薗頭カップリングとは|PdとCuが同時に回る二重触媒【院試対策】

クロスカップリングの触媒サイクルは、ふつう1本です。Pd(0) から始まって Pd(0) に戻る、あの環を1周させれば反応が進みます。
薗頭カップリングだけは環が2本あります。Pd の環と Cu の環が噛み合って同時に回る——歯車が2つ連動しているような構造です。だから機構を書く問題では、2つの環を描いて接点を示せるかが問われます。
そして、この銅がやっかいでもあります。酸素が少しでも混じると、銅は本来の仕事をやめてアルキンどうしを繋いでしまうのです。脱気が強く言われるのはこのためです。
反応の全体像
Ar−X + H−C≡C−R → Ar−C≡C−R + HX
触媒 : Pd(PPh3)2Cl2 など(数 mol%)
+ CuI(助触媒・数 mol%)
塩基 : Et3N・i-Pr2NH(しばしば溶媒量)
温度 : 室温でも進む(きわめて温和)
X : I > Br > OTf >> Cl室温で進むのが大きな特徴です。ほかのクロスカップリングが加熱を要するのに対し、薗頭は氷冷でも動きます。銅がアルキンを活性化してくれるからです。
2つの触媒サイクルが噛み合う
機構の核心はここです。それぞれの環が何をしているかを分けて見ます。
【Cu サイクル】 アルキンを「渡せる形」に変える
① CuI がアルキンの π結合に配位する
② 配位で末端の C−H が酸性になる
→ アミン塩基でも引き抜ける(ふだんの pKa 25 では無理)
③ 銅アセチリド Cu−C≡C−R ができる
【Pd サイクル】 いつもどおりの3段階
① 酸化的付加 Pd(0) + Ar−X → Ar−Pd(II)−X
② トランスメタル化 ← ここで Cu サイクルと噛み合う
銅アセチリドが Pd へアルキニル基を渡す
Ar−Pd(II)−C≡C−R + CuX
③ 還元的脱離 Ar−C≡C−R + Pd(0)なぜアミンを溶媒量も使うのか
ここが理解の分かれ目です。末端アルキンの pKa はおよそ 25。トリエチルアミン(共役酸の pKa 約 10.7)では、本来まったく歯が立ちません。
ところが銅が π結合に配位すると話が変わります。アルキンから電子が銅へ流れ、末端の C−H が大きく酸性化されるのです。
配位前 H−C≡C−R pKa 約 25 → アミンでは引き抜けない 配位後 H−C≡C−R ··· Cu 大きく酸性化 → アミンで引き抜ける
アミンには3つの仕事があります。
s性が高いほど C−H が酸性になるという話そのものはカルボアニオンの安定性、pKa の使い方はpKa表の使い方で扱っています。
脱気を怠るとどうなるか——Glaser型ホモカップリング
薗頭で最も多い失敗がこれです。目的物ではなく、アルキンどうしが繋がった二量体(ジイン)が出ます。
2 R−C≡C−Cu + [O] → R−C≡C−C≡C−R + ... 酸素が銅アセチリドを酸化して、2分子を直接繋いでしまう → アルキンが消費され、目的のクロスカップリングが進まない → 分離も難しい(極性が近い)
ホモカップリングが「銅アセチリドの酸化」で起こる以上、銅を入れなければ原理的に起きません。これが次の話につながります。
銅フリー薗頭
銅を使わずに済ませる条件も確立されています。ねらいは3つです。
| 銅を外す理由 | 中身 |
|---|---|
| ホモカップリングを断つ | 銅アセチリドが無ければ Glaser 型は起こらない |
| 医薬品合成の要請 | 重金属の残留規制。金属は少ないほどよい |
| 銅に弱い基質 | 銅と強く配位する官能基があると触媒が止まる |
銅がない場合は、かさ高く電子豊富なホスフィンを使い、Pd 上で直接アルキンを脱プロトンさせる経路をとります。銅の代わりに塩基の強さと配位子で押すわけです。そのぶん条件はシビアになります。
なぜ末端アルキンでなければならないのか
また、TMS(トリメチルシリル)アセチレンを使い、カップリング後にフッ化物イオンで TMS を外して末端アルキンに戻す手法も頻用されます。2回目の薗頭を同じ分子で行えるので、非対称なジアリールアセチレンを組めます。
実験条件のコツ
大学院入試での問われ方
「薗頭カップリングの触媒サイクルを書け」
→ Pd と Cu の2つの環を描き、トランスメタル化で噛み合うことを示す
「銅の役割を述べよ」
→ アルキンに配位して末端 C−H を酸性化し、銅アセチリドとして
Pd へアルキニル基を渡す。C−C 結合自体は作らない
「アミンを溶媒量使う理由は」
→ 銅アセチリドの生成と HX の捕捉に消費されるため。触媒量では足りない
「ジインが副生した。原因と対策を述べよ」
→ 酸素による銅アセチリドの酸化(Glaser型)。脱気の徹底、
アルキンの滴下、銅フリー条件への変更
「内部アルキンが基質にできない理由は」
→ 引き抜ける末端 C−H が無く、銅アセチリドを作れないためまとめ
クロスカップリング全般の考え方は鈴木・宮浦クロスカップリング、トランスメタル化を持たない例はHeck反応で扱っています。
よくある質問
アルキンを運ぶ役です。ヨウ化銅がアルキンのパイ結合に配位すると、末端の炭素水素結合が大きく酸性化され、本来なら歯が立たないアミン塩基でも引き抜けるようになります。こうしてできた銅アセチリドが、パラジウムサイクルのトランスメタル化の段階でアルキニル基をパラジウムへ渡します。炭素炭素結合そのものはパラジウム上の還元的脱離で作られるので、銅は結合形成には直接関与していません。
トランスメタル化のただ1か所です。銅サイクルの出口である銅アセチリドが、そのままパラジウムサイクルのトランスメタル化の相手になります。機構を問う問題では、パラジウムの環と銅の環を2つ描いたうえで、この接点を矢印で示すことが求められます。どちらか一方の環だけを描くと不完全な答案になります。
2つの用途で消費されるからです。1つは銅アセチリドを作るための脱プロトンで、もう1つは反応で生じるハロゲン化水素の捕捉です。どちらも化学量論的に必要なので触媒量では足りません。加えてトリエチルアミンやジイソプロピルアミンは溶媒としても適しているため、実際の操作では溶媒を兼ねて大量に使うのが標準になっています。
系内に酸素が残っていると、銅アセチリドが酸化されてアルキンどうしが直接繋がるためです。Glaser型のホモカップリングと呼ばれ、ジインが生じます。目的物と極性が近く分離も難しいので、凍結脱気やアルゴンバブリングによる脱気を徹底することが最も重要です。アルキンをゆっくり滴下して遊離の銅アセチリド濃度を下げる、あるいは銅フリー条件に切り替えるという対策もあります。
銅アセチリドを作るために引き抜ける末端の炭素水素結合が必要だからです。内部アルキンは両端が炭素置換基で塞がれているためその水素がなく、銅サイクルが始まりません。内部アルキン構造を作りたい場合は、まず末端アルキンで薗頭を行ってから末端を修飾します。トリメチルシリルアセチレンを使い、カップリング後にフッ化物イオンでシリル基を外して再び末端アルキンに戻す手法もよく用いられます。







