アルキンの作り方:ジハライドからの脱離反応
アルキンは、炭素‐炭素三重結合をもつ重要な不飽和化合物です。
付加反応、還元、酸化、さらにはアセチリドアニオンを経由した炭素骨格の構築など、多くの場面で出発物質として用いられます。
そのため、有機化学では「アルキンがどのように合成されるか」を理解することが重要です。
アルキンの代表的な合成法が、ジハライドからの脱離反応です。
この方法では、同じ分子から二回の脱離を起こし、最終的に三重結合を作ります。
一見すると、アルケンの脱離反応を一段階増やしただけのようにも見えますが、実際には強い塩基が必要であり、途中でアルケン中間体を経由する点が特徴です。
ここでは、ジハライドからアルキンを合成する基本的な考え方を整理します。
ジハライドとは何か
ジハライドとは、一つの分子中にハロゲン原子を二つ含む化合物です。
アルキン合成に用いられるのは、主に vicinal dihalide と geminal dihalide の二種類です。
vicinal dihalide では、二つのハロゲン原子が隣り合う炭素に一つずつ結合しています。
一方、geminal dihalide では、二つのハロゲン原子が同じ炭素に結合しています。
どちらの型でも、適切な条件を用いれば二回の脱離を起こしてアルキンへ変換できます。
したがって、アルキン合成ではまず「このジハライドから二回の HX 脱離が起こる」と考えるのが基本です。
なぜジハライドからアルキンができるのか
アルキンの三重結合は、不飽和度でいえば二重結合二つ分に相当します。
そのため、飽和に近い出発物質からアルキンを作るには、水素とハロゲンを二組取り除く必要があります。
ジハライドは、すでにハロゲン原子を二つもっているため、そこから二回の脱離を行うことで三重結合へ到達できます。
最初の脱離でアルケンが生じ、二回目の脱離でアルキンが生じる、という二段階の変換として理解すると整理しやすくなります。
つまり、ジハライドからアルキンを作る反応は、
「ジハライド → アルケン → アルキン」
という連続した脱離反応です。
最初の脱離でアルケンができる
ジハライドに塩基を作用させると、まず一回目の脱離が起こります。
この段階では、ハロゲン原子の一つが脱離基として外れ、隣接炭素から水素が失われて二重結合ができます。
この変換自体は、アルケンを合成する通常の脱離反応と同じ考え方で理解できます。
そのため、ジハライドからアルキンを作るときには、途中で対応するハロゲン化アルケン、すなわちビニルハライドが中間体として現れることになります。
この中間体が、二回目の脱離の出発点になります。
二回目の脱離でアルキンができる
最初の脱離でできたビニルハライドに対して、さらに強塩基を作用させると、二回目の脱離が起こります。
この段階で、ハロゲンと水素がもう一組失われ、炭素‐炭素三重結合が形成されます。
ただし、この二回目の脱離は一回目より起こりにくいのが普通です。
なぜなら、ビニルハライドではハロゲンが sp2 炭素に結合しており、通常のアルキルハライドより脱離しにくいからです。
また、失われる水素もビニル位の水素であり、取り去るためにはより強い塩基が必要になります。
そのため、アルキンを合成するには、NaNH2 のような強力な塩基を用いることが多くなります。
この点が、単なるアルケン合成との大きな違いです。
強塩基が必要な理由
一回目の脱離は、通常の E2 脱離と同じ感覚で進むことがあります。
しかし、二回目の脱離では、ビニルハライドからハロゲンを外し、同時にビニル位の水素を引き抜かなければなりません。
これはエネルギー的に不利であり、弱い塩基では十分に進行しません。
そのため、アルキン合成では、液体アンモニア中の NaNH2 のような非常に強い塩基が使われます。
強塩基によって初めて、二回目の脱離が実用的な速さで進みます。
つまり、ジハライドからアルキンを作る反応では、
「二回目の脱離が難しい」
という点を押さえておくことが重要です。
vicinal dihalide と geminal dihalide の違い
vicinal dihalide では、二つのハロゲンが隣接炭素に分かれているため、最初の脱離で二重結合ができやすい形が見えやすいです。
たとえば、1,2-ジブロモエタンからは、まずブロモエテンが生じ、さらに脱離してエチンが得られます。
一方、geminal dihalide では、二つのハロゲンが同じ炭素に結合しています。
この場合でも、最初の脱離でビニルハライドが生じ、二回目の脱離でアルキンになります。
したがって、両者は見た目の構造は違っていても、
「一回目でアルケン相当の中間体、二回目でアルキン」
という流れは共通しています。
末端アルキンを作るときの注意点
末端アルキンを合成する場合には、反応条件に注意が必要です。
末端アルキンは、三重結合に直接結合した水素が比較的酸性であるため、強塩基の存在下ではさらに脱プロトン化されることがあります。
たとえば、NaNH2 を過剰に用いると、せっかくできた末端アルキンがアセチリドアニオンへ変わる場合があります。
そのため、目的が中性の末端アルキンであるなら、反応後に水などで適切にプロトン化してやる必要があります。
この点は、内部アルキンの合成ではあまり問題になりません。
したがって、末端アルキンを扱うときには、生成後の酸塩基平衡まで意識することが大切です。
この反応が有機合成で重要な理由
ジハライドからの脱離反応は、アルキンを比較的体系的に合成できる基本反応です。
アルキンはその後、HX や X2 の付加、水和、還元、酸化的開裂、さらにはアセチリドアニオンを用いた C–C 結合形成へと発展していきます。
つまり、この反応は単に「三重結合を作る方法」であるだけでなく、その後の多くの官能基変換の入口でもあります。
その意味で、アルキン化学全体の出発点として非常に重要です。
また、ジハライドからアルキンを作るという発想は、不飽和度を一段ずつ上げていく有機合成の基本的な考え方にもつながります。
アルカン、アルケン、アルキンの関係を構造変換として捉える練習にもなる反応です。
練習問題
解答:vicinal dihalide と geminal dihalide です。
解答:二回起こります。
解答:ビニルハライドです。
解答:二回目の脱離ではビニルハライドからハロゲンとビニル位の水素を失わせる必要があり、この段階は通常の脱離より進みにくいためです。
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