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「アルケンの反応と合成」完全解説|ハロゲン化・水和・還元・酸化・ラジカル重合を徹底解説

Contents
  1. はじめに:アルケンは「反応の宝庫」
  2. 8.1 アルケンの調製法:脱離反応のプレビュー
  3. 8.2 アルケンのハロゲン化:X2 の付加
  4. 8.3 ハロヒドリンの形成:HO–X の付加
  5. 8.4 アルケンの水和(1):オキシマーキュレーション
  6. 8.5 アルケンの水和(2):ヒドロホウ素化
  7. 8.6 アルケンの還元:接触水素化
  8. 8.7 アルケンの酸化(1):エポキシ化とヒドロキシル化
  9. 8.8 アルケンの酸化(2):炭素–炭素結合の切断
  10. 8.9 カルベンのアルケンへの付加:シクロプロパン合成
  11. 8.10 ラジカル付加:連鎖成長型高分子
  12. 8.11 生体内でのラジカル付加
  13. 8.12 反応の立体化学(1):アキラルアルケンへの H2O 付加
  14. 8.13 反応の立体化学(2):キラルアルケンへの H2O 付加
  15. コラム:テルペン—自然界に溢れるアルケン
  16. まとめ:第8章の全反応を整理する

はじめに:アルケンは「反応の宝庫」

第7章でアルケンの構造・命名・安定性を学びました。第8章では、アルケンが実際にどんな反応を起こすのかを体系的に学びます。アルケンの π 結合は求核性が高く、さまざまな求電子試薬や酸化剤・還元剤・ラジカル種と反応します。その多様さは化学の宝庫とも言えます。

実験室でも生体内でも、アルケンの付加反応は至る所に登場します。防弾チョッキに使われる超高分子量ポリエチレンもアルケンの重合で作られます。本章で学ぶ反応は有機合成の基盤であり、医薬品・材料・天然物の合成に直結します。

第8章のゴール
① アルケンへのハロゲン付加のメカニズム(ブロモニウムイオン機構)と立体化学を説明できる
② ハロヒドリン形成・オキシマーキュレーション・ヒドロホウ素化を使い分け、生成物を予測できる
③ 接触水素化の機構と立体化学(syn 付加)を理解する
④ エポキシ化・ヒドロキシル化・オゾン分解などの酸化反応を使いこなせる
⑤ カルベン付加によるシクロプロパン合成を説明できる
⑥ ラジカル連鎖重合の機構を理解し、高分子材料との関連を述べられる
⑦ アキラルおよびキラルなアルケンへの付加反応の立体化学的帰結を予測できる

8.1 アルケンの調製法:脱離反応のプレビュー

アルケンは主として脱離反応(elimination reaction)によって調製されます。付加反応と脱離反応はコインの表裏の関係にあります。HBr の付加があれば、その逆の HBr の脱離(脱ハロゲン化水素化)もあります。

脱ハロゲン化水素化(dehydrohalogenation)

アルキルハライドを KOH などの強塩基と反応させると、HX が脱離してアルケンが生成します。

ブロモシクロヘキサン  +  KOH  →(CH3CH2OH)
  シクロヘキセン(81%)  +  KBr  +  H2O

脱水(dehydration)

アルコールを酸触媒(H2SO4 など)と加熱すると水が脱離してアルケンが生成します。

1-メチルシクロヘキサノール  →(H2SO4, THF, 加熱)
  1-メチルシクロヘキセン(91%)  +  H2O
生体内での脱水反応
生体内では、孤立したアルコールの脱水は稀です。通常は β 位にカルボニル基がある基質で進行します。脂肪酸合成において β-ヒドロキシブチリル ACP が trans-クロトニル ACP に変換される反応がその例です。この理由は第11章・第19章で詳しく学びます。

8.2 アルケンのハロゲン化:X2 の付加

臭素や塩素はアルケンに迅速に付加し、1,2-ジハライドを生成します。この反応をハロゲン化(halogenation)と呼びます。

H2C=CH2  +  Cl2  →  ClCH2CH2Cl
エチレン          1,2-ジクロロエタン(世界年間生産:約5000万トン)

ブロモニウムイオン機構

単純なカルボカチオン機構では観察されるアンチ立体選択性を説明できません。そこで 1937 年に Kimball と Roberts が提唱したのがブロモニウムイオン(bromonium ion)機構です。

反応機構のポイント
① Br2 がアルケンに作用し、三員環のブロモニウムイオン(R2Br+)と Br を生成する
② ブロモニウムイオンの「底面」は Br が占めるため、Br反対側(アンチ面)からのみ攻撃できる
③ 結果としてtrans(アンチ)付加生成物のみが得られる

シクロペンテンと Br2 の反応では、trans-1,2-ジブロモシクロペンタンのみが生成し、cis 体は得られません。

ハロゲン 反応性 備考
F2 非常に高い(制御困難) 通常の実験室では使用しない
Cl2 高い クロロニウムイオン経由
Br2 中程度(扱いやすい) ブロモニウムイオン経由、立体化学の証明に使用
I2 低い ほとんどのアルケンと反応しない
生体内ハロゲン化
海洋生物ではハロペルオキシダーゼという酵素が H2O2 を用いて Br や Cl を活性化し、アルケンへの電子求電子的ハロゲン化を行います。抗腫瘍活性を持つ天然物ハロモン(Halomon)がその例です。

8.3 ハロヒドリンの形成:HO–X の付加

アルケンを Br2(または Cl2)と水の存在下で反応させると、ハロヒドリン(halohydrin)と呼ばれる 1,2-ハロアルコールが得られます。

アルケン  +  Br2/H2O  →  ブロモヒドリン(β-ブロモアルコール)

反応機構

① ブロモニウムイオン中間体を形成(8.2節と同じ)
② 水が求核剤として攻撃し、Br と競争する
③ H3O+ を放出して中性のハロヒドリンが得られる

よくある間違い
ハロヒドリン形成では、非対称アルケンの場合 Br はより置換度の低い炭素に結合し、OH はより置換度の高い炭素に結合します(マルコフニコフ的配向)。ブロモニウムイオンの開裂は、より安定なカルボカチオン性炭素側に水が攻撃するためです。

実験室では、N-ブロモスクシンイミド(NBS)を DMSO 水溶液中で用いることでブロモヒドリンを選択的に合成できます。

8.4 アルケンの水和(1):オキシマーキュレーション

アルケンに水を付加させてアルコールを得る反応を水和(hydration)といいます。酸触媒による直接水和(H3O+)は高温・強酸条件が必要で実験室向きではありません。そこで温和な条件で使えるのがオキシマーキュレーション–デマーキュレーション(oxymercuration–demercuration)です。

操作手順と生成物

ステップ1

アルケンを Hg(OAc)2/H2O–THF と反応させ、マーキュリニウムイオンを経てオルガノマーキュリー中間体を得る

ステップ2

NaBH4 でデマーキュレーション(Hg を H に置き換え)してアルコールを得る

生成物

マルコフニコフ生成物(OH が置換度の高い炭素に結合)

1-メチルシクロペンテン
  1. Hg(OAc)2, H2O/THF
  2. NaBH4
→ 1-メチルシクロペンタノール(92%)
機構の特徴
マーキュリニウムイオンはブロモニウムイオンと構造が類似しています。デマーキュレーション段階ではラジカル機構が関与するため、この段階での立体化学は制御されません。結果として OH は置換度の高い炭素(Markovnikov 位)に結合しますが、立体選択性は低い点に注意してください。

8.5 アルケンの水和(2):ヒドロホウ素化

1959 年に H. C. Brown(パデュー大学)が発見したヒドロホウ素化(hydroboration)は、オキシマーキュレーションと相補的(complementary)な水和法です。

反応の流れ

① BH3–THF をアルケンに加える → B–H 結合が付加し、オルガノボラン(R3B)が生成
② H2O2/NaOH で酸化 → C–B 結合が C–OH に置換

1-メチルシクロペンテン
  1. BH3/THF
  2. H2O2, NaOH
→ trans-2-メチルシクロペンタノール(85%)

ヒドロホウ素化の立体化学・位置選択性

2つの重要な特徴
① syn 付加:B と H は同じ面から同時に付加する(遷移状態は一段階)
② 非マルコフニコフ位置選択性:B は立体的に込み合っていない(置換度が低い)炭素に優先的に結合する

→ 最終生成物はnon-Markovnikov syn 付加アルコール

オキシマーキュレーション
Markovnikov 生成物
立体選択性:低|||ヒドロホウ素化–酸化
non-Markovnikov 生成物
立体選択性:syn(高)

8.6 アルケンの還元:接触水素化

アルケンは Pt や Pd などの金属触媒存在下で H2 と反応し、対応するアルカンを生成します。この反応を接触水素化(catalytic hydrogenation)または還元(reduction)と呼びます。

有機化学における「還元」の定義
炭素の電子密度が増加する反応。具体的には、C–H 結合の形成、または C–O・C–N・C–X 結合の切断が相当します(一般化学の「電子を得る」という定義とは異なることに注意)。

よく使われる触媒

触媒 形態 特徴
Pd/C(パラジウム炭素) 活性炭上に担持 最も汎用的、温和な条件
PtO2(アダムス触媒) 反応系内で Pt に還元 Roger Adams が開発

立体化学:syn 水素化

接触水素化はヘテロジニアス(不均一系)反応です。H2 と alkene はともに固体触媒表面に吸着し、そこで反応が起きます。両方の H が同じ面(syn)から付加します。

1,2-ジメチルシクロヘキセン + H2/PtO2(CH3CO2H)
→ cis-1,2-ジメチルシクロヘキサン(82%)
選択性と食品化学への応用
アルケンはアルデヒド・ケトン・エステル・ニトリルよりも反応しやすいため、これらの官能基を残したままアルケンのみを還元できます。また食品工業では植物油(ポリ不飽和 cis 脂肪酸を含む)を水素化してマーガリン等の飽和脂肪を製造しますが、完全には還元されないと一部の二重結合が cis から trans に異性化し、トランス脂肪酸が生成します。これが冠動脈疾患リスクに関連するとされています。

8.7 アルケンの酸化(1):エポキシ化とヒドロキシル化

有機化学における「酸化」の定義
炭素の電子密度が減少する反応。C–O・C–N・C–X 結合の形成、または C–H 結合の切断が相当します。

エポキシ化(peroxyacid による)

アルケンを m-クロロ過安息香酸(mCPBA)などのペルオキシ酸(RCO3H)で処理すると、三員環状エーテル(エポキシド、オキシラン)が得られます。

シクロヘプテン  +  mCPBA(CH2Cl2)
→ 1,2-エポキシシクロヘプタン  +  m-クロロ安息香酸

特徴:syn 立体化学(一段階機構で中間体なし)。ペルオキシ酸のカルボニル基から最も離れた酸素が転移します。

エポキシドの開環:trans-1,2-ジオールの合成

エポキシドを酸触媒で加水分解するとtrans-1,2-ジオール(グリコール)が得られます。

1,2-エポキシシクロヘキサン  +  H3O+
→ trans-1,2-シクロヘキサンジオール(86%)

エチレングリコール(自動車の不凍液)は年間約2億トン、エチレンのエポキシ化と加水分解で製造されます。

OsO4 によるヒドロキシル化:cis-1,2-ジオールの合成

四酸化オスミウム(OsO4)はアルケンにsyn 付加して環状オスメート中間体を形成し、還元的後処理(NaHSO3)でcis-1,2-ジオールを与えます。

1,2-ジメチルシクロペンテン
  OsO4(cat.), NMO, アセトン/H2O
→ cis-1,2-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオール(87%)

OsO4 は高価かつ毒性があるため、化学量論量の N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)を共酸化剤として触媒量で使用します。

trans-1,2-ジオールの合成経路
アルケン → エポキシ化(mCPBA)→ 酸加水分解|||cis-1,2-ジオールの合成経路
アルケン → OsO4 ヒドロキシル化(syn 付加)

8.8 アルケンの酸化(2):炭素–炭素結合の切断

強力な酸化剤はアルケンの C=C 結合を切断し、カルボニル化合物を生成します。

オゾン分解(ozonolysis)

オゾン O3 はアルケンに迅速に付加し、環状のモロゾニドを経てオゾニドを形成します。低分子量オゾニドは爆発性があるため単離せず、直ちに亜鉛/酢酸などの還元剤で処理してカルボニル化合物を得ます。

アルケンの置換度 生成物
四置換(R2C=CR2 ケトン + ケトン
三置換(R2C=CHR) ケトン + アルデヒド
二置換(RCH=CHR) アルデヒド + アルデヒド
一置換・末端(RCH=CH2 アルデヒド + ホルムアルデヒド

KMnO4 による切断

過マンガン酸カリウム(中性〜酸性条件)でもアルケンの C=C 結合を切断できます。C–H が存在する炭素はカルボン酸に、C–H が2つある炭素は CO2 になります。

HIO4 による 1,2-ジオールの切断

ヒドロキシル化で得た 1,2-ジオールを過ヨウ素酸(HIO4)で処理すると C–C 結合が切断され、カルボニル化合物が得られます。環状ジオールでは鎖状ジカルボニル化合物が生成します。

8.9 カルベンのアルケンへの付加:シクロプロパン合成

カルベン(carbene, R2C:)は二価炭素を持つ中性分子で、価電子数が6個しかなく非常に反応性が高い中間体です。カルベンはアルケンに求電子的に付加し、シクロプロパンを生成します。この付加は一段階で中間体がなく、立体特異的です。

ジクロロカルベン(:CCl2)の発生と付加

クロロホルム(CHCl3)を強塩基(KOH)で処理すると、トリクロロメタニドアニオン(:CCl3)が生成し、Cl を放出して :CCl2 が得られます。

CHCl3  +  KOH  →  :CCl3  →  :CCl2  +  Cl

cis-2-ペンテン + :CCl2
→ cis-1,1-ジクロロ-2,3-ジメチルシクロプロパン(cis のみ)
立体特異性
cis アルケンから出発すれば cis-ジ置換シクロプロパンのみが、trans アルケンからは trans のみが得られます。

Simmons–Smith 反応

ハロゲンを含まないシクロプロパン合成にはシモンズ–スミス反応が最適です。ジヨードメタン(CH2I2)を Zn–Cu と反応させると、カルベノイド((iodomethyl)zinc iodide, ICH2ZnI)が生成し、これがアルケンに CH2 基を転移します。

シクロヘキセン  +  CH2I2, Zn(Cu)
→ ビシクロ[4.1.0]ヘプタン(92%)

8.10 ラジカル付加:連鎖成長型高分子

ラジカルは C=C 結合の一方の電子を取り込んで新たな C–C 結合を形成し、もう一方の電子は新しいラジカルとして残ります。この繰り返しが連鎖成長重合(chain-growth polymerization)の基礎です。

ポリエチレンの合成

エチレンに過酸化ベンゾイル(開始剤)と高温高圧を与えるとラジカル連鎖反応が起き、分子量最大 600 万のポリエチレンが生成します。世界年間生産量は約 8800 万トンです。

ラジカル重合の3段階

開始(Initiation)

過酸化物の O–O 結合が熱分解してフェニルラジカルが生成し、エチレンに付加

成長(Propagation)

炭素ラジカルが次々とエチレンに付加し、鎖が伸長する(数百〜数千回繰り返す)

停止(Termination)

2つの成長鎖ラジカルが結合(またはその他の反応)して連鎖が終了

代表的なアルケン系高分子

モノマー ポリマー名 主な用途
エチレン(H2C=CH2 ポリエチレン 包装・ボトル・防弾チョッキ
プロピレン(H2C=CHCH3 ポリプロピレン 成型品・ロープ・カーペット
塩化ビニル(H2C=CHCl) PVC 絶縁体・フィルム・パイプ
スチレン(H2C=CHC6H5 ポリスチレン 発泡スチロール・成型品
テトラフルオロエチレン(F2C=CF2 テフロン(Teflon) ガスケット・フライパンのコーティング
非マルコフニコフ位置選択性(ラジカル)
非対称ビニルモノマーが重合する際、ラジカルはより安定な二置換(二級)ラジカル中間体を形成するよう選択的に付加します。これはカルボカチオン中間体を経る求電子付加の位置選択性(Markovnikov 則)と本質的に同じ原理です。

8.11 生体内でのラジカル付加

実験室でのラジカル反応は連鎖が制御しにくいのに対し、酵素活性部位では基質1分子ずつが精密に固定されるため、生体内ラジカル反応は非常に制御されています。

プロスタグランジンの生合成がその典型例です。アラキドン酸から PGH2(プロスタグランジン H2)への変換は、4つのラジカル付加反応からなるカスケードです:

① 鉄-オキシラジカルが C13 から H を引き抜き、炭素ラジカルを生成
② C11 に O2 が付加してペルオキシラジカルを生成
③ C8–C9 二重結合へラジカルが付加して C8 にラジカルが生成
④ C12–C13 二重結合へ付加して C13 にラジカルが生成
⑤ C15 で2番目の O2 が付加してプロスタグランジン骨格を完成

この全工程はシクロオキシゲナーゼ(COX)という単一の酵素によって触媒されます。アスピリンはこの酵素を不可逆的に阻害することで抗炎症作用を示します。

8.12 反応の立体化学(1):アキラルアルケンへの H2O 付加

1-ブテン(アキラル)への酸触媒水和では、2-ブタノールが生成します。この 2-ブタノールは不斉炭素を持つキラル分子ですが、ラセミ混合物(R 体と S 体が 1:1)として得られます。

なぜラセミ体が生成するか
1-ブテンのプロトン化で生じた sec-ブチルカチオンは sp2 混成・平面構造のため対称面を持つアキラルな中間体です。水は上面・下面から等確率で攻撃するため、エネルギー的に等価な2つの遷移状態を経て R 体と S 体が等量生成します。

一般則:アキラルな反応剤からのキラル中心形成は常にラセミ体を与える

一方、酵素触媒反応ではキラルな活性部位が二重結合の一方の面だけを区別するため、1種類のエナンチオマーのみが得られます(例:クエン酸回路の cis-アコニターゼによる水和)。

8.13 反応の立体化学(2):キラルアルケンへの H2O 付加

キラルアルケン(例:(R)-4-メチル-1-ヘキセン)への水和では、新しい不斉炭素(C2)が生成し、2つの不斉炭素を持つ分子(4-メチル-2-ヘキサノール)が得られます。

この場合、中間体カルボカチオン(C2+)は既存の不斉中心(C4: R)によってキラルな環境に置かれるため、対称面を持ちません。水は上面・下面から不等確率で攻撃し、2種類のジアステレオマーが不等量で生成します。

一般則:キラルな反応剤からのキラル中心形成はジアステレオマーを不等量で与え、混合物は光学活性

コラム:テルペン—自然界に溢れるアルケン

植物から水蒸気蒸留で得られる精油の主成分はテルペノイドです。その中で二重結合を持つ炭化水素をテルペンと呼び、6万種以上が知られています。

イソプレン則(isoprene rule):テルペンは 5 炭素のイソプレン単位(2-メチル-1,3-ブタジエン)がヘッド–テール結合した構造を持つ、というルールです。

分類 炭素数 イソプレン単位数
モノテルペン C10 2 ミルセン(bay oil)、α-ピネン(テレビン油)
セスキテルペン C15 3 フムレン(ホップ油)
ジテルペン C20 4 フィトール(クロロフィル側鎖)
トリテルペン C30 6 ラノステロール(ステロイドホルモンの前駆体)

まとめ:第8章の全反応を整理する

アルケン付加反応の分類表
反応 試薬 生成物 立体化学
ハロゲン化 X2(X = Cl, Br) 1,2-ジハライド anti
ハロヒドリン形成 X2/H2O(NBS/H2O) ハロヒドリン anti、Markovnikov
水和(オキシマーキュレーション) ① Hg(OAc)2/H2O ② NaBH4 アルコール Markovnikov
水和(ヒドロホウ素化–酸化) ① BH3/THF ② H2O2/NaOH アルコール syn、non-Markovnikov
接触水素化 H2/Pd, Pt アルカン syn
エポキシ化 mCPBA などのペルオキシ酸 エポキシド syn
ヒドロキシル化(OsO4 OsO4(cat.)/NMO cis-1,2-ジオール syn
オゾン分解 ① O3 ② Zn/AcOH カルボニル化合物×2
カルベン付加 :CCl2(CHCl3/KOH)または Simmons–Smith シクロプロパン 立体特異的(syn)

第9章では三重結合を持つアルキンの化学に進みます。アルキンはアルケンより π 電子密度が高く、さらに多彩な反応性を示します。また末端アルキンは C–H 結合が酸性であるため、アセチリドアニオンを使った新しい炭素–炭素結合形成反応も学びます。

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