本記事では、原子構造の基本について学んでいきます。
高校化学の復習から始め、大学有機化学へと発展させていきます。
有機化学らしさは少ないかもしれませんが、今後の学習にとって重要となります。
この記事でできること
- 「軌道=波動関数ψ」「電子は雲として分布」という意味を有機の言葉で説明できる
- s軌道とp軌道の形・節(node)・位相(+/−)を、結合(σ/π)に接続できる
- 電子配置を3ルール(Aufbau/Pauli/Hund)で機械的に書ける
- 価電子から、C/N/O/ハロゲンの典型的な結合数と孤立電子対の数を見積もれる
要約
- 有機でまず見るのは「最外殻(価電子殻)の電子=価電子」
- 共有結合の話では、主に s と p 軌道を扱う(d/fは例外的)
- p軌道には向きがあり(px, py, pz)、この“向き”が結合の方向性と立体に直結する
- 軌道の位相(+/−)は「同位相で重なると安定、逆位相だと不安定」という結合の根っこになる
原子の基本:核と電子
この章は高校化学の復習です。
原子の成り立ち
原子は、原子核(陽子+中性子)と電子から成り立ちます。
原子核はプラスの電荷を持っており、電子はマイナスの電荷を持っています。
基本的に、プラスとマイナスの電荷は釣り合うようになっています。
原子核の直径は約10-14~10-15 mであり非常に小さいですが、原子の質量のほとんどを占めています。
電子は質量が無視できるほど小さく、原子核から約10-10 mの距離を漂っています。
してがって、原子の質量は原子核の質量、原子の大きさは電子が飛び回っている部分の大きさと近似することができます。
原子の大きさを表すことはよくあるので、オングストローム(Å, 10-10 m)という単位が用意されています。
SI単位系ではありませんが、有機化学を学んでいるときに登場することがあるので覚えとくとよいでしょう。
原子番号と同位体
それぞれの原子は固有の原子番号(Z)で特定されます。
原子番号は、陽子の数を表しています。
質量数(A)は、陽子と中性子の総数を表します。
陽子の数は原子固有ですが、中性子の数は変わることがあります。
原子番号が同じで、質量数が異なる原子同士を同位体と呼びます。
有機化学の主役である炭素原子にも同位体が存在します。
質量数が12、13、14の炭素原子が存在し、自然界では98.89%が質量数12の炭素原子です。
原子の質量の単位は原子質量単位(u)やダルトン(Da)が使われます。
1 uや1 Daは炭素原子の質量の1/12と定義されています。
この単位を今覚える必要はありません。
軌道(orbital)とは何か
軌道=波動関数ψの“解”
量子力学モデルでは、電子の振る舞いは波動方程式で表し、その解が波動関数(ψ)
軌道(orbital)はこの波動関数で表され、ψ²を空間に描くと「電子が存在しやすい領域(確率分布)」が見える
実務的には、軌道は電子が空間の中で“よくいる場所”を表す
境界がカチッとあるわけではないが、便宜上「電子がそこにいる確率が高い領域(目安として90〜95%)」を軌道として扱う
s軌道とp軌道(有機で最重要)
有機・生化学で主役になるのは s と p
- s軌道:球状(方向性が弱い)
- p軌道:ダンベル状(明確な方向性を持つ)
p軌道は3本あり、互いに直交する方向に向く(px, py, pz)
この「どの方向へ伸びているか」が、後の混成やσ/π結合の説明に直結する
節(node)と位相(+/−):結合の前提
p軌道の2つのローブの間には、電子密度がゼロになる面(節:node)がある
さらに、ローブには波動関数の符号(位相)があり、+と−で表される
位相は「見た目の色分け」に過ぎないが、結合を考えるときに本質的で
- 同位相(+と+、−と−)の重なり:結合性(安定化)になりやすい
- 逆位相(+と−)の重なり:反結合性(不安定化)になりやすい
という形で化学結合と反応性の説明に使われる
電子殻(shell)と軌道の並び
殻の中に軌道が入っている
軌道は核の周りに階層的に配置され、電子殻(shell)として整理される
それぞれの殻には入る軌道の種類と数が決まっている
- 第1殻:1s(最大2電子)
- 第2殻:2s と 2p(2pは3本)で最大8電子
- 第3殻:3s、3p、3dで最大18電子
有機化学の標準範囲では、C/N/O/ハロゲンなど第2周期元素が中心なので、実務上は「2sと2p」を確実に扱えることが最重要
電子配置の書き方:3ルール
電子配置とは
基底状態(ground state)で、どの軌道に何個の電子が入っているかを並べたもの
電子配置が分かると「価電子が何個か」「結合や孤立電子対がどう出るか」が見通せる
ルール1:Aufbau原理(低エネルギーから埋める)
低いエネルギーの軌道から順に電子が入る
典型的に 1s → 2s → 2p → 3s → 3p … と進む
(細部として、4sが3dより低いなどの例外があるが、有機の基礎ではまず第2周期を固めれば十分)
ルール2:Pauliの排他原理(1軌道に2電子まで、スピンは反平行)
1つの軌道に入れるのは最大2電子
2電子が入る場合はスピンが反対向き(↑↓)
ルール3:Hund則(同エネルギー軌道はまず1個ずつ同じ向きで)
同じエネルギーの軌道(2pの3本など)が複数あるときは、
まずそれぞれに1個ずつ、スピンを平行にして入れる
その後にペアを作る
このルールが「未対電子の存在」や「結合の作り方」の直感に繋がる
最重要:価電子と“結合できる数”
価電子=最外殻の電子
有機反応で動くのは、基本的に価電子
共有結合の生成・切断、孤立電子対、π結合などは価電子の再配置として理解できる
有機で頻出元素の目安(結合数と孤立電子対)
ここは暗記というより「価電子数からの見積もり」を身につける
- H:価電子1 → ふつう結合1本
- C:価電子4 → ふつう結合4本(中性)
- N:価電子5 → ふつう結合3本+孤立電子対1組(中性)
- O:価電子6 → ふつう結合2本+孤立電子対2組(中性)
- ハロゲン(F/Cl/Br/I):価電子7 → ふつう結合1本+孤立電子対3組(中性)
ここまでが「ルイス構造」「形式電荷」「求核/求電子」「矢印の出発点(電子対)」の土台になる
有機化学への接続:この章が“反応機構”に効く理由
理由1:p軌道の方向性が、σ/πと立体を決める
p軌道は向きを持つ
だから、p軌道の重なり方で
- σ結合(正面衝突)
- π結合(横向き重なり)
を説明できるようになり、「二重結合が回転できない」「E/Zが生まれる」へ一直線につながる
理由2:孤立電子対=求核性の源
有機反応で矢印の出発点になりやすいのは、孤立電子対やπ電子
価電子配置から「どこに孤立電子対があるはずか」を見積もれると、反応点探しが速くなる
理由3:形式電荷の整合性チェックができる
電子は勝手に増減しない
価電子と電子対の数を意識していると、「電荷が合わない機構」を自力で弾けるようになる
練習問題
解答:
s軌道は球状で方向性が弱く、p軌道はダンベル状で空間的な方向性を持つ
解答:
p軌道の2つのローブの間にある、電子密度がゼロになる領域(面)
解答:
Aufbau:低エネルギー軌道から順に埋める
Pauli:1軌道に最大2電子、スピンは反平行
Hund:同エネルギー軌道はまず1個ずつ平行スピンで入れる
解答:
N:結合3本+孤立電子対1組
O:結合2本+孤立電子対2組
解答:
結合の生成・切断、孤立電子対やπ電子の移動など、有機反応の実体は価電子の再配置だから
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