STUDY

有機化学および有機合成の起源

今日知られている有機化学は、現代の分子科学が確立されるずっと前からの長い進化の産物です。2022年のCurt Wentrupによる記事は、「organic(有機)」と「synthesis(合成)」という概念が、古代や中世の起源からどのように発展し、最終的に現代合成化学の基礎となる考え方へと変化したのかを、詳細に追っています。

古代の起源と初期の定義

アリストテレスの影響

  • 語源と初期の意味:
    「organic(有機)」や「synthesis(合成)」という言葉は、ギリシャ語に由来しています。アリストテレスは、organon(「道具」または「器官」)という言葉を、生命体の構成部分を表すために用いました。彼の「生命の器官」という考え方は、後に有機物の組成に対する哲学的な基盤となりました。

  • 生命と非生命の区別:
    初期の思想家たちは、生きているもの(有機)と生きていないもの(無機)を区別しました。この二分法は何世紀にもわたって続きましたが、物質の化学的性質はまだ十分に理解されていませんでした。

1600年代の医化学者たち

  • 有機化学の概念がなくとも薬を調製:
    1600年代、医化学者(iatrochemists)は多くの医薬品を調製していましたが、有機化学という明確な概念は持っていませんでした。彼らの実験は主に実践に基づいて行われ、理論的な有機化学の知識は未発達でした。

18世紀における「有機」の再定義

Buffon、Bergman、Grenによる概念の変化

  • 生物体を有機物と定義:
    1700年代には、Buffon、Bergman、Grenなどの自然哲学者が「有機体」を生きたものとして定義し始めました。しかし、この時点では単離された有機化合物はまだ知られていませんでした。

  • 全体から個々の化合物へ:
    初期の有機物の概念は、生きた生物全体に関連していましたが、次第にその中に含まれる個々の化合物に焦点が移っていきました。

分析有機化学の誕生

天然物の単離

  • ScheeleとChevreuilの貢献:
    18世紀末から19世紀初頭にかけて、Scheeleらは天然有機物の単離を始め、Chevreuilは脂肪のけん化によりカルボン酸を分離しました。これらの実験的成果は、組織的な有機化学研究の出発点となりました。

燃焼分析法

  • ラヴォアジエの発明:
    ラヴォアジエは燃焼分析法を発明し、これにより有機物を燃焼させた際に生成されるCO₂とH₂Oの量を測定して、元素組成を定量的に明らかにできるようになりました。

  • ベルゼリウスの改良:
    ラヴォアジエの方法を基に、ベルゼリウスは燃焼分析の精度を向上させ、有機物の組成評価における基礎を確立しました。

デカルトの格言

  • 「合成は分析の証明」:
    デカルトは「合成がなければ分析は証明されない」と述べました。この哲学的考え方は、Bergmanなどの化学者によって実践され、合成を通じた分析結果の検証が重要視されるようになりました。

パラダイムシフト:生命力説から現代有機合成へ

Wöhlerの尿素合成

  • 生命力説への反論:
    1828年、Wöhlerは無機物質であるアンモニウムシアナートから尿素を合成し、有機物は生体からのみ生成されるという従来の生命力説(Vital Force説)を覆しました。

  • 化学合成の新時代の幕開け:
    尿素の合成は、有機化合物が無機物質からも作り出せることを示し、現代の有機合成の基礎を築く重要な転換点となりました。

KolbeとBerthelotの貢献

  • Kolbeの酢酸合成:
    Wöhlerの成果に続き、Kolbeは元素から直接酢酸を合成することに成功し、有機合成の可能性をさらに広げました。

  • Berthelotの非天然脂肪合成:
    1853年、Berthelotは非天然の脂肪を合成することにより、自然界に存在しない有機化合物の合成が可能であることを実証しました。

現代有機合成の確立

合成化学の独立した分野としての確立

  • 単離から合成へ:
    Scheele、Chevreuil、ラヴォアジエ、ベルゼリウス、Wöhler、Kolbe、Berthelotらの業績は、単に天然物を単離するのではなく、完全に無機物質から有機化合物を合成するという方向へと化学を導きました。

  • 異性体の概念の発展:
    尿素合成やその関連反応の研究から、同一の元素組成でも異なる構造(異性体)を持つ化合物が存在するという概念が生まれました。

影響と現代への応用

  • 医薬品、材料科学への応用:
    この歴史的進展により、現代の有機合成は医薬品、農薬、高機能材料の設計・製造に不可欠な技術となっています。

結論

Curt Wentrupの「Origins of Organic Chemistry and Organic Synthesis」は、古代の哲学的概念や中世の実践から、現代の有機合成に至るまでの長い進化の道筋を明らかにします。この記事では、初期の有機体の定義、ラヴォアジエやベルゼリウスによる燃焼分析、Wöhlerによる尿素合成、さらにはKolbeやBerthelotによる合成法の発展といった、重要な歴史的節目を網羅しました。

これらの発展は、有機化学が「生き物に特有のもの」から「炭素化合物全般を扱う学問」へと変革する基盤を築き、今日の複雑な有機合成反応や先端材料の開発へとつながっています。有機化学の起源を理解することは、現代の研究の背景を深く理解する上で非常に有用であり、今後の技術革新に向けたインスピレーションの源ともなり得ます。

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