ルイス構造や共鳴構造で「どれが正しい?」「どれが寄与が大きい?」を決めるときの採点基準が形式電荷
形式電荷を使えるようになると、暗記が激減し、構造・反応機構のミスも減る
この記事でできること
- 形式電荷の定義と計算式を迷わず使える
- 候補構造から「より妥当(安定寄り)」な構造を選べる
- 共鳴構造の寄与(主要・副次)を形式電荷で説明できる
- よくある失点パターン(電荷の置き場所、電荷分離の見落とし)を回避できる
先に結論(これだけで多くは解ける)
- 形式電荷は「本当に電荷がそこにある」ではなく、ルイス構造の採点用の帳簿
- 良い構造の優先順位はだいたいこれ
- 第2周期(C/N/O/F)は八電子則を満たすものが強い
- 電荷分離が少ない(|+|と|−|の総量が小さい)ほど有利
- 負電荷は電気陰性度が高い原子(O, N, ハロゲン)にあるほど有利
- 正電荷は電気陰性度が低い原子(Cなど)にある方がまだ有利
- 共鳴構造は「全部同じ重み」ではない。形式電荷で寄与を選別する
1. 形式電荷とは何か
形式電荷(formal charge)は、共有結合の電子を機械的に分配して得る“仮の電荷”
実際の電子分布(部分電荷δ+ / δ−)とは別物
ただし、ルイス構造の妥当性や共鳴寄与の比較には非常に強い指標になる
2. 形式電荷の計算式(最短)
2-1. 計算式
形式電荷 =(価電子数)−(孤立電子数)−(結合電子数/2)
2-2. 使い方のコツ
- 孤立電子数:点で描いた電子をそのまま数える
- 結合電子数/2:結合は「線1本=2電子」なので、線の本数=共有電子の“取り分”として数える
- 単結合1本:結合電子2 → /2で1
- 二重結合:結合電子4 → /2で2
- 三重結合:結合電子6 → /2で3
2-3. 例:水 H2O のO
- Oの価電子数 6
- 孤立電子:4(2組)
- 結合:O–Hが2本 → Oの取り分は2
- 形式電荷:6 − 4 − 2 = 0
3. 「安定な構造」を選ぶルール(採点基準)
ルールA:八電子則(第2周期)を優先
C/N/O/Fは基本、八電子則を満たす構造が強い
八電子則が崩れている候補は、よほどの理由がない限り不利
ルールB:電荷分離は小さいほど有利
+ と − が増えるほど一般に不利
同じ分子式なら、電荷が0に近い構造が優先されやすい
ルールC:負電荷は「電気陰性度が高い原子」へ
Oに−は比較的妥当
Cに−は条件次第で不利になりやすい(ただし混成や共鳴で逆転もある)
ルールD:正電荷は「電気陰性度が低い原子」へ
Cに+はまだ許容されやすい
Oに+は特殊で、他に選べる構造があれば不利になりやすい
ルールE:同等なら、より多くの結合(より強い結合)を持つ構造が有利になりがち
ただし八電子則や電荷の置き場所の方が優先順位は上
4. 典型例で理解する(この3セットでほぼ勝てる)
例1:NO3−(硝酸イオン)
- 「NにOが3つ」まで骨格を固定すると、八電子則を満たすために二重結合が必要
- 二重結合がどのOにあるかで3通りの共鳴構造
- 形式電荷の典型像
- Nが+1
- 二重結合のOは0
- 単結合のOが−1(2つ)
- この3構造は等価なので、寄与は基本同等として扱える
例2:CO(中性分子なのに電荷が出る)
- ルイス構造を八電子則で満たすと三重結合が候補になる
- 中性分子でも、形式電荷が0になるとは限らない
- ここで大事なのは「形式電荷の総和が分子全体の電荷(0)になる」こと
例3:アミド(共鳴で電荷分離があるが重要)
- 共鳴構造の一つで、Nが+、Oが−になる電荷分離構造が現れる
- 電荷分離は一般に不利だが、八電子則を保ちつつπ供与で安定化しているため“寄与がゼロではない”
- この寄与がアミドの低い反応性(カルボニル炭素が攻撃されにくい)につながる
5. よくあるミスとチェック法
ミス1:形式電荷の合計が分子の電荷と一致していない
- 中性分子:形式電荷の総和は0になる必要がある
- 陰イオン:総和は−1、−2…になる必要がある
- 陽イオン:総和は+1、+2…になる必要がある
ミス2:八電子則が崩れているのに気づかない
Cが5結合、Oが3結合などは即アウトの可能性が高い
描いたら必ず「価数チェック」を入れる
ミス3:負電荷をCに置いたまま確定してしまう
まずはO/Nに置ける形がないか探す
ただし、sp混成の炭素(末端アルキン由来)などは例外的に安定化し得る
ミス4:共鳴構造を全部同じ重みだと思う
形式電荷で“採点”して、主要寄与を選ぶ
電荷分離が大きい構造は副次寄与になりやすい
6. 練習問題(演習)
解答:
形式電荷 =(価電子数)−(孤立電子数)−(結合電子数/2)
価電子数:その原子が単体で持つ外殻電子数
孤立電子数:その原子に属する孤立電子(点で描く電子)の数
結合電子数/2:共有結合の電子を半分ずつ分けたときの、その原子の取り分
解答:
Nの価電子数 5
孤立電子数 0
結合:N–Hが4本 → 結合電子8、/2で4
形式電荷:5 − 0 − 4 = +1
解答:
代表形では
N:+1
二重結合のO:0
単結合のO:−1 が2つ
二重結合の位置が3通りなので等価な共鳴構造が3つある
解答:
一般には「電荷分離の小ささ」と「負電荷が乗る原子(Oが有利)」の2軸で比較する
状況によるが、電荷分離が大きいことは強い不利要因なので、Bが必ず有利とは限らない
まず八電子則を満たすか、次に電荷分離の大小、最後に電荷の置き場所(O/Nが有利)で総合判定する
解答:
(1)価電子総数が合っているか(イオンなら電荷分を反映しているか)
(2)価数・八電子則が破綻していないか(Cが5結合、Oが3結合など)
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