E1/E2の入口:SNとの競合・温度・強塩基の整理
試験での失点は、E1/E2そのものより「SNとの競合条件」を取り違えることが多い
この記事では、基質・塩基(求核剤)・溶媒・温度の4点で、E1/E2/SN1/SN2を一発整理できるテンプレを作る
この記事でできること
- E1とE2の違い(段階・速度式・立体)を説明できる
- SN1/SN2と競合する条件を、温度と塩基の性質で整理できる
- E2の最重要ルール(anti配向)を落とさずに書ける
- 置換が欲しいのに脱離が出る「典型事故」を回避できる
先に結論(ここだけ読めばOK)
判定はこの順で迷いが減る
- Step1:基質の級数
- 3級 → SN2は不可 → SN1/E1 または E2(強塩基ならE2が濃い)
- 2級 → 条件依存(強塩基ならE2、弱求核・プロトン性ならSN1/E1、強求核・非プロトン性ならSN2/E2)
- 1級 → E1/SN1は基本不可 → SN2 か E2(強塩基・高温でE2)
- Step2:塩基の強さとかさ高さ
- 強塩基 → E2を押す(特に2級・3級)
- かさ高い強塩基(t-BuO−など)→ SN2がやりにくく、E2へ寄る
- Step3:溶媒
- 極性プロトン性(ROH, H2O)→ カチオンを作りやすくSN1/E1寄り
- 極性非プロトン性(DMSO, DMF, MeCN, アセトン)→ 陰イオンが働きやすくSN2/E2寄り
- Step4:温度
- 高温ほど脱離(E)が有利になりやすい(エントロピー的に有利)
E1とE2を最小セットで整理
E2:一段階(協奏的)
- 速度:基質と塩基の両方に依存
- 特徴:強塩基で起こりやすい/立体要件(anti配向)が重要
- 生成物:より置換度の高いアルケンが有利になりやすい(条件で変動)
E1:二段階(脱離→脱プロトン化)
- 速度:主に基質に依存(まず脱離でカチオン生成)
- 特徴:SN1と同じ「カチオン」を共有するため競合しやすい
- 生成物:カチオンの再配列(転位)が起こり得る
超重要:E2のanti配向(これが得点源)
anti配向とは
E2では、取られるβ水素(β-H)と脱離基(LG)が同一平面上で反対向き(anti-periplanar)に並ぶ必要がある
これを満たす配座が取れないと、理屈上は強塩基でもE2が起こりにくい。
競合の整理:SN1 vs E1、SN2 vs E2
SN1とE1は「同じ中間体(カチオン)」を共有
3級・ベンジル・アリルなど、カチオンが安定な基質で起こりやすい
どちらが勝つかは、求核剤/塩基の性質と温度で決まりやすい
- 弱い求核剤・弱い塩基(溶媒がROHやH2O) → SN1/E1
- 高温 → E1が増えやすい(脱離が相対的に有利)
- 生成物がアルケンならE1、置換生成物ならSN1
SN2とE2は「同じ相手(基質)に強い陰イオンがぶつかる」
強い陰イオンは「攻撃(置換)」も「引き抜き(脱離)」もできる
どちらが勝つかは、立体とかさ高さ、温度、基質の混み合いで決まる
- 小さくて攻撃しやすい強求核(CN−、RS−など)+1級 → SN2が優勢になりやすい
- 強塩基(特にかさ高い)+2級/3級 → E2が優勢になりやすい
- 高温 → E2が増えやすい
一発判定の表(試験用)
| 状況 | 主反応の目安 | 理由(最重要ポイント) |
|---|---|---|
| 3級基質 + 強塩基 | E2 | SN2不可、強塩基はβ-Hを引き抜く |
| 3級基質 + 弱求核/プロトン性溶媒(ROH, H2O) | SN1/E1 | 脱離でカチオン生成が進みやすい |
| 1級基質 + 強求核(小さい)+ 非プロトン性溶媒 | SN2 | 背面攻撃が通りやすい |
| 1級基質 + 強塩基(かさ高い) | E2 | SN2が立体的に不利、引き抜きが勝ちやすい |
| 2級基質 + 強求核(小さい)+ 非プロトン性溶媒 | SN2/E2 競合 | 攻撃も引き抜きも可能、温度や塩基性で傾く |
| 2級基質 + 強塩基(かさ高い) | E2 | SN2がやりにくく、β-H引き抜きが優勢 |
| 2級基質 + 弱求核/プロトン性溶媒 | SN1/E1 寄り | カチオン経由が起こりうる(ただしE1/SN1比は条件次第) |
生成物の傾向:ZaitsevとHofmann(入口だけ)
Zaitsev(ザイツェフ)則
多くのE1/E2では、より置換度の高い(より安定な)アルケンが主生成物になりやすい
理由:アルケンの安定性(置換で安定化)が効く
Hofmann(ホフマン)側に寄る典型条件
かさ高い塩基(t-BuO−など)では、混み合いの少ないβ-Hが取られやすく、置換度の低いアルケンが増えることがある
ここは「例外」ではなく、立体で説明できる現象として押さえる
機構の最小テンプレ(矢印の骨格)
E2(1ステップ)
- 塩基の電子対 → β-H
- C–H結合の電子対 → C=C(新しいπ結合)
- C–LG結合の電子対 → LG(脱離)
anti配向が取れる配座を想定して書く
E1(2ステップ)
- Step1:C–LG結合の電子対 → LG(脱離、カチオン生成)
- Step2:塩基がβ-Hを取る → C=C形成(脱プロトン化)
カチオンを経由するので転位の可能性を常に疑う
よくあるミスと対策
強塩基を入れているのにSN2だけを想定してしまう
2級以上で強塩基なら、まずE2を疑う
置換が欲しいなら「強求核だが塩基性は相対的に抑えたい」「温度を下げたい」「基質を1級寄りにしたい」など設計が必要
E2のanti配向を無視する
anti配向は暗記ではなく“立体要件”
特にシクロヘキサンでは、脱離基とβ-Hが両方アキシアルでないとE2が起こりにくい(発展だが試験で出ることもある)
2級基質でSN1と決め打ちする
2級は条件依存
プロトン性溶媒・弱求核ならSN1/E1寄りになるが、強塩基・非プロトン性ならE2/SN2へ寄る
判定は「溶媒+求核剤/塩基+温度」までセットで行う
練習問題(演習)
解答
主反応:E2
理由:3級基質でSN2は不可、EtO−は強塩基なのでβ-H引き抜きが起こりやすく、温度上昇で脱離がさらに有利になる
解答
主反応:E2寄りになりやすい
理由:1級は本来SN2が有利だが、t-BuO−はかさ高い強塩基で背面攻撃がやりにくく、引き抜き(脱離)が相対的に起こりやすい
解答
主反応:SN2寄りになりやすい(ただし競合あり)
理由:DMSOは非プロトン性で求核剤が働きやすく、CN−は小さく攻撃しやすい強求核なので置換が進みやすい;温度が低いほど脱離が抑えられる
解答
β-Hと脱離基がanti-periplanar(同一平面で反対向き)に並ぶ必要がある
次に読む記事
- SN1/SN2の入口:基質・溶媒・求核剤で一発判定(2級での競合がさらに整理できる)
- 立体配座(コンフォメーション)入門:Newman投影とanti/gauche(anti配向が腑に落ちる)
- 脱離基の良し悪し:なぜOTsが強いのか(E1の成立条件が締まる)
- 反応機構の矢印ルール:出発点と到着点の作法(E1/E2の矢印が崩れなくなる)
