脱離基(leaving group)が分かると、SN1/SN2・E1/E2の判定が一気に安定する
「反応が進む/進まない」の多くは、結局 “抜ける基が抜けられるか” で決まるから
この記事では、
・良い脱離基の定義
・脱離基の強さを決める本質(共役塩基の安定性=弱塩基性)
・OTs(トシラート)が強い理由
を、試験で使える判断ルールとして固定する
この記事でできること
- 良い脱離基=何かを一文で説明できる
- 脱離基の良し悪しを「塩基性(共役酸のpKa)」で比較できる
- OTsがハロゲン化物並みに“抜ける”理由を共鳴で説明できる
- アルコールが脱離基として弱い理由と、酸で強化する考え方が分かる
先に結論(ここだけ読めばOK)
- 良い脱離基とは、「出ていったあとに安定な種」になれる基
- 多くの場合、良い脱離基=弱塩基(共役酸が強酸=pKaが低い)
- OTs(トシラート)は、出ていった後が「スルホン酸エステル由来のスルホナート」で、負電荷が共鳴で強く分散して安定 → だから良い脱離基
- アルコール(OH)は塩基性が強く不安定なため、そのままでは脱離基として弱い
酸でプロトン化してH2Oにすると一気に良い脱離基になる
脱離基とは何か
脱離基は、反応中に結合電子(電子対)を持って分子から離れていく基
置換や脱離反応では、C–LG結合が切れて「LG」が外へ出る
重要:脱離は “LGが電子対を持って出ていく” 現象
だから、出ていった後に安定であるほど、脱離は起こりやすい
良い脱離基の判断基準:共役塩基の安定性
超重要ルール:良い脱離基=弱塩基
出ていった後のLGは、しばしば陰イオン(LG−)になる
陰イオンとして安定(=反応性が低い)なら、ためらわずに出ていける
つまり「弱塩基ほど良い脱離基」になりやすい
pKaで見る(最強の比較法)
LG−の共役酸 H–LG のpKaを考える
・pKaが低い(強酸) → 共役塩基LG−は弱い → 良い脱離基
・pKaが高い(弱酸) → 共役塩基LG−は強い → 悪い脱離基
例(イメージ)
・I−、Br−は共役酸が強酸 → 脱離基として良い
・HO−は共役酸H2Oが弱酸(pKaが高い) → HO−は強塩基 → 脱離基として悪い
脱離基ランキング(試験で使う最小セット)
よく出る「強い脱離基」
I− > Br− > Cl−(一般にこの順で良い)
OTs(トシラート)、OMs(メシラート)、OTf(トリフラート)などのスルホナート系は非常に良い
中くらい〜条件付き
F−は強塩基で脱離基としては不利(ただし特殊条件では別)
アミン(NH2−など)は通常脱離基として悪い(塩基性が強い)
悪い脱離基(そのままでは抜けにくい)
HO−、RO−(アルコキシド)は悪い脱離基
だからアルコールは “工夫なし” では置換も脱離も進みにくい
なぜOTsが強いのか(本題)
OTsとは何か
OTsはトシラート(tosylate)
分子内では「RO–SO2–Ar」(Ar=p-トルエン環)の形で存在し、脱離時には「TsO−(トシラートアニオン)」になる
ポイント1:負電荷が強く共鳴で分散する
TsO−(スルホナート)は、負電荷が酸素原子群とS=O系に広く分散する
1点に負電荷が集中しない → 陰イオンが安定 → だから脱離しやすい
ポイント2:共役酸(TsOH)が強酸寄り
共役酸が強いほど、共役塩基(TsO−)は弱い
TsO−は「出ていった後に反応したがらない(弱塩基)」ので、脱離基として優秀になる
ポイント3:C–O結合が切れても、TsO−側が安定なので“戻りにくい”
置換・脱離反応は競争
「抜けるか/戻るか」で、抜けた後の種が安定なら “抜けたまま” になりやすい
OTsはこの条件を満たす
アルコール(OH)が脱離基として弱い理由と、強化する方法
OH−が強塩基だから
OH−は反応性が高い(強塩基・強求核になりやすい)
そんな不安定な陰イオンとして出ていくのは不利 → だからOHは抜けにくい
酸でプロトン化すると水(H2O)になって良い脱離基になる
ROH + H+ → ROH2+
こうすると脱離するのはHO−ではなくH2O
水は中性で安定 → 脱離基として一気に改善
反応での使い方:脱離基を見た瞬間に判断する
SN1/SN2の入口
良い脱離基があるほど反応は進みやすい
・SN1は特に「脱離が先に起こる」ので脱離基の影響が大きい
・SN2も脱離基が弱いとそもそも進まない
E1/E2の入口
・E1はSN1同様、脱離(カチオン生成)が鍵
・E2は一段階だが、脱離基が弱いとやはり進みにくい
よくあるミスと対策
「良い脱離基=電気陰性度が高い」とだけ覚える
電気陰性度は一要素にすぎない
本質は「出ていった後が安定か(弱塩基か)」
特にOTsのように共鳴で安定な例は、電気陰性度だけでは説明できない
OHが抜けない理由を“結合が強いから”で終わらせる
それより重要なのは、OH−として出ていくのが不利(強塩基で不安定)という点
酸でH2Oに変えると抜けることが、その証拠になる
脱離で矢印の向きを間違える
脱離の矢印は「C–LG結合の電子対 → LG」
LGが電子対を持って出ていく絵にする
練習問題(演習)
解答:
OTs(非常に良い脱離基)。
理由:脱離後のTsO−が共鳴で強く安定化される弱塩基だから(HO−は強塩基で悪い脱離基、I−も良いがOTsは同等以上に扱える場面が多い)。
解答:
脱離するとHO−(またはRO−)が生じるが、これは強塩基で不安定なため“出ていきにくい”。
したがってROHはそのままでは脱離基が弱く、反応が進みにくい。
解答:
酸でプロトン化してROH2+にすると、脱離するのがHO−ではなくH2Oになる。
水は中性で安定なため良い脱離基となり、置換や脱離が進みやすくなる。
次に読む記事
- SN1/SN2の入口:基質・溶媒・求核剤で一発判定(脱離基の効き方を実戦化)
- E1/E2の入口:SNとの競合・温度・強塩基の整理(脱離基と条件のセット)
- pKaの考え方:暗記から比較へ(共役酸の強さ=脱離基の強さに直結)
- 共鳴構造の書き方:電子はどこまで動かせる?(OTsの安定化を描けるように)
