ワッカー酸化は、パラジウム(II)を触媒としてアルケンを酸化し、カルボニル化合物(通常はメチルケトン)を生成する代表的な有機反応です。
概要
- Pd(II)触媒を用いてアルケンをケトンあるいはアルデヒドに変換する
- メチルケトンおよびアルデヒドの合成: ワッカー酸化反応は、末端アルケンからメチルケトンを高収率で合成するための重要な手法です。酸化的条件下でアルデヒドの生成も可能ですが、選択的な合成には特殊な条件が必要です。
- 酸化的アミノ化および他の官能基化反応: ワッカー酸化反応を基盤に、酸化的アミノ化やカルボニル化などの官能基化が行われ、多様なC–CおよびC–N結合形成反応が発展しています。これらの反応は、複雑な分子骨格を持つ化合物の合成に重要な役割を果たしています。
- 立体化学の制御: ワッカー酸化の反応機構では、cisまたはtrans経路の選択が可能であり、特に立体選択的な合成が求められる場合に、この反応の柔軟性が活用されています。
歴史
反応機構
ワッカー反応は、パラジウム(II)を触媒とし、銅塩(CuCl₂)および酸素を共触媒として使用することで、アルケンをカルボニル化合物へと酸化するプロセスです。この反応は、パラジウム(II)がアルケンに結合し、Pd-アルキル中間体を形成する「ヒドロキシパラデーション(oxypalladation)」というステップが特徴です。ヒドロキシパラデーションは、通常マルコフニコフ則に従い、メチルケトンを主生成物としますが、特定の条件下ではアルデヒドの生成も可能です。
基本的な反応機構
- パラジウム(II)がアルケンに付加し、Pd-アルキル中間体が生成。
- その後、β-ヒドリド脱離または還元的脱離によってカルボニル化合物が生成します。
- 銅塩と酸素は、パラジウム触媒を再生するために必要な役割を果たし、反応を連続して進行させます。
この反応では、条件によってcis-ヒドロキシパラデーションとtrans-ヒドロキシパラデーションの両方が進行することが報告されています。低濃度のCl⁻ではcis経路が優先され、高濃度のCl⁻ではtrans経路が支配的になることが確認されています。
実験手順
更新をお待ちください
実験のコツ
発展
ワッカー反応における酸化的アミノ化反応と立体化学
ワッカー酸化反応のバリエーションの一つである「酸化的アミノ化反応」は、アルケンにアミンを付加し、C–N結合を形成する手法です。特に、パラジウム(II)触媒を用いたアミノパラデーションが注目されています。
酸化的アミノ化のメカニズム
- パラジウム(II)がアルケンに結合し、アミノパラデーションが進行します。
- その後、β-ヒドリド脱離が進行し、生成物が形成されます。
- アミンがパラジウム中心に結合し、酸化的に進行するこの反応では、cisおよびtrans経路が競合する場合があります。
特に、trans-アミノパラデーションが選択的に進行する条件下で、エナンチオ選択的反応が進展することが多く、さまざまな天然物や医薬品の合成に応用されています。また、反応の立体化学は、反応条件や基質によって大きく変化し、特に塩基の強さや添加物の影響が注目されています。
応用例
参考文献
<Original Publication>
Tetrahedron Letters 1991, 32 (9), 1175–1178.
Synlett 1998, 1998 (01), 26–28.
<Review>
Eur J Org Chem 2009, 2009 (12), 1831–1844.
J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 2002, No. 23, 2563–2585.
Tetrahedron: Asymmetry 2014, 25, 1, 1–55.
関連書籍
関連記事
- HWE反応