反応物が複数の官能基を持っているとき、ある官能基のみを選択的に反応させたいということがあります。このようなとき、保護基を用いて反応させたくない官能基の反応性を低くするという手法がよくとられます。
今回は、その保護基について学んでいきましょう。
保護基とは?
たとえば反応物にエステル基とケトン基を両方有しているとき、カルボニル炭素の反応性が高いのはケトン基です。
したがって、この反応物と求核試薬を反応させるとケトン基で反応が起こります。
しかし、エステル基で反応を起こしたい場合もあるはずです。
このようなときに保護基を用います。
保護基でケトン基を保護して反応性を低くすると、エステル基で反応させることができます。
代表的なケトン基の保護の反応機構を以下に示します。
保護基の性質
保護基の主な性質は、特定の化学反応から官能基を保護する(化学安定性)を高めることです。
それに加え、保護基には以下のような特性が期待されます。
- 溶解性の向上・極性の低減
- 結晶性の向上
- 生物活性の変化
- 揮発性の変化
- 構造解析の易化
- 反応性の変化
溶解性の向上・極性の低減
糖質やアミノ酸は合成出発原料としてしばしば用いられます。
しかし、これらの化合物は極性が高く、有機溶媒に溶けにくいです。
場合によっては、収率の低下にも直結します。
極性官能基を保護することで、極性を低くし、有機溶媒にも溶けるようにすることができます。
結晶性の向上
合成中間体を精製するとき、再結晶を積極的に使用したい場合が多いです。
したがって、結晶性の向上が期待されます。
単結晶を得ることができれば、X線結晶構造解析によって三次元構造を決定することもできます。
この目的のためには、ブロモ基、ニトロ基、芳香環を含む保護基を選ぶことが多いです。
生物活性の変化
生理活性物質は、極性官能基を介して生体高分子と相互作用することがあります。
保護基によって極性官能基を保護すれば、生物活性を低減させることおができます。
揮発性の変化
保護基を導入すると、分子量が増大して、沸点が上昇します。
これにより、減圧下での溶媒除去や乾燥が容易になります。
一方で、アルコールをメチルエーテル、トリメチルシリルエーテル等にすると、分子量増大に対して極性の低下が大きいです。
その結果、揮発性が増すことがあります。
これにより、質量分析やガスクロマトグラフィーなどによる分析が容易になります。
構造解析の易化
本来UV吸収を持たない化合物に、UV吸収を持つ保護基を導入すれば、HPLCなどでの高感度検出が可能となります。
UV吸収を持つ保護基としては、ベンゾイル基を有する保護基などがあります。
反応性の変化
嵩高い保護基を用いれば、近傍の反応点を遮蔽することが可能です。
また、配位性保護基を用いて化学選択性の制御をおこなうこともできます。
保護基に求められる機能
保護基は保護した後に脱保護される必要があります。
その工程まで考慮すると、以下のような機能が期待されます。
- 高い収率
- 安価
- 脱保護後の反応性
- 分離しやすさ
- 安定性・脱保護のしやすさ
- 保護基の反応性
高い収率
保護基による収率の低下は避けなければいけません。
高い収率が得られる保護基が好まれます。
安価
試薬は安い方が良いに決まっています。
脱保護後の反応性
脱保護後に反応してしまっては、保護の意味がなくなります。
脱保護した後の反応性が低くなるような保護基選びが必要となります。
分離しやすさ
脱保護後は保護基を分離しなければいけません。
そのため、分離のしやすさは重要な因子となります。
安定性・脱保護のしやすさ
保護した化合物の安定性は高いことが望まれます。
また、脱保護しやすいことも重要です。
保護基の反応性
保護基自体が反応しては困ります。
反応性の低い保護基を選ばなければいけません。
代表的な保護基
ヒドロキシ基の保護基
- アセチル基
- TBDMS基
- MOM基
- MEM基
- ベンジル基
- ベンゾイル基
- PMB基
- トリチル基(Tr基)
- tert-ブトキシ基
アミノ基の保護基
- Alloc基
- Boc基
- Fmoc基
- Cbz基(ベンジルオキシカルボニル基)
- フタロイル基
- ノシル基
カルボキシ基の保護基
- メチルエステル
- エチルエステル
- ベンジルエステル
- tert-ブチルエステル
カルボニル基の保護基
- ジメチルアセタール
- ジオキソラン
- チオアセタール
関連書籍