STUDY

ラセミ体と鏡像異性体の分割

ラセミ体(racemic mixture)は、等量の鏡像異性体(エナンチオマー)を含む混合物です。ラセミ体の各エナンチオマーは互いに鏡像関係にあり、光学的に活性です。しかし、ラセミ体全体としては光学不活性(偏光を回転させない)です。ラセミ体から個々のエナンチオマーを分割することは、特に医薬品開発などで重要です。以下にラセミ体の特徴と分割方法について説明します。

ラセミ体の特徴

光学不活性

ラセミ体は等量のエナンチオマーを含むため、偏光に対する回転効果が互いに打ち消し合い、全体として光学不活性です。

物理的性質

ラセミ体は、個々のエナンチオマーと異なる物理的性質(融点、溶解度など)を示すことがあります。これを利用して分離することが可能です。

ラセミ体の分割方法

ラセミ体からエナンチオマーを分離する方法はいくつかあります。主な方法は以下の通りです。

ジアステレオマー形成法

エナンチオマーをキラルな試薬と反応させ、ジアステレオマーを形成します。ジアステレオマーは異なる物理的性質を持つため、分離が容易です。分離後、ジアステレオマーを元のエナンチオマーに戻します。

例: (+)-酒石酸を用いて、ラセミ体のアミンをジアステレオマー塩に変換し、結晶化によって分離します。その後、酸や塩基でエナンチオマーを回収します。

キラルクロマトグラフィー

キラルな固定相を用いたクロマトグラフィーでエナンチオマーを分離します。この方法は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やガスクロマトグラフィー(GC)で利用されます。

不斉合成

ラセミ体を用いずに、初めからエナンチオマーを選択的に合成する方法です。キラル触媒やキラル補助剤を用いることで、特定のエナンチオマーを生成します。

光学分割(光学分解)

自然界に存在するキラル分子や酵素を利用して、ラセミ体を選択的に反応させる方法です。この方法は、生体触媒や光学分割剤を使用します。

具体的な例

酒石酸を用いたジアステレオマー形成法

アミンのラセミ体を(+)-酒石酸と反応させてジアステレオマー塩を生成します。これにより、ジアステレオマーの物理的性質の違い(結晶化性の違い)を利用して分離します。

分離後、酸や塩基でジアステレオマーを元のエナンチオマーに戻します。

キラルHPLC

キラルな固定相を持つHPLCカラムを使用してエナンチオマーを分離します。ラセミ体の溶液をカラムに通し、エナンチオマーが異なる速度で移動するため、分離が可能です。

不斉合成

キラルなリン酸塩を触媒として用い、アクリロイル基を有する基質から特定のエナンチオマーを生成します。この方法では、初めから目的のエナンチオマーを得ることができます。

まとめ

ラセミ体は等量のエナンチオマーを含む混合物であり、全体として光学不活性です。ラセミ体のエナンチオマーを分割するためには、ジアステレオマー形成法、キラルクロマトグラフィー、不斉合成、光学分割などの方法が用いられます。これらの方法を適切に選択し使用することで、高純度のエナンチオマーを得ることが可能です。