STUDY

形式電荷

形式電荷(formal charge)は、共有結合を持つ分子において、各原子が持つと仮定される電荷を示す概念です。これは、実際の電荷分布ではなく、分子内の電荷の形式的な分布を理解するための便利な手法です。形式電荷は、分子の構造を描写し、反応性や安定性を評価するために用いられます。

形式電荷の計算方法

形式電荷は次の式を用いて計算されます

形式電荷=価電子の数(非共有電子対の数+共有電子対の数2)\text{形式電荷} = \text{価電子の数} – \left( \text{非共有電子対の数} + \frac{\text{共有電子対の数}}{2} \right)

具体的なステップは以下の通りです:

  1. 価電子の数: 各原子の周期表上のグループ番号に基づいて、その原子が持つ価電子の数を決定します。
  2. 非共有電子対の数: 各原子に所属する非共有電子対(孤立電子対)の数を数えます。
  3. 共有電子対の数: 各原子が関与する共有電子対の数を数え、その半分を取ります。

例1: オキソニウムイオン(H₃O⁺)

オキソニウムイオンの構造式を考えます。

  • 酸素(O)の価電子数: 6
  • 水素(H)の価電子数: 1

酸素原子の形式電荷計算

  • 非共有電子対の数 = 2対 = 4電子
  • 共有電子対の数 = 3ペア = 6電子

形式電荷(酸素)\( 6-(4+ \frac{6}{2})=6-(4+3)=6-7=-1 \)

オキソニウムイオン全体の電荷が+1であるため、酸素原子の形式電荷は +1 となります。

水素原子の形式電荷計算

  • 各水素原子は共有電子対が1つあるだけです。

形式電荷(水素)\( 1-(0+ \frac{2}{2})=1-1=0 \)

したがって、各水素原子の形式電荷は0です。

例2: 硫酸イオン(SO₄²⁻)

硫酸イオンの構造式を考えます。

  • 硫黄(S)の価電子数: 6
  • 酸素(O)の価電子数: 6

硫黄原子の形式電荷計算

  • 非共有電子対の数 = 0
  • 共有電子対の数 = 4ペア = 8電子

形式電荷(硫黄)\( =6-(0+ \frac{8}{2})=6-4=+2 \)

酸素原子の形式電荷計算(酸素原子は2種類あります):

  • 2つの酸素原子が1重結合(非共有電子対2対):
    形式電荷(酸素)\( =6-(6+ \frac{2}{2})=6-(6+1)=6-7=-1 \)
  • 2つの酸素原子が2重結合(非共有電子対1対):
    形式電荷(酸素) \( 6-(4+ \frac{4}{2})=6-(4+2)=6-6=0 \)

硫酸イオン全体の電荷が-2であることと一致します。

形式電荷の意義

分子の安定性評価

形式電荷を最小化することで、より安定な構造が得られます。形式電荷が0または分子全体の電荷と一致する場合、安定性が高いと考えられます。

共鳴構造の理解

分子が複数の共鳴構造を持つ場合、各構造の形式電荷を比較することで、最も寄与する共鳴構造を特定できます。

反応性の予測

形式電荷の分布により、反応部位や求核性、求電子性を予測できます。部分的に正電荷を持つ原子は求核剤として、部分的に負電荷を持つ原子は求電子剤として機能する傾向があります。

まとめ

形式電荷は、分子内の電子分布を理解し、その化学的性質や反応性を予測するための重要なツールです。