SN2が苦手になる最大の原因は、「求核性」「脱離基」ばかり見て、立体(混み合い)を後回しにすること
SN2は“背面攻撃”が必須なので、反応点の周りが混んでいるだけで速度が激落ちする
逆に言えば、立体障害を見抜けるとSN2/SN1/E2の判断が一気に安定する
この記事でできること
- SN2が遅くなる本質(背面攻撃+立体障害)を説明できる
- 基質の混み合いからSN2の速度順(メチル>1級>2級≫3級)を即答できる
- 「求核性は強いのに進まない」典型事故(ネオペンチル、かさ高い求核剤)を回避できる
- SN2が不利なときに、どの反応(SN1/E2)へ逃げやすいかを予測できる
先に結論(SN2の速度は“混み合い”が支配する)
- SN2は背面攻撃で進む → 求核剤は反応炭素の“裏側”に近づく必要がある
- 反応点の周囲が混むほど、近づけない → 遷移状態が作れない → 速度が落ちる
- 基質の一般的な速度順:メチル > 1級 > 2級 >> 3級(ほぼ不可)
- かさ高い求核剤・強塩基は、置換(SN2)より引き抜き(E2)へ寄せやすい
1. 立体障害とは何か(混み合い=近づけない)
立体障害(steric hindrance)は、原子・置換基が“場所を取る”ことで
反応相手が近づけなくなる効果
SN2では「反応点に近づく」こと自体が必須なので、立体障害の影響が非常に大きい
2. SN2の機構が「立体に弱い」理由
2-1. SN2は背面攻撃が必須
SN2は一段階反応で、求核剤が入るのと脱離基が出るのが同時
このとき、求核剤は脱離基の反対側から攻撃する(背面攻撃)
その結果、立体は反転(ワルデン反転)になる
2-2. 遷移状態が混み合う
SN2の遷移状態では、反応炭素は「求核剤と脱離基に同時に“つかまれた”状態」になる
この瞬間、反応点の近くに置換基が多いほど、ぶつかり(立体反発)が増える
→ 遷移状態のエネルギーが上がり、速度が下がる
3. 基質の混み合いが支配する速度順
3-1. 最重要ランキング
- メチル(CH3–LG):最速(最も空いている)
- 1級(RCH2–LG):速い
- 2級(R2CH–LG):遅い(競合が増える)
- 3級(R3C–LG):ほぼSN2不可(背面が塞がる)
3-2. “α位”が特に効く
SN2で一番効くのは、脱離基が付いた炭素(α炭素)の混み合い
ここに置換基が増えるほど背面攻撃が物理的に困難になる
3-3. “β位”も効く(ネオペンチル問題)
α位が1級でも、β位が極端に混むとSN2が非常に遅くなる
典型がネオペンチル((CH3)3C–CH2–LG)
見た目は1級でも、近づく経路が塞がれてSN2が進みにくい
4. 求核剤側の立体:かさ高いとSN2が遅い
4-1. かさ高い求核剤は“攻撃”がしにくい
SN2は反応炭素に接近して軌道重なりを作る必要がある
求核剤自身が大きいと、近づく前に立体反発で止まりやすい
4-2. かさ高い強塩基はE2へ寄りやすい
かさ高い塩基(例:t-BuO−)は
- 背面攻撃(SN2)がやりにくい
- 一方でβ-Hの引き抜き(E2)は“当てて取る”ので起こりやすい
その結果、置換より脱離が優勢になりやすい
5. 立体障害は「何と競合するか」を決める
5-1. 3級基質:SN2が消える → SN1/E1/E2へ
3級は背面攻撃できない
- 弱求核・プロトン性溶媒 → SN1/E1(カチオン経由)
- 強塩基 → E2
5-2. 2級基質:SN2とE2が競合しやすい
2級は混み合いがそこそこあるため
- 小さくて強い求核剤+非プロトン性溶媒 → SN2寄り
- 強塩基(特にかさ高い)・高温 → E2寄り
6. コンフォメーションとの接続(Newmanが効く)
SN2は「近づける配座」かどうかで速さが変わる
Newman投影で混み合い(anti/gauche)を見れるようになると、
“この基質は反応点が塞がりやすい”を図で判断できる
またE2ではanti配向が必須なので、立体と配座はセットで重要
よくあるミスと対策
ミス1:求核剤が強いなら必ずSN2だと思う
3級・混み合い2級では、強い塩基はE2へ逃げやすい
まず基質の混み合い(α位)を見る
ミス2:1級なら必ずSN2だと思う
ネオペンチルのようにβ位が極端に混むと例外が出る
「αだけでなくβも見る」をルール化する
ミス3:SN2の立体反転を忘れる
SN2は背面攻撃=反転
判定とセットで書く(得点源)
練習問題(演習)
解答:
SN2は背面攻撃で反応炭素に接近して遷移状態を作る必要があり、反応点周囲が混むほど近づけず遷移状態が高エネルギーになるため
解答:
メチル > 1級 > 2級 >> 3級(ほぼ不可)
解答:
α位は1級でもβ位が極端に混み合っており、背面攻撃の接近経路が立体的に塞がれるため
解答:
E2
理由:かさ高い塩基は背面攻撃(SN2)がしにくく、β-Hの引き抜き(脱離)へ寄りやすいから
解答:
背面攻撃によるワルデン反転(立体反転)
次に読む記事
- SN1/SN2の入口:基質・溶媒・求核剤で一発判定(立体障害を判定軸に組み込む)
- コンフォメーション入門:Newman投影とanti/gauche(混み合いを図で判断)
- E1/E2の入口:SNとの競合・温度・強塩基の整理(立体障害がE2を押す)
