反応機構で詰まる最大の原因の一つが「プロトン移動(酸塩基)」
付加、脱離、置換、求核攻撃…とイベントは多いが、実は機構の“つなぎ”は酸塩基操作でできていることが多い
つまり、プロトン移動を型で描けるようになると、機構が途切れず最後まで書ける
この記事では、プロトン移動を
・どこで入れるか(タイミング)
・どっちへ進むか(pKa)
・矢印をどう書くか(作法)
の3点でテンプレ化する
この記事でできること
- プロトン移動が「機構の接続部」だと理解できる
- pKa比較でプロトン移動の向きを判定できる
- 矢印を崩さずに酸塩基ステップを書ける(出発点と到着点)
- よくある事故(H+を単独で動かす、電荷が合わない、酸・塩基の役が混乱)を回避できる
先に結論(プロトン移動の万能テンプレ)
プロトン移動は、この3点を固定すると迷いが減る
- 役割を決める:酸(Hを渡す)と塩基(Hを取る)
- 向きを決める:平衡はpKaが大きい酸側(弱酸側)へ寄る
- 矢印を2本で書く
- 塩基の電子対 → H(プロトン)
- H–A結合の電子対 → A(酸の共役塩基へ)
1. プロトン移動が「機構をつなぐ」理由
反応点を“作る”操作だから
有機反応の多くは、次のどちらかをしてから本番が始まる
- 塩基で脱プロトン化して、求核剤(アニオン)を作る
- 酸でプロトン化して、求電子点を強くする(または脱離基を良くする)
つまりプロトン移動は
- 求核性を上げる(陰イオン化)
- 求電子性を上げる(プロトン化でδ+を増やす)
- 脱離基を良くする(OH → H2O)
という「反応が起きる土台」を作る
2. 酸と塩基の役割を一瞬で決める
酸(Brønsted酸)
Hを渡す側
例:H3O+、ROH、RCO2H、NH4+ など
塩基(Brønsted塩基)
Hを取る側(電子対を持つ)
例:HO−、RO−、アミン、陰イオン(Cl−以外も多く)など
判定のコツ
- 「Hがどこから出るか」「誰が電子対を持っているか」をまず見る
- 酸と塩基は“相対的”で、状況で役が入れ替わる
3. 向きの判定:pKaで平衡を決める
ルール:平衡は pKaが大きい酸側へ寄る
酸塩基反応では、強酸(pKa小)→弱酸(pKa大)へ進むのが基本
だから「生成物側の酸のpKaが大きいほど」その方向が有利
最短の見方
- 左側の酸 HA のpKa
- 右側の酸 HB のpKa(生成物側にできる酸)
- pKaが大きい酸がいる側が有利
4. 矢印の書き方(プロトン移動は2本セット)
基本形:塩基がHを取る
必ず矢印は“電子対の移動”として書く
- 塩基の孤立電子対 → H
- H–A結合の電子対 → A(酸側の原子)
絶対にやらないこと
- H+だけを単独で矢印で飛ばす
- 電子の行き先がない矢印を書く
溶媒や対イオンを“塩基役”にする
実際の機構では、明示されない塩基(溶媒、水、アニオン)がプロトンを運ぶ
だから「その場にいる塩基」を探す癖をつける
5. 機構の中でプロトン移動を入れる典型タイミング
タイミングA:求核剤を作る(脱プロトン化)
アルコール、チオール、活性メチレン、カルボン酸など
“中性のままでは弱い求核剤”を、塩基でアニオン化して強くする
タイミングB:求電子点を強くする(プロトン化)
カルボニルOのプロトン化 → 炭素のδ+増加 → 求核付加が進みやすい
これは酸触媒反応の基本
タイミングC:脱離基を良くする
OHは悪い脱離基
酸でプロトン化してH2Oにすれば脱離できる
例:脱水反応、SN1条件でのアルコールの置換
タイミングD:中間体の電荷を整える(“後片付け”)
付加後にアルコキシド(O−)ができたら、プロトン化して中性に戻す
逆に、酸触媒で過剰にプロトン化されたら、脱プロトン化で触媒を再生する
6. 代表パターンで「機構がつながる」感覚を作る
パターン1:酸触媒のカルボニル付加(入口)
- Oをプロトン化(求電子性アップ)
- 求核剤がCへ攻撃(新結合形成)
- プロトン移動で電荷調整(中性化)
- 触媒(H+)を再生
“プロトン移動が前後に挟まって、機構が閉じる”のがポイント
パターン2:塩基条件の置換(ROH → RO−)
- 塩基がROHを脱プロトン化してRO−を作る
- RO−がSN2で攻撃
ここでもプロトン移動が「強い求核剤を作る」スイッチになっている
7. よくあるミスと対策
ミス1:H+を矢印で単独移動させる
矢印は電子対の移動
プロトン移動は必ず「塩基→H」「結合電子→共役塩基」の2本で書く
ミス2:電荷(総電荷)が合わない
各ステップで「左と右の総電荷が一致」しているか確認
これだけで誤りの大半が検出できる
ミス3:pKaを見ずに向きを決め打ちする
酸塩基は平衡
迷ったら「生成物側の酸のpKaが大きいか?」だけ確認する
ミス4:塩基が見当たらない
水、アルコール、対イオン(AcO−など)、溶媒が塩基役になることがある
“そこにいるもの”でプロトンを運ぶのが現実的
練習問題(演習)
解答:
塩基の電子対がHに向かうのと同時に、H–A結合の電子対が酸の共役塩基側へ移って結合が切れるため(電子の出発点と到着点を両方描く必要がある)
解答:
平衡はpKaが大きい酸(弱酸)がある側へ寄る
解答:
OH−は強塩基で出ていきにくいが、酸でプロトン化してH2O(弱塩基)にすると良い脱離基になって脱離できる
解答:
脱プロトン化(ROH → RO−)
目的:中性のROHより強い求核剤/塩基(RO−)を作って次の反応を進める
解答:
左右の総電荷が一致しているか(電荷保存)
次に読む記事
- pKaの考え方:暗記から比較へ(プロトン移動の方向が即決できる)
- 反応機構の矢印ルール:出発点と到着点の作法(矢印が崩れない)
- 求核剤・求電子剤の見分け方:反応点の探し方(酸塩基で反応点が変わる)
