電気陰性度と結合の極性:δ+/δ−の付け方
δ+ / δ−(部分電荷)が素早く付けられると、
求電子点・求核点の発見、酸塩基、反応機構(矢印の向き)が一気にラクになる
逆にここが曖昧だと、「どこが攻撃される?」「どこから電子が出る?」で毎回止まる
この記事では、電気陰性度の直感から、δ+/δ−をミスなく付ける最短ルールをテンプレ化する
この記事でできること
- 電気陰性度の意味を「電子を引っ張る強さ」として言語化できる
- 結合の極性(δ+/δ−)を迷わず付けられる
- δ+/δ−から「求核点・求電子点」を推定できる
- よくある例外(カルボニル、ハロゲン、酸・塩基、誘起効果)で事故らない
先に結論(δ+/δ−の最短ルール)
- 結合している2原子の電気陰性度を比較する
- 電気陰性度が高い方がδ−、低い方がδ+
- 差が大きいほど極性が強い(イオン結合に近づく)
- 多原子分子では、誘起効果(−I / +I)でδが連鎖していく(距離で弱まる)
1. 電気陰性度とは何か
電気陰性度(electronegativity)は「共有結合の電子を自分側に引き寄せる強さ」
引っ張る力が強い原子ほど、結合電子がその原子側に偏りやすい
その偏りを “部分電荷” として表したのが δ+ / δ−
2. δ+/δ−の意味:形式電荷とは別
δ+/δ−(部分電荷)
電子密度が「少し」偏っている状態を表す
実際の電子分布(現実寄りの概念)
形式電荷(formal charge)
ルイス構造の“帳簿上の電荷”
電子を機械的に割り振って計算する(採点ツール)
重要:δ+/δ−は “結合の偏り”、形式電荷は “構造の帳簿”
両者は混同しない
3. 覚えるべき電気陰性度の順位(有機で最小セット)
数値暗記は不要
有機での判断に必要な“並び”だけ固定する
超頻出の並び
F > O > N > Cl ≈ Br ≈ I > S > C > H
これだけ覚えると強いポイント
- OとNはCより強く電子を引く → Cがδ+になりやすい
- ハロゲンは基本的に強い−I(電子求引性)
- Hはたいていδ+側に回る(例外:金属水素化物は後で)
4. δ+/δ−の付け方:基本例で手を動かす
4-1. C–O結合(アルコール)
Oの方がCより電気陰性度が高い
→ Oがδ−、Cがδ+
ついでにO–Hでも、Oがδ−、Hがδ+
だからアルコールのOは「孤立電子対も持ち、δ−にも寄る」=求核点になりやすい
4-2. C=O(カルボニル)
Oが強く電子を引く
→ Cが明確にδ+、Oがδ−
ここが超重要:カルボニル炭素が求電子点になりやすい理由そのもの
付加反応や求核攻撃の“到着点”になる
4-3. C–X(ハロゲン化アルキル)
ハロゲン(X)はCより電気陰性度が高い
→ Xがδ−、結合している炭素がδ+
だからハロゲン化アルキルは「炭素が求電子点」になりやすく、SN1/SN2の舞台になる
4-4. C–N(アミン)
NはCより電気陰性度が高い
→ Nがδ−、Cがδ+
ただしアミンの本質は「Nの孤立電子対が塩基・求核性を生む」
δ−だけでなく “孤立電子対の存在” もセットで見る
5. 誘起効果(−I / +I):δは連鎖する
−I(電子求引性):ハロゲン、NO2、CF3 など
電子を引っ張る置換基があると、隣の炭素がよりδ+寄りになる
その影響は距離が離れるほど弱まる
+I(電子供与性):アルキル基
アルキル基はわずかに電子を押し出す傾向
カチオン安定化(超共役)などの議論にもつながる
6. δ+/δ−から反応点を読む(最短接続)
求核点(電子が出る側)
典型的には
- δ−を帯びる原子
- 孤立電子対を持つ原子(N、O、S、ハロゲンなど)
- π結合(電子密度が外側にある)
求電子点(電子を受ける側)
典型的には
- δ+を帯びる原子(カルボニル炭素、C–Xの炭素など)
- 正電荷(カチオン)
- 脱離基が付いた炭素(SNで狙われる)
重要:δ+ / δ−は「反応機構の矢印の出発点・到着点」を探す最初の地図になる
7. よくあるミスと対策
ミス1:δ+とδ−を形式電荷だと思う
δは部分電荷で、分布の偏り
形式電荷は帳簿
問題が聞いているのがどちらかをまず確認する
ミス2:カルボニルでOが求電子だと思う
カルボニルの求電子点は基本「炭素」
Oはδ−で、むしろプロトン化されやすい・配位しやすい
ミス3:ハロゲン化アルキルでハロゲン側を攻撃点だと思う
C–Xでは炭素がδ+
SNでは炭素が攻撃され、Xが脱離基として出ていく
ミス4:分子全体のδのバランスを見ない
多原子分子では誘起効果でδが連鎖
1本の結合だけを見て終わらせず、「近くに強い−I基があるか」を最後に確認する
練習問題(演習)
解答:
(a)Oがδ−、Cがδ+
(b)Nがδ−、Cがδ+
(c)Clがδ−、Cがδ+
解答:
C
理由:Oが強く電子を引いてCがδ+になり、電子を受け取りやすい求電子点になるため
解答:
炭素
理由:C–Cl結合はCl側がδ−、炭素側がδ+で、炭素が求電子点になるため
解答:
隣の炭素はよりδ+寄りになる
理由:−I基が電子を引き、結合電子密度を遠ざけるため
解答:
(a)
理由:孤立電子対とδ−傾向により電子を与えやすい(求核性)
(b)(c)は電子を受ける側(求電子点)になりやすい
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