エーテル(ether)は、有機化合物の中でも比較的安定で中性な官能基であり、酸素原子が2つの炭素と単結合で結ばれた構造を持ちます。
一般式は R–O–R’ で表され、低極性ながら電子豊富な酸素原子を含むため、分子間相互作用や錯形成などに活用されます。
本記事では、エーテルの構造と分類、命名法、物理的性質、合成法、反応性、そして工業・分析・医薬分野への応用まで、有機化学の視点から詳しく解説します。
Contents
エーテルの構造と命名法
エーテルは酸素原子に2つの炭素が結合した構造を持ち、アルコールの–OH基の水素がアルキル基に置き換わった形と考えることができます。
R–O–R'
R と R’ は同一または異なる炭化水素基
IUPAC命名法
- 最長の炭素鎖を基準とし、他方を「アルキルオキシ基」として命名
- 例:CH₃CH₂OCH₃ → メトキシエタン(methoxyethane)
慣用名
- エチルメチルエーテル(ethyl methyl ether)など、「アルキル + アルキル + ether」で表記
- ジエチルエーテル(diethyl ether)は特に広く知られる溶媒
エーテルの分類
- 対称型エーテル: R = R’(例:ジエチルエーテル)
- 不対称型エーテル: R ≠ R’(例:メチルブチルエーテル)
- 環状エーテル: テトラヒドロフラン(THF)、クラウンエーテルなど
エーテルの物理的性質
- 分子間に水素結合を形成しないため、沸点はアルコールより低い
- 酸素原子の非共有電子対により、金属イオンと錯形成が可能
- 有機溶媒として中性・安定・極性低中程度で使いやすい
- 引火性が高く、空気中で過酸化物を生成しやすい(保存に注意)
代表例の沸点
化合物 | 構造 | 沸点(℃) |
---|---|---|
ジエチルエーテル | CH₃CH₂OCH₂CH₃ | 34.6 |
テトラヒドロフラン(THF) | 環状エーテル | 66 |
エーテルの主な合成法
① ウィリアムソン合成(Williamson ether synthesis)
R–O⁻ + R'–X → R–O–R' + X⁻
- アルコキシド(RO⁻)とハロアルカン(R’–X)のSN2反応
- 一級ハロゲン化物が最も適しており、二級・三級は副反応あり
② アルコールの脱水縮合
2 R–OH ⇌ R–O–R + H₂O
濃硫酸の存在下で130〜140℃に加熱すると、対称エーテルが得られます。
平衡反応であり、脱水が鍵となります。
③ 環化による環状エーテルの形成
- 1,4-ジヒドロキシ化合物 → THFなどへ環化
エーテルの主な反応
エーテルは一般に安定で、中性条件ではほとんど反応しません。しかし、強酸条件下では反応性を示します。
① 酸による開裂反応
R–O–R' + HX → R–X + R'–OH
- HIやHBrなどの強酸存在下で開裂
- 反応機構:SN1 または SN2(基質の構造による)
② 自動酸化による過酸化物生成
- 空気中でゆっくり酸化 → 爆発性の有機過酸化物を形成
- 古いエーテル溶媒は保存期限・開封日を明記し、使用前に検査が必要
③ Lewis酸との錯体形成
- 酸素の孤立電子対が金属塩と錯体を形成 → 溶媒抽出や錯体触媒に活用
エーテルの応用と代表例
① 溶媒としての利用
- ジエチルエーテル:グリニャール試薬の溶媒
- THF:極性溶媒であり、リチウム試薬・還元反応にも使用可
② クラウンエーテル
- 多環状ポリエーテル → 金属イオンを選択的に包接
- 相間移動触媒やセンサー材料として応用
③ 医薬・化粧品・香料原料
- エーテル結合は脂溶性・耐加水分解性をもたらす → 薬物設計に利用
④ 材料科学
- PEG(ポリエチレングリコール):親水性高分子材料
- ポリマー修飾、ドラッグデリバリー、界面制御に活用
エーテルの保存と安全性
- 引火性が高く、換気のよい場所で使用する
- 空気中で過酸化物を生成するため、遮光・密閉・低温保存が推奨
- 長期保存品はヨウ化カリウムデンプン紙で過酸化物検査を行う
まとめ:エーテルは安定性と機能性を兼ね備えた万能官能基
- エーテル(R–O–R’)は比較的安定で反応性は低いが、多機能な構造単位
- ウィリアムソン合成や脱水反応で合成可能
- 酸性条件下では開裂や反応が可能
- 溶媒・クラウンエーテル・高分子・医薬など応用分野が広い
次回は「フェノール(–OH on aromatic ring)」をテーマに、芳香族水酸基の構造、酸性、反応性、検出法、応用を詳しく解説します。
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