「二重結合は回転できない」
これは有機化学の立体(E/Z、cis/trans)を支える最重要ルール
でも、暗記で終わらせるより
σ結合とπ結合の“重なり方”を理解すると、回転できない理由が直感で納得できる
さらに、共鳴・芳香族・反応機構(付加反応)まで一気に繋がる
この記事でできること
- σ結合とπ結合の違い(重なり方・強さ・回転)を説明できる
- 二重結合が回転できない理由を「π結合の破壊」で説明できる
- 回転できる/できないが立体異性(E/Z)を生むことを理解できる
- 単結合の回転(配座)と二重結合の固定(立体異性)を区別できる
先に結論(ここだけ読めばOK)
- 単結合は基本 σ結合のみ → 軸回転してもσの重なりは保たれやすい → 回転できる
- 二重結合は σ結合+π結合 → 回転するとp軌道の横向き重なりが崩れる → π結合が切れる → 回転できない
- 回転できないから、二重結合は E/Z(cis/trans)の立体異性を持てる
1. σ結合とは:正面衝突(head-on overlap)
σ結合の特徴
- 原子核を結ぶ線上で軌道が正面から重なる
- 回転軸が結合軸そのものなので、回転しても重なりが大きく崩れにくい
- 単結合の“回転できる”性質の原因
どんな軌道でもσは作れる
s–s、s–p、p–p、混成軌道同士(sp3–sp3 など)
とにかく「正面衝突」ならσ
2. π結合とは:横向き重なり(side-by-side overlap)
π結合の特徴
- 2つのp軌道が横向きに重なってできる
- 結合軸の上下(あるいは左右)に電子密度が広がる
- p軌道の向き(平行)が揃って初めて成立する
π結合は「向き」に敏感
p軌道の平行が崩れると、横向き重なりが消える
ここが回転できない理由の核心になる
3. 二重結合は「σ+π」
二重結合(C=C)の内訳
- 1本目:σ結合(sp2–sp2などの正面衝突)
- 2本目:π結合(未混成p–pの横向き重なり)
sp2が鍵
二重結合の炭素は一般にsp2
sp2だとp軌道が1本残り、それがπ結合に使われる
そして、このp軌道が「同じ向きで平行」に並ぶ必要がある
4. 二重結合が回転できない理由(本題)
回転=p軌道の平行が崩れる
C=Cの片方を回転させると、p軌道がねじれて平行でなくなる
すると横向き重なりが失われ、π結合が成立しない
つまり、回転するには一度π結合を壊す必要がある
だから回転障壁が大きい
単結合の回転はσ結合を保ったまま行える
二重結合の回転は「π結合を切る」コストが必要
この差が回転できる/できないの本質
5. 回転できないから生まれる立体異性(E/Z)
単結合:回転で同一化する(配座)
例:ブタンのanti/gauche
回転で入れ替わるので、基本は同一分子の別の姿(コンフォメーション)
二重結合:回転できないので固定される(立体異性)
二重結合の両側に置換基があると、配置が固定されてE/Z(cis/trans)が区別される
ここは「配座」と「立体異性体」を混同しないのが重要
6. 三重結合(C≡C)との比較(補強)
三重結合は σ+π+π
2本のπ結合が互いに直交しており、構造は直線(sp)
回転という概念が二重結合ほど問題になりにくいが、いずれにせよπ結合を含むため自由回転はできない
7. 反応性へのつながり(入口だけ)
π結合は電子が露出しやすい → 求核/求電子反応点になる
π電子はσより外側に広がり、攻撃されやすい
だからアルケンは付加反応を起こしやすく、カルボニルもπ結合が反応の中心になる
共鳴は「π系が連続している」から起こる
π結合と孤立電子対がつながると、電子が動かせる(共鳴)
これは「二重結合は回転できない」と同じく、p軌道の向き(平行性)が本質
よくあるミスと対策
「二重結合は強いから回転できない」で止める
強い/弱いではなく、π結合が横向き重なりで、向きがズレると消えるのが本質
回転=πを壊す、という一文に落とすと強い
配座と立体異性を混同する
- 配座:単結合回転で入れ替わる(同一分子の姿)
- 立体異性:回転できず固定(別の異性体として扱う)
練習問題(演習)
解答:
σ結合は結合軸に沿った正面衝突で、回転しても軌道の重なりが大きく崩れにくく、結合を保ったまま回転できるため
解答:
π結合はp軌道の横向き重なりで、回転するとp軌道の平行が崩れて重なりが消え、π結合を壊す必要があるため
解答:
配座は単結合回転で相互に変換できる同一分子の姿
立体異性体は(例:二重結合)回転できないため相互変換が困難で、別の異性体として区別される
解答:
sp2混成なら未混成p軌道が1本残り、それ同士の横向き重なりでπ結合を作れるため
次に読む記事
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- 混成軌道(sp/sp2/sp3)を直感で理解する(π結合と混成のセット)
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