アルコールは有機化学の中心的な官能基です。重要なのは、アルコールそのものの性質だけではありません。アルコールは多くの出発物質から合成でき、さらに別の官能基へも変換しやすいため、有機合成の中継点として非常に大きな役割を果たします。

実際、アルコールはアルケン、エポキシド、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボン酸など、さまざまな化合物から作ることができます。したがって大学有機化学では、「このアルコールは何から作れるか」「どの方法を選ぶと 1級・2級・3級を作り分けられるか」を整理して理解することが重要です。

この記事では、CHAPTER 17.3〜17.5 に基づいて、アルコールの代表的な合成法をまとめます。前半ではアルケンからのアルコール合成を復習し、後半ではカルボニル化合物の還元と Grignard 反応による合成を整理します。反応をばらばらに暗記するのではなく、どの出発物質がどの級数のアルコールにつながるのかを一つの地図として理解していきましょう。

アルコールは有機化学の中心にある官能基

アルコールが重要なのは、作りやすく、使いやすく、変換しやすいからです。アルケンからは付加反応で導入でき、カルボニル化合物からは還元で作れ、Grignard 反応を使えば炭素–炭素結合形成と同時に得ることもできます。

この意味でアルコールは、単なる1つの官能基ではなく、いろいろな反応の到達点でもあり出発点でもあります。CHAPTER 17.3〜17.5 は、まさにその「入口の広さ」を学ぶ範囲だといえます。

まずは目標アルコールの級数を見分ける

アルコールの合成問題を考えるとき、最初にやるべきことは、そのアルコールが 1級・2級・3級のどれかを見分けることです。OH 基のついた炭素に炭素基が1つなら 1級、2つなら 2級、3つなら 3級です。

この分類は命名だけでなく、合成法の選択にも直結します。たとえばカルボニル化合物の還元では、アルデヒドからは 1級アルコール、ケトンからは 2級アルコールが得られますが、3級アルコールは通常の還元では作れません。一方、Grignard 反応なら ketone から 3級アルコールを作れます。

したがって、目標生成物の級数を最初に判定しておくと、使える反応と使えない反応が一気に整理しやすくなります。

アルケンからアルコールを作る方法の復習

アルコール合成の基本としてまず押さえたいのが、アルケンへの水の付加です。アルケンは二重結合をもつため、適切な条件で H と OH を付加させればアルコールになります。

ただし、アルケン水和には複数の方法があり、どの方法でも同じ生成物になるわけではありません。Markovnikov 則に従うか、anti-Markovnikov 型になるか、syn 付加かどうかなどが方法によって異なります。したがって、「アルケンからアルコールができる」とだけ覚えるのではなく、どの試薬でどんな選択性が出るかまで整理する必要があります。

酸触媒水和は laboratory ではやや使いにくい

アルケンの最も単純な水和は、酸触媒下で水を付加させる方法です。理論的にはわかりやすい反応ですが、実験室的にはあまり理想的ではありません。副反応や転位の問題があり、選択性も必ずしも高くありません。

そのため、教科書でも direct hydration は一般に laboratory ではあまりよい方法ではなく、代わりに hydroboration–oxidation や oxymercuration–demercuration がよく使われると整理されています。つまり、酸触媒水和は概念上は重要ですが、実用面では他の方法を優先して考えることが多いです。

ヒドロホウ素化–酸化は anti-Markovnikov 水和である

hydroboration–oxidation は、アルケンからアルコールを作る非常に重要な方法です。この反応では、最終的に OH がより置換の少ない炭素へ入り、anti-Markovnikov 型の水和生成物が得られます。

さらに、この反応は syn 付加として進みます。つまり、H と OH が同じ面から導入された結果に対応する立体化学を与えます。したがって、位置選択と立体選択の両方を意識して覚える必要があります。

この方法は、「Markovnikov 則に従わない水和法」として最重要の1つです。アルケンから 1級アルコールを作りたい場面で特に有力です。

オキシ水銀化–脱水銀化は Markovnikov 水和である

oxymercuration–demercuration は、Markovnikov 型に OH を導入する代表的な方法です。つまり、OH はより置換の多い炭素へ入ります。酸触媒水和と違って、通常は大きな carbocation rearrangement を起こしにくいため、よりきれいに目的生成物を与えやすいのが利点です。

したがって、アルケンから Markovnikov 型アルコールを合成したいときは、単なる酸触媒水和よりもこちらの方が整理しやすいことが多いです。大学有機化学では、hydroboration–oxidation と対にして覚えるべき重要反応です。

アルケンから 1,2-ジオールを作る方法

アルコール合成の復習では、単なるモノアルコールだけでなくジオールの生成も重要です。1,2-diol は、アルケンの直接 hydroxylation あるいは epoxide の加水分解によって得られます。

OsO4 を用いる直接 hydroxylation では syn stereochemistry で進み、cis diol が得られます。一方、epoxide の開環では anti stereochemistry で進み、trans diol が得られます。つまり、どちらも同じ 1,2-diol 合成ですが、立体化学が逆になります。

この違いは試験で非常によく問われます。ジオール合成では「OH が2つ入る」だけでなく、「cis なのか trans なのか」まで含めて整理することが重要です。

カルボニル化合物の還元は最も一般的なアルコール合成法である

教科書では、アルコールを作る最も一般的な方法として carbonyl reduction が位置づけられています。これは laboratory だけでなく、生体内でも基本的な反応形式です。

carbonyl compounds の C=O 結合は分極しており、炭素は求電子的です。そこへ hydride が付加し、続いて protonation が起こればアルコールになります。つまり、アルケンの水和と違って、ここでは「酸素を含む官能基を還元することでアルコールを得る」という発想です。

この方法の強みは、出発物質の carbonyl compound を見れば、どの級数のアルコールができるかをかなり明確に予測できる点にあります。

アルデヒドの還元では 1級アルコールができる

aldehyde を還元すると primary alcohol が得られます。これは最重要の対応関係の1つです。アルデヒドの carbonyl carbon には炭素基が1つと水素が1つ結合しているため、hydride が加わって protonation されると OH をもつ炭素は 1級になります。

したがって、目標化合物が 1級アルコールなら、その前駆体として aldehyde をまず疑うのが基本です。特に合成問題では、一次アルコールから逆算して aldehyde を描けることが重要になります。

ケトンの還元では 2級アルコールができる

ketone を還元すると secondary alcohol が得られます。これも非常に重要な対応です。ketone の carbonyl carbon には炭素基が2つ結合しているため、hydride 付加と protonation のあと、OH をもつ炭素は 2級になります。

したがって、目標化合物が 2級アルコールなら、その前駆体として ketone を考えるのが基本です。逆に、3級アルコールは ketone の単純還元では得られないので、別の方法を考える必要があります。

エステルとカルボン酸の還元では 1級アルコールができる

ester や carboxylic acid も還元によって alcohol へ変換できます。これらの官能基では carbonyl の還元だけでなく、C–O 結合の切断やより深い還元が必要になるため、反応は aldehyde や ketone より強い還元剤を必要とします。

最終的には、エステルやカルボン酸の carbonyl carbon は primary alcohol になります。したがって、1級アルコールの前駆体としては aldehyde だけでなく ester や carboxylic acid もありえます。ただし、この区別には使用する還元剤の選択が重要になります。

NaBH4 と LiAlH4 はどう使い分けるか

carbonyl reduction で最も重要な還元剤が sodium borohydride と lithium aluminum hydride です。NaBH4 は安全で扱いやすく、水やアルコール溶媒中でも使える比較的穏やかな還元剤です。通常は aldehydes と ketones の還元に使います。

一方、LiAlH4 ははるかに反応性が高く、より強力な還元剤です。water とは激しく反応するため ether や THF 中で扱います。ester や carboxylic acid の還元には通常 LiAlH4 が必要です。

つまり、単に「hydride reduction」と覚えるのではなく、基質の種類によって NaBH4 で足りるのか、LiAlH4 が必要なのかを区別することが大切です。

生体内でも carbonyl reduction は重要である

教科書では、living organisms では aldehydes と ketones の還元が NADH や NADPH によって進むことも説明されています。構造は laboratory の還元剤とは大きく違いますが、本質的には hydride donor として働く点が共通しています。

つまり、carbonyl reduction は laboratory 専用の特別な反応ではなく、生体内でも広く使われる基本反応だということです。この視点をもつと、有機化学の反応が単なる人工的操作ではなく、生化学ともつながっていることが見えやすくなります。

Grignard 反応は「還元」ではなく炭素–炭素結合形成である

Grignard reaction も carbonyl compounds から alcohols を与えますが、還元とは本質的に異なります。hydride が入る代わりに carbanion 等価体である R– が入るためです。

つまり、Grignard 反応では alcohol を作ると同時に、新しい carbon–carbon bond が1本できます。この点が最大の特徴です。アルコール合成としてだけでなく、炭素骨格を伸ばす反応として重要になります。

このため、Grignard 反応は単なる「別のアルコール合成法」ではなく、有機合成全体で極めて価値の高い方法として位置づけられます。

Grignard 試薬と formaldehyde からは 1級アルコールができる

RMgX が formaldehyde に付加すると、workup 後に primary alcohol が得られます。ここでは carbonyl carbon にもともと炭素置換基がなく、Grignard reagent 由来の1つの炭素基だけが入るため、結果として OH をもつ炭素は 1級になります。

この反応は、「炭素鎖を1個延長した 1級アルコールを作る方法」として覚えると便利です。単純な還元とは違い、新しい炭素基が入る点が重要です。

Grignard 試薬と aldehyde からは 2級アルコールができる

RMgX が aldehyde に付加すると secondary alcohol が得られます。aldehyde にはもともと炭素基が1つあるので、そこへ Grignard reagent の炭素基が加わり、OH をもつ炭素は 2級になります。

したがって、2級アルコールは ketone の還元でも作れますが、aldehyde に Grignard reagent を加えても作れます。この2つのルートを比較できるようになると、合成問題の自由度が一気に上がります。

Grignard 試薬と ketone からは 3級アルコールができる

RMgX が ketone に付加すると tertiary alcohol が得られます。ketone の carbonyl carbon にはすでに炭素基が2つあり、そこへ Grignard reagent の炭素基が1つ増えるため、OH をもつ炭素は 3級になります。

ここは非常に重要です。3級アルコールは単純な carbonyl reduction では得られませんが、Grignard 反応なら ketone から作れます。したがって、目標が tertiary alcohol なら、まず ketone + Grignard reagent の組み合わせを疑うのが基本です。

Esters と Grignard 試薬からは tertiary alcohol ができる

ester も Grignard reagents と反応して tertiary alcohol を与えます。ここでは最初の付加で一度 ketone 段階を経ますが、その ketone がさらに Grignard reagent と反応するため、最終的には OH をもつ炭素に同じ Grignard 由来の置換基が2つ入った tertiary alcohol になります。

これは LiAlH4 による ester 還元で「水素が2回入る」のに対応して、「Grignard では炭素基が2回入る」と考えると整理しやすいです。ester と Grignard の反応は、三級アルコール合成の強力な手段です。

Carboxylic acids は通常の Grignard 付加を与えない

classical な取り扱いでは、carboxylic acids は Grignard reagents と直接 addition products を与えません。なぜなら、酸性の carboxyl hydrogen が強塩基である Grignard reagent とまず酸塩基反応してしまい、炭化水素と magnesium carboxylate を与えるからです。

つまり、Grignard reagent は強い求核剤である前に強い塩基でもあるため、酸性プロトンがある基質とは共存しにくいのです。この考え方は alcohol や amine があるときにも重要になります。

Grignard 反応では水やアルコールが厳禁である

Grignard reagents は非常に強い塩基であるため、水、alcohols、carboxylic acids のような acidic proton をもつ物質があると、求核付加より先に酸塩基反応を起こして失活します。

そのため、Grignard 反応は無水条件で行わなければなりません。glassware の乾燥、ether 系溶媒の使用、酸性プロトンをもつ官能基の除外などが重要になります。ここは laboratory 的な注意点であると同時に、反応設計の本質でもあります。

合成問題ではどう逆算するか

目標アルコールが与えられたときは、まず OH をもつ炭素の置換の数を見ます。1級なら aldehyde 還元、ester 還元、carboxylic acid 還元、あるいは formaldehyde への Grignard 付加が候補です。2級なら ketone 還元か aldehyde への Grignard 付加が候補です。3級なら ketone への Grignard 付加、または ester への Grignard 付加が有力です。

このように、「生成物の級数」から「出発物質の官能基と反応形式」を逆算するのが基本です。アルコール合成は反応の数が多いですが、この軸で整理するとかなり見通しがよくなります。

まとめ

アルコールは多くの方法で合成できます。アルケンからは hydroboration–oxidation による anti-Markovnikov 水和、oxymercuration–demercuration による Markovnikov 水和、OsO4 や epoxide 開環による diol 合成が重要です。

carbonyl compounds の還元では、aldehydes から primary alcohols、ketones から secondary alcohols、esters と carboxylic acids からはより強い還元条件で primary alcohols が得られます。NaBH4 は主に aldehydes と ketones、LiAlH4 はより広い範囲の carbonyl compounds に使います。

Grignard reaction では、新しい carbon–carbon bond を作りながら alcohols を合成できます。formaldehyde から primary alcohol、aldehydes から secondary alcohol、ketones から tertiary alcohol、esters からは tertiary alcohol が得られます。アルコール合成をこのように体系的に整理すると、その後の反応や有機合成全体の見通しがかなり良くなります。

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