | △(求核剤が溶媒和されて弱まりやすい) |
| 極性非プロトン性 | DMSO, DMF, アセトン, MeCN | △(SN1も起こりうるが押しにくいことが多い) | ◎(陰イオン求核剤が“裸に近く”なり反応性が上がりやすい) |
軸3:求核剤(強さ+かさ高さ)
SN2を押す求核剤(典型)
- 陰イオン求核剤:I−, Br−, Cl−, CN−, N3−, RS−, HO−, RO− など
- 中性でも攻撃できる:NH3, アミン類(条件次第)
SN1でよく出る求核剤(弱くても進む)
- H2O, ROH(溶媒そのものが求核剤になる:ソルボリシス)
かさ高い塩基は「置換より脱離」へ寄りやすい
2級以上の基質で
・求核剤が強塩基かつかさ高い
・温度が高い
などの条件が重なると、SN2ではなくE2へ逃げやすい
SN1/SN2判定の段階でも、この“脱離への逃げ”を常に意識する
脱離基チェック(これが弱いと議論が始まらない)
脱離基が悪いと、SN1でもSN2でも進みにくい
代表的な考え方は次の通り
- 良い脱離基:I−, Br−, Cl−, OTs(TsO−が安定)
- 悪い脱離基:OH−, OR−(強塩基で不安定)
- OHを使いたいなら:酸でプロトン化してH2Oとして脱離させる、またはOTsなどに変換する
実戦:一発判定フローチャート(試験用)
フローチャート(文章版)
- 基質が3級? → SN2は切る → SN1(ただし強塩基・高温ならE2/E1も疑う)
- 基質がメチル/1級? → SN1は基本切る → SN2(ただしネオペンチルは注意)
- 基質が2級? → 溶媒と求核剤で決める
- 極性プロトン性+弱求核(H2O/ROH)→ SN1寄り(ソルボリシス)
- 極性非プロトン性+強求核(陰イオン)→ SN2寄り
- 強塩基・かさ高い → E2へ寄りやすい(置換を期待しない)
- 脱離基が悪い(OHなど)なら、まず脱離基強化を疑う
典型例(よく出るパターン)
例1:tert-ブチルクロリド + H2O
3級基質、極性プロトン性、弱求核(H2O)
弱求核でも進む → SN1が濃厚(カチオン経由、ラセミ化傾向)
例2:CH3Br + CN−(DMSO)
メチル基質、強求核(CN−)、極性非プロトン性(DMSO)
SN2が鉄板(背面攻撃、反転)
例3:2-ブロモブタン + EtO−(EtOH)
2級基質、強塩基(EtO−)、プロトン性溶媒
置換(SN2)と脱離(E2)が競合しやすい
温度や塩基のかさ高さが増えるほどE2が優勢になりやすい
よくあるミスと対策
「2級=SN2」と決め打ちする
2級は条件依存
溶媒がプロトン性で求核剤が弱いならSN1寄りにもなる
逆に非プロトン性+強求核ならSN2寄りになる
「強塩基=強求核」と決め打ちする
多くの場面で相関するが、立体や溶媒で崩れる
さらに、強塩基条件はE2へ逃げやすい
“置換を狙っているのに脱離が出る”の典型ミスになる
脱離基を無視して議論を始める
OHがそのまま抜ける想定でSN1/SN2を議論すると事故る
まず脱離基を見て、必要なら酸やOTs化など「反応が成立する形」に直す
立体(反転/ラセミ化)を落とす
SN2は反転
SN1はラセミ化傾向
ここは得点源なので、判定とセットで必ず書く
練習問題(演習)
解答
解答
解答
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- 反応機構の矢印ルール:出発点と到着点の作法(SN1/SN2の機構を描けるようになる)
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