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【第6章】有機反応の機構とは?電子の流れ・矢印の書き方・反応の分類まで徹底解説

有機化学では、分子がどのように変化していくかを「反応機構(reaction mechanism)」で示します。反応機構は、分子内の電子がどこからどこへ動いたのかを追跡することで、なぜその反応が起こるのか、どのような中間体を経由するのかがわかる強力なツールです。

この章では、反応機構を読み解くための基本として、電子の流れの表し方(矢印の書き方)と、代表的な反応の分類(置換・脱離・付加・酸化還元)をわかりやすく整理していきます。ここをマスターすれば、有機化学の世界が一気に論理的に見えるようになります。

反応機構とは何か?

反応機構とは、化学反応がどのように進行するのかを、原子と電子のレベルで段階的に示したものです。

  • どの結合が切れて、どの結合ができるのか
  • 中間体や遷移状態はどうなっているか
  • 電子がどのように動いているか(電子対の移動)

反応機構がわかれば、「なぜこの生成物になるのか?」という疑問が論理的に説明できるようになります。単なる暗記から、理解と応用への第一歩です。

電子の流れと矢印の意味

有機化学では、電子の流れを湾曲した矢印(曲矢印)で表します。この矢印の向きと始点・終点を正しく理解することが最重要です。

曲矢印(Curved Arrow)の使い方

  • 始点:電子のある場所(非共有電子対や結合)
  • 終点:電子が移動する先(原子や新たな結合)

例えば、求核剤の非共有電子対が電子不足の炭素に向かって攻撃する場合、その電子の動きを矢印で示します。

Nu: → C⁺

矢印1本で電子対2個の移動を表します。これは反応の根幹です。

片矢印(Radical Arrow)

ラジカル反応では、電子1個の移動を表す片矢印(半矢)を使います。

• → •

ただし、有機化学初学者にはまず曲矢印(電子対の移動)を中心に理解することが重要です。

電子の流れの基本パターン

① 求核攻撃

電子密度の高い求核剤(Nu⁻)が電子不足の炭素(C⁺)にアタックするパターンです。

Nu⁻ + R–C⁺ → R–C–Nu

代表例:SN2反応、エステルの加水分解

② 脱離

電子対が結合から離れ、離脱基(LG)が抜ける反応です。

R–LG → R⁺ + LG⁻

代表例:E1脱離反応、脱水反応

③ 結合の生成

電子が2つの原子の間に移動して、新たな共有結合が形成される。

Nu: + E⁺ → Nu–E

反応の分類(4大分類)

有機反応は大きく以下の4つに分類されます。それぞれに典型的な反応例があり、今後の学習の基盤になります。

① 置換反応(Substitution)

  • ある官能基が別の官能基に置き換わる
  • 代表例:SN1、SN2反応
  • 例:CH₃Br + OH⁻ → CH₃OH + Br⁻

② 脱離反応(Elimination)

  • 分子から2つの原子団が除去されて、二重結合などが生成される
  • 代表例:E1、E2反応
  • 例:CH₃CH₂Br + base → CH₂=CH₂ + HBr

③ 付加反応(Addition)

  • π結合に対して原子や官能基が加わる
  • 代表例:アルケンへのHBrの付加
  • 例:CH₂=CH₂ + HBr → CH₃CH₂Br

④ 酸化還元反応(Redox)

  • 電子の授受を伴う反応
  • 有機化学ではC–H → C=Oの変化が酸化、C=O → C–OHの変化が還元
  • 代表例:アルコールの酸化、カルボン酸の還元

反応機構の読み解きのコツ

  • 電子の偏り(極性)を見る
  • 電荷・中性をバランスよく保つ
  • 安定な中間体(カルボカチオン、共鳴構造など)を想定する
  • 酸・塩基・求核・求電子の役割を意識する

1つの反応を覚えるよりも、なぜそう動くのか?の背景を矢印で説明できるようになることが、有機化学を「使える知識」にする鍵です。

まとめ:反応機構がわかれば有機化学は怖くない

  • 反応機構は「電子の動き」を矢印で表すことで反応の流れを可視化する手段
  • 湾曲矢印で電子対の移動を正しく示すことが基本
  • 有機反応は主に置換・脱離・付加・酸化還元に分類される
  • 構造式を読み解き、電子がどう動くかを想像できれば理解が進む

次章では、こうした反応機構を踏まえた上で、実際の有機反応(置換反応・脱離反応など)を個別に深掘りしていきます。

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