共鳴(resonance)は、特定の分子が単一のルイス構造では完全に表現できない場合に、複数のルイス構造を用いて分子の電子分布を表現する概念です。共鳴構造(resonance structures)または共鳴式(resonance forms)は、実際の分子の構造を示す可能性のある複数の形式的な構造を意味します。これらの構造は、分子の実際の電子分布の平均的な描写を提供します。
共鳴の特徴
共鳴構造の描写
共鳴構造は、分子内の電子が異なる形式で分布している複数のルイス構造で表現されます。
これらの構造は、実際の分子を完全に表現するものではなく、実際の構造はこれらの共鳴構造の混合(平均)として考えられます。
共鳴ハイブリッド
実際の分子の電子分布は、共鳴構造のどれか一つではなく、すべての共鳴構造の平均である共鳴ハイブリッド(resonance hybrid)として表現されます。
共鳴ハイブリッドは、分子内の電子が広がっていることを示し、電子密度が複数の原子にわたって分布していることを意味します。
共鳴エネルギー
共鳴エネルギーは、共鳴ハイブリッドのエネルギーが最も安定な共鳴構造よりも低いことを示します。
共鳴効果により、分子はより安定化されます。
共鳴の例
例1: ベンゼン(C6H6)
ベンゼンは最もよく知られた共鳴の例の一つです。ベンゼンの構造は、以下の2つの共鳴構造で表現されます:
- 1つ目の構造:六角形の炭素環に、1、3、5位に二重結合を持つ構造。
- 2つ目の構造:六角形の炭素環に、2、4、6位に二重結合を持つ構造。
実際のベンゼン分子は、これらの2つの共鳴構造の平均であり、全ての炭素-炭素結合が同じ長さと強さを持つ共鳴ハイブリッドです。
例2: 炭酸イオン(CO32-)
炭酸イオンも共鳴を示す例です。以下のような3つの共鳴構造があります:
- 1つ目の構造:中央の炭素に対して、1つの酸素に二重結合、他の2つの酸素に単結合を持つ構造。
- 2つ目の構造:中央の炭素に対して、二番目の酸素に二重結合、他の2つの酸素に単結合を持つ構造。
- 3つ目の構造:中央の炭素に対して、三番目の酸素に二重結合、他の2つの酸素に単結合を持つ構造。
実際の炭酸イオンは、これらの共鳴構造の平均であり、全ての炭素-酸素結合が同じ長さと強さを持つ共鳴ハイブリッドです。
共鳴構造の描き方
全ての可能なルイス構造を描く
分子の全ての可能なルイス構造を描き、異なる場所に二重結合や孤立電子対が配置される様子を示します。
矢印で結ぶ
共鳴構造間は、共鳴矢印(↔)を用いて結びます。この矢印は、構造がどちらか一方ではなく、実際には両方の構造の平均であることを示します。
形式電荷を考慮
各共鳴構造において、各原子の形式電荷を計算し、全ての構造が合理的であることを確認します。
重要なポイント
共鳴構造は現実の構造ではない
共鳴構造は、実際の分子の電子分布を完全に表現するものではなく、仮想的な構造です。
実際の分子の構造は、これらの共鳴構造の混合(共鳴ハイブリッド)です。
エネルギーの安定化
共鳴効果により、分子はより安定化されます。共鳴ハイブリッドは、単一の共鳴構造よりも低いエネルギー状態にあります。
共鳴の寄与
全ての共鳴構造が同等に寄与するわけではありません。最も安定な共鳴構造が最も大きな寄与をします。
まとめ
共鳴は、分子の電子分布や化学的性質を理解するための重要な概念であり、分子がどのようにして安定化されるか、またどのように反応するかを予測するために役立ちます。