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結合解離エネルギーとは?ラジカル安定性と反応熱を解説

結合解離エネルギーとは?ラジカル安定性と反応熱を解説

「この結合は強い」「あの中間体は安定だ」——有機化学ではこうした言葉が飛び交いますが、その強さや安定さを数値で裏づけているのが結合解離エネルギーです。1本の結合を断ち切るのにどれだけのエネルギーが要るか。この数字を読めると、ラジカルの安定性の順序も、反応が発熱か吸熱かも、暗記せずに説明できるようになります。

結合解離エネルギー(bond dissociation energy, BDE)は、ラジカル反応・燃焼・ハロゲン化など、結合を組み替える反応を考えるときの共通のものさしです。とくにラジカルの安定性を数値で示せる点が強力で、院試や大学入試でも「BDEから安定性を比較せよ」という問いが出ます。

この記事は、熱化学と有機化学をつなげたい人から、院試でBDEを使って考察する人までを対象に、結合解離エネルギーを解説します。まず「どう切るか」の定義から、丁寧に押さえましょう。

この記事で学ぶこと
・結合解離エネルギー(BDE)とは何か
・均等開裂(ホモリシス)と不均等開裂(ヘテロリシス)の違い
・C−H結合のBDEがラジカル安定性を映す理由
・BDEから反応熱を見積もる方法
・BDEを読むときの注意点

この記事は、ラジカル(連鎖反応と安定性)の理解を深める土台になります。あわせて読むと、安定性の順序が数値で腑に落ちます。

結合解離エネルギーとは——「均等に切る」ときのエネルギー

結合を切るには2つの切り方があります。均等開裂(ホモリシス)は、結合の電子対を1個ずつ左右へ分け、2つのラジカルを生じます。不均等開裂(ヘテロリシス)は、電子対をまるごと片方が持ち去り、陽イオンと陰イオンを生じます。

均等開裂(ホモリシス)
   A:B  →  A·  +  ·B      (電子を1個ずつ分ける=ラジカル)

不均等開裂(ヘテロリシス)
   A:B  →  A+  +  :B     (電子対を片方が独占=イオン)

結合解離エネルギー(BDE)は、気相での均等開裂に必要なエネルギーと決められています。つまりラジカルを生じる切り方を基準にした値です。単位は kJ/mol(または kcal/mol)で、値が大きいほど切れにくい=強い結合を意味します。

BDEの読み方
・値が大きい=強い結合(切るのに大きなエネルギーが必要)
・H−H は約436 kJ/mol、C−H は約410前後、I−I は約151 kJ/mol
・つねに均等開裂(ラジカル生成)を基準にした値

C−H結合のBDEがラジカル安定性を映す

BDEが有機化学で威力を発揮するのが、C−H結合を切ってできる炭素ラジカルの安定性の比較です。同じC−H結合でも、切ったあとにできるラジカルが安定なほど、その結合は切れやすい=BDEが小さいのです。

切れるC−H できるラジカル BDEの目安
メチル CH3−H メチルラジカル 約439 kJ/mol(大)
第一級 R−CH2−H 第一級ラジカル 約421 kJ/mol
第二級 R2CH−H 第二級ラジカル 約410 kJ/mol
第三級 R3C−H 第三級ラジカル 約400 kJ/mol(小)

BDEは第三級<第二級<第一級<メチルの順に小さくなります。BDEが小さいほど安定なラジカルができるので、この順序はそのままラジカルの安定性が第三級>第二級>第一級>メチルであることを数値で示しています。超共役でラジカルが安定化される話と、ぴたりと一致します。

覚え方
・BDEが小さい安定なラジカルができる(切りやすい)
・安定性の順:第三級>第二級>第一級>メチル
・アリル・ベンジル位はさらにBDEが小さい(共鳴で強く安定化)

BDEから反応熱を見積もる

反応は「古い結合を切って、新しい結合をつくる」営みです。だから反応の発熱・吸熱は、切れる結合のBDE合計と、できる結合のBDE合計の差でおおよそ見積もれます。

ΔH  ≈  (切れる結合のBDE合計)  −  (できる結合のBDE合計)

  ΔH < 0 : 発熱(強い結合ができた)
  ΔH > 0 : 吸熱(弱い結合しかできなかった)

切るのにエネルギーが要り(+)、つくると放出される(−)。強い結合ができるほど発熱側に振れます。たとえばメタンの塩素化 CH4 + Cl2 → CH3Cl + HCl が発熱なのは、生成する H−Cl 結合などが強いためです。

よくある間違い
・BDEを不均等開裂(イオン生成)のエネルギーと混同する→BDEは均等開裂(ラジカル)が定義
・BDEが大きい=安定なラジカルと考える→逆。BDEが小さいほど安定なラジカル
・平均結合エネルギーと個々のBDEを同一視する→分子ごとに値は異なる
まとめ
・結合解離エネルギー(BDE)は気相・均等開裂に必要なエネルギー
・値が大きい=強い結合、小さい=切れやすい結合
・C−HのBDEはラジカル安定性を映す:第三級<第二級<第一級<メチル
・反応熱は「切れる結合のBDE合計 − できる結合のBDE合計」で見積もれる

よくある質問

結合解離エネルギーはどんな切り方を基準にしていますか?

気相での均等開裂(ホモリシス)を基準にしています。結合の電子対を1個ずつ左右に分け、2つのラジカルを生じる切り方です。電子対を片方が独占してイオンを生じる不均等開裂(ヘテロリシス)とは異なるので、混同しないよう注意します。

BDEが小さいほどラジカルが安定なのはなぜですか?

BDEはC−H結合を切ってラジカルを作るのに必要なエネルギーで、できるラジカルが安定なほど少ないエネルギーで作れるからです。したがってBDEが小さいことは、生成するラジカルが安定であることを意味します。第三級ラジカルほどBDEが小さく、安定です。

ラジカルの安定性の順序はどうなりますか?

第三級>第二級>第一級>メチルの順に安定です。これはC−H結合のBDEが第三級<第二級<第一級<メチルの順に小さくなることと一致します。アリル位やベンジル位のラジカルは共鳴でさらに安定化され、BDEはより小さくなります。

BDEから反応熱を見積もるにはどうしますか?

「切れる結合のBDE合計」から「できる結合のBDE合計」を引きます。差が負なら発熱、正なら吸熱です。結合を切るにはエネルギーが必要で、結合ができると放出されるため、より強い結合が生成する反応ほど発熱側に振れます。

結合解離エネルギーと平均結合エネルギーは同じですか?

厳密には異なります。結合解離エネルギー(BDE)は特定の分子の特定の1本の結合を切る値で、周囲の構造によって変わります。平均結合エネルギーは同種の結合を多くの分子で平均した代表値です。ラジカルの安定性を比べるときは、個々のBDEを使います。

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