REACTION

バーチ還元【Birch reduction】

バーチ還元は、液体アンモニア中でアルカリ金属(通常はリチウム)とアルコール(プロトン供与体)を用いて芳香族化合物を1,4-シクロヘキサジエンに還元する反応です。

概要

  • アミン溶媒(従来は液体アンモニア)中でアルカリ金属(従来はナトリウム)とプロトン源(従来はアルコール)を用いて芳香族環を有機的に還元する

Birch Reduction

反応の立体選択性

バーチ還元の特徴の一つは、置換基の電子的性質に基づいた立体選択的なプロトン化が可能である点です。例えば:

  • 電子供与性置換基(EDG): メトキシ基やメチル基などのEDGがある場合、プロトン化はオルト位で優先的に起こりやすく、非共役の二重結合を持つ1,4-シクロヘキサジエンが生成されます。
  • 電子吸引性置換基(EWG): カルボキシ基やニトロ基のようなEWGがあると、プロトン化はメタ位で進行し、逆に共役型の生成物が得られることが多くなります。

歴史

1944年にArthur Birchによって発見され、その後、有機合成における芳香族化合物の部分還元に広く用いられています​。

反応機構

バーチ還元は、以下のような多段階の機構で進行します:

  1. 電子供与とラジカルアニオンの生成
    • 金属(例:リチウム)が溶解し、液体アンモニア中で「自由電子」を生成します。この電子が芳香族化合物に付加し、ラジカルアニオンが生成されます。
    • 例えば、アニソール(メトキシベンゼン)を還元する場合、最も電子密度の高いオルト位で電子が付加され、ラジカルアニオンが形成されます。
  2. ラジカルアニオンのプロトン化
    • ラジカルアニオンがアルコールによってプロトン化され、安定なシクロヘキサジエンラジカルが生成されます。プロトン化位置は電子密度が高い位置であり、置換基の電子供与性/電子吸引性によって決定されます。
    • 電子供与性置換基(例:メトキシ基)がある場合、オルト位やパラ位でプロトン化が進行しやすく、電子吸引性置換基(例:カルボン酸)がある場合はメタ位が優先されます。
  3. カルバニオンの形成と二度目のプロトン化
    • シクロヘキサジエンラジカルはさらに電子を受け取り、カルバニオンとなります。このカルバニオンが中心炭素にプロトン化されて、非共役の1,4-シクロヘキサジエンが生成されます。
    • 最終生成物が非共役体である理由は、カルバニオンの中心炭素が高い電子密度を持つためであり、この位置でのプロトン化が安定化に寄与します。

実験手順

 

実験のコツ

 

発展

 

応用例

 

参考文献

1) Birch, A. J. J. Chem. Soc. 1944, 430.
2) Birch, A. J. J. Chem. Soc.1945, 809.
3) Birch, A. J. J. Chem. Soc.1946, 593.
4) Birch, A. J. J. Chem. Soc.1947, 102, 1642.
5) Birch, A. J. J. Chem. Soc.1949, 2531.

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